GOD EATER 〜神無き世界〜   作:死姫

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61話 ラブレター

 

 

その惨状に膝震わせ、矢田はその場に膝を落とした。

ビルというビルは破壊され、かつてカンパニーだったものは燻る火の中に埋もれ、ほんの数えるほどしか人と確認できない死体の山に、人は地獄絵図というのだろう。

自分が目を掛けてきたたくさんの人達の笑顔がフラッシュバックし、矢田はみっともなくその場で逆流してきたものを吐き出し、涙を流した。

それを気遣ってか、同行していた極東のゴッドイーター、第1部隊長の雨宮リンドウは傍によって、背中をさする。

「うっ・・・げほっげほっ・・・・、す、すみません」

「いや、いいっすよ。・・・・・先生が、診てた・・・・、人達ですよね」

リンドウの質問に、矢田は少し落ち着いた胸焼けを呼吸で整えつつ、何度か頷いて肯定する。

「私が・・・・無力だった、為に・・・・・、救えなかった・・人達です」

「そいつは・・・・、俺達ゴッドイーターにも言えることですよ」

少し落ち着きを取り戻した矢田は立ち上がり、今の言葉にか擦ってくれたことにか、感謝の意を込めて深く頭を下げる。

それに手を振ってから制したリンドウの元に、ソーマ・シックザールが歩み寄ってくる。

「このあたりには、もう荒神はいねぇ。ほとんどが死体で転がっていた」

「ご苦労。コアの回収は・・」

「もう全部終わった」

「そうか。悪いなソーマ」

「ふん」と鼻を鳴らしてから、ソーマは警戒はすると言わんばかりに、その場から離れる。それと入れ替わるように、こちらへ走り寄ってきた隊員が、矢田の耳元で囁くように報告する。

それを聞いた矢田は大きく目を開いて、隊員に促され駆け出す。

その様子に頭を掻いてから、リンドウも後に続いて歩き出す。

 

 

少しボーっとした感じに目をトロンとさせて、ミコはゆっくりと目覚める。その目に最初に映ったのが、知っている顔で安心したのか、フッと微笑む。

「・・・・矢田・・先生」

「ミコ君?僕のことがわかるかい?」

「あぁ。・・嫌って言ってるのに・・、注射を打つ奴の顔を、忘れてはやんないよ・・・」

悪態をつかれてるというのに、矢田は嬉しさに目をこする。ミコの方は軽く笑ってから、隣に寝かされている優を見て、腕を伸ばそうとして気付く。左腕が固定されて動かないことを・・。

「なぁ・・・・先生。優は・・・・・・、どうなんだい?」

「そ、れは・・」

「隠さないで言ってくれよ・・」

その言葉に1度目を伏せてから、矢田は優の現状を伝える。

「優君の心臓に・・・・・・、精神的にも、肉体的にも・・・、大きな負担がかかったと見える。・・・・・・・おそらく、意識は戻らないし・・・・、数日で、亡くなる・・・・」

