お狐様とモブ子さん   作:カレータルト

1 / 10
百合です、GLです、雰囲気です


唐突に一話目

■基礎知識

 

 

一度は空想の産物と言われ、永らく存在自体が忘却の彼方に置かれていた”妖怪”が、現実世界へと侵食し始めたのは××世紀の初頭と言われている。

 

ここで注釈しておくが、この××世紀初頭というのはあくまでも××××年現在における最有力説であり、これに確固とした出典があるわけではない。

この最有力説と言うのも筆者の記憶する限りでは5回か6回に渡り変遷しているし、あくまでも現在における最有力説に過ぎないので再びの変更が加えられる可能性は大いにある。

その始まりについて様々な文献を辿ると、突拍子もない説を除いても最大で3世紀の開きが生じ、眉唾物の陰謀論等も含めれば6世紀もの開きが生まれるとすら言われている。

 

それというのも、かの”御所事変”によって我々の目の前に突如として姿を現したかのように見える妖怪は、その実は長きに渡って水面下でその勢力を徐々に、そして着実に増やしていったとの見方が強いからだ。

しかしながら妖怪がいつから、どうやってその勢力をどのようにして拡大させていったか、またその契機については誰も語る者が未だに現れていない。

それゆえに我々が彼らの活動の一端を知るには、彼らがほんの僅かな間”呼吸”をしにその断片を水面から突き出した瞬間を過去の事例から探し出す他にないからである。

 

かの事変より、我が国では人間の活動域を大幅に削り取られることになった。

その瞬間を火蓋として、堰を切ったように各地で行われた襲撃により、山村にあった筈の集落とは連絡が取れなくなり、それどころか都市部ですら安全域が大幅に減少。

交通網や情報網は示し合わせたように切断され、残された各都市は統率はおろか現状の確認すらできないまま対応に追われることとなる。

 

紛れもなくそれは、妖怪によって計画された人間の殲滅作戦であり、感情による虐殺ではなく理性による掃討戦であった。

人間はそれより三年半にわたり、正体不明の存在に対してレジスタンス活動をすることを強いられたのである。

 

その詳細な年表、及びに各地の活動については相応しい文献が多数出版されているので割愛させてもらうが、各地ではただ無意味な活動を繰り広げていたわけではない。

有志によって行われた調査活動、及びに人力で命を懸けて行われた情報共有の結果、当時の人々は敵の正体と有効な手段を編み出すに至ったのである。

そこに至るまでに膨大な年月と少なくない優秀かつ勇敢な人材の犠牲がなければ、我々は歴史から消え去っていたであろう。

 

 

 

その方法とは、毒を以て毒を制す。

即ち、妖と契約することで妖怪に対抗する力を得ること。

 

妖と呼ばれる”憑物”の協力を得て妖怪に対抗する、人類の希望。

これこそが今日の”妖憑き”のはしりであることだけは確かである。

 

 

 

   ――――鱈鰡書籍『憑物憑きと日本史』 序章 18頁より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

パタン、と

 

 

書物が閉じられる音、隣から感じる寄り添うような重み。

それなりに集中していた私の世界に穴をあけたその手は私のものではなかった。

白く小さく、それでいて嫋やかで、妖艶ですらあり、強情ですらあるその手はやがて私の腕を置き場と決めたらしい。

そっとくっついたそこからは、次第に体重分の重みがじんわりと伝わり始めた。

 

 

 

「のぅ、のぅ、お主様よぅ」

 

 

 

声が聞こえる、まるで蜂蜜のような温かく甘い声が、私の耳元から染み込んでくる。

 

縋るような幼い声は女性ならば母性に、男性ならば劣情に火をつけるのだろうか。

それなりに慣れたと感じていても、不意に聞こえるそれは未だに私の心臓の鼓動を早めるぐらいには効果があるのだ。

 

隣から伝わる重みは次第に、段々と波を作って私を揺らし始める、ゆっくりと一定の周期で。

迷惑と思えない程度の小ささで、けれども集中力を乱して再び自らの世界に沈み込めない程度の大きさで。

そうすることで自分の声に集中せざるを得なくなるのだと、彼女は無意識ではなくしっかりと計算している。

 

なんていやらしい、私は未だに彼女に対して一部たりとも勝てる気がしない。

こうなってしまえばもはや私は選択ができない、できたとしてもその選択肢はどれをとっても彼女にとっては望むもの。

まるでお釈迦様の手の上のようで、彼女の幼く柔らかい手の上で転がされている自分を思えば――いやとは思えなくなっていることに身震いした。

 

