やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
「……え?ヒッキー……?」
千葉村でのキャンプのバイト初日に俺との関係を清算したはずの人物……由比ヶ浜結衣がそこにはいた。
俺が由比ヶ浜に驚いていると由比ヶ浜が降りてきた車からさらに二人の女性が降りてきた。
一人目はなんと雪ノ下だった。
最後に会ったのはワンニャンショーの時だったと思うから、一ヶ月以上会ってはいない。……ってか会いたくも無い。
もう付き人なしで一人で出歩けるようになったんだな。
二人目は運転席から出てきた……平塚先生だ。
先生は俺と目が合うともの凄い勢いで俺に詰め寄って来た。その際の顔はもはや般若のようだった……。
「比企谷……何故、お前がここに居る?」
「それは小学生のキャンプのバイトに来ているからですよ」
「……そうか。だったら何で私からの電話に出なかったか……その理由を聞こうじゃないか」
平塚先生はそう言ってはいるが、顔は『お前のいい訳なんて聞く気はない』とそんな顔をしている。
だが、俺には秘策がある。俺はスマホを取り出し起動ボタンを押しても画面は暗いままだ。それを平塚先生に見せてこう言った。
「すいません。どうやら俺のスマホ……電池切れのようですね」
「何?……貸してみろ」
平塚先生は強引に俺からスマホを取り上げて電源ボタンを何度も押しているが、一向にスマホは起動する気配すらしない。それもそのはずだ。何故ならスマホのバッテリーは俺が家を出る前にスマホから抜き取ってあるからな。
(由比ヶ浜から小町に連絡があったものだから念のため抜いて置いて正解だな。そんなことをしても無駄なのに……さすがに俺のスマホが壊れそうだし回収しないとな)
平塚先生はスマホの電源を入れようとかなり強めにボタンを押していて今にも壊れそうなので返してくれるように言った。
「そろそろ俺のスマホを返してくれませんか?」
「……分かった。ほれ……」
「おっと……それと平塚先生は何で俺に電話してきたんですか?」
「そんなの奉仕部の合宿にお前を参加させるために決まっているだろ!!」
平塚先生は俺のスマホを放り投げてアホなことを言ってきた。俺のことをまだ奉仕部部員と思っているらしい。後、人のスマホを投げるなよ!!まったくこの人は本当に先生なのか、疑問に思う。
その時、雪ノ下が俺のほうに歩いてきた。どうせ罵倒してくるに違いない。
「あら、誰かと思ったら卑怯谷君じゃないの。こんなところで会うなんて今日は最悪な日ね。それと後ろの人達をどんな弱味で脅してここまで連れてきたのかしら?貴方達、この男に脅されているなら私が力を貸して上げるわ。この男を社会的に消してあげるから安心しなさい」
以前の雪ノ下復活かと思いきや、以前より罵倒が悪化している。完璧な人間とか言っていたのにもはや人として終わっていると言っても文句は言えないな、こいつは。
雪ノ下の罵倒を聞いてボーダー組の全員は顔を歪めて雪ノ下を見ていた。顔は『お前、何言っているんだ?』と言わんばかりの顔をしていた。
そんな雪ノ下に対して小南が言い返した。
「比企谷がそんなことするわけないでしょ。何も知らないくせに好き勝手なこと言っているんじゃないわよ。あんたの被害妄想も大概にしなさいよね!」
「なんですって!!」
小南と雪ノ下は今にも口喧嘩をしそうになっていたので止めに入る。
「落ち着け小南。ここで言い争ってなんになるって言うんだよ」
「ゆきのんも落ち着いて、ね?」
「止めないでよ比企谷!!この女は一発ぶっ飛ばさないと気が済まないのよ!!」
「由比ヶ浜さん邪魔しないで!!この人にあの男がどんな卑怯ものか。分からしてやらないと!!」
二人の言い争いが激しくなる前に小南は俺が、雪ノ下は由比ヶ浜がそれぞれ押さえた。
小南と雪ノ下の二人を抑えているともう一台の車がやって来た。5~6人は乗れそうなくらいの車だ。
その車から降りてきた男に俺は驚きを隠せ無かった。何故ならその男は俺が会いたくない人物だからだ。男は俺と眼が合うとこちらに近付いてきて挨拶をしてくる。
「やあヒキタニ君。こんなところで会うなんて奇遇だね」
挨拶してきた人物は葉山だった。
由比ヶ浜、雪ノ下、平塚先生に続いてこの男かよ……嫌な人物とのエンカウント率が異様に高い。もしやと思い、葉山が降りてきた車のほうを見てみるとやはりその人物達はそこに居た。
戸部、海老名、三浦の現葉山グループのメンバーだ。葉山がここに居るのは三浦が罰としてボランティアに参加しているからだろう。
三浦がボーダー本部でやらかした事はすでに全ボーダー隊員の耳に入っている。それでも総武の生徒が嫌われていないのはひとえに総武高生徒のボーダー隊員が真面目でいいヤツと知っているからだと思う。
運転席から出てきた女性に俺は見覚えがあった。たしか総武の家庭科の先生だったはずだ。車から出てきてすぐにこちらに近付いて来た。
「初めましてボーダーから来た皆さん。私は今回、ボランティアの引率を担当することになった総武高校の鶴見です。どうそ、よろしく」
こちらに優しく挨拶してきた。平塚先生とは大違いだ。確か鶴見先生って結婚して子どもが居るって聞いたことがあったっけ?
