お狐様とモブ子さん   作:カレータルト

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コハクちゃんは素足、汚れる時は汚れて汚れないときは塵一つ付かない、ご都合主義とでもなんとでも言うと良い!
服装は常時巫女服を基調にして装飾を付けたような服装、ひらひら

挿絵なぞなくとも想像で補えるのだ、補えないならガッツでなんとかしよう


幻影の六話目

■  違法契約者

 

 

 

妖憑きの育成施設は法令により、一地方につき最低一施設は作られるようになっている。

だがしかし、現在においてその総数はたったの5ヵ所であり、普及が依然として進んでいないのが目下の問題となっている。

それは我が国における最重要の課題であり、その進捗状況の遅さはしばしば国会でも取りざたされるのを聞いたことがあるだろう。

 

しかしながら、”妖憑き”の教育および育成にどのような問題が発生しているのか知らない者は多いのではないだろうか。

問題は発生しているが、それがどのようなもので、更にはなぜ発生しているのか――これを知れば、依然としてこの問題が遅々として進んでいない理由が多少なりとも理解できるだろうと思う。

 

まず第一にあげられる問題が、人材の不足である。

妖憑きというのはその重要性と比例するように多忙を極め、なおかつ常に死の危険と隣り合わせの戦場が職場である。

当然ながら肉体的、及びに精神的に丈夫な人間でなければ妖憑きになることは認められず、しかしながらその条件を満たす者は積極的に登用しなければならない。

 

そこで6歳、12歳、18歳に達した者はテストを実施され。既定の、とはいってもその基準は高く設定されているのだが、それを越えた者に妖憑きになることを打診するのだ。

この年齢はそれぞれ意味があるが、大抵の場合12歳か18歳で妖憑きのレールへと切り替える。

6歳が打診されるのは『妖への稀有な親和性を認められた者』……つまりは天賦の才を持った者に限られ、特殊な教育コースを受けることとなる。

 

この打診は義務ではなく、あくまでも国からの強い推薦であるがこれを拒否する者はごく少数である。

如何に危険な職業であったとしても、妖憑きとは我が国において最も名誉ある職務であり、汚い話をすれば将来は約束されているからだ。

 

唯一の例外は「何らかの理由で編入が命ぜられた場合」と条文に記されている。

何らかの理由と書けば曖昧であるが、詳細に書くと「何らかの理由で妖と契約してしまった者」となる。

 

数は少ないが毎年数人は事故、あるいは故意に妖と契約する事件がある。

大抵の場合失敗に終わる、無論それを行ったものは死んでいなければ例え子供であろうとも厳罰を免れないが、稀に契約を成功させてしまう場合があるのだ。

 

その場合、契約が確認され次第その者の玄関扉を妖憑きの精鋭で構成された特務警察が叩くことになるだろう。

契約を行った者は即座に拘束された後に事情聴取を受けることとなる、場合によっては本庁まで連行されてからということもあり得る。

なぜならば、たとえ契約を成功させたとしてもその者は紛れもない犯罪者であり、その処遇は最悪の場合その場で銃殺刑とされているからだ。

 

妖とはなんたるか、人とは何たるか、それを知らぬ者がみだりに召喚して妖怪を退治しても、それは何の功績にもならない。

それ故に妖憑きと認められたもの以外が召喚してはならぬのだ。

 

しかしながら、召喚に成功した者――となると多少話は異なる。

前述のとおり我が国では必要不可欠な妖憑きが圧倒的に不足しているのだから。

 

違法召喚者には「無条件で妖憑きとなるか、それとも確実に妖を送還するために死ぬか」の交渉をする余地が与えられるのだ。

無論今までに後者を選んだ者は居ない、前者を選んだ者は妖憑きの養成學校に編入者として入学することを義務付けられることになる。

 

正規の入学者と違い、あくまでも首輪付きの立場になるが―――――

 

 

 

 

 

 

――――――徳根書房『七日で解ける、妖憑き資格~解説付き~』 回答集 第75頁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな本を読んでいたから、校舎に入った私の気持ちは若干以上に重くなっていた。

この世界のどこに、貴方はこれからある程度の差別をされながら生きていかなければなりませんなんて言われて気分が軽くなる奴がいるのだろうか。

そんな奇特すぎる精神を持っているのなんて普通じゃない、私の夕食を賭けても良い。

 

