やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
職場見学まで残り数日となったその日に奉仕部に訪れた人物は意外にも葉山だった。
葉山の依頼内容はチェーンメールで友人の悪口を書かれているので事態の収拾をしてくれ。と言うものだ。
と言うものだ。
これ、奉仕部のやることか?そもそも何で葉山は奉仕部に来たんだ?
俺は葉山が何かを隠しているような、そんな気がした。
「葉山君はこの中に書かれている三人の内の誰かと行くつもりなのね?」
「あぁまだ決めてはないけど。三人の誰かと行く事になるだろうな」
葉山が言うがこの時点で俺は犯人に大体の目星を付けていた。
おそらく、誹謗中傷を書かれた三人の内の誰かが犯人の可能性が高い。
「あ!あたし、犯人わかったかも」
「どういうことかしら?由比ヶ浜さん、説明してくれるかしら」
由比ヶ浜でもさすがに分かったのか?それに対して雪ノ下は分からないようだった。そこで由比ヶ浜に説明を求めてきた。お前は分からないのね……。
「職場見学はさ三人一組で、一人余っちゃうからさ。残ったその人は結構きついんだと思うんだよね……」
「そういうものなの?でもこれではっきりしたわ。犯人はこの三人の内の誰かね」
「ま、待ってくれ。幾らなんでもそんなことありえないだろ。だって悪口を書かれたのはこの三人だぜ。あいつらは違うだろう?」
雪ノ下の言葉に葉山は否定していたが、俺にはそれが嘘くさかった。
(こいつは、もしかして犯人を知っているんじゃないか?)
と思っていると浅葱は小声で俺にあることを提案してきた。
「八幡、私がその犯人のアドレスを逆探しようか?」
「……やめておけ、浅葱。一応、それ犯罪だしな。そもそも雪ノ下がそんなことを容認するとは思えないし。あいつ無駄に正義感があるからな」
「じゃあ、どうするの?」
「まぁ、なるようになるだろ……。だから、お前は何もするな。いいな」
浅葱との話を終えてから、俺は自分の意見を雪ノ下たちに話した。
「バカかお前は。そんなの自分に疑惑の目を向けないためのカモフラージュに決まってるだろうが。まあ、俺だったらあえて軽く書いて一人に罪を擦り付けるけどな」
「ヒッキーってすこぶる最低だね!」
由比ヶ浜が言うが、普段からキモいと俺を罵倒しているお前も十分最低と思うぞ。
「とりあえず、その三人の事を詳しく教えてくれるかしら?」
雪ノ下が葉山に三人の事を聞いてきた。
「ああ。戸部は俺と同じサッカー部だ。見た目は金髪で悪そうに見えるがムードメーカだな。文化祭や体育祭なんかに積極的に参加している。いい奴だよ」
「……騒ぐことしか能のないお調子者、と」
雪ノ下のいきなりの罵倒が炸裂した。
悪い方に解釈しているな、こいつは。葉山は絶句している。
「どうしたの?続けて」
雪ノ下は葉山に促すがお前の言葉に絶句しているんだから、気付けよ。
「大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりとしたマイペースさとその静かさが安心させてくれるって言うのかな。寡黙で慎重な性格でいい奴だよ」
「反応が鈍くて優柔不断、と」
雪ノ下は容赦がないな。まぁ俺の時もそうだったけど。
「……大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの味方をしてくれる気のいい性格だ。人の上下関係にも気を配って礼儀正しい奴だよ」
「人の顔を窺う風見鶏、と」
ホント、容赦がまったくない。会った事もない人間のことを悪く言うのはこいつの性格が悪いからだな。葉山、ご愁傷様。
俺や由比ヶ浜だけではなく、葉山も完全に黙っている。無理もないか。
「誰が犯人でもおかしくわ無いわね。葉山君の話だと参考にならないわ。二人は彼らのことをどう思っているの?」
「よく知らないな」
「ど、どうって言われても……」
俺に関わり合いの無い連中のことなんてわかるわけない。由比ヶ浜は言葉を濁して答えたが駄目だったようで、雪ノ下は俺達二人に頼んできた。
「じゃあ調べて貰えるかしら?グループ決めの締め切りは明後日だけから一日猶予があるわ」
雪ノ下は言うが由比ヶ浜は顔を俯かせた。
まぁ自分のグループの事を探ることに抵抗があるのだろう。
思ったが雪ノ下。お前は調べないんだな?クラスが違うってだけで、聞き込みくらいしろよ。
自分は指示して終わりかよ。
そして次の日。俺はあの三人を観察していた。人間観察は俺の十八番だ。
サイドエフェクトのおかげで人間観察しやすい。
すると俺の視界に手を挙げて、挨拶してくる人物がいた。
俺の癒しの第二天使、戸塚である。
「おはよう、比企谷君」
「おう。何か用か?戸塚」
「うん。職場見学のグループってもう決めたのかなって」
「いや、まだ決まってない。まあ、余った人と組む事になるかもな。戸塚は組む人決まったのか?」
「うん。そうなんだ」
(何、だと……。戸塚はもう組む奴がいるのか。できれば戸塚と組みたかったな。一応、誰と組むかだけでも聞いておくか)
戸塚の話を聞いて俺は心の中で驚愕した。
「……戸塚は誰と組むんだ?」
「比企谷君」
「……えっ?!それは、つまり俺と?」
「うん、そうだよ。もしかしてもう組む人がいるとか?」
「いや!まだ誰とも組んでいないから大歓迎だ!よろしくな彩加」
俺は興奮のあまりに戸塚の名前を呼んでしまった。
「初めて名前で呼んでくれたね。じゃあ、僕はヒッキーって言った方がいいかな?」
「……戸塚。ヒッキーは止めてくれ。俺は引きこもりじゃないからな」
「それじゃあ、八幡って呼ぶね!」
戸塚は笑いながら俺にそう言ってくれた。
(戸塚、お前はまさに天使だな。あぁ~癒されるな。……なんだよ?戸塚との癒しの時間を邪魔するなビッチめが!!)