「そう・・・・・」

部屋の空気が一気に重くなったのを、矢田は肌で感じる。だが、ミコの方は、まだ希望があるかの如く、清々しい笑顔を浮かべている。

「なぁ、先生・・・・。心臓の適合っての、調べるのに・・・時間かかるかい?」

「そ、れは・・・、すぐ出来るが・・・。しかし、あと数日では・・」

「あたしのを・・調べてよ」

「・・・なんだって」

信じられないことを聞いてしまったように、矢田は思わず聞き返してしまう。

だが聞かれたミコの方は、変わらず穏やかな笑顔のままだ。

「あたしの血液型・・・、優と同じだろ?可能性・・・あるよね?」

「バカな!?だからと言って、君を見殺せというのか?私には出来ない!そんな、命を弄ぶような行為・・!」

「あたしが・・・、いいって言ってんのさ。それに、こんな状態じゃ、いずれ死ぬだろ?」

「しかし・・」

頭を抱え目を瞑る矢田。本当は少し・・・、考えてしまっていたからだ。

必死に嫌がる矢田を説得するためか、ミコは腕をつかんで引き寄せて、真剣な眼差しで訴える。

「頼むよ・・先生。あたしだってギリギリなら、一人でも救う可能性に、賭けてくれよ」

「・・・・うっ、く」

顔を歪める矢田の腕を離して、右腕を差し出すミコ。その腕から、血でもなんでも抜けという意思表示のように・・。

「さぁ、早く!」

「っ!!」

優とミコを交互に見てから、握りしめた拳をゆっくりといて、矢田は黙って注射器を取ってくる。

「・・・・・私を・・・恨んでくれ」

「恨む理由が・・・ないよ」

矢田はミコの右腕にゴムチューブを巻き、軽く叩いてから血管の上を消毒する。そして、取り出した注射針をスッと刺し、ゆっくりと血液を抜き取る。

 

 

「何なんだ、いったい。急に診療所とか言ってこもりやがって、あの医者は」

矢田が第1部隊に懇願し、一時的に優とミコを運び込んだ場所を、守ってほしいと言ってきたのだ。

事情は頑なに話さず、ただお願いだと頭を下げる矢田の願い。それを隊長のリンドウが受けたもんだから、ソーマは眉間に皺を寄せ、悪態をついているのだ。

「いいじゃない。極東にも、あの先生を守れって指令があるんだから」

「ちっ」

文句の多いソーマに、優しく声を掛ける副隊長の橘サクヤ。そんな第1部隊があてがわれたのだから、矢田は十分フェンリルに買われているということ。

その矢田を守れという任務に便乗しただけと言い張るつもりのリンドウは、明かりのついている部屋を眺めて、咥えていた煙草から煙を吹かす。

 

検査を手早く終わらせた矢田は、黙ったままミコの前へとやってくる。その顔を見て察したのか、ミコは口の端を浮かせる。

「いけるんだね・・・・」

「・・・簡易テストの段階ではだが・・ね」

それを聞いてか、ミコは右手の力のみで上体を起こし、横の台に置いてあった自分のミニバックを開け、中に入ってるペンと紙を取り出す。

「先生。準備に時間が掛かるなら、少しだけあたしにも時間をおくれよ。・・・・旦那に、伝えたいことがあるから」

「・・・・・・・・・・・・わかった。すぐにスタッフを集めるよ」

「頼むよ」

矢田が出ていくと、ミコは優に笑いかけてから、紙にペンを走らせる。

 

『ユウへ』

 

 

暫くしてから、目を泣き腫らした渚や他の人達を連れて、矢田が部屋へと戻ってくる。元々ネモス・ディアナに持ち込もうと思っていた数々の医療機器を運び入れ、二つのベッドの周りに、多くの医療器具を並べる。

「先生・・・。もう一つ、お願い・・・いいかい?」

「・・・・言ってください」

「優の・・・傍に」

「わかりました」

そういってから寝かされていたベッドを動かして、優の寝かされてるベッドへとくっつける。仕切りを取り外し、固定された左腕を自由にすると、ミコは体を引きずってユウの隣に移動する。

それから、こぼれ始めた涙そのままに、笑顔で話しかける。

「優・・・・・、生きて・・・・幸せにね。あたしは、ずっと傍にいるから・・。あたしの・・・・大切な、旦那様・・・・・・・・・。愛してる」

ゆっくりと顔を近付けてから、ミコは優に口づけした。その行為に、唯一事情を知る者たちは、静かに泣きながら見守った。

とても長く感じられた、短いキスを終えてから、ミコは自分のベッドへと戻り、揺るがない決意を伝える。

「さぁ、やってくれ」

「・・・・皆、始めるぞ」

全身麻酔の為の吸引機を付けられて、ミコは1度だけ横目で優を確認する。そして徐々に意識は遠のき、深い眠りへと誘われる。

(・・・・・・・さよなら・・・・優・・・)

 

それは、とても幸せな夢・・・。

「おめでとう」の言葉の嵐の中を・・

大好きな、彼に手を引かれて・・

 

『ミコ。愛してる・・』

 

意識が完全に閉じたミコの目から、幸せの滴がこぼれた。

 

 

 

