(・・・何で『朝』なんていう時間帯があるんだ?)
自身の汗で濡れた冷たい寝間着を脱ぎ、制服に着替える。こちらも冷たくはあったが寝間着と比べればまだマシな方だ。空気に触れてさらに冷えた服を洗濯機に放り込むために部屋を出る。
(最近えらく汗をかくな・・・)
洗濯機に服を入れた後、眠気を晴らすために顔を洗いながら考える
(これってアレか?)
(『幾夜魘されたかわからぬ悪夢。目の前 僅かな人跨ぎ、それが出来ぬ泥沼の中で俺は喘ぐ。身に絡みつく過去を振りほどこうとして。』的な?)
最近になって興味を持ち始めた某最低野郎アニメに出てくる台詞の1つを頭の中で呟く。肩を落とした鉄の騎兵に魅力を感じ、観てみれば漢臭さにむせずにはいられなくと、何故あの時気づかなかったのだろう。そんな事を思いながらも都梅は顔を洗い終える。
(・・・うん。)
都梅は自身の顔に眠気が残っているか、顔におかしな点がないかを確認する。
(髪型よし、口元よし、目つきは・・・悪いな。)
幸いなことに、一般人からすればある二つの点を除き大した問題は起きていない。一つは睨まずとも、怒りを向けられていると思われがちなその目つき、もう一つが、
(傷跡は・・・何もないか。)
額から顎にまではしる何故瞼が開いているのか分からないほどの大きな「傷跡」、その二つは都梅自身が物心がついた頃からある為本人は何も思わない。ただ、初めて鏡を見た時に自分の顔に驚いて泣いたことがありそれ以来、自分を写す写真やガラスといった物は若干苦手になっている。
(・・・今何時だっけ?)
顔の確認をし終え、現在時刻の確認の為携帯を見る。そして
(・・・・えぇ・・・?)
絶句する。自分の携帯は調子が悪いのではないか、そう疑いたくなるほど時間が過ぎている。しかし悲しい事に、三日ほど前にガラケーからやっと買い換えたスマフォが無慈悲に刻を伝える。よく見れば数人の友人と姉から心配するメールが届いている。
(・・・急ごう。)
そう思いながら早歩き程の早さでしか急いでいない辺り本音では無いらしい。
歯を磨きながら冷蔵庫内から十ダースあるおにぎり(昆布味)のうちーつを取り、同じく冷蔵庫の中に十ダース入ってあるコーヒー牛乳のうちの一つを自分のバッグに入れ、
「・・・行ってきます」
そう言うと返事の無い自分の家のドアを閉め、学校に走り始めた
「ハァ・・・。」
思っていたよりも時間がかかり、一歩一歩進む度に杭を踏み抜いている気分になる。教室に着く頃にはジオングになっているかもしれない。
「・・・・・やっと着いた。」
誰に言ったかも分からない声を聞いて教室の友人が声を掛けてくる。
「お、今日はやけに遅かったな!」
「気をつけろよカポネ!」
「・・・・」
カポネというのは都梅のアダ名で、理由は「怖い人」繋がりだから。都梅自身はこのアダ名は嫌いだが、自分の思っていた以上に似合っていて何も言えない。
「・・・カポネってやめてくれない?」
「え・・・。」
「・・・・今更?」
「・・・そうか。」
無理だと知っていても時々都梅は友人達に頼む事がある。結果は大概「今更」だの「遅すぎ」だの「お前は何を言ってるんだ?」と言われるばかりであるが。諦め気分でその場から離れ、重い
「おはよう『都梅』。」
「・・・おはよう、貴依さん。」
席につくと後ろから名前を呼ぶ声がする。このクラスで唯一「カポネ」を使わず「都梅」と名前で読んでくれる信頼できる数少ない友人の1人、「柚村貴依」。小学生の頃からの旧友である彼女はカポネのアダ名を使わず、ただ都梅とだけ呼ぶ。それは都梅の望んでいた呼び方でありその呼び方を使っている彼女は、信頼の対象そのものだった。
「所で貴依さん。」
「ん?」
「あの子はどうしたの?まだ来てないみたいだけど。」
「あの子って?」
「ホラ、ピンクの。」
「あぁ、由紀か、由紀なら今頃学校に向かって疾走してるかもね。」
「・・・・僕より遅いって大丈夫?」
「多分大丈夫・・・だと思う。」
「・・・oh・・。」
丈槍由紀、猫を思わせる帽子と羽根の付いたバッグが小学生を彷彿とさせる少し控えめな子。貴依とは仲が良いみたいだが、都梅が話かけると、怯える。当然だが怯える。ゴキブリが自分の目の前に飛んできた時ぐらい怯える。
「・・・ん?きた?」
貴依はそう言うと教室の入口に目を向ける。すると予想通り、いつもの帽子とバッグで教室に入ってきた。
「由紀、おはよう。」
