無気力ぐらし!?   作:蚤ー

5 / 8
雀の涙程度の文才を掛けて書くと大体このくらい遅くなる。

 嗚呼、安西先生よ、世界が終わるまでは我を見捨てたもう事なかれ


せんにゅう(スニーキングではない)

 ~二階図書室付近~

 

 

 血の滲む床と壁。開けようと閉めようと大した違いの無い、本来の使い道を失った窓が続く廊下。その道を我が物顔で闊歩する『くさった死体』。グラリグラリと揺れながら、意味もなく彷徨い続ける。意味があるとするならば、それは獲物を喰う事。

 

 (・・・・)

 

 そんな『奴ら』の内の一体が、二階の図書室の前を素通りする。扉の前から放たれる人の気配に気付かずに。気配の張本人は、『奴ら』が自分の隠れている扉に背を向けた事を確認すると、静かに扉を開け、忍び足で『奴ら』に近づく。

 

 (・・・・?)

 

 だが、音に対して鋭敏な感覚を持つ『奴ら』の耳は、何者かの廊下を踏みしめる音を聞き取り、音のする方向に体を傾ける。これ以上の忍び足は無駄だと判断した足音の主は歩く事をやめ、大きく走りだす。

 

 「・・・・フッ!」

 

 グ

  ジ

   ャ

 

 「ギッ・・・・」

 

 自分の間合へと入りこんだ『奴ら』の脳天めがけて、そいつはシャベルを振り下ろす。直後に骨を砕く音と肉を裂く音を混ぜたような、気味の悪い音が『奴ら』のシャベルのめり込んだ頭から聞こえる。

 

 「・・・・・」

 

  グ

 ラ

  リ

 

 「うお・・・!」

 

 辛うじて保っていた歩行バランスを失い、『奴ら』は後ろに倒れる。頭部に突き刺さっているシャベルも『奴ら』の重量に引っ張られ、勿論、そのシャベルをもっているそいつも引っ張られる。

 

 「わっと!」

 

 ジ

 ュ

 ブ

 

 「う・・・!」

 

 バランスを崩したそいつは前に進む勢いを殺せず、勢い余ってシャベルを『奥に押し込んで』しまう。尚の事シャベルは深く突き刺さり、傷口からはゴプリと何かが湧き上がるような音を立てながら赤黒い液体が溢れでる。思いもせず追い打ちをかけてしまった事が精神的にダメージを与えたらしく。シャベルの持ち主は、苦い呻きをあげる。それを知ってか知らずか、シャベルの持ち主が出てきた扉から『顔に傷のある青年』が現れ、呻くそいつに話し掛ける。

 

 「・・・・胡桃さん。無茶してません?」

 

 「・・・大丈夫。」

 

 「・・・・ならそのシャベルを抜いて構えてください」

 

 「・・・?」

 

 「『次』です。」

 

 青年がそう言うと、胡桃の正面に『奴ら』が現れる。電灯が無いせいか、胡桃が油断していたのか、いずれにせよ胡桃は『奴ら』が目の前に現れるまでその存在を察知出来なかった。幸いな事に数は一体だが、胡桃は『気づけなかった』という自分自身の失態にショックを受ける。

 

 「くっ・・・・!」

 

 「数は三人、ちゃっちゃと倒して家庭科室に入ります。」

 

 三人という青年の言葉に胡桃は驚き、視界の端に目を向ける。だが、どこを見ても残りの二体が見つからない。まさかと思い、胡桃は後ろを振り向く。そこには、二体の奴らに対峙して立ちはだかる青年がいた。

 

 「・・・・都梅・・・お前知ってて・・・!」

 

 「気付いているものと思っていました。」

 

 「・・・・」

 

 (・・・ヒリヒリするなぁ。)

 

 後ろから胡桃の殺気を受けながら、才谷都梅は考える。この状況での効率の良い戦い方はないかと。生憎外へと繋がる窓ガラスもなく、頼れる武器も無い。だとすれば、出来る限り目の前にいる『奴ら』二人を自分達から引き離し、距離を取るべきだと。

 

 「(´Д`)」

 

 都梅はそう自分で思いながら、↑のような顔をする。作者の自分も理由がよく分からなくなったのでもう直で聞く事にした。

 

 Q.何故?

