やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
今回は由比ヶ浜です。
では本編をどうぞ。
由比ヶ浜結衣②
ボーダーの職場見学が終わり、玉狛でのカレー作りの約束を果たして一週間が経過した。
その間に変化したことが三つある。
一つ目が比企谷隊の防衛任務のシフト時間の変更だ。
今までは平日は夜が基本的だったが、俺がボーダー隊員だとバレてしまい隠しておく必要がなくなりシフトの時間を昼間にも入れるようになった。
二つ目は俺がメガネを掛けるようになったことだ。
これで俺の目の濁りを隠していけるはず。これにより平塚先生の奉仕部への依頼である俺の更生は出来たも同然だ。だからこの一週間は奉仕部に顔を出していない。
三つ目がクラスでの俺の存在だ。
これまでは影の薄いボッチだったが、メガネを掛けるようになり、さらにボーダー隊員だということもあってクラスでは存在感がありまくりな状態だ。しかし、それでも俺に話し掛けてくる人間は皆無だ。
と言いたいところだが話し掛けてくる人間が二人はいる。
一人目は言わずもがな戸塚だ。
戸塚が奉仕部に依頼した後もたまにテニスの練習に付き合っている。あの笑顔は俺の数少ない癒しの一つだ。戸塚、ナイス笑顔!
二人目が意外にも川崎だった。
前にスカラシップのことを伝えてからも度々学校以外で会っている内にそれなりに会話するようになった。しかもボーダーについて詳しく聞いてくることがあるので聞いてみたら、どうやらボーダーに入りたいそうだ。
今度はしっかりと家族と話し合って決めたそうだ。
そして俺は浅葱と夜架と一緒に昼前に総武高校に向かって歩いていた。別に三人揃って遅刻と言うわけでも無い。
約一時間前に防衛任務が終わり、報告書を書き終わってその日はソロ戦でもして時間を潰そうかなと思っていると雪菜に『今から行けばギリギリ午後からの授業に間に合うから行くべきです』と言われてしまい諦めて学校に向かっている。
「しかし、なんで雪菜はあんなに真面目なのかね……。少しくらいサボってもいいじゃねぇか……」
「そんなことを言うから雪菜は学校に行けって言ったのよ」
「そうですよ、主様。それに雪菜が真面目なことは隊長である主様のほうが良く知っているのではないですか」
「そうだけどな。……あれ?あそこに居るのって綾辻か?おーい!!綾辻!!」
綾辻遥。A級嵐山隊オペレーター。
広報を担って多忙な嵐山隊をしっかりと支えている者で縦横無尽に立ち回っている四人の隊員をサポートする優等生だ。ちなみに総武高校の生徒会副会長もしている。容姿端麗で総武やボーダー内に多くのファンがいる。
「あれ、比企谷君?それに浅葱ちゃんに夜架ちゃん。どうしてこんな時間にここにいるの?……まさか、三人揃って遅刻じゃないよね?」
「そんなわけあるか……。俺達は一時間くらい前まで防衛任務だったんだよ」
「そうなの?でも珍しいね、比企谷隊が平日の昼間に防衛任務って」
「まぁな。俺がボーダー隊員だとバレたしな……」
「そっか。それにしてもそのメガネ、とてもよく似合っているね」
「そうか?これは浅葱と宇佐美の二人が選んだからな。まぁ似合っているならよかったよ」
綾辻が加わり俺達四人はクラスに着くまでの間、最近の事などを話しながらそれぞれのクラスに向かった。
そして五時間目が始まる前にクラスに着く事ができ、後ろの扉から入るとクラスメイト全員が一斉に俺の方を向いてすぐさま前に向き直した。俺は先生に防衛任務のことを話して席に着いた。
クラスに一箇所だけ空いている席がある。それは三浦優美子の席だ。
三浦のボーダー本部で俺に対して言った暴言は嵐山隊の報告書で上層部に伝わり、職場見学が終了してすぐに学校に抗議文が届いた。内容をまとめるとこうなる。
『総武高校の生徒である三浦優美子はボーダー隊員である比企谷八幡に対して暴言を吐き、その際に一言も謝罪がなかった。此方としてはそのような生徒がいる総武高校の職場見学の受け入れを今後はしない考えだ』
と、このような抗議文が送られてきて、すぐに三浦は十日間の自宅謹慎が言い渡された。
ちなみに一緒にいた葉山は巻き込まれたとのことでお咎めなしになっている。だが三浦と一緒にいることが多かった葉山の人望はがた落ちしている。サッカー部の次期主将候補から外されたと聞いた。
さらに雪ノ下も俺に暴言を浴びせたということが学校に伝わっていた。多分木虎辺りが上層部に報告したと思うな……。
それで雪ノ下も三浦同様に自宅謹慎になるはずだったが、雪ノ下母親が学校に話しを付けて自宅謹慎はなくなったが、反省分を五十枚ほど書かされたそうだ。
そしてこれは噂で聞いたのだが、一人暮らししていた雪ノ下は母親に自宅に強制帰宅させられたそうだ。マジでざまぁー。
