落ちてきた漂流者と滅びゆく魔女の国   作:悪事

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世界を越えて

ーーー1600年、関ヶ原・鳥頭坂ーーー

 

 

関ヶ原が鳥頭坂、馬に乗った武者の男が張り裂けんばかりの声で呼ぶ。しかし、呼ばれし男はそれに応えず。ただ頑として振り向かない、その男が見つめる先には多数の騎兵の姿あり。飢えた餓鬼のごとく男は、真っ向からの相対を仕掛ける気だ。兵数の多寡は明らかで、男に並び立つ兵たちは死を覚悟した目で火縄銃を持つ。

 

 

 

「豊久っ!退くのじゃッ、豊久、豊久ッ!!ーーーー豊久ぁッ!!」

 

 

 

 

必死の呼びかけ、その声からは懇願と哀切の情が伝わってくる。死ぬな、帰ってこい、そう呼びかけるも男はやはり応えず。

 

 

「お退きあれ!!おじ上!!ーーお退()きを!!」

 

 

 

ようやく返答した言葉は撤退の要求。しかも男は撤退において必要な殿(しんがり)を買って出たのだ。それすなわち、死の片道切符を握っているも同然。

 

 

「ここは、お(とよ)におまかせあれ!」

 

 

「お(まん)も帰るのじゃ、薩摩へ!!帰るのじゃ、豊久!!!」

 

 

「帰りたかです、死ぬるなら薩摩で死にたか。ーーーでも、おじ上一人、薩摩に戻られたなら、おいも兵子(へこ)も皆ここで死んでも。こん戦、島津(おいたち)の勝ちなんでごわす」

 

 

 

 

恐ろしいまでの迷いなき言葉、この言葉からは痛いほどの死の覚悟が伝わるのに、死への恐怖が微塵も無い。豊久は一拍溜めて、腹から響き渡るような大音声で兵たちに命令を下す。

 

 

「兵子ども!!射ち方構えぃ!!ーーー死ぬるは今ぞ!!!!」

 

 

 

豊久は決死の殿にも関わらず、まるで幼子が玩具をもらい遊ぶかのような笑みを浮かべる。

 

 

「敵は最強、徳川井伊の赤備え。相手にとって不足なし。命捨てがまるは今ぞ!!!!」

 

 

 

豊久の言葉が響くと同時に徳川が兵たちが、目と鼻の先にまで到達した。これ以上、議論の余地は無い。これ以上うだうだと喋っているようなら、死を覚悟した豊久の殿は無駄になる。迫る徳川、一番手を切って走る大将が島津を威嚇するように味方を鼓舞するように叫ぶ。

 

 

「奴らを生かして薩州に返さば、井伊の徳川の恥ぞ!!」

 

 

 

豊久は迫る徳川から目を背けることなく刀を抜いた。

 

 

 

「ーーー時を稼ぐ、一刻でも多く。敵をとどめる、一人でも多く!!」

 

 

「ぐっ……待っておるぞ、豊久!!待っておるぞ、薩摩で!!ーーー待っておるぞぉぉ!!!死んだら許さぬぞ!!豊久ぁ!!」

 

 

 

無理だとわかっているが、叫ばずにはいられなかったのだろう。悲しみに満ちた声を最後に豊久が叔父、島津義弘は退いていった。これを今生の別れと理解しつつ。義弘のいなくなった後、豊久は静かに笑った。その笑みにあったのは単純に叔父への感謝の念。

 

 

 

(良か、御義父(おやじ)殿じゃあ。豊久は幸せもんだわ。ようし!!ここは一番、武者働きせねば)

 

 

 

とうとう徳川との相対する距離は限界にきた、豊久は己の本能に囁きに従って兵たちへ告げる。

 

 

 

「放てぇ!!!」

 

 

 

ドドドド、ドンドン、ドドドン。号砲が響く。腹わたを揺らすような錯覚を与える銃の絶叫。その爆音に紛れ、豊久は敵の只中へと突っ走る。その爆走に恐れなし、刀を背負うような構えと前のめりの体勢。豊久が得意とする一斬必殺の剣技。敵の騎兵に飛びつくように迫った豊久は騎兵の鎧や中身の肉体、騎乗する馬の全てをザンッと両断する。

 

 

「おおぉ!!!見事(みごと)也」

 

 

 

この芸当には思わず敵の大将であった井伊直政も賞賛の声を上げざるを得ない。だが、賞賛の声も恐れの声も聞こえていない豊久は、次の騎兵へ斬りかかる。それを仕留めれば、さらに次へ。負け戦の殿、その無様な姿に敵大将、直政は思わず批難をぶつける。

