お狐様とモブ子さん   作:カレータルト

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※中途半端なところで登校していたので加筆して投稿しなおしました

モブ子ちゃんが鈍いのではない
どこかの狐のせいで彼女のレズ感知センサーがぶっ壊れているのだ


進撃の八話目

■   学園構成

 

 

 

妖憑きの養成學園は初等部、中等部、高等部に分類される。

初等部は権禰宜學園にしか存在せず、また18歳にて妖憑きとなった者が通う『学院』も存在するが、後者は養成學園とは管轄が多少違うので割愛する。

 

初等部はその数こそ少ないものの、当然ながら国の中枢を担うかもしれない戦力が育つエリート育成機関である。

その教育は多岐に渡り、座学では国語算数等の一般常識を学び、併せて妖怪、妖、そして自らの力を伸ばす教育が施される。

そのレールは他の妖憑きとかは完全に分かれているが、彼らが中等部に入る年齢となれば大概がその學園において最も実力が高いものが集まる壱組に配属されることになる。

これは自ら以外の実力者と切磋琢磨すること、及びに他者とのコミュニケーション能力を養うこと等が目的にあげられる。

 

初等部に入学する者は、幼少期から強大な力を持っている者が多い。

親から迫害を受ける者も居る、友達すらもできない者も居る、そういった者を保護し、精神的に安定して能力を制御できるようにさせるために初等部があると言っても良い。

当然ながら初等部でも教師や同様な能力者同士のコミュニケーションは存在するものの、やはり最も効果的なのは同じレベルの同年代と会話させること。

そこで彼らのレールの全てを他者から切り離すのではなく、中等部と高等部で交わらせることにする――それが国の指針となっている。

 

中等部と高等部は一般的な学校と同様であり、権禰宜學園を例にとると壱組から伍組までが存在する。

それぞれ三年と三年、計六年を妖憑きとして勉学に費やし、卒業次第それぞれの、適性によって異なる部署に配属されることになる。

 

基礎的な勉強、妖憑きとしての心構えや常識、体力作り等その内容は充実しており、決して楽ではない。

けれども、そもそも入学をしていた時点で素質を認められているので編入者以外は楽に通過できる場合がほとんどである。

 

 

 

――――――――妖憑き協会パンフレット 5頁 『學園構成』

 

 

 

 

 

 

 

 

多分、彼女は高等部の生徒なのだろう。

コハクが姉貴に連れられて行ってしまってから改めて彼女の容姿を見ると、その身長差に対してそうとしか説明がつかなかった。

 

 

 

「へぇ、篤季教官の妹御なんだね。年が離れてるからわからなかったよ」

「よく言われる。お父さんが50近い時に生まれたのかな」

 

 

 

二人の背中が見えなくなってから、友ちゃんと名乗った彼女は私に話しかけてくる。

多分コハクになにかヤバいものを感じたのかもしれないけれど、そうだとしたら私は彼女の直感を褒めたたえたい気分だ。

なぜならば、コハクはなにがなんでも牙を隠し、獰猛な獣であることを微塵も悟らせないのが非常に上手いのだ。

対外的には私を主と呼び慕う幼気な幼女に過ぎず、幼いにしては五尾なんて大層なものを持っているけれどそこまで頭は良くない――こんな者に脅威を感じろというのは割と無理な話だと思う。

 

友ちゃんがその外見に騙されて、初対面の私に親し気な態度をしたらコハクがどう反応するか、いやなほどわかってしまう。

ただし問題なのは、”その場において”彼女は何もしないということなのだ。

……私が夜眠れなくなるか、鮮血を見て眠れなくなるか、どちらかと言うなら前者の方が圧倒的に良いので我慢しよう。

 

 

 

 

「でも、驚いちゃった――教官って呼ばれるのを見るまで、姉貴が先生やってるってピンと来なくて」

「逆に私としては、姉である教官にピンと来ないよ。家でも怖かったのかい?」

「分かんない、私が小さい時に結婚しちゃってたから」

 

 

 

 

結局、彼女は名前を話すことがなかった。

あだ名を言うのにも本名が必要だと思うんだけど、きっと友子とか友恵とかそんな名前なのだと思う。

言わなかったということは話したくない何かがあるということなのだろう、それについて深く突っ込める度胸を私は持ち合わせていなかった。

 

彼女が話したいと思えば話すだろうし、無理に聞く必要はない。

それに、こんな美少女の情報なんて学校で聞けばいくらでも飛び交っているだろうから、必要になったらそれとなく彼女以外の誰かに聞いておけばいいのだ。

 

