コメント・評価・誤字脱字報告嬉しいけどこの話には設定もくそもないぞ、物語性は微塵も期待しちゃだめだぞ。
■ 妖憑きの階位
第3条 妖憑きの階位は武勲で表され、下は十二等であり上は一等である。
第4条 妖憑きの昇格、または降格は妖憑き協会理事六人によって決定される。これは最低年一回の定例全体審議、およびに有事後の臨時個別審議がある。
第5条 上記の審議には原則として理事六人のみが参加するが、事前に打ち合わせることで評価を定めておいても良いものとする。
第6条 昇格、及びに降格は個人の感情を入れず、業績のみで判断しなければならない。
第7条 上記に違反していると思われる理事は、理事会において第7項『理事の解任』5条に従って不信任を提出し、解任しなければならない。
第14条 十二等から七等までを『下六等』、六等から一等までを『上六等』と称す。
第15条 下六等間、および上六等間の昇格、及びに降格は理事3人の賛同をもって決定とする。しかし下六等から上六等への昇格、及びにその逆は理事会5人の賛同をもって決定とする。
第18条 各等の給与、及びに待遇については明確な格差がなければならない。特に下六等と上六等には明確な値を規定し、しかしながら格差は差別であってはならない。
第27条 妖憑きとして正式に配属時の階位は、卒業時の階級によって自動的に決定される。
第28条 内、上六等として認定されるのは
私は、本日をもってその
日本各地に存在する妖憑き養成學園の内中枢を担い、その壱組は多い年代でも十人程度しか在籍しないとも言われているこの国でもっとも有名な学校に。
けれども誤解をしないで欲しい、そこに入るのは私が優秀なわけでも、コハクが既に九尾だと見破られたわけではない。
特殊なのは権禰宜學園、その中でエリートのみが集められた”壱組”だけだ。
それ以外は他の妖憑き育成學園と何も変わらない、私があの學園に行くのは単純に家から近かっただけなのだ。
だから私が編入したところできっと、周りにいるのは私よりも妖との交流が長い同年代の子供たちだろうし、そんなエリートともお近づきになる機会はないはずだ。
私がこれから行くのは、”妖”という一点を覘けば何一つとして今までと変わらない学校で。
そこには今まであったことないような人々と、見たことも聞いたこともないようなものと、出来事が待っているんだろうけれど。
「……正直、転校なんてしたくないんだけどな」
そんなものに胸躍らせることができる性格じゃないのが残念だった。
私は今までの生活に満足していたし、むしろ妖憑きに縁遠い方が安穏とした生涯が送れたのだと思う。
変容を楽しむことができたのならば、新しいことに新鮮味を覚えることができたのならば、まだましなのだろうけれど。
今の私にあるのは、ただ将来に対する漫然とした不安だけで。
後悔はしたくなかったけれど、携帯のアドレスに友人の電話番号が入っているのを見ると彼女たちが開いてくれたお別れ会のことを思い出して、未だに泣きそうになる。
相変わらず名前は覚えていなかったし、私のことを見間違うこともあったけれど、彼女たちは間違いなく私の友達だったから。
……あれ、でも彼女たちって私の名前覚えてないならアドレスになんて名前で登録していたんだろうか。
きっと「あの子」とか「おかっぱ」とか適当な名前を入れていたんだと思うけれど、変な名前を付けられていなかったことを祈るほかはなくて
他にも今までの生活には大切なものがあって、未練は未だにタラタラだけど。
それでもやらなければならないことがある、妖憑きとして認められてしまった以上は通わなければならないのだ。
なぜなら、ここで私がその命令を無視する方が色々と”普通じゃない”事が――例えばお父さんやお母さんから怒られたり、兄貴や姉貴から心配されたり。
もしかすると逮捕されちゃうかもしれないし、何か面倒ごとに巻き込まれるかもしれない。
「それは普通じゃないよね、普通じゃない」
妖憑きになるのは非日常ではあるけれど、そんな運命を持っていた者にとってすれば日常で、普通のことで。