 

 A.嫌~なんかね?自分で『ちゃっちゃと倒す』とか言っといて倒す手段がなくて?まさかの囮って言うね?なんて言うか・・・幻滅?

 

 Q.二話でフランクさん並みの無双をしてません?拳で。

 

 A.あぁ、そう言えばそうだったなぁ。

 

 ・・・作者の計画性の無さと都梅の素が露呈した事も気にせず『奴ら』二人が都梅にせまる。

 

 「ハァ・・・やるしかないか。」

 

 都梅はそう言うなり、二人に向かって歩き出す。都梅に一番近い個体は、餌を見つけたと言わんばかりに片方の手がない両腕を伸ばす。その個体の胸を都梅は蹴り飛ばす。

 

 「・・・ッラァ!」

 

 「エ"!」

 

 蹴り飛ばされた一人目は胸からゴキゴキと嫌な音を立てながらマンガのごとく吹き飛ばされる。見た目のイメージとしては紅蓮腕をくらった剣心のように見える。

 

 「ア"ア"!」

 

 「利き手じゃないけど・・・!」

 

 「イ”!?」

 

 「出来るっちゃあ出来るかな!?」

 

 「ア"ア"ア"ア"ア"・・・・」

 

 一人目の後ろにいた二人目が一人目の仇とばかりに都梅に襲いかかる。が、それも虚しく都梅のアイアンクローをくらい、前にも後にも行けなくなる。

 

 「んどっこいせい!」

 

 「ガア"!」

 

 そのまま都梅は足を上げ、二人目の膝に向かって鷲蹴りを食らわせる。二人目の膝は本来曲がっては行けない方向にへし折れる。都梅がアイアンクローを解くと、都梅の『予想通り』の位置に二人目は膝から崩れ落ちる。

 

 (よし・・・ここが。)

 

 「ウ"ウ"・・・」

 

 「一番『蹴りやすい』位置!」

 

 「エベア"ア"!?」

 

 都梅は足を振り上げると、二人目の頭部に狙いをつける。都梅はそのまま足を振り下ろし蹴りを二人目の顔面に決めると、二人目は後ろに回転しながら赤い液体を撒き散らした。暫くの間二人目は痙攣していたが、しだいに動かなくなった。

 

 「胡桃さんは倒し「うるさい!」・・・はい。」

 

 都梅は胡桃の方を向きながらそう聞こうとすると怒り混じりの声で遮られる。よく見ると胡桃は『奴ら』の手を払いのけながら頭を狙っていた。幾つもある隙(※都梅にしか見えない)を見逃し続ける胡桃を都梅はヒヤヒヤしながら見届ける。

 

 (あぁ・・・見てるこっちがヒヤヒヤする!)

 

 (アイツ・・・何でこっち見て焦ってんだ?)

 

 胡桃は後ろから感じる都梅の視線に困惑しながらも、目の前の『奴ら』との戦闘に胡桃は集中する。そのうち、胡桃がシャベルで『奴ら』の手を払いのけると、『奴ら』は大きく体を仰け反らせる。その隙を胡桃は見逃さず、胡桃はシャベルを大きく振りかぶる。

 

 「ハア!」

 

 ドス。という音と共に赤黒い血が壁にシミを作る。程なくして、『奴ら』の体は力が抜けた様に崩れ落ちた。胡桃は奴らの頭からシャベルを引き抜くと、息を吐きながら片膝をつく。

 

 (・・・・・)

 

 「足からやればよかったのに。」

 

 (何でいつも通りなんだお前は・・・・!)