そして罰を受けた人間がもう一人いる。平塚先生だ。
平塚先生は引率をしないといけない立場にいるのに関わらず、ボーダー本部の喫煙室でタバコを吸っていた。
ボーダー本部にも喫煙室はある。二十歳を超えた人はそれなりにいるのでそう言う場所は存在している。もちろんカメラ付で。さすがにボーダー隊員の大半は未成年だ。
喫煙室でタバコなんて吸っているのがわかった瞬間にクビになってしまう。まぁそんなことをするバカはいないが。
平塚先生は喫煙室でタバコを吸って生徒を引率をしていないことが学校側に知られて減給の上に仕事量が増えたらしい。マジでざまー見ろ。あの独身女教師が。
その日の授業が終わり鞄にノートなどに入れて、教室を出たところで後ろから由比ヶ浜に声を掛けられた。
「ヒッキー……」
「ん?なんだ、由比ヶ浜か。なんか用か?」
「えっと……その……」
「言いにくいことがあるなら場所を変えるか?それならついて来い」
俺は由比ヶ浜を連れて、お気に入りの場所に向かっていた。浅葱と夜架にはさきに本部に行くように言ってある。
俺のお気に入りの場所は総武からボーダー本部の途中にある喫茶店だ。喫茶店の名前は『末甘(まつかん)』。
気がついていると思うがこの名前はMAXコーヒーを指している。
末甘⇒マッ缶⇒MAXコーヒーと風になっている。
この喫茶店のマスターは俺同様にMAXコーヒーをこよなく愛している。メニューにマッ缶を入れるくらいにだ。しかも俺はここの常連だ。
俺と由比ヶ浜はテーブル席に座り、メニューを見ていた。少ししてからマスターが注文を聞きに近付いて来た。
「やぁ比企谷君、いらっしゃい。今日のお連れの方は見た事がないね?」
「どうも、マスター。こいつはクラスメイトですよ。今日は少し話すのにここを使わしてもらいますね」
「別に構わないよ。今日はそんなにお客さんはいないからね。それで注文は?」
「そうですね。じゃあいつものでお願いします。由比ヶ浜は?」
「えっ?!えっと……じゃあ、同じものを」
「承知ししました。少々お待ちを」
マスターは準備にカウンターの奥に消えていった。
しかし由比ヶ浜は俺と同じものでホントに良いのか?マスターはもちろん分かっているけど……。
とりあえず、メニューが来るまでに話を付けるか。
「それで話があるんだろ?話せよ」
「……うん……。ヒッキーはさ、何で奉仕部に来なくなったの?」
「それは俺があそこに行く理由がなくなったからだよ」
「……理由って何?」
「平塚先生は目が腐っているだの性格が捻くれているから社会に出た時に困るだのボッチだから友達を作れだの。そういうところを直すために俺を強引に奉仕部に入れたんだよ。だけどな、もう俺は目は腐ってないし、性格も社会に出ても困らないし、友達に関しては大勢いるし、それに親友と言っていいくらいの奴もいるしな」
俺が奉仕部に入れられた経緯を話している間、由比ヶ浜は黙って聞いていた。
俺は一呼吸おいて由比ヶ浜が気にしていることを話した。
「それとな由比ヶ浜。俺は別に去年お前の犬を助けた時に出来た怪我をしたことなんて怨んでない」
「……ヒッキー、覚えてたの?」
「いや、小町から聞いた」
「……小町ちゃんから。……そうなんだ……」
「お前は事故のことを気に掛けていたんだよな?だから俺に対して妙なあだ名を付けて仲良くしようとしたんだよな。だけどすまんな、変な気を使わして。俺にはたくさんの知り合いがいるし、ボッチなのはクラスの中だけだしな。だからお前が気に掛ける必要はないんだよ」
俺が言い終わると由比ヶ浜は涙目になっていた。……何でこいつが泣くんだ?
「どの道、事故があろうがなかろうが俺はクラスでボッチになっていただろうし、無理して俺と仲良くしようとするな。迷惑だから」
「ヒッキーのバカ!!」
由比ヶ浜は一言言ってから店から飛び出して行った。……由比ヶ浜、せめて金くらい出して帰れよ。
由比ヶ浜が店から出てすぐに注文した品が来た。
「あれ?比企谷君。さっきの女の子は?」
「帰りました。代金は俺が出しておきますから」
「そう?じゃあごゆっくり」
出てきた品はマッ缶に卵サンドだ。これが俺の頼むいつものメニュー。マスターの卵サンドは甘い。この喫茶店のメニューは大半が甘い。マスターが甘党なのが関係している所為だとも言える。
そして由比ヶ浜との関係はこれで綺麗さっぱり消えて無くなった。でも俺はこれでいいと思う。お互いにギスギスした気持ちで仲良くなれるはずがない。かつての俺と三輪のように。
サンドイッチを食べて終わってから俺はボーダー本部に向かって歩き出した。この時、俺の気持ちは軽くなった気がした。
次回はワンニャンショーの話をしていくつもりです。
その際に雪ノ下を出そうと思います。
後、陽乃も出す予定です。
では次回をお楽しみに。