 

 

「死兵め!!貴様らはもう負けたのだぞ。その首、俺の手柄になれい」

 

 

だが、そんな批難もなんのその。往生際も悪く豊久は生きることより、直政の首を獲ることだけにしか関心がない。

 

 

「何言いやがる、クソボケが。首になるのは(おい)じゃない。貴様よ!!!」

 

 

「ーー阿保ゥが!!!」

 

 

 

直政が振るう槍と豊久の刀が衝突し、火花を散らす。直政の激昂と共に裂帛の意気で槍が突かれる。豊久は刀で弾き、貪欲に首級のみを狙う。だが、そんな膠着した状況に直政が部下たちの援護が。

 

 

「直政様!!」 「殿を守れい!!」

 

 

 

「「「「「「「応!!」」」」」」」

 

 

「……………よか!」

 

 

展開される槍衾。まるで柵のごとき槍の縦列を見た豊久の顔には、やはり笑みが浮かべられていた。一歩踏み出す、二歩、三歩で豊久は最高速度に達する。最後に四歩、踏み切り槍の縦列を飛び越えるように跳躍する。何たる愚か、跳躍した空中では身動きの一つも取れない。常軌を逸したイカれの行動。空中に飛び上がった豊久へ向け、多数の槍が突き立てられた。

 

 

 

「こ……こやつ…………!!」

 

 

 

その所業には直政も、恐れおののく声をあげてしまう。しかし、慄きは一瞬、その後に戦場で血迷った愚か者に向かい勝利宣言に等しい罵倒を口にした。

 

 

阿呆(あほう)が」

 

 

「あほうはお前(うぬ)じゃ井伊侍従直政!!」

 

 

けれども、これは豊久の策だった。槍に刺さったまま豊久は腰に携えていた短筒に手をかける。勝利を確信した隙、それが豊久の狙う勝利の好機。火縄はすでに点火済み、豊久は直政に照準を合わせ引き金を引いた。火縄銃の一発は狙い違わず直政の懐に命中する。

 

 

「はッはー!!やったど!!」

 

 

命中したことに子供のようにはしゃぐ豊久、一方で直政は乗っていた馬から落馬し周囲の部下たちが駆け寄る。

 

 

 

「直政様!!」 「殿!!殿ぉ!!」

 

 

 

「退け、退くのだ!!」

 

 

大将、直政が負傷したことで徳川の兵たちは転回。数十の騎兵たちが駆る馬たちの銃声がごとき足音と共に撤退する。轟音と共に馬たちは駆けていき、その場には死んだ島津の兵たちと瀕死の豊久だけが残された。確かに仕留めた大将が、離れていく。大将首を獲れない。自身の負傷具合より豊久の関心はそれだけ。どんどん離れていく直政へ豊久は怒りを篭めて絶叫する。

 

 

「待てぇ!!!直政!!!ーーーふざけるなよ、手前(てめぇ)。首置いてけ!!!!!」

 

 

 

もはや、そこには直政はおろか徳川の兵、味方すらいない。一人だけとなった鳥頭坂で豊久は叫ぶ。

 

 

 

「首置いてけ!!!ーーー首置いてけぇ!!直政ァ!!!!l」

 

 

 

 

幾度も、叫んだ後に豊久は重傷の体を引きずって歩き出す。ただ、薩摩へ帰るということだけを考え、朦朧とする意思で足に進めと命じる。歩いているうちに、まるで滝のような豪雨が降り出す。進む先や後ろには、倒れ伏した骸がごろごろと転がっている。死んでたまるか、死ねねぇんだよと己を鼓舞し、豊久は進む。やがて、進んでいるかも、止まっているかも判別できなくなるほど意識が消えかかる。だが、豊久は諦めていない、常人ならば残酷な運命に屈するというのに、豊久は進むことをやめない。ただ、帰るのだという信念を込め踏み出した時、地面を踏んだ感触が消え、空中に放り出されたような浮遊感を味わった。

 

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

戦国乱世の日本とは異なる時間、場所、世界。その世界の辺境に異能の力を持つ"魔女"と呼ばれし女性たちがいる。魔女たちは唯一絶対の神を崇拝する人々から忌み嫌われ、長年の間、戦い争い続けてきた。やがて、人と人が争う戦争が勃発し、魔女たちは一時、平穏な暮らしをしていた。だが、人と人の争いが集結した途端、魔女を異端とする教会は魔女たちを駆逐すべく、魔女を攻撃する国を支援し魔女たちと直接戦っていた。魔女の領土は真綿で首を絞めるかのようにゆっくりと削られ続けた。魔女は仲間を喪い、人も犠牲を出す。終わることのない憎しみと戦争の連鎖。魔女の指導者も教会の指導者も、魔女の未来が破滅しかないと考えている。"このままいけば"、やがて魔女は皆殺しの憂き目にあう……はずだった。

 

 

 

……………異界からの"漂流者"(ドリフターズ)がいなければ!!!