ちなみにその本を読んだのは、断じて私が妖憑きに憧れていたからではないとくぎを刺しておくことにしよう。

あくまでも兄貴と姉貴が身を置いている世界がどんなものか気になっただけで、それが後々私の役に立つだなんて思ってすらいなかったのだ。

当然ながらその当時の私は、まさか自分が『違法召喚者』として玄関をノックされることになるだなんて思っても居なかったのだが。

 

確かに世の中の風潮としては「無許可で召喚を行うなんて無謀で、しかも愚か者のやることだ」の一色だし、私もそう思っていた。

テレビで時折流れる集団召喚に失敗して半分が死亡、もう半分が重症なんて報道を見て、テレビの人たちがみんな辛辣なコメントをしているのを聞いても何一つとして疑問を持たなかったのだ。

なんでそんな危険を冒してまで、興味本位でなんて言い訳が通用しない行為をするのだろうか。

 

 

普通じゃない――そう思っていたし、今もまだそう思っている。

なぜなら、私は召喚行為を行っていない(法律は破っていない)のだから。

 

 

召喚はしていない、けれど妖憑きとなっていた。

そんな言い訳や言い逃れにしか聞こえない意見が通ったのは、私の兄貴と姉貴が尽力してくれたからだろう。

 

確かにその後、私の事情聴取を行った結果「今回の契約では一切召喚行為は行われていない」という結論が出された。

けれども常識では考えられない『無召喚での契約』なんてことをただ話したら、恐らく取り合ってすらくれなかっただろう。

その後の私に与えられるのはただただ絶望、犯罪者として侮蔑され、戦場で酷使される日々だっただろう――今考えてもゾッとする。

 

そうならず、私の意見が然るべき場所で討議されたのは(ひとえ)に私の両親を初めとして、妖憑きとしてはこれ以上ない程有名な兄貴と姉貴が私のために体を張ってくれたからだ。

もしかすると犯罪者を匿っている、だなんて行為が彼らの評判を貶めたかもしれないし、事実としてそちらの方に天秤が傾く可能性は少なくなかった。

けれども兄貴も、姉貴も、私のためになにも躊躇わず無罪を叫んでくれた――私のために、私なんて凡俗のために、英雄がその身を投げ出してくれた。

 

正直泣きそうになったし、状況が状況だけに涙がポロポロ零れてしまったのは内緒だ。

 

強面の警邏に問い詰められ、無罪を主張してもそんな馬鹿なことがあるかで一蹴されていた――そんな絶望的な状況に居たのだ。

そこに颯爽と現れては快活に、強引に、場の流れを思うままに引き寄せるのを見ていて、身勝手ながら私は思ったのだ。

 

 

ああ、この人たちは英雄なのだと。

そして、私は間違えても英雄ではないのだと。

 

 

私は、彼らに恩を受けた。

私は、自らの運命を受け入れた。

それが私の、私にできる唯一の恩返しなのだから。

 

 

 

「ほほぉここが噂に名高い妖憑き學園、その中枢かの! 良いぞ、良いぞ!」

 

 

 

……さっきからそこらへんで嬉しそうな声を出しながらもパタパタと素足で走り回っている狐が、そこまで大ごとになった原因なのだが。

喜色満面、辺りの香りをすんすんと嗅いだり、耳をパタパタとしながらも見廻しているのはどう見ても現状に満喫間しか覚えていない様子で。

多分彼女は私がどれだけの絶望に陥ったのか、そして救われた時にどこまで希望を抱いたのか知りもしないだろう、なんだかムカついてきた。

 

そろそろ、一言ぐらいは言っておかなければならないだろうと思う。

彼女が大仰な態度をとらないぐらいには普通の態度で、やんわりと――本当ならばこんな学校に入りたくなかったんだって。

 

犯罪者扱いではないけれど、それは私があわや逮捕されかけた時の話だ。

それでもクラスメートとか周りからしてみたら『編入者=違法召喚者=犯罪者』の構図が出来上がっているのだから、上手くいくわけがない。

流石に、先生からフォローを入れてくれるとは思うけれど、そうなったらそうなったで私の所以を聞きに来る者がいるだろう。

たとえ私があまりにも平凡で忘れ去ったとしても、注目されるのは他の、私とは関係ない誰かがいい。

 

そんな文句を、言おうとしたけれど。

 

 

 

「お主様っ!」

「……なにさ」

「あとでの、わっちと一緒に探検しようぞ! お主様と一緒に色々なところが見てみたいぞ! 一緒にの!」

 

