やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
俺が奉仕部に(強制)入部してから二度目の依頼がきた。依頼者は同じクラスの戸塚彩加だった。彼女……いや彼の依頼は、テニス部員である自分のレベルアップだった。
その理由があまり練習に来ない部員に積極的に練習に出てもらい部を活気付けたいとの事だそうだ。
まぁ、そういうことらしい。しかし由比ヶ浜の説明不足でややこしい事になっているんだが、それでも雪ノ下の鶴の一声で戸塚のレベルアップに協力することになった。
そこまでは、よかったんだが。練習中に乱入者が来たのでさらにややこしい事になってしまった。
葉山グループ。このグループはカースト1位のグループだ。そこの女子生徒の三浦優美子がいきなり『自分もテニスをやらせろ』と言ってきた。
そこで、俺は三浦との1対1のテニス対決を提案して葉山の介入を阻止した。何故葉山の介入を阻止する必要があるかと言うと、悪い予感がしたからだ。
それに戸塚は今、少しでも練習したほうがいい。こんなくだらないお遊びに付き合う必要は無い。
葉山はダブルスを提案してきたがそれでは戸塚が十分な経験を積むことができない。
だからこそ、俺はダブルスではなく、シングルで三浦との対決を提案した。三浦はすんなりと乗ってきて、葉山は特に反論しなかった。
このことからテニスをしたいのは三浦だけであって、葉山はそれほどしたくはないということだ。
俺は三浦とのテニス対決に意識を集中しだした。俺が提案した対決は三浦の方が有利と思う部分が大きい。
要因1:三浦がテニス経験者のところ。したことがある、ないではまったく違う。
体に染み込んでいる、テニスの技術や経験などがあるためだ。
俺には経験がないのでこの差は大きいと言える。
要因2:最初のサーブは三浦が先だったこと。先に10点取ったほうの勝ちなので互いにサーブ権のある時に点を取り合えば、結果的に三浦の勝ちが決まってしまうからだ。
この事から三浦は最低限、自分のサーブ権のある時は点を取れば負ける事はない。
例え俺のサーブが強烈で取ることが無理でも、自分のサーブ権のある時に点を取ればいいことだ。
だが、その思惑は崩れ掛けている。俺が三浦のサーブ権のある時に点を取ってしまったからだ。
つまりは、ブレイクだ。だから、三浦は相当に焦っているのが窺える。
これ以上の失点は勝利へと遠ざかるからだ。自分のサーブ権の時にしか点が取れないのに失点してしまい三浦に焦りが出始めた。
三浦が2回目の2本目のサーブをしようとしている。ここを落とせば、勝利はほぼないと言ってもいい。もちろん、ここでも俺は点を取らせてもらうが。
三浦の2本目のサーブは、1本目のサーブよりコートぎりぎりのラインだった。さすがは、元プレイヤーだけのことはあると感心しているが、もうそのくらいのサーブなら余裕で対応できる。そして俺に点が入って、これで『4対2』で俺の2点リードだ。
俺の2回目の1本目のサーブを三浦は相当に警戒していた。威力だけなら三浦のサーブを超えているのだから、それを返して得点にするには難しい。
俺のサーブは威力はあるがコースの打ち分けができないので、ほぼ同じ所に行ってしまうけど威力があるので三浦は返すことが出来ない。
俺の2回のサーブが終わり、点数は『6対2』。俺の4点リードで残り4点取れば俺の勝ちが決まる。しかし三浦は、諦めていなかった。
それもそのはずだ。クラスでボッチ、目の腐っている男なんかに負けたら、それこそ恥だ。それ以上に自分のプライドが許さないのだろう。表情は苦虫を潰している顔をしている。
「今なら、謝れば許してやらんでもないぞ?」
と俺は三浦を挑発するようなことを言った途端に三浦の顔はさらに歪んでいった。まさか、自分が言ったセリフを相手に言われるなんて相当の屈辱だろう。
三浦の顔を見ていると、笑いが込み上げてくる。笑うな俺。ここで笑えば計画が台無しになる。耐えるのだ、この対決の後に待っていることを思えばなんて事無い。
そして三浦の3回目のサーブが始まりそうだった。三浦と目線が合う。あ~、あいつ
"あれ"を狙ってるな。分かり易いぞ三浦。その顔は笑みを浮かべている。その事からやつの狙いは、俺の顔面だとすぐに判断できた。なんか、ぶつけたあと『ごめ~ん。わざとじゃないんだ。許して』とか言ってきそうだ。
三浦がボールを高く上げラケットを振りかぶると、予想通りボールは俺の顔面に向かって来る。が、分かっていたので素早くに首を左に傾けてボールを回避した。ボールはフェンスに当たり、バウンドしてから俺は三浦を見た。
本人はまさか避けられるとは、思っても無かったらしく驚いていた。『チッ……』と三浦の舌打ちが聞こえてきたので俺はわざとらしく大声で周りに聞こえるよう仕返しに言った。
「三浦さ~ん。わざと顔面狙うのはよしてくれないかな~?当たったら痛いしさ~」
と言った途端、ギャラリーがざわつき始めた。
「今のわざとか?」「まさか。三浦さん、元テニス部員って聞いた事があるし」「でも、今あいつの顔を横切ったよな?」「たまたまにしても、外しすぎな気がするし」
などが聴こえてきた。
三浦の顔は思惑が外れた上に、まさかそれを利用され自分にダメージを与えられると思ってなかったようだ。これで点数は『7対2』であと3点で俺の勝ちだ。
その後の三浦のサーブは今まで通り真っ当のサーブだったので余裕で返して2点こちらに入る。これで『8対2』になった。
三浦は後が無くなってか、戦意喪失になっていた。だが、俺は一切の容赦なしに、これまでのサーブ中で一番の威力で放って、三浦の後ろのフェンスの間に挟まってしまった。
それを見た三浦は完全に青ざめていた。
無理もないか。さっきのサーブは今までの比では、ないのだから。そして俺は最後のサーブを放つが、三浦は立ったままで動こうとさえしないので俺の得点になり、結果は『10対2』で終わった。俺の勝ちだ。
立ったままの三浦からラケットを回収して、戸塚の方へ戻った。すぐに戸塚が近寄ってきた。
「すごいね!比企谷君ってテニスできたんだね。僕、尊敬しちゃうな~」
「そうでもないさ。ただ、運動神経がいいだけだ。戸塚、もうすぐ五時間目が始まるから着替えてきた方がいいぞ」
「うん!そうだね。……比企谷君、たまに練習に付き合ってもらっていいかな?」
「別にいいぞ」
と返して教室に戻る前に夜架に近づいて確認をした。
「ところで、夜架。さっきの出来事、ちゃんと撮ってあるか?」
「もちろんです。主様。最初から最後までばっちりと」
「そうか。だったら、撮ったものを浅葱に送って、コピーして永久保存の上、バックアップもとるように言っておいてくれ」
「承知しました。主様」
そして教室に戻った俺が見たのは思った通り、お通夜並みの静けさがそこにはあった。三浦はおろか、普段は五月蝿い葉山グループが全員黙っていて教室は異様な静けさになっていた。
静かだ。……普段、騒がしい連中が静かなだけで、こうも過ごし易いとは。
この静けさは1週間近くも続いて、実に過ごし易かった。