これ以上は考えちゃいけない気がする、本能が思考をシャットダウンした。

 

 

 

「なにかな、私は今しがた読書という嗜好の時間を堪能していたんだけど」

 

 

 

椅子が立てる僅かなキシ、キシという音が静寂を増幅させ、私の声を予想以上に響かせた。

そして、彼女の喉元から奏でられるコロコロとした笑い声も。

 

嬉しくて、楽しくて、愉しくて仕方ないといったご機嫌な鈴のなる音。

緩やかな、しかしながら明確な拒否の意思を持った返答でも彼女にとっては楽しくて堪らないらしい。

 

 

 

「くふ、くふふ、くふふふふ。まったくもって御し難い、そのような書物を目で貪るなぞ」

 

 

 

揺れる

 

揺れる

 

熟れた稲穂のように、揺れる

まるで私を誘うように、おいでおいでと手招きするような、光を反射して輝く妖しい白妙

 

媚びるような、吸い込まれそうなほどの透き通った黄金(こがね)の水晶の奥で

私のことをじぃっと見つめているその瞳が、揺れる

 

 

 

「貪るならばわっちの肉をその本能のままに貪ればよいものを、此方は微塵たりとも遠慮しておらんと言うのに……何をそんなに遠慮しておるのかの、あなた様は?」

 

 

 

私もあなたも女であるとか、幼女趣味はないだとか、ごちゃごちゃとしたものが頭をよぎって。

返答ならいくらでもある、けれどもそれは何一つとして意味をなさないだろう。

どれ一つとっても、私の平凡かつ凡俗な脳味噌で考えついた理屈なんて、彼女を止めるには程遠い。

 

艶やかな肩の肌色が視界の隅に止まった途端、私の顔は反射的に逆側を向いた。

 

 

 

「のぉ」

 

 

 

けれども、逃げられない、逃がされない。

そのふにゃりと柔らかい手にどれほどの力が籠っているのかは分からないけれど、そっと頬を包み込まれれば私の意思は無視される。

 

向かされるのだ、強制的に。

 

 

 

「わっちから目を離さんで欲しいものじゃが、(つがい)にそのようなことをされればわっちは寂しゅうて、寂しゅうて」

 

 

 

泣き崩れるような声を紡ぐのは、水気を十分に保った桃色の唇で。

けれどもその瞳は見開かれ、蕩けるような瞳の奥にはしっかりと見えるのだ。

 

 

 

 

 

 

「あんまりにも寂しゅうて―――――食ろうてしまうかもしれんよ?」

 

 

 

 

 

 

明確な、愛憎入り混じった殺意が。

 

それが冗談ではないことは、私がよく知っている。

彼女はその気になれば私を”食べる”、比喩でも何でもなく文字通り、物理的に私を”食べる”だろう。

 

殺人であるとか、倫理であるとか、世間体だとか。

そういった人間にとって”あたりまえ”のことは、彼女にとって見向きもされない。

仮に彼女が文字通り私を”食べた”として、だからと言って彼女は如何なる法規に晒されることもないのだろう。

 

 

 

彼女は、金色の目をしている

彼女は、見事な純白の髪を持っている

彼女は、人間離れした恵まれ過ぎた容姿をしている

彼女は、見た目は幼いのにも関わらず妖艶であり、老獪である

 

 

彼女は、

 

 

彼女は、

 

 

 

 

 

彼女は、尻尾を持っている

彼女は、雪のような純白の尻尾を揺らしている

 

 

 

 

彼女は、人間ではない

彼女は、妖怪である

 

 

 

 

彼女は、狐の妖である

 

 

 

 

 

 

 

■ 注釈

 

 

(あやかし)とは、人に力を貸す存在である。

人に害をなす妖怪(ようかい)との対比であり、両者の明確な違いは人にとって害か益か、つまるところ人側から見た側面でしかないことを理解しておかなければならない。

 

