少しづつ白み始めた空には黒煙が途切れる事無く立ち昇る。グラウンドには昨日までの友人達が調子が悪そうにフラフラと徘徊している。たった1夜、時間にして約12時間の間に有名なゾンビタウン『ラクーンシティ』の様に変貌した故郷『巡ケ丘』。その町の燃える光景の全てが
「あーりーえなーいーあーさがきーた♪やーぼーのあーさだ♪」
この目つきの悪い青年には何の関係も無かった。
「さーん・・・うん。上出来。」
現状に対する皮肉を込めるだけ込めた渾身の替え歌を歌い切り、気分がよくなった都梅。そんな都梅が今やっている事、それは先輩を縛り付けていたロープを使い扉の補強をする事。先日の一件で右腕が使えない為、代わりに左の腕を使っているのだが、利き腕では無い為器用に使えず、おまけに応急処置もされていない為、動くと傷口が非常に痛む。そのうち段々と苛々しだし、憂さ晴らしで心の毒づきを歌にした物がさきほどの歌らしい。
そして、ロープから開放された先輩はというと
(『フゥゥ・・・初めて・・・人をやっちまったァ~~~~~♪でも想像してたより、なんて事はないな。』・・・ペッシ。君の感想が「言葉」でなく「心」で理解したよ。)
既に都梅によって殺された後だった。少し前、都梅はある事で悩んでいた。それは『先輩をどうするか』だった。もっとも、都梅の考えには殺す以外の選択肢は無かったのだが。正確には『先輩をどう殺すか』という悩みと言ったほうが正しいかもしれない。本来なら縛り付けている間に殺せばいいのかもしれないが、都梅はその行為に抵抗があった。だからと言ってロープを外せばこちらが不利になる為別の殺し方がないかを探していた。そんな時に思いついたのが『両腕を落としてからロープを解く』というやり方だった。腕がなくなれば解く途中で掴まれる事ない。それに自身の右腕が使えないという悪条件をなんとか出来るというのが都梅の考えだった。結果は都梅の勝ち、先輩が立ち上がった瞬間にジャンプキックをかますと、そのままフェンスの向うに滑らかに落ちていった。その際に縛る物を失くしたロープを再利用しようと思い、結果、扉の補強という形になった。
「・・・・よし!こっちも上出来!」
暫くして補強の方も完成したらしく。その出来に都梅は満足する。すると、都梅の目の端で何かが動く。見てみると、そこには胡桃が眠そうにこちらを見ていた。
「あぁ、ツイn、胡桃さん、おはようございます。」
「・・・・あぁ。おはよう。」
胡桃は機嫌が悪そうに挨拶を返す。
「・・・寝不足ですか?」
「・・・・・考え無くても原因はわかるだろ。・・・あー、えっと、名前なんだっけ。」
「貴女のですか?」
「なんでだよ!私じゃなくてお前だ!」
「あぁ、なんだ。えっと、僕は
「なんでだ」
「ネタです。」
「・・・そうか。」
都梅は、本来なら前回で言うべきフルネームをネタ混じりに紹介する。
「あの~次は貴女の名前を教えて頂けませんか?」
「え?あぁ、ごめん、私の名前は恵飛須沢 胡桃だ。宜しく。」
「宜しくお願いします。恵飛須沢さん。」
「いや、名前で良いよ。」
ぶっちゃけ本当に名字じゃなくて名前でいいと思う。文字変換のとき出てくる「恵比寿」をわざわざ消して書き直すの死ぬほどメンドイ。
「分かりました、胡桃さん。」
「誰だ今の」
「監視者ですよ。この世界は常に誰かの監視の下で成り立っていますからね。」
「なにそれこわい」
「それはそうと胡桃さん。そこで寝ている『りーさん』とは知り合いですか?できれば名前を教えてほしいのですが。」
都梅はそう言って、りーさんと呼ばれていた園芸部員の生徒に指を指す
「あぁ、あの人の名前は若狭 悠里って言うんだ。私とは同じクラスだ。」
「そうですか。あと、そこに寝ている二人が僕と同じクラスの柚村 貴依さんと丈槍 由紀さんです。黒髪の方が貴依さん。桃髪の方が由紀さんです。」
「なるほど、柚村貴依に丈槍由紀だな、後で挨拶しとくよ。」
