やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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川崎沙希②

俺は今、二宮さんに呼ばれて来た事のあるバー『エンジェル・ラダー 天使の階』にいる。

何故俺が再びこのバーに来る羽目になったのかと言うと小町の塾の『お友達』、川崎大志からお願いされたからだ。

 

そのお願いとは姉である川崎沙希の更正だ。

一年の時は真面目だったのに二年から急に不良になってしまったらしい。

その理由は大志からの話しで大体が検討がついている。

なので俺は必要と思える資料を川崎に見せるため、ある場所に行き揃えてバーに向かった。

 

そして今、川崎に会うためにバーに来ている。

俺の格好は前回と同じでキッチリとしたスーツに髪をオールバックにして伊達メガネを掛けている。まさか、またこの格好をすることになるとは思いもしなかった。

 

 

「ヒッキー?」「比企谷君?」

 

俺が気合いを入れて、バーに入ろうとした矢先に後ろから声を掛けられた。

それも聞き覚えのある声だ。

 

(あ~れ~可笑しいな……今、後ろから由比ヶ浜と雪ノ下の声が聞こえた気がしたような?……働きすぎでついに幻聴が聞こえ始めたか?)

 

俺が考えているといきなり由比ヶ浜にスーツの襟を掴まれた。

 

「ちょっと、ヒッキー!!なんで無視するんだし!!それにどうしてここにいるの?」

 

由比ヶ浜がいつも通りの大きな声で聞いてきた。マジでうるさい!!

 

(しかし参ったな……ここでこいつらと関わるのは得策じゃない。ここは何とかして乗り切りるか)

 

俺が良い訳を考えていると、雪ノ下がいつもの感じで迫ってきた。

 

「声を掛けられたら、返事くらいしなさい。比企谷君。ああ、ごめんなさい。耳と脳が腐っていたのだったわね。失礼したわ、返事はしなくていいわ」

 

ホント、雪ノ下は人としてなっていないなと思う。平塚先生は気に掛けていたがこいつのこの性格こそ、直すべきだろうに。

 

「スイマセン。一体誰のことを言っているのですか?」

 

俺は営業スマイルをなんとか作り、二人に振り向いて名乗った。

 

「ボクは、『山本武(ヤマモトタケシ)』と言う者ですが……。その『ヒッキー』や『ヒキガヤ』と言う人物とボクは似ているのですか?」

 

俺がそう名乗ったのが効いたようで、二人して驚いた顔をしていた。しかし一人称がボクとはなんだかキャラが違うな。

 

「!!ご、ごめんなさい!人違いでした!行こ、ゆきのん」

 

「えぇ、そうね……」

 

なんとか由比ヶ浜と雪ノ下はそのまま過ぎさった。でも雪ノ下は俺に疑惑の目を向け続けていたが。

 

(ヤべー!!何とか誤魔化すことに成功したな。危なかったがうまく隠せてよかった……)

 

俺は変装していたのがバレたのではないかと内心焦っていた。とりあえずは二人の様子を見ておくか。

 

 

 

バーに入り、カウンター席に座っている二人の近くに間を開けて座った。雪ノ下がどのように川崎を説得するかを見てさらに策を考えておくか。

グラスを磨いている川崎を見つけるや否や雪ノ下が話しかけにいった。

 

「やっと見つけたわ。川崎沙希さん」

 

「……あんたは確か、雪ノ下だっけ?何か用?」

 

雪ノ下は相変わらず高圧的だし、川崎も何だか冷たい感じだ。

 

「貴女の弟さんから話を聞いてね。姉が不良化したものだから心配しているのよ。それで話をしに来たの」

 

雪ノ下はそう言うが、お前勝手に話を聞いただけだろうに。

 

「そう……。でも私はやめる気はないよ。別に遊ぶお金を稼いでいる訳でもいないんだから。他人の家族の事に首を突っ込まないでくれるかな。迷惑なんだけど」

 

