ビィーッ!
『本日の訓練はここまでだ。戻って休むように。以上!』
ツバキの声に息を切らせながら、レンカとコウタは膝をつく。二人同時に進める訓練では、パートナーとの連携も視野に入れている。だが、訓練は上手くは進んでいない。
レンカは個人技ではまずまずの成績を出せるが、コウタのピンチに飛び込んでは隙を見せ、荒神に襲われる。コウタは銃型神機なので、距離を取ろうとするが、シミュレーションとはいえ荒神の迫力に気圧され、慌ててる間に詰められ襲われる。
その繰り返しによって、中々及第点を貰えないで早3週間たっていた。
居住エリアの廊下で、停滞している訓練プログラムに苛立ちを覚えるレンカは、一人膝の上の拳を強く握り締めていた。
(早く、早く、現場に行かないと、・・・また、誰かが!)
色々な思いが交錯する中で、ふぅと溜息吐き、頭を抱えていた。
「よっ!」
突然声を掛けられ振り返ると、そこにジュースを2本持ったコウタが立っていた。
「コウタ・・」
「お疲れ、レンカ」
「ほら」と、ジュースを投げて寄越したコウタはレンカの隣に腰を落ち着け、自分のジュースを喉に流し込む。その様子を見て少し落ち着いたレンカも、自然と頬を緩ませ、ジュースを喉に通す。
「・・・なんか、ごめんな。レンカ」
「ん?なにが?」
すまなそうに謝ってくるコウタに、レンカは疑問符を浮かべる。
「いやー、ほら。なんか俺がさ、レンカの足引っ張ってる感じがするっていうかさ。ほら、俺すぐテンパっちゃって、足竦んで動けなくなって、それで・・・」
「気にしてない。きっと、俺一人でも結果は同じだ。だから、少し自分にイライラして、こんな所で・・」
暫くの沈黙の後、急に可笑しくなったのか、二人は声を出して笑い出した。
「なんか、俺らさー、拗ねてガキみたいだな!」
「そうだな。お互い、自分を責めるのに一生懸命になって」
「だなー!ははは!」
「ふっ」
一頻り笑った後、コウタが勢いよく立ち上がった。
「なぁ、レンカ!ちょっと俺に付き合えよ!」
「?あ、あぁ」
その答えを待ってましたの如く、コウタはレンカを引っ張り目的の場所えと走って行った。
「・・・ここは?」
コウタに連れられて来た場所を見回す。見た事も無いような機械が並び、無数のプラグが天井から足下まで這っている。
そんな中、一人の少女が溶接の眩い光を浴びながら、何かを作っているようだった。
足下に気をつけながら近付き、コウタが少女に声をかける。
「リッカさーん!」
「・・んー?・・・・コウタ君?」
ひと段落ついたのか、リッカは溶接面を外し、コウタ達に振り返る。
「すいません、お邪魔しました?」
「良いよ、もう終わったから。で、どうしたの?」
「こいつ、空木レンカ」
「・・あ、・・どうも」
紹介された少年を見たリッカは、察したのか「あぁー」と声を上げる。
「こいつにも、アレ、見せてやりたいんだけど・・いけます?」
「良いよー。丁度完成した、コレだから」
そう言って、覆っていた布を取り払う。
そこには綺麗な空色の神機があった。
「これは・・・」
「君の神機だよ、レンカ君。さっき組み終わったばっかり!出来立てホヤホヤってやつ?はは!」
「俺の・・・・神機」
感動の渦が、心にゆっくり浸透していく。レンカにとって、ゴッドイーターにとって、これを手にした時初めて自分がゴッドイーターになったと実感出来るであろう。今レンカを満たす気持ちは、正にそれなのだ。
「明日の訓練からは、これを使って出来るようになるよ。君もゴッドイーターとして頑張ってね!」
綻んだ顔のまま廊下を歩くレンカを、コウタも自分の事のように満ち足りた表情で隣を歩く。
「ありがとな、コウタ」
「良いってこと!じゃあ、俺今日は実家だから、また明日なレンカ!」
「あぁ!」
コウタの背中を見送り、レンカはそのまま部屋に戻ろうとした。が、ふと思いとどまり、そのまま訓練所に向かった。
(明日から、本物の神機を振るうんだ。素振りだけでも・・)
考え事をしながら、廊下を歩き続けていると、
「キャッ!!あの、すいません!!」
「いや・・」
ヒバリが勢いよくぶつかってきて、勢いそのまま謝りながら、また走って行った。
そんなヒバリを何気なく見送り、そのまま訓練所に向かおうとした所で、ふと焦っていたヒバリが気になりもう一度振り返った。その瞬間、
ビーッビーッビーッ!!!
(緊急警報!!)