「おはよう!」
貴依が挨拶を言うと元気よく返事が返ってくる。そこで何を思ったか都梅も同じように
「由紀さん、おh」
「ツ!?」
「・・・ヨウゴザイマス」
挨拶をしてみたが結局朝から脅かしただけだった。
放課後、午前のうちに二年生の授業が終わった為にいつもより学校が静かに感じられる。由紀は(いつも通り)補修で教室に居残り、貴依は由紀の帰りまで待つと言い、どこかに行った。
(・・・今日の夕飯どうしよう。)
姉は仕事でよく帰らないうえに、家には腐るほどのコーヒー牛乳と握り飯があるため都梅は基本料理はあまりしない。コーヒー牛乳→握り飯→惣菜以外のループに飽きた為、新たなメニューを考えていた。
(そういえば最近○クド○ルド言ってないな。)
都梅はちょっと前にアレがアレしてアレになった有名フード店『○クド○ルド』を思い出す。フライドポテトの程よい塩加減、てりやきバーガーの胡麻付きハンバーガーパティとてりやきソースのアクセルシンクロ(照)が喉の奥から蘇る。
(・・・ハンバーガー→ポテト→コーヒー牛乳→握り飯・・・。いいかもな。)
食事バランスが壊滅的なメニューを考えていると、
「都梅!」
「!?」
奥の階段から息を切らしながら貴依が凄まじい勢いで走ってきた。その姿を見た都梅は
「・・・!!?!」
「ちょ!まっ待て!待て!都梅!」
全力で逃げ出した。理由は分からないが、貴依の格好が尋常ではない。服は破れ、腕や足に血がこびりつき、手に血が貼り付いた棒のような何かを持っている。そんな見た目で走って来て、待てと言われても止まった瞬間あの棒に染み付いた血の一部になる気しかない。
「・・・ッ!!!!」
「待て!待てこの馬鹿!」
都梅は肩で息をしながら辿り着いた所に失礼しますなどと言う間もなく飛び込む。
「・・・ッハァ!ハァア!↑ハア!?↑」
「・・・・都梅君?」
声を掛けられた方向を見るとそこには英語教師の神谷昭子が驚き半分不思議半分の表情でこちらを見ていた。
「ど、どうしたの?」
「ァハ✩せッセッsssssッエンセイ!?先生!センセイ?占星?!」
「・・・・日本語でいい。」
慌てながら喋ってしまい、外国語判定を受けた都梅は落ち着く為に深呼吸を一回半した瞬間、都梅の真後ろのドアが乱暴に開けられる。
「ッッアア!?!?!?↑↑↑↑↑」
「ぎゃぁぁぁ!!??」
都梅はドアの音に再び驚き、貴依は都梅の絶叫に驚いて声を上げる。
「うるさい!」
「・・・ウッス」
「す、スイマセン。じゃなくて!」
昭子の怒鳴り声を受けたふたりは一瞬で興奮を収め、貴依は何かを思い出したように先生に話しかける。
「外ッ!しッ下が、なんか、アレに!なってて!」
「下?」
混乱しながらも「外で何かが起こっている」事を伝える為に貴依は窓の方向を指さす。それを聞き、昭子は窓の外を見る。
「・・・・!?」
その顔は最初驚きに目を見開き、段々と血の気が引いた様に白くなる。
「・・・先生?」
「・・・・・」
昭子は何も考えられないと言うように、眼も、口も動かさず、ただ一点だけを見つめている、もしかしたら見つめているように見えるだけで本当は、何も見えてはいないのでないか?それ程に衝撃的な「何か」とは一体何なのだろう、そう思い都梅は昭子と少し離れた別の窓から外を見ようとすると、
「・・・!ッダメッ!!」
我を思い出したように、顔を持ち上げた昭子は窓に近づこうとした都梅に叫ぶように言い放つ。
「!?」
「外は!まだ!駄目!今、じゃなくて!今は、見なくていい!見ちゃいけない!」
先程の貴依のように言葉を支離滅裂にしながら昭子は都梅に叫ぶように訴える。その目に恐怖や忠告のような物を感じ取った都梅は剣幕に押されて只頷く。
「・・・・」
「セ・・・先・・生?」
昭子は何かを思い出したように近くの棚を開け、その中を探り始める。少しすると棚の中から「職員用緊急避難マニュアル」と書かれた冊子を取り出し、震える手でマニュアルを都梅に渡す。
「こ・・・コレは・・。」
「・・・もし、あなたが明日生きていたらこれを開けて。」
昭子はそう言うと職員室の扉を開け、外に出る。
「先生!?」
今まで黙っていた貴依が弾かれたように叫ぶ。
「・・・非常事態だからね、避難誘導しなきゃ。」
昭子は笑いながら震える声でそう言うと、貴依が来た方向に向かって走って行った。貴依と都梅はその場に残され、どうずればいいのか分からず佇む。