「そうはいかないわ。貴女は未成年、本来はここで働くことさえできないはずなのだから。店側も問題だけど、貴女も問題なのよ」

 

「だから何?説教しにきたのなら帰ってくれない。営業妨害だよ」

 

「やー、でも、話してくれないと分からない事だってあるし、力になれるかもしれないしさ。話すだけでも楽になるかも知れないし……」

 

由比ヶ浜はそれとなく言うが、それは理想論だ。

それで川崎の問題が解決するなら弟がすでに解決している。

 

「言ったところで、分かってはくれないよ。あんた達には絶対に分からないよ。力になれるかも?楽になるかも?そう、だったらあんたは、あたしの親が用意できなかったものを用意できるの?あんた達が肩代わりしてくれるの?」

 

「そ、それは……」

 

由比ヶ浜は言葉を濁した。録に考えないで来たのかよ……。アホ共が。

 

「そのくらいにしておきなさい。これ以上、吠えるなら……」

 

雪ノ下が言いだした時に川崎がとんでもない事を言った。

 

「ねぇ、あんたの親って確か、県議会議員なんでしょ。だったら、あたしの言っている事なんて、分からないでしょ?」

 

川崎は周りに聞こえないくらい小さく囁いた。

その時、グラスが倒れる音がしたので横を向いて見ると雪ノ下が唇を強く噛み締めて下を向いていた。

 

「ちょっと!!今はゆきのんの家の事は関係ないじゃん!!」

 

由比ヶ浜はテーブルに手を付き立ち上がり、川崎にいい返した。いや、由比ヶ浜。感情的で他人を説得できると思っているのか?そもそもお前は何しにここにきたんだよ?

 

「なら、あたしの家の事も関係ないでしょ」

 

「帰りましょ、由比ヶ浜さん……」

 

「で、でも、ゆきのん!!このままじゃ……」

 

「川崎さん。覚悟しておくことね……」

 

雪ノ下はさながらヒーローに負けて、棄てセリフを言っている悪役のようだ。雪ノ下達の話が終わったので次は俺の出番だな。

 

 

「次は俺と話をしようぜ、川崎」

 

俺が急に話し掛けたものだから川崎は少し驚いていた。

 

「!!……えっと、あんたは誰なの?」

 

「川崎。お前と同じクラスの比企谷八幡だ。よろしく」

 

「同じクラスだったんだ。それで何?あんたも雪ノ下のようにあたしを説教にでも来た訳?」

 

川崎は俺のことをかなり警戒している。あのアホ共、余計な事をしてくれたな。

 

「いや違う。俺の場合は説教ではなく提案だ」

 

「提案?それってどう意味?」

 

「まずは川崎。お前がバイトを始めた理由からだ。弟の話を聞いて分かったんだが、弟は今年の春から塾に行き始めたんだよな。

だからお前は大学受験のための資金集めをしているんだろ?塾に行くために。ウチの高校は進学校だ。進学の人間が殆んどだ。

そしてお前もな。だから、お前は塾に行くための資金がほしかった。そうだろ?」

 

俺の発言に川崎は明らかに動揺してしていた。図星、これで間違いはない。

 

「そこで俺の提案は『スカラシップ』だ」

 

「……『スカラシップ』って何?」

 

川崎が疑問に思うのも無理ない。塾に行ったことが無いのだろう。

 

「『スカラシップ』ってのは、奨学金。または奨学金を受け取る資格の事だ」

 

「それを使えば、学費とかを気にしなくていいってこと?」

 

「まぁそうだな。つまり、お前はここでバイトをする必要がなくなるってこと」

 

川崎は少し考え込んでいた。それで答えが出たらしい。

 

「そっか。そんな方法があったなんて知らなかったよ……。ありがと、比企谷」

 

「別に気にするな。俺は妹のためにやったに過ぎない。それにあまり家族を悲しませるのは良くないからな。兎に角、川崎。お前は明日からここに来なくていいからな」

 

