GIRLS und FIGHTER   作:ヤニ

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第4話 「親睦会、やります!」

 みほの自宅で、食事会を開こう。そう提案をしたのは、他ならぬみほ本人だった。いくら仲が良いとは言え、あんこうチームは言ってしまえば『寄せ集め』だ。せめて少しでも交友を深め、試合時の連携を強めようと言う事である。麻子だけは「帰って眠りたい」と駄々をこねていたが、沙織の説得により強制的に参加することになった。

 

 独り暮らしのみほの部屋に、5人分の食料などあるはずも無い。という訳で、5人は学園艦内にある商店街へ、食材の買い出しへ赴いていた。橙色の夕日が照らす商店街は、何故かみほのノスタルジーを刺激した。艦内では既に戦闘機道が復活した事が知れ渡っているのか、彼方此方に戦闘機の装飾が見て取れる。

 

 「西住殿、武部殿、五十鈴殿、冷泉殿。少し寄りたい所があるのですが……」

 

スーパーへ入ろうとした所で、優花里が両指を突き合せながらそう口を開いた。――断る理由は無い。放課後に寄り道をするという行為は、全国の女子高生の『恒例行事』とも呼べるだろう。誰一人として、彼女の提案に反対はしなかった。そうして優花里が訪れたのは、小さな戦闘機ショップだった。嘗て大洗女子学園が戦闘機道でそれなりの活躍をしていた時から、ずっと経営しているらしい。店舗に並ぶマニアックな戦闘機グッズに、優花里は目をきらきらと輝かせた。やはり彼女は、戦闘機の事となると性格が変わってしまうらしい。

 

 店内にはプラモデルは勿論の事、両翼の形をしたテーブルや薬莢、操縦桿にゴーグル、飛行服まで売られていた。優花里は迷わずに商品の棚を避けて、店の端にある筐体に目を向けた。その一角は戦闘機のコックピットが精工に再現されていて、モニターには稚拙ながらも、ドットで大空が描かれていた。優花里は自らのスクールバッグを開くと、その中から自分のゴーグルを取り出し、コックピットに腰を下ろした。

 

「えっと……飛来物は無いと思うけど」

 

「何を言いますか、西住殿!戦闘機乗りとして、コックピットに座る時はそれなりの格好をしなければなりません!」

 

ビシリと敬礼して見せる優花里だが、背景故かあまり格好良くは見えなかった。しかし彼女は既に歴代のエースパイロットになったつもりなのか、モニターに映るドットの戦闘機を次々撃ち落としていく。その姿に、みほもいつの間にか酔い痴れていた。

 

 スコアが表示されてゲームが終了すると、優花里がゴーグルを外し、コックピットから立ち上がった。その席にすかさず華が腰を下ろす。こういった類のゲームを好むとは思えなかった彼女に、誰もが驚愕の声を上げた。

 

「少しでも、操縦に慣れようと思いまして……」

 

「飛んでる内に慣れると思うけど……。それに、操縦に関しては華さんは完璧だと思うよ」

 

幾ら操縦技術が上がった所で、三半規管が丈夫になるわけでは無い。そこは慣れて行くしか無いのだ。しかし華はコインを投入すると、自らのゴーグルを装着し、真剣な顔でモニターと向き合っていた。

 

「そう言えば、麻子の機体はどうするの?」

 

華の座るコックピットの背もたれに肘をつきながら、沙織がそう尋ねて来た。確かに、あんこうチームにある機体は4機で、その全てが1人乗りだ。

 

「やっぱり、学園艦の中を探すしか無いかな」

 

「それなら、明日探しに行きましょう!」

 

明日は日曜日。ほぼ丸一日を戦闘機の探索に使えるのだ。しかし、夕方からはフラッグ戦の演習も控えている。仮に戦闘機を見つけたとしても、夕方までに整備を終える事は不可能に近い。

 

「私なら、ぶっつけ本番でも大丈夫だ」

 

眠たげな瞳のまま、麻子がそう言ってのける。かなり慢心に満ちた発言だが、不思議と麻子なら本当に大丈夫な気がしてしまう。

 

「麻子もこう言ってるんだしさ。午前中に集まって、戦闘機を探しに行くのも良いんじゃ無いかな」

 

「せめて昼過ぎにしてくれ!」

 

沙織の発言に、麻子が悲鳴を上げた。朝が苦手なのだろうか。

 

「冷泉さんは、朝起きれないの?」

 

「ほら、言ったでしょ? 麻子、遅刻のし過ぎで単位が……」

 