一般人が通るレールからは少し外れてしまったけれど、私はまだ妖憑きとしては普通の道から外れてはいないから。
これ以上外れてしまうと、今度は”普通じゃない者”としての”普通”のレールを通るハメになってしまうから。
だから、これからはここが私の普通なんだ。
世間一般から見たら少しだけ特殊だけど、その世界から見たら私はただの一般人。
それでいい、それがいい。
「だからコハク、言った通り五尾以上にはならないでね?」
「承知しておるよ、わっちの格を落とすのは矜持に反するが――お主様の命令とあらば、むしろ悦楽ですらあるっ!」
満天の星のようなきらきらとした目をするコハクはさておいて、五尾というのは私なりに考えた結果だった。
平凡というのは最低限ではない、入学して早々落ち零れ認定されるのはまっぴらごめんだ。
目指すのは中の上クラス、目立たない中で一番上のランク、つまりは七等か八等が私の狙いだった。
だから私のステータスはともかくとして、コハクのステータスは最上級から平均レベルまで落としてもらわなければならなかった。
彼女には申し訳ないけれど、私にとって『妖憑きのトップとして目立ちまくり多忙を極める日々』か『それなりの中堅で余裕のある生活』だったら後者の方に天秤が傾く。
もしも彼女の妖力に抑えが利かないのであれば諦めるほかはなかったけれど、彼女曰く『強者は敢えて力を隠すこともできなければならぬ』だそうで。
あんまり低すぎる二尾とか三尾は無理だけど、五尾ぐらいであれば多少無理をすればできるらしい。
……五尾は中堅どころとしては平均より上々な部類の筈なんだけど、九尾の規格外さが嫌というほどわかってしまう。
無理をさせていることは申し訳ないし、心苦しいものはあるけれど。
それでもやっぱり、私は九尾の眷属として世間に出られる胆力はないから。
そして、家族にも。
リビングに繋がる扉を開く
見慣れた風景、見慣れた顔が此方を一斉に向く
食卓に着いていた厳ついけれど優しそうな男の人が、顔をあげて眼鏡越しに此方を覗いている
台所にいた、エプロンを掛けながら料理を作っている女の人が首を傾げた
眠そうな顔で食パンをかじっていた若い青年が、こちらに振り返って笑った
その後ろに立っている、この世のものとは思えないほどの美女が私に微笑んだ
「おはよー」
「おはよう、今日はちょっと遅かったんじゃないか?」
男の人が、心配気な表情で態度で時計を見つめた。
私が少しでも遅い時間に降りてくると心配してくる、この人――お父さんが時間にきっちりしすぎているからなんだろう。
ちなみに職業は警察官でも教師でもなく、ごく普通のサラリーマンでもうじき定年退職を迎えるみたい。
「おはよう、今日から編入でしょう? この調子で大丈夫なの?」
「あはは……今日は特別だから、ねっ?」
「もう、私は起こさないからね?」
困ったように、けれども同じく心配そうに聞いてくるエプロン姿の女性はお母さんの
まさか、ドアを開けた時から恭しい態度で私の後ろにくっついているコハクに襲われていたからこんな時間になったなんて。
家族の前では打って変わって
まあ、二人きりの時を見せたらきっと私から引き剥がそうとしてくるから、バレないのは良い事だと思う。
「おっす、そういや今日から編入だったっけ……兄ちゃん忘れてた、編入祝いって入った後でも有効?」
「いいよそんなこと、兄貴は忙しいんだから家に居るときぐらい余計なこと考えないでゆっくりすればいいのに」
「俺にとっちゃ可愛い可愛い妹なんだけどなぁ、余計な事じゃないんだけど」
「清玄、妹御は貴方の身を案じているのです。その気遣いを無碍にしないように……ああ忘れていた、おはようございます」
「へーへー、分かりましたよぅ」
「うん、おはよう。兄貴のことしっかり支えてね」
「承知しています、貴方にも任された分しっかりとお支えいたしますよ」
気だるげに、割と疲れた表情でもそもそパンを齧っているのは私の兄貴である
こんなナリでも……いや、兄貴は妖憑きの中でもトップクラスのエースだ、ヒーローとも英雄とも呼ばれている。