(どういうことなの・・・。)
都梅は今の自分の状況が分からず、なんとかならないかと思い貴依の方を見る。改めて見てみるが、手足にこびりついた血は乾き黒く変色しており、所々破けた服の下から痣が見え隠れしていた。棒の方はよく見ればモップを圧し折った物で、何かにぶつけたのか形が歪んでいる。
貴依自身の状況はと言うと、どうやら都梅と同じく何をすれば良いのか分からないらしく暫く考えていると、こちらに顔を向けてきた。
「・・都梅・・・どうする?」
「・・・・やっぱり、避難・・・か?」
「避難ってどこに?はっきり言うと下はもう無理だよ。」
「・・・下がダメなら上しかないよなぁ。」
都梅はそう言って、職員室の中を探り始める。
「都梅?」
「・・あー、貴依さん。申し訳ないけどガムテープ探してくれない?」
避難しなければならない状況で何をしているんだとイライラしながらも貴依は都梅に言われたようにガムテープを探し始める。少しすると、棚の奥に有ったそれを都梅に見せつける。
「コレ?」
「あぁ、それ。」
都梅はそう言って貴依からガムテープを貰い、いつの間にか持っていた教員用の厚い教科書を右の前腕に巻きつけ、それをガムテープで補強する。
「・・・よし。」
「行くのか?」
「うん。武器もほしいけどこの際諦めるかな。もし危なくなったら貴依さんの借りパクすればいいし。」
「・・・」
「・・・・冗談だよ。」
そう言うと二人は昭子が開けて行った扉から職員室を出た。階段の方を見るとツインテールの女子生徒が誰かを担いで階段を上っていた。走って近づくとその音を聞いたのかこちらに顔を向ける。驚いていたが、都梅達を見てすぐに安心した。もしくは都梅ではなく生きている人を見て安心したのかもしれない。
「・・・貴依さん。先に行って屋上の扉を開けてきてください。」
「あいよ。」
「・・・あー、時間もないみたいだからとりあえず『ツインテ』っていうよ。ツインテさん。一緒に担ぐから下で何が会ったか教えて?」
「あ、あぁ。分かった。」
ツインテールのいう話によると、部室棟の方向から非鳴が聞こえたので駆けつけたら『奴ら』、所謂『ゾンビ』が人を喰っていて、その人を助けようとして今担いでいる先輩が助けた奴に囓られて、それを見たツインテールが先輩を担いでここまで来た。との事だった。ゾンビと聞いてドッキリか何かかと思いながら、階段を上る途中にふと階段の踊り場に目をやると3、4人の人影が見えた。その姿は
(・・・やっぱり『ゾンビ』だよな。どこから見ても。)
ゾンビ。当たり前の事を言っているのかもしれないがその姿はゾンビだった。特殊メイクだと言ってしまえば信じてしまうようなリアルな姿をしている。もしかしたら本当は生きているかもしれない。死んでいないかもしれない。嘘なのかもしれない。その考えが間違いだと、都梅自身が今現在担いでいる先輩の傷口が教えくれる。
「都梅!急げ!」
「分かってます!」
貴依に急かされて上がった屋上には既に何人かの人がいた。貴依の友人の由紀、由紀の補修をしていた佐倉慈、残りの一人はこの屋上を使っている園芸部の一人であろう人物。合計三人が屋上にいた人の全員だった。園芸部員の方はツインテとは知り合いの様で、会話の内容からツインテの名前が『胡桃』、園芸部員の愛称が『りーさん』だと分かった。
「・・・『りーさん』とやら。もうすぐ下に『奴ら』がいる。扉を塞ぐ物がないか探して。」
「え、えぇ。」
「佐倉先生と由紀さんもりーさんと一緒に探して来て。」
「は、ハイ!」
「貴依さん。ちょっと一緒にドア押さえてくれない?」
「分かった!」
都梅と貴依がドアを押さえ始めて10秒程後に扉の向こうから呻きと共に扉を叩く音や引っ掻く音が響く。暫くすると幾らかの荷物を持って由紀達が来た。
「胡桃!」
後ろからりーさんの叫び声が聞こえ、振り返る。そこには
「・・・ァ」
「・・・?」
血を流して倒れてたはずの先輩が起き上がっていた。だが、その姿は先程階段で見た『奴ら』に近い。それどころか完全に先輩は『奴ら』になっている。都梅は胡桃から聞いた先輩が『奴ら』に噛まれた状況を思い出す。
(・・・何か助けた奴に噛まれたとか言ってたよな・・。)
(助けた奴はそれ以前に他の『奴ら』に噛まれていた。)
(まさか・・・
そう考えているうちに先輩は目の前にいる後輩、胡桃に近づいて行く。
(ウェッェエ!?やっば!)