そう言えば、沙織が麻子を説得する際、そんな事を言っていた様な気がする。しかし、大会が始まれば早起きは日常茶飯事だ。試合の会場はクジ引きで決められる為、遠い場所での試合となればそれなりの時間も必要になってしまうからだ。

 

「それなら、私が起こしに行きましょう」

 

優花里が、どんと胸を叩いて宣言する。

 

「起床ラッパの練習が陽の目を見る機会がやっと訪れました!」

 

「やめてくれ……」

 

麻子はそう言っているが、優花里は本当にやってのけるだろう。

 

「……やりました!」

 

華が声を上げる。モニターに目を向けると、ハイスコア更新の画面が表示されている。つまり彼女は、この店内での最高記録を叩き出したのだ。

 

「五十鈴殿!どうかご教授を……!」

 

「ご教授と言われましても……集中して、冷静に撃っただけなのですが」

 

「それが難しいんですよ!」

 

「それなら、華道をやってみてはいかがでしょう。落ち着きますよ」

 

華のその言葉に反応したのは、優花里だけでは無かった。みほも、部屋に花を飾ってみたかったのだ。五十鈴家は華道の名門。どうせ花を生けるのなら、それなりに様になる飾り方をしてみたいのだ。

 

「教えて頂けるんですか?」

 

「ええ。まずはハサミの素振りを一時間ほど……」

 

「……遠慮して置きます」

 

「自分も」と言い出さなくて良かった。と、みほは嘆息した。優花里が操縦桿を握ると性格が変わる様に、彼女も華道に没頭してしまうのだろう。そんな彼女達が、みほはただ羨ましかった。自分には、それほど夢中になれる事は無い。戦闘機道だって、『西住家に産まれたから』と言う理由で続けているだけだ。それでも今は、黒森峰に居た時よりも数倍、コックピットに入る事が楽しくなっていた。

 

 みほの部屋を開けると、友人達は感嘆の声を上げた。みほからして見れば普通の部屋なのだが、彼女達にとってはそうでは無いらしい。

 

「女の子らしい部屋じゃん!」

 

ソファーに置いてあるぬいぐるみを抱きしめながら沙織が言う。ただぬいぐるみが好きなだけなのだが、それだけでも十分女の子らしいのだろうか。

 

「それじゃ、作り始めようか。みほはゆっくりしてて」

 

そう言って沙織が腰をあげる。

 

「あ、悪いよ。私も手伝う」

 

「良いから良いから。その代わり、操縦のコツ、教えてもらうからね」

 

そんな沙織を見て、みほは小さな疑問を抱いた。彼女の大らかな性格。そしてその口ぶりからして、料理の腕もあるだろう。そんな彼女が何故男に飢えているのだろう。その疑問を察したのか、麻子が勉強用の椅子に座りながら口を開いた。

 

「男の前だと妙にテンパるんだ、沙織は。だからいつも男に引かれる」

 

「そこ、うるさい!」

 

聞こえていたのだろう。キッチンから沙織の叫び声が聞こえて来た。華は先程の興奮がまだ冷めていないのか、本棚にある戦闘機の雑誌へ目を通していた。優花里はと言うと鞄をあさり、その中からまるでキャンプに使用する様な飯ごうを取り出していた。

 

「いつも持ち歩いてるの、それ?」

 

「いついかなる時でも食事を取れる様に、万全の準備はしてあります」

 

それが必要になる事態は、しばらく訪れる事は無いだろう。陸ならまだしも、ここは巨大な艦の上だ。地震など、ここしばらく体感していない。

 

 楽しい時間は早く過ぎるとはよく言ったものだ。楽しい肉じゃがパーティーも、御開きにしなければならない時間になってしまっていた。帰り支度を済ませた沙織が扉を開けると、既にそこは夜の闇の中だ。

 

「それじゃ、また明日」

 

「うん。バイバイ」

 

友人達の背中が小さくなって行くごとに、一人暮らしの寂しさが重くのしかかって来る。みほはその虚しさを誤魔化す様に、扉をゆっくりと閉めた。

 

 翌日の朝8時。格納庫の前には、既に沙織と華が立っていた。

 

「ごめん。遅れちゃったかな」

 

「いやいや。待ち合わせだって、8時頃ってアバウトな時間しか決めて無かったし」

 

そう談笑していると、地を踏む足音が聞こえてきた。優花里だ。彼女は露営の歌を熱唱しながら、ずりずりと麻子を引きずっていた。流石と言うべきか、彼女は優花里の歌を耳元で聞きながらも、小さな寝息を立てていた。何はともあれ、これであんこうチームの集結である。

 

「それじゃ、戦闘機探し、始めよっか」

 

みほの宣言により、麻子の戦闘機捜索の幕は切って落とされたのだった。


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