妖の生態を記した書物は多数あるため、いくつか抜粋して示す。

・妖には男性型と女性型が居るが、大抵が女性型である。

・由来が定かではない妖怪と違い、妖には由来が定かである者が多いとされている。

・人に手を貸す理由はそれぞれであるが、有力なものは”人類が滅亡すれば霊的なバランスが崩れる”からとされている。

・上記の理由は強力な力を持つ妖ほど明確に意識しており、下位の妖ほど欲望に支配されやすい特徴がある。

・妖には明らかに神霊に等しい力を持つ者から、そこまでの力を持たぬ者も居る。

・人間と妖の契約は、人間側が何かを供物として差し出し、妖怪側がその対価を与えることで成立する。

・契約内容はすべて妖怪に依存し、供物および対価の種類や選択肢の有無を人間が決めることはできない

・協力はあくまでも彼女たちの好意によって成り立っているので、人間の法をもっての拘束は関係悪化も考慮されるので不可能である。

 

当時、彼女たちとの協力はどのように取り付けられたかは分からない。

ただ我々歴史学者にとって暗黙の了解になっているのは、その事柄については詳しい詮索をしないこと、万が一知ってしまったとしても他言はしてはならないこと。

その理由というのは筆者も知らないし、恐らく知っている者がいるとしたらばそれは暗黙の了解を押し付けた誰かなのだろう。

 

学者としてそのタブーを破ってみたい気持ちはないわけではない、興味の赴くままに誰も明かさぬその真実を暴露したくない筈がない。

けれども我々が立ち向かっているのは断じて人ではなく、人よりも高位の存在であり、古い昔の人間は”掟”としてそれを決して破らないように、機嫌を損ねないようにしてきたという。

そして我々は今のところ妖に生かされていると表現しても過言ではないのだ、妖が我々に対して牙をむいたその時、我々の歴史は真の終焉を迎えるだろう。

 

それ故に、妖との絆を紡ぎ、共に戦うには”作法”を知らなければならない。

国が創り上げた”妖憑き”育成学校に入学しなければ妖を召喚することは許可されず、また非合法に召喚および契約を行った隠れ”妖憑き”に厳罰が下されるのはそういった理由があることを理解していなければならない。

 

日本全国にある育成学校の中枢となるのは首都にある國立 権禰宜(ごんねぎ)學校である。

迂闊な行動をとらないように、妖との円滑な協力関係を築きあげるために、そして”妖憑き”としての素養を早くから磨くために。

そのため優れた教育を施すことができるが、その代わりに編入者に厳しいことが問題点として挙げられている。

 

平常の進学校であればその力量も同程度の生徒が集うが、我が国において育成施設の数には精鋭育成の都合上限りがあり、また”妖憑き”の素質にも格差が生じている。

その結果として生徒の力量の振れ幅は大きくなっており、中途から素質が認められた編入者が勉学についていけない問題が生じている。

召喚したは良いものの、妖とのそりが合わない等の問題が年々増加しているのも無視できない問題となっている。

 

 

 

   ――――鱈鰡書籍『憑物憑きと日本史』 三章 八十五頁より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ」

 

 

 

私は、彼女を無視できない。

私は、彼女を拒否できない。

 

 

 

「なにがかのぉ」

 

 

 

私は凡俗で、一般人だけど。

彼女は強力で、綺麗で。

 

どうして私のことを気に入ってくれているのか分からないぐらい、釣り合わないけれど。

 

 

 

「だって、私が今まで浮気したことないでしょ?」

「それはわからんのぉ……んんっ! いやいや、わからんのぉ」

 

 

 

そう言ってから出来るだけ、可能な限り優しくふわふわした頭を撫でてあげると、彼女はすぐに機嫌を取り戻すから。

不機嫌なことは言っているけれど、その尻尾が妖しくうねうねと動いては時折びくりと痙攣しているのは機嫌がいい証なのだ。

 

割と扱いやすい、そんなこと考えているのがばれたらきっと私は消されてしまうけれど。

食べることもされずに、消し炭すら残されずに、彼女が軽く指を振れば文字通り――この辺り一面を吹き飛ばせるのだろう。

 

だって、彼女の尻尾の数は

 

 

 

一本

 

二本

 

三本

 

 

 

うねうねと蠢く尻尾は機嫌も毛並みも上々で

 

 

 

四本

 

五本

 

六本

 

 

 

目を細めて笑うその表情は、幼子にしか見えないけれど

 

 

 

七本

 

八本

 

 

 

見た目に騙されてはいけない

妖怪は、決して見た目で判断してはいけない

 

 

 

九本

 

 

 

彼女の尻尾の数は、九本

狐の九尾、九尾の狐

 