眩しいという感覚に襲われ、優は目をゆっくりと開く。慣れてきた頃に周りへと巡らせると、そこがどこなのかわからない自分に、しばし戸惑ってしまう。

そこへ、一人見知った人物が目に入る。向こうもこちらに気付いたのか、駈け寄ってから声を掛けてくる。

「優君!優君!僕がわかるかい?」

「・・・・や・・だ・・・せん・・せい」

思ったより喋るのに困難だなと思っていると、矢田は歓喜の声を上げ、どこかへと連絡を取り出す。

状況が呑み込めず、何があったのかを脳に問いかける優。

そして、濁流のように襲ってきた記憶の末路に、カケルとナズナが殺される映像が映し出される。

「ひぅっ!!!」

急に何かに引っ張られるように上体を起こした為、優はベッドから転げ落ちる。そして、空っぽの胃から、とめどなく液体が排出される。

その行動に驚いた矢田は、急いで駈け寄ってくる。

「優君!大丈夫かい!?無理をしてはいけない!君はまだ安静に・・ぐっ!」

喋り終わる前に、矢田は喉を締め付ける力に驚き言葉を止める。地についていたはずのユウの手が、彼の胸倉を掴んでいたのだ。

「優、君・・・。くる、しいよ・・」

「先生・・・。みんなは・・」

胃液に焼かれても、今度はまともに喋った優。そんな彼の目は、追い込まれた獣のような鋭い目をしていた。

優しさを象ったような人間の優がだ。

その目に嘘をついてはならぬと判断してから、矢田は重い口を開く。

「・・・・・私が着いた時には、カンパニーは・・・・全壊していた。・・・みんなも・・・・・、君と・・・ミコ君を残して・・・・・・死亡した」

「っ!!!」

今までかかっていた患者とは思えぬ強い力は緩んでいき、優の手は再び地へ落ちる。そのまま崩れそうになるのがピタッと止まったと思うと、優は自分の周りを見回し、何かを探す。

「先生!ミコは!?今、僕とミコはって・・・」

その必死に希望を掴もうとするユウの表情に、矢田は目をと口を噤んでから、ぽつりと漏らした。

「・・・・・・亡くなったよ」

「・・・・・・へ?・・・」

「彼女は・・・・・、助けた後・・・間もなく亡くなった」

「・・・・なんで・・・・・・・・」

怖くてユウの顔を見れない矢田は、下を向いたまま、自分のしたことを話す。

「君の・・・・・・心臓を移植するために・・・・・、彼女は亡くなった」

何を言っているのかと苦笑しながら胸に手を当てて、優は自分の身体の違和感に気付く。そして視線をゆっくり落とすと、自分の胸の真ん中に、大きな傷を縫った跡があった。

「彼女が望んだこととはいえ・・・・、私が殺したような・・っ!!!」

 

ガァシャァーーーーン!!!

 

病室のある廊下を歩いていた人達が驚く中、部屋から飛び出した矢田を追って、点滴を引き抜いてから、優が飛び掛かってくる。

「うっ、あ・・」

「何でだ・・・。何でミコを殺したーーー!!」

ゴスッ!!

鈍い音を立て、馬乗りされた矢田は、優の拳を顔面にもろにくらう。まだ収まりのつかない怒りに任せ、優は矢田の胸倉を掴み、大きな声で怒鳴る。

「どうしてこんな・・・・、僕のことを生かして・・・。ミコを救わなかった!!」

「そうさ!私がミコ君を殺したのさ!!君を助けるために、彼女の話に乗って、生きている彼女から摘出して、君に移植した!!」

「ふざけるな!!」

ゴッ!!