 

 疲れきった自分に対して空気を読まずにアドバイスをする都梅を見て、理由は知っていながらも胡桃はそう思わずにはいられなかった。これ以上変なアドバイスをされてもこまるので、胡桃はすぐさま立ち上がり歩き出す。

 

 「・・・休まないんですか?」

 

 「・・・・家庭科室に行けば休める」

 

 「それもそうですね。」

 

 都梅は胡桃の言葉に納得し、図書室に鍵をして歩き始める。自分の後ろからついてくる都梅の気配を感じながら。胡桃はもう一度同じ事を考える。何でいつも通りなんだと。

 

 

 

 ~家庭科室 兼 学生食堂~

 

 

 本来なら清潔感の溢れる景色の広がっていた学生食堂も、混乱のなか流れ出た血のコントラストの影響でどう見ても『争いの絶えない監獄』にしか見えなくなる。そして、そんな光景を作り出した『奴ら』の目を盗み、都梅と胡桃の二人は厨房の中で一息をついていた。幸い、冷凍庫の中にある生鮮食品は腐っていないのか厨房は腐臭がなく、胡桃は多少ゆっくりとする事が出来た。

 

 「・・・・」

 

 「自分用・・・料理用・・・『奴ら』用・・・と」

 

 「・・・なあ」

 

 「どうしました?」

 

 「少し静かにしてくれ。落ち着かない」

 

 「あぁ、すいません」

 

 胡桃『は』ゆっくりとしていたが、同行者の都梅は落ち着く事なく物資の収集に励んでいた。胡桃が理由を聞くと、『取れる時に取らないと後から困る』との事だった。『勿論食糧調達の障害にならない程度』だとも言っていたが、それでも、こんな状況だからなのか少し不安になる。

 

 「・・・お前さあ」

 

 「?」

 

 唐突に胡桃に話し掛けられて、都梅は収集の手を止める。逆手に持った包丁が、暗がりの中で太陽の光を受け妖しく光る。その姿が妙に絵になっている様に見えるのは顔立ちの所為なのだろうと胡桃は思う。

 

 「・・・怖くないの?」

 

 二階に来る前に貴依にした質問に似た問いかけを都梅に向ける。一度は貴依に聞いて納得した胡桃だが、ここに来てもう一度疑念の思いが胡桃の中に立ち昇った。『弱くない理由』は知れた。だが、それでも『戦える理由』が分からなかったからだ。

 

 「・・・・・」

 

 都梅は胡桃からの質問に頭を悩ませる、『奴ら』に挑む事がなのか、助けが来ないかもしれないからか、死ぬかもしれないからか、或いはその全てか。少し時間を掛けて考えた後、都梅はゆっくりと口を開く。

 

 「・・・半分半分かなぁ」

 

 都梅の『半分』という答えに胡桃は眉を顰める。半分は怖くないという事なのだろう。だが、そのもう半分は怖いという事なのだろうか。今までの都梅の行動に、そのようなものは見当たらない。

 

 「・・・その半分って?」

 

 「怖くないって「いや、そっちじゃなくて」え?」

 

 「じゃあ・・・もう半分?」

 

 「うん」

 

 都梅は自分の勘違いに少し顔を赤くしながら、『もう半分』の事を話す。こういう時に抜けてなきゃカッコイイのになと胡桃は思う。自分の好きな先輩には及ばないのだが。

 

 「えっと・・・やっぱりもう半分は『怖い』んですよ。でも・・・多分胡桃さんの考えている『怖い』とは少し違うと思います」

 

 「僕が怖いのは・・・恥ずかしい事だけど、『独りになる事』なんです」

 

 『独りになる事』と言う言葉に胡桃は以外さを感じる。顔からしても、今までの都梅の行動からしても、独りでも十分生きていけるものだった(顔は只の偏見だが)。胡桃は今思った事を都梅に話す。

 

 「『独りでも生きていける』と?・・・そこに関しては僕も自信があります。実質一人暮らしのような生活だし。」

 

 「でも・・・」

 

 そこまで言って、都梅は言い淀む。何か言い難い事なのか、暫くの間、都梅は押し黙る。少しして、都梅は意を決して口を開く。

 