ありとあらゆる妖獣の中で最高位

最強の力を持った妖

私だけしか知らない秘密

 

誰にも教えられない秘密

 

 

 

「駄目だよ、私以外の前でそれ全部出すのは」

「あいあい、あなた様の頼みは分かっておるよ」

 

 

 

私は一般人で居たかった

これまでも、これからも

 

”妖憑き”にもならずに、平凡に

 

 

 

「……せめて思うんだ、今更だけど」

「うん、なにかの。改まって」

 

 

 

小首をかしげるその仕草は可愛らしい以外の何物でもないけれど、今の私にとって彼女は疫病神以外の何物でもないのは、バレちゃいけない秘密。

どれだけ外見が可愛くて、中身が強力無比でも、ただの脇役で居たい私にとってはどうしようもない詰み要素。

 

私の机の片隅、まるで見ないように追いやったみたいな場所にポツンと置かれた手紙には大きな文字で『編入命令:編入先 國立 権禰宜(ごんねぎ)學校高等部』の文字。

そうだ、私は明日からこの学校に行かなければいけないのだ、私が後天的な”妖憑き”の素質を見出されてしまったから。

先天的な素質検査では万に一つの適合もないって言われて胸を撫でおろしていたのに、もうこれで何も心配はないと安心していた私を殴り倒したい気分で一杯だ。

 

勿論その素質が発現してしまったのは、いつのまにやら私の膝の上に載ってご機嫌の九尾様が原因で。

それでもまだ私には逃げ道があったのに、対価を適当に差し出して、彼女には何としてでも隠れてもらえば何とかやり過ごせただろうに。

なんといっても後天的な素質開花なんて前例がほとんどないから、検査すらも時折ダメ元で抜き打ちされるぐらいなのだ、典型的モブ気質の自分が引っ掛かるわけがないとタカを括っていたのに。

 

 

 

「せめてね、もうちょっと目立たない対価だったらよかったなって」

 

 

 

彼女と契約したその時から、いやになるほど読んだ一文がある。

嘘だ嘘だと、何か破棄できる方法があるはずだと思って読み返したあの文が。

 

 

 

『人間と妖の契約は、人間側が何かを供物として差し出し、妖怪側がその対価を与えることで成立する』

 

 

 

私の供物は、人間の耳

私への対価は、狐の耳

 

今もなお、私の頭の上でひょこひょこと揺れるのは彼女と同じ狐の耳

隠しきれない大きさのそれは、私が人外の存在と契約を交わしてしまった何よりの証。

 

未練たらたらな目で見る私に、なおも上機嫌に彼女は笑って、柔らかな手つきで優しく私の耳裏を撫でた。

 

 

ゾクッと、した

 

 

人間であることを、人間であったことを、忘れてしまいそうなほど。

脳天を突き抜けて背筋を甘く痺れさせ、理性も知性も丸ごとショートさせるような、そんな麻薬じみた快楽。

 

声の出せない私に身を寄せて、彼女は囁く。

その金色の瞳が、私を吸い込んで離さない、離せない。

その奥は恐怖すら感じるほどに深く、暗かった。

 

 

 

「これがあれば、誰もお主様とわっちが(つがい)であることを疑いもせんじゃろ?」

 

 

 

それが全てだ、彼女にとっては。

それ以外のなにも存在しないのだ、必要ではないのだから。

 

 

 

「……寝ようか」

「添い寝してくれたもう、わっちは寂しい」

「はいはい、存分にしてあげますよ」

 

 

 

どうしてだろうか、なにが狂ったのだろうか。

電気を消す前にちらりと見えた、開き掛けの本。

 

あの本には、私が感情的に殴り書きをしたもう一文が書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

(ようかい)は身勝手で、こちらの都合を何一つとして考えない』

 

 

 

 

 

 

今の私にとっては、これが全てだった。




筆は進まないけれどアイデアは山ほど浮かぶ
→それが半年続いてフラストレーションが溜まる
→短い文章書いてとりあえず発散しよう
→何を書くか思いつかないのでフラストレーションが溜まる
→『モブ子ちゃんとロリ巨乳ヤンデレ気質お狐さまの学園ものガチ百合……』『それだ』
→欲望のままに書く
→後先考えず投稿する ←今ここ

何かあったりしたら加筆するし浮かんだら続き書くかもかも
百合は良いよ、百合は……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。