 

 

振り返ったとき、まるで蝶のようにふわりと翻る薄衣の、聞こえるはずのない微かな音が聞こえそうなほどの静寂があった。

犬歯を輝かせながらも、まるで私と共にこの学び舎を歩くのだという未来を疑う余地もないような、そんな笑みが私から彼女以外の音を消したのだろう。

 

気が付いたら、口を開くのも忘れてただただ見惚れている私が居て。

微笑みながら、こてんとを首をかしげつつ見つめてくる彼女が居て。

 

 

 

 

「うん、そうしようか」

 

 

 

 

私は凡人で、彼女は九尾の狐で。

勝つのは愚か、同じ土俵に立つことさえ烏滸がましい。

 

けれども、その約束に満面の笑みを浮かべつつも耳をひょこひょこさせる彼女を見ると。

今までの怒りだとか、そんなものが全部どうにかなってしまう気がして。

 

 

 

「敵わないなぁ」

 

 

 

思わず、呟いた。

別に反応を期待していたわけではないけれど、口から零れて。

 

 

 

「何を言っておるのかの、わっちこそ敵わん、わっちから惚れてしまったのじゃから。だからわっちはこの先一生お主様には勝てまいよ」

 

 

 

そんな事を、嬉しそうに言ってくるから。

とてもとても、甘いことのように、夢見るような顔で伝えてくるから。

 

あっそう、なんて顔を背けて言う他はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

コツリ

 

 

 

「編入者の方ですね」

 

 

 

コツリ、と。

廊下に、硬い音が響き渡る。

 

威厳を感じさせる声、歩くだけでも格の違いを感じさせる足音。

振り返れば、自然に深々と一礼をしていた。

 

 

 

「申し訳ありません、わざわざお出迎え頂きありがとうございます――理事長、でしたよね?」

「とんでもない、あなたはこれからこの學園の一員となるのですから顔を是非とも窺っておきたくて無理を言ってしまいました――ええ、自分には過ぎたものだとは思っておりますが」

 

 

 

落ち着きと渋みを感じさせる声は、見事にそれとマッチした装いの男性から発せられていた。

すらりとした紺のスーツ、首元から掛かる洒落たネクタイ、ピシッとした革靴、ありふれた服装だがその格調高さは隠せない、使うべきところに金を使っていることが一見して分かる。

初老であるがくたびれた雰囲気を微塵として感じられず、かといって年不相応に溌剌しているわけでもない、まさしく大人の男性。

彼がこの学園のトップにして、この国における妖憑きの頂点――妖憑き協会理事会の内一人、壬生鴛野(みぶ おしの)である。

 

物腰が低いが、実力で言えば日本でも五指には確実に入ると言われている実力。

なおかつ誰に対しても慇懃無礼に振る舞いつつも隙を見せないことから、最も重要施設である學園の理事長に相応しいと就任したらしい。

無論これは一般情報であり、私の知りえない裏で彼が推された理由があるのかもしれないけれど……それはまあ、私には関係のない話だろう。

 

 

 

「そして、こちらが――」

「お初にお目に掛かりまする。わっちは彼女の契約者、五尾(いつお)のコハクと申す者。これより我が主と共に妖憑きとして精進する手前、よろしくお願いする次第であります」

 

 

 

コハクを紹介しようとした時には、既に切り替わっていた。

深々とお辞儀をすれば、ふわりと笑うは先ほどの無邪気さがなりを潜めた大人びた、悪く言えば営業スマイル。

今まで見たこともない程恭しい態度に流石の理事長も驚いたらしく、表面では柔和な笑みを崩さなかったけれどその瞳がほんのわずかに開いて、すぐさまその笑みを深めた。

 

 

 

「これは、これは。コハク殿、私はこの學園の長を任されております壬生と申す者。人にそのお力を貸して頂きますこと、誠に感謝申し上げます。この學園に在籍する限りあなたの契約者は庇護を受ける者、どうぞご安心して学業に励む彼女を助けていただけるよう、重ねてお願いいたします」

 

 

 

これまた腰の低い慇懃無礼な態度、私も努力したつもりけどやっぱり凡人は不慣れな敬語を使うべきではないのかもしれない。

私はコハクのこういった態度は初めて見たけれど、本当にコロコロと状況によって態度を変えるのが上手い、上手過ぎて私がついていけてなかった。

 