 「それでも・・・独りだと『生きる事しか出来ない』じゃないですか」

 

 胡桃はそれを聞き、はっとしたのもつかの間、都梅は立ち上がり厨房の出口に向かって歩き出す。

 

 「お、おい!都梅!」

 

 「休み終了!さっさと行きますよ!」

 

 都梅はそう言うと、胡桃をおいて家庭科室の出口へと早歩きで行ってしまう。都梅は歩きながら今の自分の言葉を思い出し、顔を押さえる。

 

 (・・・あ~・・・・・恥っづかし!)

 

 (・・・・・とか思ってんのかな)

 

 

 

 ~購買部~

 

 

 今書いてる時点で文字数が4000字を突破し、本当に6000字で終わるのか心配になった頃、購買部の入口に二人の影が現れる。購買部の中は、以外にもそこまで血濡れた様子はなかった。こんな混乱が起こる中購買部で物を買う様な輩がいるとも思えないが。

 

 「あの~胡桃さん?」

 

 「ん?」

 

 胡桃は都梅に呼び止められ後ろを向く。そこには、こちらに向かって手を合わせてお辞儀する都梅の姿があった。胡桃も唐突にお辞儀なんかされても困るので、都梅に話を聞く。

 

 「・・・どうした」

 

 「おねがいします!今回のお支払い、全部胡桃さん持ちで良いですか!?」

 

 一瞬、ワケが分からなかった。こんな時に支払いの話をするなど、どれだけ呑気なんだと叱ろうと思ったが、こんな時だからこそなのだと思い留まる。只、それでも支出するのは自分だけというのはおかしいと思い、都梅に抗議を申し立てる。

 

 「それはおかしいだろ!もっとこう・・・分割とかさあ!」

 

 「ホンットスイマセン!今、金欠なんです!」

 

 「・・・・どのくらい」

 

 それを聞かれ、都梅は苦い顔をする。中々教えてくれないので、教えれば自分だけの支出も考える(するとは言ってない)と言うと、渋々ながら『うんまい棒の標準小売価格×100』だと教えてくれた。

 

 (標準小売価格?多分10円の事だよな。・・・1000円て・・・・中学生のお小遣いかよ・・・)

 

 考える考えない問わず、ほぼ自分の一括払いが決定し胡桃はため息をつく。コイツと二階に来て何回ため息をついたのだろうと思い、思い返すが途中で辞めた。これ以上考えても拉致があかないと思ったからだ。

 

 「・・・もう良いよ・・・・行こう」

 

 そう言うと胡桃は食糧を持参したバッグに入れ始める。その姿を見て都梅は上半身を180度曲げてお詫びしたという。

 

 

 

 ~三分後~

 

 

 それぞれがバッグの中に食糧を詰め、支払いを済ませる(済ませたのは胡桃だけ)。二人が購買部の出口から出ようとすると、胡桃が何かを思いついたように立ち止まり、購買部の方を向く。その様子に都梅は気付き、胡桃に話し掛ける。

 

 「・・・どうしました?」

 

 「お礼しようと思ってさ」

 

 そう言うと、胡桃は購買部に向かって指をさす。胡桃の意図に都梅は気付き、胡桃と同じように購買部の方を向く。

 

 「「ありがとうございます」」

 

 二人はそう言うと、購買部に向かってお辞儀をする。そして頭を上げ、二人が来た道を戻ろうと学生食堂の方を向くと

 

 ア"ア"ア"・・・            ギギ・・・

 

        エ"・・・・エ"・・・

 

 後からこの混乱が始まってから何度か聞いた悪寒のする呻き声が聞こえる。都梅と胡桃は恐る恐る振り返る。その状況に二人は口から悪態が出そうになる。美術室の方から、多数の『奴ら』が出てきたからだ。

 

 「なんでいまに限って・・・!」

 

 「相当の地獄耳ですね・・・」

 

