やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
「話は聞かせてもらったわ!」
そう言って生徒会室の扉を勢いよく開けたのはなんと雪ノ下だった。どうしてこいつがここに居るんだ?
それに『話は聞かせてもらったわ』って、思いっきり盗み聞きしていたのかよ。そもそもどうして雪ノ下が一色の問題を知ったんだ?
もしかして教室に居た誰か……てか、由比ヶ浜か葉山の二人のどちらかが雪ノ下に教えた可能性があるな。
「一色いろはさん。貴女の問題は私、雪ノ下雪乃が無事に解決してあげるわ!」
「ホントですか!?ありがとうございます。雪ノ下先輩!」
一色は雪ノ下に頭を下げてお礼を言った。その時だった、雪ノ下と視線が合った時に雪ノ下が俺の事を鼻で笑っている様に見えた。
こいつは俺にケンカでも売っているのか?例え売ってきたとしても買う気は無いけどな。
「ええ。私に考えがあるわ。そこの無能谷君なんか必要はないわ。だから安心してね一色さん」
「はい!お願いしますね雪ノ下先輩」
「そう言う事だから貴方は引っ込んでいなさい引き篭り谷君」
雪ノ下はそれだけ言って生徒会室から出て行った。ホント、雪ノ下は単純だな。ある意味、小南以上に騙されるかもしれないな。
「はぁ~これで一安心ですね……それじゃ私はこれで」
「ちょっと待ってくれ一色」
「はい?何ですか?」
「このままだとお前、いじめがエスカレートするぞ」
「……はぁ?」
一色はまったく分かっていなかった。だろうと思ったよ、一色って見るからにバカっぽいからな。
「どう言う事なの?比企谷君?」
「だから一色が生徒会長にさせらたのはクラスでのいじめだろ?」
「うん。そうだね……」
綾辻は認めたくは無いが認めてしまった。いじめがあると。
「そいつらからしたら一色が生徒会選挙で落選したそれをネタにさらにいじめる可能性があるんだよ。例えば……『一色さん。折角、推薦したのに落選とかありねなくな~い』とか『まあ、一色さんじゃ推薦しても生徒会長にはなれないよね~』などと言われるかもしれないだろ?」
「……た、確かにそうですね。あ……このまま雪ノ下先輩が当選したら……」
一色はようやく気が付いたようだな。このまま雪ノ下が生徒会長にでもなれば自分へのいじめがさらにエスカレートする事を。
てか、いじめられていると自覚はしていたんだな。ややこしいな。
「ど、どうすれば、いいんですか!?」
「別に何もしなくてもいいだろ」
「……え?」
一色も雪ノ下に負けず劣らずのアホ顔だな。この手の顔は見てて飽きない。だってみるからに面白いから。
「た、助けてくれないんですか!?」
「俺は綾辻から相談があるから話を聞いてだけで誰かを助けるなんて一言も言っていない。そもそもこうなったのもお前が原因だろ?なら自分が頼りにしてる先輩にでも頼れよ。俺は夜架がいじめに加担しているかどうか知りたかっただけだから。自分から加担していないと分かったからにはもう関わりたくない」
「そんな……」
一色は希望から絶望へと落された人間のように顔を曇らせた。まあ、夜架が自分の意思でいじめをしていたなら何とかしたかもしれないが、そもそも夜架がいじめなんてする訳が無いか。
「それじゃ綾辻。俺達はもう行くから」
「うん、ごめんね。……比企谷君。我がままだって事は分かっているよ。一色さんを助けてくれないかな?」
「助ける?それは出来ないな。一色からは助けを求める気持ちが無い。そんな人間を助けてやる義理は無い」
一色いろはと言う人間は弱いキャラを演じている。容姿や言葉使いで男を手玉に取って楽しているタイプだ。そんな人間を助けてやる理由も義理も俺には無い。
「八幡ってホント、素直じゃないよね?」
「何がだよ、浅葱?」
「もしあの一年生が『助けて』って言ってきたら助けるんでしょ?」
「……言ってくればな」
「ホント、捻デレ」
「ち、違うからな!!」
昼食を食べ終わって教室に戻ろうとした時に浅葱が妙な事を言ってきた。俺にはあの一年を助ける義理はない。
でも手を貸さない理由もない。問題は彼女の態度だけだ。あれを改めるなら手を貸すだけだ。
次の日、学校に行ってみると生徒会選挙を急遽する事になったと聞いた。雪ノ下が生徒会長に立候補したため雪ノ下と一色のどちらが生徒会長にするか選ぶ必要が出てきたためだ。どちらが生徒会長になろうが俺の知った事では無い。それに今の所、一色に軍配が僅かだが上がっている。
その理由が雪ノ下が今までやってきた事が原因だ。
職場見学でボーダー隊員への暴言、文化祭での委員長の暴走を止め無かった事、この二つが雪ノ下にの評価を下げている。
そして今、雪ノ下には『自己管理が出来ない自己チュー女』これが雪ノ下に張られているレッテルだ。
理由は二つ。