しかしながら、このやり取りで理事長の好感度は随分と稼げたらしい。

コハクと見合う彼のニコニコとした笑みは崩さないままだけど、確かにこの場の雰囲気が緩和するのを感じた。

 

 

 

「しかし、私は貴方の顔を見に来ただけなのですよ。特異なる『後天的契約者』――実に興味深い」

「それ以外に特別な事なんてありませんよ。契約した状況が特殊だっただけです」

「いえいえ、しかし前例のないことで無視はできないのです。もし機会があれば協力していただくこともあるかもしれません、ご容赦をば」

 

 

 

此方のことをじっと見つめてくる薄い黒の瞳からは逃れたかったけれど、視線を逸らすわけにはいかず。

そしてコハクには勘弁してほしい、私が理事長と見つめあっているのは必要に迫られてのことであるのは知っている筈。

知っている筈なのに、見つめあっている私の太腿を陰から掴むコハクの手が段々と握りしめられてきて、痛みは感じないのに汗が額を垂れる。

 

待ってよコハク、ちょっと待って、そういう見つめ合いもダメなのかな。

寧ろセーフなのはどこからなのか教えてほしいんだけど、ダメなのかな。

 

 

 

コツ、コツ、コツと

今度は急ぎ足を含んだ足音が鳴って、彼はおやと後ろを振り返った。

瞬間、握りしめられていた力が解放されて――ほうと、息をつくけれど。

 

じんわりと痛むその部分に、そっと小さな手が這わされて。

なでり、なでなで

 

 

 

「ひぅんっ!?」

「どうかしましたか?」

「なんでもありませんっ!」

「そうですか――それより教官来たようですよ。彼女も忙しいので今日一日限りにはなりますが……私よりかは気楽に話せる人でしょう?」

 

 

 

その笑みで、私は誰が来たのか分かってしまった。

確かに気楽ではあるけれど――少し気が重い。

 

それよりコハク、いい加減に私の太腿を撫でまわすのはやめてほしいんだけど。

妙に色っぽいというか手馴れていて、しかも後ろから「はーっ❤ はーっ❤」なんて呼吸が聞こえてくるんだけど。

さっきあいさつしたばっかりの理事長の前でそれって、何かのプレイなのかな、私にはよくわからないんだけど妙な性癖を開放しようとするのはやめてほしいなって。

 

私の耳が、妙な方向にみょいんみょいんと動くのを見られなくてよかった。

後ろからの舐めるような視線は感じるけれど、理事長と――私の担当教官に見られなければいいのだ、それも計算してやっているんだろうし。

でも計算づくでセクハラはやめてほしいなって、この状況でそんなこと言えるはずがないけど。

 

 

 

「すみませんね、無理を言ってしまって」

「いえ、しかし理事長自らとは――多忙の中で申し訳ない」

「是非とも一度顔を見ておきたくて、それでは失礼します」

 

 

 

コツ、コツと立ち去る音がして。

振り返ったときには、もう彼の後姿は小さくなっていた。

 

 

 

「さて、と。なんと言ったらいいか」

 

 

 

後ろから聞こえるのは落ち着いた、けれどもその内側から湧き上がる喜色を抑えきれない声。

私が彼女に”妖憑き”として対面するのは初めてで、だからこそ気が少し重かった。

 

 

 

「色々あるみたいだけどさ、とりあえずは」

「ああ、まずは言う事があるな」

 

 

 

当然嬉しいけど、なんだかむず痒くて。

この人が嬉しそうな顔をすると、妖憑きになってよかったなって思ってしまうから。

 

 

 

「久しぶりだね、姉さん」

「よくぞこの學園に来た、我が妹よ」

 

 

 

すらりと肩まで伸びた黒髪は美しい光沢を放っていて、三十路を越したがその美貌はまだまだ現役と断言できる。

長身でスレンダーな体形だけど出るところは出て、昔から羨ましかったし今だって別の意味で羨ましい。

 

結構前に結婚して我が家を出たし多忙なので、こうして直接会うのは三年ぶりぐらいになるのかもしれない。

それでも変わらない姿にほっとして、立派な態度が少し誇らしかった。

 

 

 

 

権禰宜學園高等部 弐年壱組教官、篤季(あつき)

そして彼女は、私の姉貴でもあるのだ。




ちなみにエロ狐は何食わぬ顔でずっと尻を撫でまわしていた
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