再び顔面へと拳をくらい、ふらつく意識をなんとか持ちこたえさせ、優に涙ながら言う。

「私を・・・私を・・、恨んでくれ!!『出来る』という可能性に突き動かされて、人の命を弄んだ!もう私は・・・・・、世界を欲のままに喰い荒らす、荒神と同じだ・・・はは」

「くそ!くそくそくそくそ!ミコを・・・、ミコをーーー!!!」

再び振り下ろそうと構える拳を止めるように、

「待って!優君!!」

渚が走ってきて間に入る。

その目に溜めた涙に、優は正嗣のことを連想して、振り上げた拳を下ろす。

ただ黙ってその場を動かない優に、渚は一つの封筒を差し出す。

「・・・・これは・・」

「ミコちゃんから・・・・、あなたに・・」

そう聞いてから目を大きく開くと、優はそれを奪い取るように手にし、自分の病室へと戻る。

扉が閉まる寸前に、優の口から、

「ごめんなさい・・」

と動いたように見えた。

 

 

 

ユウへ

 

てがふるえるし、じぶんのなまえいがいかんじわかんないから、かんべんな。

 

ユウは、きっとやだせんせいを、おこるとおもう。やさしいユウだから、あたしをおもって、おこるとおもう。

だけど、うらまないでやって。せんせいは、さいごまでいやがってたんだから。あたしの、わがままだから。

あんたをしなせないっていう、わがままだから。

 

みんないなくなって、つらいだろうけど、いきてね。いきて、しあわせになってほしい。あんたのしあわせが、あたしのしあわせだ。

 

 

ずっと、いっしょにいたかった。

ずっと、そばにいたかった。

ずっと、わらいあってたかった。

ずっと、あいしたかった。

 

でも、ごめんね。

 

あたしは、あんたの1ぶになるから。

もう、あえない 。

 

これからは、あたしもユウになって、あんたといきる。

うまれかわったら、  ちゃんと、みつけてな。

そのときは、もうぜったい、あんたのてをはなさない。

 

ありがとう。あたしの、だんなになってくれて。

あいしてくれて、ありがとう。

 

ユウのきりひらくみらいに、いっぱいのしあわせが、ありますように。

 

 

朝凪ミコ

 

 

 

「う・・・うぅっ・・・うあぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

泣き叫ぶ声は、運ばれたフェンリル本部の療養施設中に、響き渡った。

 

 

 

数時間後、健診をしに矢田が病室へと入ってくる。

優はベッドの上で膝を抱え、俯いていた。

矢田は殴られる覚悟で、そっと優の手に振れ脈をとる。その時、おもむろに優が口を開く。

「先生・・・・、僕は、ゴッドイーターになる」

「なん、だって・・」

その言葉に驚きを隠せない矢田は、手で口を覆って後ずさる。

優は退院した後は、ネモス・ディアナに引き取ってもらうと、八雲と話を進めていたからだ。そこであれば、自分も定期健診を行えるし、何より彼自身の心のケアにもなると思ったからだ。

しかし優は、もっとも過酷な選択をしたのだ。

「待ってくれ!私はそんなつもりでこんな・・」

「わかってます。でも、決めました」

「優君・・・」

少しやつれた顔をしているが、優は色のない世界に光を見据えているように見えた。

「僕にとって、カンパニーが全てでした。ミコを・・・、愛してました。その両方を奪ったのは、荒神と、この不平等な世界だ」

「・・・・」

「ただの、八つ当たりかもしれない。復讐、したいのかもしれない。・・・・もう自分でも自分のことが、よくわからないです」

「優君、それは・・」

「ただ、こんな苦しみを・・・・辛い現実を・・、世界中の誰にも、させたくない・・・。戦う資格があるのなら・・、僕が戦えばいいんだ。遠い未来なんかよりも、明日を守る為に・・・」

優は無理に作った笑顔で、涙を零す。その姿に、恨まれて、殴られて逃げようとした自分に、矢田は情けなくて泣けてきた。

「すまない・・・。すま、ない・・優君・・」

矢田の震える姿を見て、彼も苦しんだのだと理解する優。そして流れる涙を拭ってから、優は大きく深呼吸をしてから、真剣な眼差しで口を開く。

「先生。僕の退院は、いつですか?」

「1ヶ月後には退院して、ネモス・ディアナに住んでもらおうと思っていたけど・・。ゴッドイーターになるなら、3ヶ月は・・」

「1ヶ月で、退院します」

「・・・・・わかった」

オラクル細胞を打ち込むのに、いささか不安を感じたが、優の意向を最大限叶えようと、矢田もまた腹をくくった。

 

 

 

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