既婚者だから平塚先生と違って心に余裕があるんだな。
「どうも、バイトできた。比企谷八幡です」
「……君が比企谷君なの?」
「?……はい。そうですけど……何か問題でも?」
「いえ、そうじゃなくて平塚先生がボランティアで来る子に比企谷って生徒がいるって聞いていたんだけど。時間になっても来なくてしょうがないから行く事にしたのよ」
「……そうですか。鶴見先生、俺はボランティアのことなんて一言も聞いてないんですよ。今朝になって電話をしてきたんですよ?それに俺がボーダー隊員だと知っているのにこちらの都合を無視してここに連れてこようとしていたんですよ。平塚先生は……」
「……平塚先生。これはどう言うことですか?教師が生徒のプライベートの時間を奪おうとするとはそれでも貴女は教師ですか!!」
「い、いえ……比企谷なら大丈夫かと、思いまして……その……」
「大丈夫と思いまして……?平塚先生、この事は学校に戻ってから教頭と一緒に話し合いましょう」
「……はい」
鶴見先生の説教を受けて平塚先生は絶望をしているかのようにうな垂れていた。鶴見先生が俺の方……というより、後ろのメンバーを見ていた。
「とりあえず、お互いに自己紹介をお願いできるかしら?」
「わかりました。俺は比企谷八幡です。それでこっちにいるのが俺の妹の……」
「初めまして、比企谷小町です。よろしくお願いします!」
「私は藍羽浅葱です。今日からよろしく」
「羽々斬夜架です。よろしくお願いいたします」
「姫柊雪菜と申します。よろしくお願いします」
「……朝田詩乃です。……よろしく」
俺の挨拶に続き小町は元気よく挨拶をし浅葱に続き、夜架が挨拶をし雪菜は丁寧に腰を曲げて挨拶をした。礼儀、正しいなこいつは……。
シノンは少し控え気味に挨拶をした。
「比企谷の親友の出水公平だ。よろしく!」
「国近柚宇です~。皆、よろしくね~」
出水の親友発言に雪ノ下は心底驚いていた。そんなに驚くことか?
国近先輩はいつも通りな感じだな。
「三輪秀次だ。よろしく」
「ハッチのダチの米屋陽介だ。よろしく!」
三輪は少しだけぶっきら棒な感じだし、米屋は米屋でいつもの感じだな。
米屋のダチ発言にまたしても雪ノ下が驚いていた。
「烏丸京介です。今日からよろしくお願いします」
「小南桐絵よ!よろしくね!」
烏丸は丁寧に小南は普段と変わらない態度だった。まあ、そっちのほうが落ち着くな。
こちらの挨拶が終わったことを確認した葉山が一歩前に出てきて挨拶をしてきた。
「それじゃ、今度はこっちだね。俺は葉山隼人、よろしく。それであっちにいるのが……」
「俺は戸部翔。よろしくっしょー」
「三浦優美子。よろしく……」
「海老名姫菜です。これは色々とカップリングが楽しめそうな予感!!隼人君と彼らの絡みが……妄想が膨らむ!!ぐ腐腐腐っ……」
葉山から始まり海老名までが自己紹介を終えた。
戸部は相変わらずちょっとチャらいな……。
三浦は俺の方を見て、かなり不機嫌になっていた。自業自得だ!バカが!!
海老名の最後の方、何を言ったのかは聞かなかったことにしよう。
「由比ヶ浜結衣って言います!みんな、よろしくね!」
「私は雪ノ下雪乃よ。よろしく」
由比ヶ浜は以前の元気な雰囲気に戻っているし、雪ノ下も以前の毒舌全開になっている。何があった?
「これで全員も自己紹介を終えたことだし、荷物を本館に置いて、小学生がいるところまで案内するからついて来てね」
俺たちは荷物を置くために鶴見先生について行き、小学生との対面に備えた。
しかし、俺は向こうのメンバーに不安を拭うことができないでいた。