 二人がそう言う内にも、『奴ら』はこちらに向かって歩き続ける。『食糧』という荷物がある以上、迂闊に戦えないと判断した都梅は胡桃に指示を出す。

 

 「胡桃さん。早く逃げましょう。」

 

 「当たり前だろ!」

 

 都梅と胡桃はそう言うと、元来た道を音が出ない程の全速力で戻る。大体ボスケテの速さと同じくらいである。それでも都梅と胡桃の互いの身体能力が高いゆえか、二人は着々と『奴ら』との距離を離していく。

 

 「競歩キツイ・・・」

 

 「私も・・・・」

 

 二人はそう言いながら家庭科室を曲がり、階段を目指す。すると、先の戦いで仕留め損ねた『奴ら』の一人目が廊下の真ん中に立っていた。

一人目という証拠に胸からは、先が折れて欠けた肋骨が数本飛び出していた。

 

 「アイツさっきの・・・お前・・・・」

 

 「いやぁ面倒臭くなってつい・・・・」

 

 「コイツ・・・・・・」

 

 胡桃は都梅の言葉にまたも呆れた。一息はくと、胡桃はシャベルを構える。そのまま胡桃と『奴ら』の一人目との距離は縮み、遂に互の射程範囲に入る寸前、胡桃は大きく振りかぶったかと思うと、腰を落とし一人目の手を避ける。

 

 (足からやれば・・・・いいんだろ!?)

 

 胡桃はそう思うや否や、シャベルで一人目の腿を切り捨てる。『片膝をつく』という行為が出来ないのか、一人目は活き良いよく地面に這いつくばる。一人目の背中に胡桃は足をかけ、頭に狙いを定める。

 

 グ

  シャ

 

 「・・・・!」

 

 胡桃は自分の気持ちの変化に気付き、寒気を憶える。何も思わないわけではない。だが、限りなく無感情に近い『何か』が一人目を殺める瞬間、心を支配していた。その事が胡桃の気持ちに恐怖を与え、吐き気を起こさせる。

 

 「う・・・う"・・・!」

 

 「早く!」

 

 都梅は胡桃の腕を引きながら、階段を上がる。この時、都梅は胡桃の手が小刻みに震えている事に気づいたがこの状況でその事を聞く訳にはいかず、階段を駆け上がる。三階につくと、職員室を抜け、奥にある2-A教室に行こうとしたがまたもや問題が発生する。

 

 (また!?)

 

 今度は五体、LL室の前にいた。他の教室から出て来たのかは分からないが、廊下の前でたむろしていた。屋上に行く素振りは見せないが、早急に倒すべきだと判断した都梅は荷物を置き、歩き出そうとすると左手を胡桃に掴まれる。

 

 「ゴメン・・・ちょっと待って」

 

 そう言う胡桃の体調は著しく弱っていた。手は震え、足は竦み、呼吸も荒い。それを見た都梅は、もう一度『奴ら』五人組の姿を見る。すぐに動く様子もなかった為、都梅は手頃な部屋を見つけてその中に胡桃を連れて入り込む。部屋に入るなり、胡桃は扉に背をつけて座り込んでしまった。

 

 (ここは・・・・)

 

 都梅と胡桃が入った部屋はどうやら『校長室』だったらしく、校長室独特の緊張感と高級感が肌を通して伝わる。都梅が部屋を見渡すと、校長の机に『見慣れたある物』を見つける。

 

 (・・・・・!)