一つ目は一年からの反感を買っている。これに関しては葉山と三浦も同様に反感を買っている。
何故なら来年、自分達はボーダーの職場見学が出来ないからだ。まあ、出来なくも無いが人数が制限されたので学年全員は行けない。
そして二つ目が文化祭だ。委員長の相模の暴走の所為で委員会の一人一人の仕事量が増えて浅葱が倒れた。ついでに雪ノ下も倒れた。
それで危うく文化祭の中止になる所だった。相模の暴走を止められたなかった副委員長の雪ノ下の評価は密かに下がった。
この事から全学年から雪ノ下を選ぶとは思えない。だが、かと言って一年の一色を選ぶのは不安があるから多分、雪ノ下を選ぶと思う。
俺の勝手な想像だけどな。どう転ぶかはまだ分からない。
もし一色がこのまま動かなかったら雪ノ下が生徒会長になるだろう。それを良しとするかどうかだな。
「ヒキタニ君……」
「ヒッキー……」
「はぁ……」
昼休憩になったので昼飯を食べようかと思ったら葉山と由比ヶ浜がなんかやって来た。しかも困ったような顔をしている。
これは修学旅行の時と同じだから面倒事だとすぐ分かる。嫌だ嫌だ。
「……これから昼飯って時に来るなよ。お前ら俺を餓死させたいのか?」
「いや、そんなつもりは……」
「そ、そうだよ!それに一食くらい食べなくたって菓子?しないよ」
「結衣。餓死だから……」
どうしてこうも間違えるかな由比ヶ浜は。自宅謹慎を自宅禁止と間違えるし、総武は進学校だったはずなんだがな。
やはり裏口入学なのだろうか?まあ、別にいいか。
「それで?何の用だよ」
「雪ノ下さんを止めるのを手伝って欲しいんだ」
「雪ノ下を?生徒会長になるやつか?」
「ああ、そうだ」
雪ノ下が生徒会長になるのとこいつらに何の関係があるんだ?ほぼ、無関係だと思うが?何かしらの深い訳でもあるのか?
「雪ノ下が生徒会長になったら何か不味いのか?」
「だって!ゆきのん、来年にはボーダーに入隊するんだよ。生徒会長をやっていたらB級になるのが遅くなるじゃん!!」
雪ノ下が入隊?あいつって確か他人との協調性が無いとかで入隊出来なかったはずだが?まあ、雪ノ下が入隊出来る理由には心当たりがある。
金だ。
雪ノ下の親は雪ノ下建設の社長だ。つまり金持ちと言う事だ。ボーダー隊員だって人間だ。生きていくためには金が必要だ。
ではその金をボーダーが用意しようとしたらそうとう苦労する。それにボーダーだって色々と作っていかないと戦えない。
トリガーや訓練施設など必要なものは多い。
だからスポンサーは大事にされる。太刀川隊の唯我がそうだ。大企業の社長の息子と言う事でA級部隊に入れろと言う事で上層部は太刀川隊に唯我を入れた。
実際、唯我が居ようが居まいが太刀川隊は機能するからな。
前に唐沢さんから聞いた事がある。陽乃さんの入隊と同時に雪ノ下建設がスポンサーになったと。さらに妹も入隊させてより金を出させようとしているのだろう。
金の力は偉大だからな。
正直、雪ノ下が生徒会長になってボーダーに入隊しようが俺の知った事では無い。B級に上がるのが遅れる?知らん!
生徒会長とのかけ持ちで何が悪い?それは俺の問題ではなくて雪ノ下本人の問題だ。俺に振ってくるな。
「……で?俺に何をしろと?」
「雪ノ下さんを説得して欲しいんだ。俺達だけでは聞いてもらえ無いと思うから」
「なら俺じゃあ駄目だろ。あいつが俺の話を聞くと思うか?俺を見た瞬間に罵倒するのがオチだ。他を当たれ」
すんなりと想像出来てしまうんだよな。雪ノ下が俺を見た瞬間に罵倒するのが手に取るようにわかる。
そんな奴を説得するだけ無駄だ。
「で、でも……!!」
「……八幡。ちょっといいかな?」
「戸塚?」
由比ヶ浜が何か言おうとした時、タイミングよく戸塚が現れてくれた。ナイスだ!戸塚。流石は癒しの天使だけの事はあるな。いや、それは今は関係無いか。
「どうしたんだ?戸塚」
「うん。八幡を訪ねて一年の子が来ているよ」
「俺を?一年が?」
はて?一体誰だ?夜架か?いや、夜架なら来る前には必ず連絡してくるはずだ。なら誰だ?行ってみれば分かる事か。
「……どうも比企谷先輩」
「一色か」
待っていた一年は一色いろはだった。それにしても昨日とはまるで違う態度に見えるな。心境の変化か?
「お願いします。助けてください、比企谷先輩」
「いいぞ」
「…………え?いいんですか!?」
こいつは頼みに来た癖に何を驚いているんだ?
「俺が気に入らなかったのはお前の媚を売っている様な態度だ。しっかりと頼んでくれば、まあ……手を貸さないでもいな」
「そ、そうですか…………良かった」
一色はさきほどまで暗い顔をしていたのに少し明るい顔になっていた。うん、雪菜の方が可愛いしスタイルもいい。
「あれ?いろはじゃないか」
いつの間にか俺の背後に回っていた葉山が一色を名前で呼んだ。一色と葉山は知り合いなのか?