そのせいで日本各地を回らされたり、他じゃ太刀打ちできない強敵と戦わされたり、本職とは関係のない政治の世界に足を踏み込んでたり、色々と大変な状況みたい。
彼が居るから私は特別ってことの大変さを知って、平穏な生活にあこがれた。
でも、私が妖憑きになったからこれからは大先輩ってことになるのだろうか、なんだか複雑だ。
兄貴がいつかぶっ倒れちゃわないか心配だけど、オフの時と比べてオンの時は凄いので平気なんだろう。
そして、本当に危ない時は兄貴の相棒が何とかしてくれる――多分、私は頼んだだけだけど。
それが兄貴の妖であるアシュラだ、額に目があって六本の腕があるけれど、妖怪にはもっと奇怪な格好をしているのがわんさか居るから気にならない。
人間の美的意識からは少しばかり外れている筈なのに、彼女の容姿は綺麗だった。
凛々しいというのかな、兄貴にはいつでも厳しいけれど時折見せる慈愛の表情は私ですらくらくらすることが―――――
「
まるで、冷水のような声がした
頭から氷水をぶっかけられたかのような悪寒が背筋を伝う
「はいなんでしょう」
「呼んでみただけであるぞ」
「はい」
嘘だ、絶対嘘だ
一瞬だけ振り返ったけど目が笑ってなかった
口元だけ笑いながら、目は完全に据わっていた
「主様?」
ぽふり、と
一歩、たった一歩、彼女が此方に近づいただけ
いつもと同じように、私のことを呼んだだけ
けれども、それだけで私の頭の中は真っ白になって
ぽふり、ぽふり
フローリングの床を叩く柔らかい素足の音
それが私を通り過ぎた時、床に崩れ落ちないようにするのが精いっぱいだった
(殺されるかと思った)
ありえない、彼女に限ってそんなことをするわけがない。
けれどもあの瞬間、私の横を通り過ぎた時に聞こえたのだ。
ぽそりと、微かだけどはっきりと、私の耳だけに。
『他の
恐ろしく冷たくて、鋭利な刃物のような声が。
それを背後からそっと、ごく自然に突き立てられていることに気づいた時のような、死の匂いがした。
ごとり、ごとっ
動けない私の耳は、椅子が二つ分動くような音を聞く。
「主様ぁ、早く食べんとおかあ様が作ってくれた食事が覚めてしまうぞ?」
「あ、うん……ごめんごめん」
絶対零度の空気を感じさせたのはあの一瞬だけ、もう平常に戻っていて。
私を呼ぶ声ははどこか幼いような、庇護欲を掻きたてるような舌っ足らずな声で。
慌ててコハクが引いてくれた椅子に座れば、食卓の雰囲気が弛緩するのを感じた。
「コハクちゃんはその位置が好きなのねぇ」
「うむ! あるじ様の隣がわっちの席なのじゃ、ここはおかあ様であろうとおとう様であろうとも譲れんぞ」
「ほほぉ、じゃあ明日は私がその席に座っていようかな」
「そ、それは困る! しかしおとう様をどかすわけにはいかぬ……」
「おいおい親父、大人げないぞそれは」
「あなた、あんまりコハクちゃんを虐めちゃだめよ?」
「冗談だよ、そこは君の特等席だからな」
「うむ! そうであろう、主様?」
「へっ? ああ……そうだね」
私の家族がコハクに向ける目は、まだ年端も行かない
確かに『おとうさま』だの『おかあさま』だの言われたら、両親にとっても満更でもないのだろう。
兄貴も『あにうえさま』と言われて、まるで妹がもう一人居るみたいだなと照れていたし。
ただ、私には
彼女がどういう意味で言葉を発しているのかが、はっきりと分かってしまうから。
「
「うんうん、こいつのことは任せたぞ」
「お父さんったら、きっとこの子の彼氏がそんなことを言ったらそんなこと言わない癖に」
「当り前だろう、コハクはそんな心配がないからな」
「こいつを頼んだぞ、我が妹ながら割と抜けてるところがあるからさ」
「……くふっ、くふふ。うむ、うむ! 主殿、しっかりと
「何でしょう、公認って」
パンを齧っても、あまり味がしなくて。
やっとこさバターを塗り忘れたことに気が付いたのは、食事が終わった後だった。
二人きりの時→
それ以外→
ちなみに姉貴も居るけれど出てこなかった