 

 都梅が机に近づき手にとって見ると、それは『職員用緊急避難マニュアル』だった。他に何かないかと思い、後ろを見ると鍵の開いた金庫が虚しく鎮座していた。職員用緊急避難マニュアルは金庫から取り出されたものだと、都梅は予想を立てる。そして、もうひとつの予想、『一部の学校職員はこのマニュアルの存在を知っていた』という可能性を都梅は考える。

 

 「ゴメン・・・」

 

 先程まで一言も喋らなかった胡桃が唐突に話し始める。独り言だろうか、例えそうだとしてももしこのマニュアルを見られてしまえば混乱を招くと考えた都梅は、マニュアルを懐に隠す。それと同時に胡桃がポツポツと話し始める。

 

 「ちょっと・・・疲れた」

 

 「・・・・休ませて」

 

 そう言うと胡桃は大きく息を吐き、顔を膝に埋める。時折肩を震わせたり、自分に暗示を掛ける様な言葉を発したりという状態が暫く続き、幾らかの時間が過ぎた頃

 

 「・・・・よし」

 

 「・・・いいの?」

 

 「ああ。もう大丈夫」

 

 胡桃はそう言うと立ち上がり、大丈夫という言葉を示す様に都梅に向かって親指を立てる。その姿を都梅はじっと見つめる。

 

 「・・・・」

 

 「・・・・」

 

 暫くの間、長い沈黙が続き二人を取り巻く空気も固まってしまったのではないかと思う程の時間が過ぎた頃、都梅は固まった口を開き一言呟く。

 

 「・・・下手っぴ」

 

 「へ?」

 

 「嘘が下手くそですね・・・と言ってます」

 

 都梅はそう言うと、校長室の横に置かれているガラスケースに目をやる、中には巡ヶ丘高校の剣道部が大会で優勝した記念に貰った象牙製の木刀が飾られていた。都梅はガラスケースに近づき、こじ開けようとサッシに手を掛ける。

 

 「膝や手先が震えてたし、呼吸した時の肩や胸の動きが前より荒いです。あと呼吸の回数が少し多かったし・・・そんなんじゃすぐに分かりますよ?」

 

 「少なくともそれですぐに分かる奴は一般人じゃねえよ!」

 

 胡桃のツッコミを無視しながら都梅はサッシを開けようとするが、幾ら丁寧にしても無理やりにしてもサッシは開く様子を見せず、それを見て都梅はため息を吐く。考えを変えたのか、都梅は左腕を大きく振りかぶりガラスケースに向かいエルボーを当てる。大きな音と共に、ガラスの板は蜘蛛の巣を作る間もなく粉々に砕け、象牙色の木刀が顕になる。都梅はそれを掴み引き抜くと、自分の思っていた以上の重さが都梅の手の中に収まる。

 

 「よし」

 

 「わた「いいえ、結構です」・・・」

 

 胡桃が何を言いたいのかを都梅は早く察し、胡桃が全部を言い終える前に都梅がその言葉を遮る。都梅は校長室の扉に近づきながら更に言葉を胡桃に投げ掛ける。

 

 「今のあなたじゃシャベルで頭を狙うどころか振る事も出来ませんよ。『慣れ』を恐れているうちは、ね」

 

 「・・・・ッ」

 

 都梅から図星を指され、胡桃は狼狽える。感の鋭い奴だと前々から思っていたが、ここまで来ると都梅が本当に一般人かどうか分からないと胡桃は思い始める。そんな事も知らずに都梅は胡桃を押し退けると、都梅は校長室の扉を開けて外に出ようとする。

 

 「ちょッ待っ」

 

 「あの五人組を倒したら呼びに来ます。それまで大人しくしててください。」

 

 都梅は淡白にそう言い放つと、胡桃が何かを言い終わらない内に扉を閉めてしまった。扉の向こうからどうすればいいのか分からず呆然とする胡桃の気配を都梅は感じながら、息を吐きつつ左向こうに屯する『奴ら』五人組に首を曲げる。『奴ら』は前よりも中央階段側に寄っており、今すぐというわけではないが、そのうちに上がらない足を引きずって屋上へと進むだろう。都梅の脳裏に、前に屋上で戦った時に下の階から上がって来た『六人目』に対して味わった諦めの感情が浮きあがる。

 

 「・・・・早急にバリケード・・・壁を作る必要有り、ですね」

 

 都梅は一言そう呟くと、一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 ~夜、2-A教室前にて~

 