戸塚に癒されていると由比ヶ浜が俺を睨んできた。そこで俺は思い出した。
(あ!すっかり忘れてた。そういえば、例の三人を見るんだった。)
例の三人を観察してわかったことがあった。
あの三人は葉山が少しでも抜けると共通の相手がいなくなったことで会話が続かなくなっている。それを見て謎が解けた気がした。
放課後、奉仕部部室に全員が集まったところで、説明を始めた。
「あの三人なんだが、まず葉山、お前はお前がいない時のあの三人を見た事がないんじゃないか?」
「……ああ、見た事はないな」
「どういう事かしら?比企谷君」
俺の質問に葉山は戸惑いながらも返事をした。
雪ノ下と由比ヶ浜は俺のことをバカにするような目を向けてくる。
お前らにはいい案があるのか、と思っていると雪ノ下が聞いてきた
「つまりはだ、三人だけの時は仲良くないんだ。あの三人にとっては葉山は友達だがそれ以外は友達の友達なんだよ」
「あーなるほどー。確かに会話を回す人がいないと気まずいもんね~」
雪ノ下は友達がいた経験がないので、頭の上に?を浮かべていた。
人のことを理解できない、こいつに世界はおろか人を変える事すら出来るはず無いと思っていると雪ノ下が聞いてきた。
「それで、解決方法はなんなの?」
お前は考えていないのか?それでよく人に説教ができるな。
「一応解決策はある。犯人を捜す必要はないし、これ以上揉める必要もない。上手くいけば、あの三人を仲良くさせることができる。知りたいか?」
俺の問いに葉山は黙ったまま頷いた。
グループ分け締め切り当日。後ろの黒板を見てみると、戸部、大和、大岡は三人が同じグループになっていた。
「おかげで丸く収まった。助かったよ」
葉山が俺のところまで来てそうと言ってきた。
「俺は実際になにもしていない。ただ、お前にあの三人と組むなと言っただけだ。お前がいなきゃ、揉める必要が無いからかな」
「そうだな。まぁ、これを機会にあいつらが本当の友達になれればいいんだけどな」
(こいつは、筋金入りのお人好しではなく、人を信じ過ぎな気がするが別にどうでもいいか)
と思っている。
「俺、まだグループが決まってないんだ。入ってもいいかな?」
「戸塚にでも聞いてくれ。俺は知らん」
葉山が聞いてきたので俺が短く応えた。
「僕は全然、構わないよ。僕と八幡と葉山君の三人でいいかな?」
「ああ、俺はそれでいいぞ。それで戸塚はどこに行きたいんだ?」
「僕、ボーダー本部がいいんだけど。二人はどうかな?」
「ボーダー本部か……」
戸塚の要望を聞いて俺は少し嫌そうに答えてしまった。
「……八幡がいやなら、別のところでもいいよ?」
「いや!ボーダー本部でいいぞ」
「ホント?よかった。じゃあ、見学先はボーダー本部に決まりだね!」
戸塚が俺の言葉を聞いて辞めようとしたが、俺はそれをすぐに取りやめたら、戸塚は嬉しそうに答えてくれた。
ちなみに、2年生のほとんどがボーダー本部を見学先に決めているため、下手をしたら俺がボーダー隊員だとばれる可能性がある。
別に隠しておくつもりはないが、ばれたら、それはそれでめんどくさい事になりそうだ。
特に雪ノ下が。
当日は何とか防衛任務を入れるしかないな。上層部とウチの隊のメンバーを説得する必要があるな。特に雪菜の説得には骨が折れそうだ。