「でも、いきなりバイトが辞める事なんて出来ないでしょ。辞めるなら一ヶ月前くらいに言ってないと」

 

「あぁそのことなんだが、雪ノ下が明日一番で学校側に言いつけると思うんだわ。そうなると、お前は最悪の場合に停学処分になるかもしれないからな。そうなると、受験どころじゃ無くなるだろ?」

 

「でも、どうするの?雪ノ下の説得でもするの?でもあいつの性格は……」

 

さすがに川崎でも、さっきのやり取りで雪ノ下の性格をある程度理解したようだ。

 

「その辺りは大丈夫だ。この事を何とかしてくれる人物には心当たりがるから」

 

川崎は疑問に思っているだろう。あの雪ノ下を説得できるか分からないのだから。

そして俺はスマホを出して電源を入れた。

 

「モグワイ。いるんだろ?出てこい」

 

俺の呼び掛けに答えるようにスマホの画面にネコなのか、ネズミなのか不明なキャラクターが出来てた。

 

『ケケッ。お呼びかい?八幡の旦那』

 

「話はある程度聞いていただろ?お前はカメラの記録を全て消してこい」

 

『了解。でもよ、カメラはいいとして、他はどうするんだ?消せない記録は必ずあるだろ?そこの嬢ちゃんの履歴書とかよ?』

 

「それ辺は、浅葱の親父さんの力を借りるつもりだ。これくらいなら、あの人の権力でどうにかなりそうだしな」

 

『了解だ。話は俺から浅葱嬢ちゃんに通しておけばいいわけだな?旦那』

 

「そういうことだ。よろしく頼むぜ。モグワイ」

 

俺が頼むとモグワイはスマホの画面からいつの間にか消えていた。

 

「ねぇ。あんた、今の何?」

 

川崎がモグワイについて聞いてきたので俺はそれに答えた。

 

「今のは、俺の幼馴染が作ったAI。つまり、人工知能だよ」

 

「あんたの幼馴染はあんなの作れるの?」

 

「まぁな。それだけすごいってこと。それと川崎、話はついたからお前は明日からここに来る必要はないぞ」

 

「でも、辞めるなら1ヶ月前に言ておかないと無理でしょ……?」

 

「たしかにな。でも、雪ノ下は明日一番に学校側に言うと思うし、そしたら推薦とか狙えないだろ?」

 

「あんたはどうして、あたしのためにそんなにしてくれるの?」

 

「そうだな、強いて言うなら自分で何でも勝手に決めないで少しは家族に相談しろって所かな。俺も昔、似たようなことが有って、その時に妹が失踪したからな」

 

「失踪って、それ大丈夫なの?」

 

「あぁ何とかな……。でも、その時気が付いたんだよ。俺は妹のためにやっていた事が逆に妹を苦しめていたことにな」

 

俺はボーダーに入ってB級に上がってから防衛任務をたくさん入れていたことがあった。そして家に帰ってみると小町がいなくなっていた。

その時は無我夢中で探し回ってやっと見つけた。その時の小町は一人で泣いていた。

理由を聞いたら、家族が皆いなくなったと思って泣いていた。

それ以降、俺は防衛任務の数を減らして小町のことを二度と泣かせないと誓った。

 

「あんたもそれなりに苦労しているんだね……」

 

「まぁな。だから、川崎。お前も少しは家族を頼れば良いんじゃないか?でないとなんのための家族か分からないだろ」

 

「うん。帰ったら、話してみるよ」

 

「そうか。なら、これをお前に渡しておく」

 

俺は鞄からスカラシップに関する資料を川崎に渡した。

 

「ありがと。比企谷」

 

「どういたしまして。じゃあ俺はこれで失礼するな。これから行くところがあるから」

 

俺は川崎にある程度説明してからバーを出てボーダー本部に向かった。


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