 どこかの誰かが言った言葉に『どんな場所であっても月の明るさは変わらない』等という物があるがそれは地獄であっても同じらしく、遥か遠くの空に浮かぶ衛星から放たれる反射光が、巡ヶ丘の惨劇を映し出す。胡桃と都梅は食糧を持ち帰り、缶詰で腹を満たしながら全員、由紀を除く全員でこれからどうするかを話し合った。結果的にバリケードを作るで話がまとまり、貴依や都梅が階段を守る内に原型を保っている机や椅子を探し出し、それを階段の前に積むという簡素な物であったが一応の安全を手に入れた。が、この状況では一応という言葉も本来の意味より信頼がない為、都梅以外の全員が2-A教室の中で眠る間、都梅が夜通しで見張りをする事になった。

 

 (・・・エル○ガーデンも『月の日には辺りがよく見えたりもしてて』なんてよく言ったよ)

 

 都梅はそう思いながら、一日をかけようやく煙の途絶えた住宅街を月の明かりを頼りに眺めていると、

 

 「・・・・月光浴?」

 

 「!?」

 

 「ちょ!?構えるな!」

 

 後ろから唐突に声を掛けられ、都梅は横に立てかけていた象牙刀を掴み、後ろに向けると声の主が敵意がない事を示すように両手を上げる。月の光が届かず、部屋の影になっている2-A側の廊下に立っていたため分からなかったが頭に赤い筋が一つ見え、声の主が柚村貴依だと気づくと都梅は構えた象牙刀を降ろし、廊下に腰掛ける。

 

 「・・・・寝てた筈では?」

 

 「硬い床で寝るのは慣れてなくてね」

 

 貴依はそう言うと、肩をグルグルと回す。年頃の女性の肩から出るとは思えない音が鳴り、都梅は軽く苦笑いをする。貴依は痛みに顔を顰め軽く溜息を吐くと、本題に入るように軽く咳をする。

 

 「都梅・・・・お前何か悩んでるだろ?」

 

 「・・・・よくお分かりで?」

 

 「七年の付き合いを舐めんなよ」

 

 貴依は得意気にそう言うと、都梅の隣に座り込み、都梅と同じ様に月を見上げる。

 

 「・・・・月が綺麗だな」

 

 「・・・告白ですか?」

 

 「私は好きな人にはハッキリと『I love you』って言う質なんだ」

 

 貴依がそう言うと、二人は同時に噴き出す。

 

 「・・・・と、ひと通り笑ったわけだが・・・どんな悩みかな?」

 

 「まあ・・・・隠しても無理だろうし、言ってしまえばあの『マニュアル』についてです」

 

 「あぁ、アレ」

 

 「ええ・・・マニュアルの内容を覚えてますか?」

 

 貴依はその質問にNOと答えると、都梅は軽く額を抑えて説明を始めた。

 

 「・・・一つ目が『確保と隔離』についてですけど・・・・あれには権威者の説得って書いてましたよね?」

 

 「あー・・・確かに書いてた・・・・なぁ(?)」

 

 「・・・・このまま貴依さんが覚えてる前提で話すけど、あれには教師や『警察』という具体例が有りました。」

 

 「!?」

 

 都梅の警察という言葉に貴依は驚き、戸惑いの表情を浮かべる。警察で思い浮かぶ人が一人、都梅と貴依の脳裏に浮かんだからだ。

 

 「・・・・まさか姉さんがとか言わないよな?」

 

 「それが不安なんです」

 

 姉さん、言わずもがな才谷千鶴の事である。警察官、それどころか警察署長という重役を引き受けている彼女がもし説得を受けていたら・・・・それが都梅の一つ目の悩みだった。その不安を紛らわす様に都梅は語り始める。

 

 「もし千鶴さんが説得を受けてそれを承諾していたら・・・千鶴さんは『敵』・・・という事になります」

 

 「・・・・もしもの内にも入れたくないな」

 

 「それだけじゃありません・・・問題はあと二つあります」

 

 「うわあこれ以上聞きたくない・・・・」

 