私が普通の学校に居た時もそんな風潮があった、美少女にはファンクラブなんてものがあって、どこから仕入れてきたかわからないガセネタがまことしやかに囁かれたものだ。

學校には少なくとも、クラスに5人はそんな美少女が居たと思う――流石に、目の前にいる彼女ほどの美少女は居なかったけれど。

中高一貫だったので当然その幅は広く、中等部の生徒が高等部のファンクラブに入っているのなんて日常茶飯事。

当然ファンクラブはその数ほどあって、一人の少女に二つも三つもそんな団体があったりして、それが水面下で協力したり意見の違いで分裂したりと混沌(こんとん)を形成していた。

 

言っておくが私の学校が美少女の巣窟として有名なわけではない、ごく普通の学校だ。

昔は美醜がはっきりと分かれていたけれど、どういったわけだかある時よりこの国では美形が目立つようになったらしい。

美形か普通か――私にとってはありがたい話ではある、前者の方に注目が行くのでこの顔でも注目されない。

特別に醜かったらやっぱり嫌だと思う、かといって美しくなりたいわけでもないのだから、この特徴無い顔が一番良い。

 

ちなみに本当に美形しかいない学校と言うのはある、テレビで見たけれど顔面のエリートが多かった――偏差値も高い、どうにも神というものは二物を与えるようになったらしい。

私は行ったことがないけれど……きっとそんな場所にまぎこんでしまったら眩暈がしてしまうだろう。

 

ただ、思い出してみても彼女ほどの”正当派美少女”と呼べる者が居たかは定かではない、居なかったかもしれない。

 

 

 

「どうしたのかな」

「へっ?」

 

 

 

気づいたらじっと見つめていた、彼女の顔には他人の視線をくぎ付けにする魔力があるらしい。

それが本人の望まざる美貌であったとしても、少しばかり羨ましくなってしまった。

いっそ彼女ぐらいの美しさを持っていたのだとしたら、私の人生や価値観は少しだけ変わったのかな、なんて思ってしまえるぐらいには。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、顔に掛かる風を感じた

 

それは風と言うにはあまりにも微弱で、注意しなければ分からないぐらい。

目の前に影ができて、誰かの視線を感じて、思わず息を呑む

意識がぼうっと霞掛かったようになれば、視界に何が映っているのかが分からなくなるから。

 

唇に当たる風には気が付いたけれど、それが彼女の吐息であることに気づくのはだいぶ時間が掛かった。

誰かの視線と言うのが、目の前にいた美少女が私の瞳をじっと見ていることだと気づくのには、さらに時間が掛かった。

 

 

 

「わ、わっ」

 

 

 

出せたのはそんな間抜けな声、反射で仰け反ることすらもできなかった。。

あまりにも慌てた時、あまりにも衝撃的な経験をしたとき、人は思考ができなくなるのだと私は何度か経験したことがる。

意識が真っ白になって、ぼうっとして、暫く経ってから自分が茫然自失の状態にあると気づくのだ。

 

問題なのは今のそれが、彼女に至近距離で見られた”だけ”で発生したということで。

私よりも身長が高い彼女が膝を折って、私の目線に合わせて、ただ至近距離で見られただけで前後不覚に陥ったということで。

 

どれだけの美少女なのか、どうやら彼女は私の持てる尺度では測れないぐらいの美少女らしい。

世界の広さに、改めて嘆息した。

息が彼女の前髪に掛かって揺れる、彼女の目がくすぐったげにパチクリする、その僅かな所作すらも心臓を鳴らして。

 

 

 

「あの、近いと思うんだけどな」

 

 

 

あまりにも近すぎる距離、セミの鳴き声も聞こえない。

けれども彼女は本当に嬉しそうに、邪心の感じられない笑みを浮かべて、目を開いた。

黒くて艶やかな瞳、ゼリーにしたら冷たくて、つるんと心地のいい感触を残して喉を通り抜けそう。

 

 

 

「君は、私を見ていた。そうでしょう?」

「そうだね」

「君は、私を良く見たかった。そうでしょう?」

「そう、だよ」

「君は、私に興味を持った。そうでしょう?」

「……そうかも」

「君は、私と近づきたいと思った。そうじゃないかな?」

「う、うん」

「君は、私に近づけたらいいなと思った。そうでしょ」

「うん」

 

 

 

「だから私がこうして君を見つめる、不思議な事じゃないよね?」

「……うん」

 

 

 

コクコクと、頷くことしかできなかった。

馬鹿みたいに同じことを繰り返す事しかできなくて。

 

 

 

「見せてあげる、私の顔」

 

 

 

より近づけば、吐息の温度や湿度も感じられるぐらい。

私の視界が、世界が、彼女にからめとられていくみたいで。

 