「そうしてあげてください。二人の気分転換にもなると思いますし。・・・それで、あの人は佐倉 慈先生ですね。」
「全員で六人か・・・。そういえば都梅はなんで起きてるんだ?」
話の進行上で大切な事を胡桃は都梅に切り出す
「扉の補強をしようと思いまして。胡桃さんの方は何用で?」
「嫌、私は眠れなかっただけで。でもお前が起きてたし、いう事は言っとくよ、昨日はゴメンな。その・・・シャベルで・・・」
そこまで言って胡桃は口ごもる。都梅をクリスタルボウイにしようとした事を気にしているらしい。
「ああ、それなら別にいいですよ。ちゃんと処置すれば治る傷ですから。(処置しているとは言ってない)」
「そう言ってくれると助かるよ」
「所で、胡桃さんは寝ないんですか?寝不足は肌に良くないと聞きますよ?」
「お前と喋ってたら眠気が覚めたよ。それに寝過ぎも身体に良くないしな。それに・・・。」
「?」
「そろそろ『下』に行かないと。」
その言葉に都梅は驚きはしないが少し目を見開く。
「そうですか?まだ朝早いですよ?」
「時間帯の話じゃないだろ。それにここじゃ雨風は凌げないし、何より食料がない。」
「・・・・それもそうですね。」
「という訳だ。補強終わり!そこの袋やら何やらを退けて扉を開けるぞ!」
「えェ~~~!今からァ~~~!?」
都梅はいきなりの宣言に顔を顰めて、『面倒臭い』という思いを全力で表す
「行動は早い方が良いだろ?ほら早く!」
そう言うと、胡桃は扉の前の錘を退け始める。始まった以上、嫌だと言っても一人で終わらせてしまいそうなので、仕方なく都梅も錘を退け始める。
(ハァ・・・ロープは何だったんでしょう。)
自分の先程までの行動の無駄に溜息を吐きつつ、扉の前の錘を全て取り除いた都梅。隣を見ると、胡桃が少しだけ手元が震えていた。
「・・・・やっぱり後でも良いんじゃないですか?」
「・・・・武者震いだよ。」
胡桃はそう言うとドアノブに手を掛けた。が、その扉が開がひらく事はない。もう片方のシャベルを持つ手が遠目から見ても分かる程震えている。
「・・・・」
「・・・・!」
暫くすると、胡桃は意を決したのか、扉を勢い良く開く。そして、
「!?」
「ツ!」
その意はいとも容易く砕けた
「うああああぁぁ!?」
「・・・・ッチ!」
扉の向こうに『奴ら』がいた。しかも『五人』も。『扉を開ける』時点で恐怖の限界だった胡桃に『いるかも』等という発送が出来る訳もなく、突然現れた『奴ら』に恐怖し、声を上げる。だが、『それ』がいけなかった。
「ア"ァ"・・・・」
「イ"・・・イ"」
「ッ・・・!?」
大声に反応したのであろう『奴ら』が真正面にいる都梅にではなく、驚いて横に倒れた胡桃にへと向かう。
『奴らが自分に向かって来る』。その状況を理解した胡桃は恐怖によって言葉を失う
「・・・・『それ見たことか!付け焼き刃に何が出来るというのか!』」
都梅は某彗星のセリフを呟くと、胡桃に迫る『奴ら』に向かって走りだした
「・・・・チェリァァア!!」
「ゲエ"ェ!?」
胡桃に一番近づいていた一人目に赤い彗星専用キックにも見えるジャンプキックをかます。左肩に命中した一人目は勢いを殺せず、扉の横隣に叩き付けられる
「・・・・」(次との距離は、問題はないかな。)
都梅は早歩きで胡桃に近づくと胡桃の持っていたシャベルを手に取る
「少し借りますね。返事は聞きませんけど。」
「ぇえ!?あ、ちょ!」
宣言通り、胡桃の返事を聞かない内に胡桃からシャベルを取り上げると、起きあがろうとしている一人目の肩に足を掛け、一人目の眉間にシャベルの切っ先を当てる、そして
「・・・・フン"!」
「ア"・・・!」
シャベルの足掛けを思い切り踏みつける。グジャッという擬音共に、シャベルの足掛けにあったはずの左足が一人目の顔面を踏みつけている。瞬く間に一人目の頭の周りから赤黒い液体が広がる。
「・・・」