思ったのが先か、動いたのが先か。レンカは走り出していた。
「A地区に、荒神が防壁を破って浸入!防衛班!タツミさん聞こえますか?至急A地区に向かって下さい!」
「くそっ!こんな時に浸入を許すとは!」
慌ただしく行き交う人の中、司令室に足を運んだレンカは目を見張った。
中央の大きな画面に、極東支部全域の地図が展開されている。それの一部、装甲壁に当たる部分が、大きく欠損している。そこから数多くのポイントが中に入り込んで来ている。
「装甲壁が・・・、破られたのか・・」
そう呟いた瞬間、ツバキがレンカの方へ振り返る。
「何故お前がここにいる?」
「そんな事より、荒神が・・!!」
「!!!そんな・・!!」
レンカの声を遮り、ヒバリ叫んだのに反応して、ツバキが画面に目を戻す。
「D地区に、新たな荒神反応!装甲壁を突破された模様!」
「ちっ!モニターに出せ!A地区から分隊を出させろ!」
「今からではとても間に合いません!」
そんなやり取りに痺れを切らしたのか、レンカが叫けぶ。
「D地区は反対側だ!時間が掛かる!どうしてここから出撃させないんですか!」
「それは・・・」
ヒバリが口籠った瞬間にレンカは察してしまった。
「・・・いないのか。今出れるゴッドイーターが・・」
その言葉は呪いのように、レンカの背中に、司令室全体にのしかかる。ツバキも拳を握り、このもどかしい状況に苛立ちを隠さない。
「俺が、いる」
レンカの呟きにヒバリとツバキが振り返る。声は小さくとも、目は本気さを訴えている。
「雨宮三佐、出撃の許可を!俺なら行けます!俺の神機があります!だから・・・!」
「ダメだ!私はお前を死なせる為に、出撃させるつもりはない。今はこらえろ。そして、部屋に戻れ。明日も訓練が・・・」
「そんな、悠長なこと・・!」
食ってかかろうとしたレンカに対し、キッと睨みつけツバキは叫んだ。
「これは命令だ!!!」
「・・・・・・それでも、行かなきゃいけないんだ」
沈黙を破るように呟くレンカは、1つの覚悟を目に宿し、顔を上げた。
「空木!!!」
「俺は・・・」
《荒神を倒す為に、ゴッドイーターになったんだ!!!》
その叫びと共に、羽織っていたフェンリルの紋章を背に描いた上着を叩き捨て、走り出した。
「くそっ!奴の神機は何処にある?」
「神機保管庫に!」
「調整は終わっていたのか!認証は?」
「今、されました」
ダンッ!!!
ツバキが机を殴りつけ、苦悶の表情を浮かべ自分の不甲斐なさを呪った。
(あいつの性格上、こうなることは予測出来たものを!!)
考えても事態は好転しないことを、冷静に頭に叩き付け、言葉を慎重に発した。
「第二、第三防壁を展開しろ。それから支部長室に連絡線を繋げ」
(早く!もっと早く!)
降りしきる雨の中、レンカはひたすら走る。一人でも多くの人を助ける為に・・・。
「申し訳ありません。私の監督不行き届きです」
「ふむ。なかなか、ヤンチャな子らしいね、2人目の新型は。それで、事態の収集はどうつけるのかね?」
「こちらに帰投中の者を、・・・第一部隊を向かわせます」
「・・・任せよう」
「雨は、やーだねー」
極東支部への帰投中のヘリで呑気に雨を眺めてるリンドウは、雨粒を手に集めては落として欠伸を噛み殺す。
「リンドウー、今日は随分ローテンションじゃない?雨は苦手だったかしら?」
「いやー、サクヤ君。こんな雨の日にはー、あー、なんだっけ?背中が重くなるー、だっけ?」
また変なことをとサクヤが溜息つくと、反対側に座っていたユウが笑い出す。
「リンドウさん、それは古傷が疼くとか言うんじゃないんです?」
「リンドウが間抜けなことをぬかすのは、今に始まった事じゃないだろう」
「おーい、ソーマ。あんまずけずけ言うと、おじさんだって傷ついちゃうよー」
緩〜い会話が続く中、無線の呼び出し音にパイロットが反応する。暫く話した後に振り返り声かけてくる。
「リンドウさん、緊急案件です!極東に着き次第、外部居住区D地区に迎えとのことです!」
「えー、マジかー」
「A、D地区の装甲壁を破られ、現在防衛班はA地区にかかりきりで手を回してるのはエリックさんと・・・新人の空木さんだそうです!」
その言葉に、皆の顔色が変わる。
「なんで、新人が現場に出てる?」
「どうやら、命令違反だそうで、・・・雨宮三佐からの伝言で必ず生きて私の前に連れてこいだそうです」
緊張が走った矢先に、苦笑せずにはいられない命令にリンドウは頭を抱える。
「了解!後何分で現場につける?」
「後5分で行けます!」
「出来るだけ急げー。と、いう事だ諸君。楽しい楽しいお仕事はまだまだ続くそうだよ」
「「「了解」」」
第一部隊を乗せたヘリは、雨粒を弾き飛ばし戦場へ向かう。
次はユウとレンカの御対面!