 

 

 

 

 

魔女たちの幾つかの氏族が住まう黒き森。その黒き森のある一族を率いる魔女、ハリガン・ハリウェイ・ハインドラ。彼女は苦悩していた。彼女の一族が拠点としている場所は、人と魔女の争いの最前線。終わることない劣勢と、一族の将来、それに"何処ぞから現れた男"の処遇をどうするか、様々な悩みを持つ彼女は、体を清め癒すため森の奥の源泉から引いた露天風呂に入っていた。少し硫黄の匂いがする温泉に、ハリガンは豊かな肢体を湯に浸からせる。全裸の彼女は、男女問わず見つめるほどのスタイルだ。蒼黒の髪、大きく膨らんだ胸、引き締まった腰に突き出すような臀部。普通の男なら、直視した瞬間に我を忘れてしまうほどに艶美な肉体。その肉体を湯の中で伸ばしたハリガンは、頭にある悩みの解決策を模索するが一向に答えは出ないまま。

 

 

「ユウキ」

 

 

ハリガンは傍にいた若い魔女に声をかけた。

 

 

「なんですか、ハリガン姉?」

 

 

「来よ、共に湯に浸からんか?」

 

 

「いいんですか、何やら大事な考えをしていたようでしたが」

 

 

「よいさ、考えても答えの出ぬ考えなど徒労なだけよ。よいから、来よ」

 

 

「それでは失礼して」

 

 

ハリガンに促されたユウキは、ハリガンの隣に座り湯に入った。

 

 

「ユウキよ、先日より捕らえているあの男はどうだ」

 

 

「……殺しましょう」

 

 

「……開口一番にそれか…………」

 

 

ユウキの変質した声に、ハリガンは疲れたように嘆息する。ユウキの男性に対する苦手意識は少々、度が過ぎたものがある。男性に対して、攻撃的というか極端な対応をするユウキに聞いたことが間違いだったと豊かな胸を支えるようにハリガンは腕を組む。

 

 

「殺す殺す殺す殺す!!!あんの髭男、言うにことかいて、私をイノシシ女だって!!あんな男、生かしておいたって、利なんかありません。風呂から出たら、即刻殺しましょう。そうしましょう!!」

 

 

「落ち着かんか!!」

 

 

「ギャン!!!?」

 

 

エキサイトし始めたユウキを落ち着けるべく、ハリガンは硬化した己の髪をユウキに叩きつける。下手な鋼よりも硬い髪の毛、いかに加減されていようと、生じた痛みの大きさは小さくはない。

 

 

「あの何処ぞより流れてきた男、凄まじいまでの覇気と戦に対する熟練を感じさせる。あの男、危険な匂いもするが失うには惜しいほどの戦略に関する知識がある。どうすべきか…………」

 

 

 

「あぅ、頭が陥没したように痛いです。ハリガン姉〜」

 

 

 

嵐のように押し寄せた疲労を解かすため、ハリガンは深く湯に浸かり直した。悩みの解決策も見つからぬままのハリガンは、空を見上げようとした。すると、ハリガンたちが入っていた湯殿が揺れた。ハリガンの見上げた空に暗雲が立ち込める。

 

 

(どうしたのだ、先ほどまでは雲ひとつない快晴だったというのに!?)

 

 

 

暗雲が広がり豪雨が降り出す。昼間だというのに、夜にでもなったかのような暗闇。そこに一条の雷光が轟きと共に空を駆け抜けた。異様にして摩訶不思議。異能を操る魔女の指導者、ハリガンもこの異常事態に思考が回らない。側にいるユウキは子羊のごとく小刻みに震えている。

 

 

 

数秒ほどで雨は止む、ようやく落ち着いた天気に安堵したハリガンとユウキ。しかし、異常なことはまだ終わってはいなかった。空から何か落ちてくるモノの影が。雨の雫にしては大きすぎ、鳥や動物にしたって大きすぎる。そう、あれは人のようだ。

 

 

 

 