そう思い、都梅は先輩を目指して走りだす『つもり』だった。胡桃の手元に転がるある物を見るまでは。
「・・・・!?」
その道具を見た都梅は自然と引き声で息を飲む。そして、
「待あああ!」
「都梅!?」
扉を押える事も忘れて今度こそ走り出した。
(待って!待ってよ!)
(その!その『シャベル』に!その『Shovel』に気付くなあ!)
(ああああ!見てる!がっちり見つめてる!もう触っとるぅ!)
(『手元のShovel』に『目の前の先輩(ZOMBIE)』は・・・ダメだ!カーナーシミノーだ!)
(早く、早く『先輩をシャベルから守らねば!』)
扉から5㍍離れた場所まで走る間に先輩が胡桃に近づいて行る時と全く違う目的を5行に渡り考える。そして、都梅は先輩に近づくなりいきなり先輩の襟首を掴み
「ッウォーリァ!」
「!?」
フェンスに向かって投げ飛ばす。背中をぶつけた勢いで先輩が『ゲア"!』と気味の悪い声と一緒に赤黒い液体を吐き出す。
(・・・ケチャップだな、うん。)
そう思う暇もなく、目標を見失ったシャベルの切っ先が目の前に迫る。思わず教科書の巻きつけた右腕を目の前に翳す、時間にして一秒弱、
都梅の中では三秒程で右前腕に強い痛みが走る。
「・・・・ぁ。」
(・・・・・エ"?)
シャベルの切っ先は教科書を裂き、都梅の右前腕に食い込んでいた。刃が骨まで達した音と共に溢れたケチャップがシャベルを伝い胡桃の手を汚す。都梅はシャベルを引き抜くなり右腕を押えてよろつく。その姿はさながらマヅダァに撃たれた新世界の神の様だった。
「づっゔゔぅ・・・。」(バターロール・・・。)
「ごっごめん!」
「だ、大丈夫・・。」(富士山蹴るなぁ!片腕サイコガンになるかと思ったわ!・・・嫌、右腕だからクリスタルボウイか?)
「・・・それより貴依さんを手伝って。あの人今一人で扉を押さえてるから。」
「わ、分かった!」
「後そこの三人も貴依さんを手伝って。」
「「「はっハイ!」」」
「・・・で、その貴依さん何だけど・・ちょっと手伝って。」
そう言うと都梅は三人の持ってきた荷物の中にあったロープと職員室から持ってきたガムテープを貴依に渡す。
「先輩をフェンスに括り付ける。今右腕が使えないから貴依さんが代わりに結んで。」
「わ、分かった!」
二人はそう言うと既に起きあがろうとしていた先輩を蹴飛ばして二人掛かりで先輩をフェンスに磔にした。ふと、フェンス越しに遠くを見ると町の至るところで煙が昇っていた。
(・・・今日は帰れそうもないね。)
都梅はオレンジ色の空を見つめながら今ある問題を考える。何故この様な事が起こったか、今後下には行けるのか、食料はあるのか、戦える道具はあるのか、何よりも『奴ら』を倒せるのか。
(・・・せめて『奴ら』が僕の知ってる範囲内の『奴ら』だと良いんだけど。)
Tウイルスはまだしもトライオキシン245が相手だと勝ち目が無いよな。などと考えながら都梅とその他大勢の一日は五分間の『奴ら』との扉越しの持久戦を最後に締めくくった。
ネタは盛大に無駄遣いして行きます。