グロテスクな擬音を鳴らしながらシャベルを引き抜く。シャベルを投げ捨て、一人目の頭の上にあったロープを手に取ると二人目に向かって走りだす。
「・・・破ァ!」
「ヴ!?」
二人目の正面に立つと、某寺生まれのような声を上げて顔面に向かってハイキックを決める。バランスを崩し、後ろにいた三人目を巻き込んで倒れる。その横に居た四人目に都梅は目をつけ、四人目の目の前で地面を踏みつけて音を鳴らす。その音に反応した四人目は都梅目がけて歩き出す。が
「シュ!」
「!?」
横に回った都梅のしゃがみ小キックをくらい、勢い良く転倒する。都梅はすぐさま起き上がり、四人目の頭上でジャンプする。
(・・・・うわ。)
ジャンプの間に折り曲げた足は一寸の狂いもなく四人目の後頭部にニードロップとして決まる。膝が他人の後頭部にめり込む感覚に内心ドン引きしながら膝を引き抜き、さきほどけり倒した二人に近づく。
「スイマセンね、と。」
「ヴゥ・・・」
「ア"ア"ァ"」
二人の首に素早く三回づつ巻きつけ、フェンスに引きずる。そしてロープの余りをフェンスに巻きつけると二人の額目掛けて鷲蹴りを打ち込む。理由は分からないが、腐敗が進んだ『奴ら』の身体が衝撃に耐えられる事も無く、二人の頭部は体から分離し、先輩の行った道を辿って落ちていった。
(後、一人。)
そう思うや否や、最後の一人、五人目に向かい歩きだす。この時、都梅の中ではある「カウント」が行われていた、
(ONE)
一歩目で軽くステップを踏みながら近づく。
(TWO)
二歩目で都梅自身の射程圏内に五人目が入り込む。
(THREE)
最後のカウントと共に都梅は飛び上がり腰を回転させつつ足に体重を乗せ踵を五人目のこめかみに思い切り突き刺す。
(RIDER KICK!!・・・・かな!?)
都梅なりのアレンジを加えたライダーキックは五人目の上半身を巻き込みながら重力に捕らえられる。ここが、これまでミスなく技を決めてきた都梅の最大のミスだった。五人目諸共地面に叩き付けられた都梅、この時に都梅自身忘れていた『傷口』に激痛が走る。
「・・・痛ってあ!!???」
右肘をしたたかに地面に叩き付け、余りの痛みに蹲る。そして、もう1一つのミスが『現れた』
「イ"・・・・ギ・・・。」
(・・・・嗚呼・・・『六人目』だなんて・・・。)
『奴ら』は『六人』居た、正確には六人目が下の階から上がって来た様で、六人目の血が、扉の向こうから続いている。
(・・・・『認めたくない物だな。自分自身の、若さ故の過ちという物は』かな。これは、危ないな。)
都梅は状況の起死回生を狙い、なんとか立つも上半身の右腕、それどころか上半身の右側が動かない。都梅は半ば諦め気味にどうするかを考えていたら
「あああああ!!」
シャベルを構えた胡桃が雄叫びを上げて六人目に走ってきた。六人目が胡桃に気づいた時には既に遅く、シャベルの刃先が深々と頭にめり込む。少し間を置いて、六人目は崩れる様に倒れる。
「・・・・あぁ・・・。」
胡桃は気の抜けた声を出すと、先程までと同じ様に倒れる。
「・・・都梅、怪我はないか?」
「・・・・ええ、おかげ様で。」
胡桃は震える声で都梅に問いかける。都梅自身は(右腕以外)大した事は無かったのだが、身体中に強い視線を感じ、その視線を辿るとそこには先程まで寝ていたはずの他の生存者、貴依、由紀、悠里、慈の耐え難い『恐怖』の視線が、そこから放たれていた。その視線に堪えられず都梅は立ち上がる。
「お、おい、どこに・・・」
「下の階」
「・・・え?」
「下の階、行ってきます。」
胡桃の問に淡白に答えると、都梅は扉に向かって歩きだす。
「おい!都梅!」
「・・・・」
胡桃の問いかけに答える事もなく、都梅は扉の向こう側に消えた。
「・・・ッ!」
「き、きーちゃん!?」
「貴依さん!?」
都梅の姿が消えるなり、貴依は由紀と慈の叫びを無視して走っていった。
メタいネタって割と便利、本音を入れつつ話の繋ぎが出来るって素晴らしいと思う。