割れるような音と巨大な水飛沫をあげ、湯殿に何者かが落下してきた。飛んできた水飛沫を避けようと、二人は水飛沫の地点から目を逸らした。落ちてきた者を中心に、湯が瞬く間に赤く染まっていく。僅かな鉄の匂い、戦場で嗅いだ覚えのある紅。そう、人間の血液に相違ない。落ちてきた者の身の丈、体つき、パッと見ただけだが、どうやら男のようだ。

その証拠に………

 

 

「男オトコおとこがいますぅぅ!!!」

 

 

男嫌いゆえに男の気配に聡いユウキが、これほどに取り乱しているのだ。間違いなく男である。裸という状況で男と遭遇したのだ、男性嫌いのユウキは混乱状態に陥り、その場で渦巻きのごとく回り続けている。

 

 

「しかし、どこの馬鹿者だ。男が魔女の入浴場に入ろうとするとは……」

 

 

「男オトコおとこ男がぁ!!殺す殺す殺すう、男は殺すう!!」

 

 

「ええい、落ち着けと言うに!」

 

 

 

再び、ユウキの頭部に髪の鉄槌が落ちた。

 

 

ゆっくり近づこうとするハリガン、あと三歩ほどまで迫ると、絶賛流血中の男が立ち上がって何らかの言葉を発した。その言葉、偶然か必然か、聞き覚えのあるような言語だ。そう、この前現れた"異国の男"が口走っていたような気がする。……レラを呼んで翻訳の符を与えよう。やれやれと首を振ると、今にも死にそうな傷の男がハリガンの腕を掴み、やかましい音量で喋りだした。

 

 

+_\|(何だ)……ッ。+_\|(何だ)……ッ、:;/-%(ここは)……ッ?………@&58¥(誰だ)……ッ』

 

 

「……死んでもおかしくないほど怪我をしておるのに、元気なものだ。とにかく、何処かの流れ者よ。少し落ち着け」

 

 

+_\|&@8(てめぇ)……。-」:「/9&」¥@@&337…/:(おいは帰るのだ)。……(3-@「A(薩州へ)!!』

 

 

「ええい、落ち着かんか!その傷で、そんな馬鹿みたいに声を張り上げたら本当に死ぬぞ!……仕方ないっ!!」

 

 

『ガっ!!!???』

 

 

 

 

ユウキ同様にハリガンは男に髪で打撃を与えて昏倒させた。……血を流している瀕死の男が湯に浸かり続けるのは色々とまずい。ハリガンは背後の小部屋へと向かい、脱衣籠を持って戻ってくる。そして、籠の中の服を丸めて己の髪を一本人差し指の爪で切った。切ったばかりの髪はハリガンが魔力を込めたことで硬くなり、ピンと伸びた針のように変わる。長く伸びた針は服に突き立てられ、服の球体が生き物のように蠢く。やがて、服は命を吹き込まれたようにハリガンの手から飛び出し、湯殿の床に落ちる。服は人の形に緩やかに変じ、衣服の傀儡が完成した。

 

 

「ぬしが(あるじ)、ハリガン・ハリウェイ・ハインドラが命じる。そこにいる男を湯から引き上げ、その後に()が娘、アイスとレラを呼んでまいれ」

 

 

 

人の形をした服が、人そのものとでもいうようにハリガンへお辞儀する。そして、彼女の命令を遂行すべく、湯に浸かった男を抱え上げ床に寝かせた。

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

姉様(あねさま)、アイスですよ」

 

 

「レラで、す」

 

 

 

人形に連れられてきた二人の若き魔女、アイス・アイシュリア・ハインドラとレラ・ライラ・ハインドラは湯殿で裸のまま立つハリガンに向かって一礼をした。

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「わざわざすまんな。少しばかり手伝って欲しいことがあって呼んだのだ」

 

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 

にこやかに笑みを浮かべた大柄の魔女、アイスがハキハキと頷いた。やって来た二人の魔女は十代そこらの印象を感じさせ、女性としての色香も漂わせている。穏やかそうに笑う大柄な女性がアイス、もう一人のレラはアイスと並べると背が低いことがよくわかり、共に露出の多い衣装を身につけている。そして、この二人は体つきに大きく差異がある。アイスは出るところは出ている豊かな体つきで、もう一人のレラは膨らみはあるものの、何やら控えめなもので、爆とか巨の胸を持つハリガン、アイスと比べてしまえば貧乳と評すしかない。

 

 

 

 

 

「そこで伸びているユウキを運んで欲しい」

 

 