 

ドクン

 

 

ドクン

 

 

ドクン

 

 

ドクッ

 

 

その唇に、キスされてしまうんじゃないかと思ってしまって。

不意打ちに破裂してしまいそうな鼓動、頭がくらくらする。

 

ありえないのに、彼女はただ近くにいるだけなのに。

どれだけ自意識過剰なんだって、少し自己嫌悪に陥った。

 

これでコハクが居たら、多分この場が血の海になったんじゃないかなとは思う。

けれども彼女は姉貴と共にどこかに行ってしまったのでそんなことにならずに済んだのだ。

 

良かった、こんな美少女が血まみれになるのは見たくない。

 

 

 

「うん、十分見た、見たから」

「そうかな、満足した?」

「満足したよ、お腹いっぱいだから」

 

 

 

彼女は、ただこちらを見ている

怒るでもなく、無表情でもなく

ただ時折目を細めて、笑っていた。

 

けれどもそれで満足してくれたみたいで、スッと彼女の顔が上に持ち上がる――勿論、私より彼女の方が頭半個分身長が短いからだけど。

そうすれば私の目が行くのは、どこかコハクを思わせる成長した女性の膨らみで、細いけれど出るところはばっちり出ていて。

 

私も高等部に入るぐらいになれば、あれぐらい成長できるんだろうかって思ってしまう。

私の成長は人並み、それ以上でもそれ以下でもなく、だからあと二年で年相応の容姿にはなる筈だけど。

どうしたって彼女ぐらい成長する自分が想像すらできずに、溜息を吐いた。

 

 

 

 

手を差し伸べられる

白くて細い、綺麗な手先。

 

彼女が、私に掌を見せていた。

 

 

 

「行こうよ、案内を任されてしまったから、役目を果たさないと怒られちゃう」

 

 

 

その口調は、まるでそんなことを気にもしていないみたいに軽いもので。

そういえば私は、彼女の笑顔はよく知っているけれど笑い声は聞いたことがなかった。

 

そして、未だにその伸ばされた手をどうすればいいのかわからなかった。

 

 

 

「えっと、これって」

「迷子にならないように繋ぐの、ほら」

 

 

 

右を見ても、左を見ても、廊下には私達しか居なかった。

そうでなくても綺麗で広いから見失う心配はないと思うけれど。

 

 

 

「もしかしたら迷ってしまうかもしれない、その可能性はゼロじゃないよね」

「それは、そうかもしれない」

「そうしたら怒られるのは私だ、あの篤季教官の恐ろしさは妹の君が知っている筈だよね」

「……まあ、確かに」

「だから私は君を迷子にはさせたくない、私だって彼女に怒られたくはない」

「そりゃ、そうだね」

「だから君が離れないように手を繋ぐ、これは必要に基づいた行為だ。君と、私が、リスクを負わないための行動だ、分かるでしょ?」

 

 

 

正直に言うと、よく分からなかった。

でも、彼女がそういうならつながなければいけない気がして――私はその手を取る。

握り返されたその手は柔らかくて、頬が熱くなった。

 

 

 

 

「どこから行きたいとか、あるかな」

「何があるかもわからないから、お任せでお願いしちゃう」

「分かった。じゃあ私の好きなように、好きな場所に行こう、だいぶ時間はあるから色々回れるよ」

 

 

 

権禰宜學園、ここには何があるのか。

私の錆び付いた冒険心が、軋みをあげて(まなこ)を開く音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、そう言えば――その耳、君の対価なの?」

「ふひゃぁんっ!?」

 

 

 

不意打ちだった、振り返った彼女の手が私の頭上にある狐耳にほんの少し掠める。

あまりにも唐突過ぎて、やってきた背筋を這うような感触に耐えきれず、私は思わず手を離し抱き着いた。

 

誰に?

彼女に

 

華奢な体の筈なのに、私が飛びついても彼女は身じろぎ一つせずに受け止めてくれた。

柔らかくて、ふかふかしていて、ぽかぽかしていて。

思わず表情が綻ぶけれど、目をあげれば少し驚いたような、友ちゃんの顔で。

 

さぁっと、顔から血が引いていく音が聞こえた気がした。

 

 

 

「ご、ごめん」

「……耳、感覚繋がってるんだ」

「うん、急に触られると吃驚しちゃうからやめてね?」

「ふぅん、ほぉ……弱いんだね」

 

 

 

顎に手を当てて考え込む友ちゃんは、ちらりと私のピコピコ動く耳を見ている気がする。

なんだか、知られたくないことを知られてしまったような、猛烈に嫌な予感がした。




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