 貴依の嘆きを無視する様に都梅は言葉を続ける。

 

 「二つ目が武力衝突・・・つまり他の生き残りとの戦闘ですね」

 

 「戦闘・・・・」

 

 戦闘の言葉に貴依は息を呑む。混乱が始まって貴依も何回かは『奴ら』との戦闘は行ったが、生きた人間との戦闘は『奴ら』のように行かない事は貴依でなくても理解出来ただろう。

 

 「戦闘用員の不足・・・・戦える人材が足りません」

 

 「戦闘用員なんてのがある方が変なんだろうけど・・・・戦える奴は今のメンバーの中じゃ二人くらいだな」

 

 「二人?」

 

 貴依の二人という言葉に都梅は疑問を感じる。都梅は人との戦闘用員は自分一人だと思っていたのに、自分を含めると考えて二人となると残りの一人とは誰の事か、都梅は貴依に問いかける。

 

 「誰ですか?その二人って」

 

 「私と、お前」

 

 「・・・・へ?」

 

 「柚村貴依と才谷都梅で、『二人』だよ」

 

 「・・・・・・・!?」

 

 貴依の発言に都梅は衝撃を受ける。確かに貴依は多少の腕は立つが、それが人相手に役に立つとは思えなかった。都梅は貴依に対して異議を唱える。

 

 「それはダメです!」

 

 「なんで」

 

 「なんでもなぜもありません!貴依さんにそんな危ない役をやらせるわけには行きません!」

 

 「おッ落ち着け落ち着け!起きるだろ!?」

 

 「・・・・・・・・・ッ」

 

 貴依にそう言われ、都梅は唇を噛みながら貴依を睨む。元々鋭かった目つきに気迫が加わり、貴依はその迫力に若干引いてしまう。が、それで引き下がる貴依ではなく、都梅の発言に対しての反論を2-A内の人が起きないよう小声でする。

 

 「危険だってのは私も理解してるし、不安もある。でも、そんなんで私は死ぬつもりはないよ。それに・・・」

 

 「お前と私は昔から危険な事、してるだろ?今更臆する事なんかないよ」

 

 そう言って、貴依は目を細めて笑う。都梅はその発言に反論しようとしたが、貴依の笑顔を見るうちにその気も失せ、溜息を吐いて肩を竦める。それを了承と受け取った貴依はガッツポーズを決め、立ち上がる。

 

 「さて・・・と、都梅の悩みもあと一つだっけ?それは・・・また次の機会ってことでいい?これ以上は気が滅入るよ」

 

 「僕もこんな話に付きあわせてすいません。続きは別の日です」

 

 そう言って貴依は都梅に向かい軽く手を振ると、扉を静かに開けて2-A教室の中に消えていった。都梅は扉がしまったのを確認すると、息を吐き空を見上げる。空では相変わらず月が明るい光を照らしていた。

 

 「・・・落ちろバーカァ」

 

どんな時でも、どんな場所であっても変わる事のない光量に都梅は腹を立て、やる気のない罵倒を口にする。どんな時でも変わらないのは月も都梅も同じなのだから自分を棚に上げてるような物なのだが。暫くして脳髄の奥から睡魔が湧き出し、それに従うように都梅の瞼は瞬きの速度を下げ始める。シャットダウンとスタートアップを繰り返す視界の中で都梅は一つ思った。『いっそのこと、8000から10000までに変えた方がいいかも』と。そのうちに都梅の意識は薄れていきやがて、微睡みに意識を飲み込まれていった。

 

 (テン・・・ソウ・・・・メ・・・・・zzzzzz)

 

 

 

 

 ~2-A教室内にて~

 

 

 (・・・)

 

 (・・・・)

 

 (・・・・・)

 

 (・・・なんか私・・・名前しか出てない気がする・・・・・)

 

 メタネタは基本都梅君だけですよ。めぐねえ。

 




このままでは本編編に到達することなく一年が終わってしまう・・・・・!

 作品内の時間を三日くらい飛ばします!
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