「はい、またユウキが何かをしたんですか。………って、そこで寝ているのは男では?!」

 

 

「まさか、人間どもが送り込んだ()(かく)!?」

 

 

 

「いや、慌てるな。"また"、何処かから流れてきた異界の者だ……」

 

 

「まさか、あの人と同じなのですか!?」

 

 

「ーーー信じられませんが姉様(あねさま)が嘘を言うはずもな、し。それにそこで転がっている男がいる事、実。これは受け入れるしかないようで、すね」

 

 

 

「で、どうすれば良いのです、姉様?」

 

 

 

流石に驚きはしたみたいだが、頭の回転が早いこの二人は早くも状況を飲み込み、何をすれば良いか聞いてくる。

 

 

「ともかく、このままでは此奴(こやつ)は死にかねん。アイス、この者を運び、急ぎ治療してやれ。レラは意思疎通を図る手伝いだ」

 

 

「承知しまし、た。……もしや、この人は先日現れた"男の人"と同じ世界からやってきたのでしょうか」

 

 

 

「わからん。しかし、考えている時間はない。急がねば、此奴は死んでしまうぞ。急ぎ、ことに取り掛かれ」

 

 

「わかりまし、た」

 

 

「アイス、頼む」

 

 

「はい、姉様」

 

 

 

アイスは、細く迂闊に触れれば折れ曲りそうなたおやかな腕で、気絶したユウキと自分より大柄な男を担ぎ上げた。この女性は筋骨隆々というわけではない、この剛力の秘密は彼女の魔法にあったのだ。アイスの持つ異能、それは凄まじい力を発揮するというもの。その腕力たるや生身で城壁を砕くほどの怪力。

 

 

「それで、どこに運びましょうか」

 

 

「ひとまず、我の部屋だな。他の娘に気づかれぬようにこっそり運んで、治療してやれ」

 

 

「それとレラ、その男の腰に佩いてある剣、いや、"あの男"は確かなんと言っておったか」

 

 

「この反り返った形式の剣、"あの人"は確か、カタナと呼んでいました」

 

 

「そうだ、カタナだったな。ともかく、それを運んでやれ。アイスに当たるやもしれないからな」

 

 

「はい、承知で、す」

 

 

(われ)も後から向かう。先に行っていてくれ」

 

 

アイスとレラが湯殿から出て行った後、一人になったハリガンは露出過多の服を着て、自分の部屋とはちがう方向に一旦向かう。向かった先、そこは魔女の拠点の端っこに位置していた。老朽化で危険と判断し、今は誰も使っていない家屋。そこには一人の男がいた。魔法を使えるのは魔女のみ、男の魔女などいるはずもなく、この男が外から来た者だと否応なくわからせる。

 

 

「おい、"龍王"(ナーガ)殿!」

 

 

「………何事だ」

 

 

「死にかけの男が一人、また迷い込んできおった。それも、お主と同じ国の者だろう」

 

 

「生きておるのか?」

 

 

「辛うじてな、虫の息という言葉があれほど似合う状況もそうなかろうに……」

 

 

「………で、あるか………。手当てしてやれ。命と運が良ければ生きるであろう」

 

 

「相変わらず、随分と偉そうな物言いだな。お主が生きているのは、(われ)らが生かしているからだと、わかっておるのだろうな?……"龍王殿"?」

 

 

「……ならば、その男も同じように生かしてやれ。わしのようにな……ふふん♪」

 

 

 

 

朽ちた家屋の内部にはハリガンと、その男しかいない。男の背後の壁に張られた旗、そこには何らかの意匠が書かれていた。ハリガンや、この世界の者にはわからんだろう。しかし、日本では戦国時代から現代まで、ある程度の学があるものなら知らぬものはいないほど有名な家紋。かつて、戦国乱世の時代に天下布武という大言を吐き、天下をとる一歩手前まで登りつめた男の証。

 

 

その名は木瓜紋(もっこうもん)。織田家が掲げし御旗である。

 

 

 

「まったく、つくづく面白いものよなぁ。この浮世というのは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A.D.1600。天下分け目の関ヶ原……

 

 

敵陣突破の撤退戦、島津の退き口。決死の覚悟で挑み、大将首を狙いし島津豊久!!瀕死の豊久は朦朧とする意識の中で、日の本ではない異界へと落ちていく。戦国最強のサムライが落ちた世界は戦の絶えぬ世界、魔女が人に追われ疎まれ攻め滅ぼされんとする世界。果たして、戦国最強の漂流者(ドリフターズ)はこの世界に何をもたらすのか!!!

 

 

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