やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
千葉村でのキャンプ初日にまさか、雪ノ下達と出会ってしまうとは自分の日頃の行いが悪いのか、と疑ってしまう。
荷物を置くために本館へ向かっていた俺達だが、千葉村に着いてから何か忘れている気がしていたが、歩いている内にその忘れていたことを思い出した。
鶴見先生に陽太郎と雷神丸を紹介するの忘れていた。陽太郎はここに来るまでの道のりで車内ではしゃぎすぎて途中で寝てしまったからすっかり忘れていた。
「すいません。鶴見先生、一人と一匹の紹介をしてませんでした」
「一人と一匹ってどう言うことなの?比企谷君」
「ええ、実はここに来るまでに疲れきって寝てしまって自己紹介が遅れましたがこの子が林藤陽太郎と相棒の雷神丸です」
俺は紹介を忘れてしまった陽太郎と雷神丸を紹介した。鶴見先生は雷神丸を見て少し驚いていた。
驚くのも無理もない。ペットでカピパラを飼ってる人はそうはいないだろうからな。
それにしても陽太郎は未だに寝ている。移動中に騒ぎすぎた所為だけど、今は寝かしておくか。
寝る子は育つって言うしな。
俺達はとりあえず荷物を本館に置いてから小学生が集まっているグランドに向かって歩いて行った。
まだ陽太郎は寝ていた。
しかし雷神丸はよく陽太郎を乗せて移動できるな。……主人のために懸命に動くカピパラだな。
グランドに向かっている途中で由比ヶ浜が俺に話し掛けてきた。
「ヒッキー達ってバイトでここに来てるんだよね?」
「「「ぷっ……」」」
由比ヶ浜が俺のことを未だにあだ名で呼んで、それがおかしくて、出水、米屋、小南の三人が噴出した。
こいつはいい加減にそのあだ名で呼ぶことをやめないんだろうか?
「比企谷、お前って、そんなあだ名で呼ばれているんだな……ぷっ」
「ハッチ、そのあだ名はかなり笑えるわ……ぷっぷっ、くくくっ」
「はははっははっ、ナイスよ!そのあだ名……ぷっぷっ」
出水、米屋、小南の三人は腹を抱えて笑っていた。さすがにこれには俺も我慢ができないでいた。
「笑ってるんじゃねえよ!!戦闘バカどもが!!シバキ倒すぞ!!それと由比ヶ浜、何で俺のあだ名が『ヒッキー』なんだよ?」
「えっ?だって、比企谷でしょ?だからヒッキーなんだよ?」
「それだと小町も『ヒッキー』になるけど?」
「何言ってんの?小町ちゃんは小町ちゃんだよ?」
由比ヶ浜との会話はこれまでのことでかみ合わないことを知っていたはずなのに……俺はなんてバカなことを聞いてしまったんだ。
「すまんな、由比ヶ浜。バカなお前に言ったところで理解できないよな?」
「ちょっと!ヒッキー失礼だし!キモい!!」
なんだか懐かしい由比ヶ浜の罵倒は俺の心にクリティカルヒットしてHPを半分削っていった。いい加減にこいつとの完全なる決別が必要になるかもな。
そのためにも俺は由比ヶ浜の弱みを調べたほうがいいかもしれない。てかこいつに弱みとかあるんだろうか?謎だ。
「しかし中々いいあだ名をつけるな、その子」
「マジでシバキ倒すぞ!出水!!」
出水達とバカ騒ぎをしていると由比ヶ浜がポツリとつぶやいた。
「……いいな……なんだか、楽しそう……」
「……なんか言ったか?由比ヶ浜」
「えっ?!な、なんでもないよ!それよりもバイトっていくら位出るの?」
バイトのことを聞く前に由比ヶ浜は何かを言ったと思うけど、周りの声と由比ヶ浜の声が小さかったために聞き取りずらかった。サイドエフェクトで耳を強化していれば聞こえたがその時はそれほど集中してはいなった。
「二泊三日で三万くらいだな」
「そんなに出るの?だったら、ヒッキー何か奢ってよ!」
「断る。俺が誰かに奢るときは尊敬できる先輩か、もしくは可愛げのある後輩のみだ。同級生には基本的には割り勘だ。それにそれほど親しくもないお前に何で奢らないといけない?冗談じゃない」
俺がそうきっぱりと言うと由比ヶ浜は「……そうだよね……ごめん」と言って俺から離れていった。
そんな俺に小南が近づいてきた。
「ちょっと、比企谷。いくらなんでも言いすぎじゃない?あの子、泣きそうになっていたじゃないの」
「いいんだよ、あれでな……。それにあいつには学校で罵倒されまくったからな。そんな人間と仲良くしようなんて、これぽっちも思わないしな」
「そう、あんたがそう言うならこれ以上はなにも言わないわ」
小南はそう言ってから俺に何も言わなくなった。
今更、由比ヶ浜との間に『ホンモノ』と呼べる関係が築けるとは思わない。
そんなことを考えていると小学生達が見えてきた。
小学生が集まっているグランドに来てみると引率の先生方が小学生をある程度並ばしていた。
しかも小学生は隣の人間としゃべり続けていた。それに対して男性教師が腕時計をじっと見ていた。
そのことに気がついた小学生達が段々と静かになって、そして完全に静かになると男性教師が全員に聞こえる声で静かになるまでの時間を言う。
「はい!みんなが静かになるまで3分16秒掛かりました。次はもっと早く静かになるようにしましょう!」
懐かしいな、と思う。
小学生の時によく先生達が言っていたな。でもこれで次が静かになるのが早くなるとは到底思えないけど。
「なあ、比企谷。俺達って一体何をすればいいんだ?」
「キャンプの手伝いって言ってたと思うけど?」
「うわ……めんど……」
「お前は何のためにここに来たんだよ?」
出水に呆れながらも、そんなことは気にしない。些細なことだ。
男性教師の説教も終わったところで話が進んだ。
「それではこれから3日間、君達の手伝いをしてくれるボランティアのお兄さんに挨拶をしてもらうから……ではお願します」
男性教師は俺達に話を振ってくる。だけどボーダー組は動こうとはしない。なぜなら、さきほど、教師は『ボランティア』と言ったのだ。
それなら、『バイト』で来ている俺達は別に挨拶をしなくても問題はない。
そしたら、葉山が自分から前に出て、挨拶を始めた。
「初めまして。高校二年生の葉山隼人です。皆さん気軽に声を掛けてください。3日間と短い間ですが、仲良くしてください」
葉山の挨拶が終わると小学生達が騒ぎ始めた。主なのは女子だが。キャーキャーと。
すると、俺に近づいてきた小南が話し掛けてくる。
「ねぇ比企谷。あいつってなんだか准を残念にした感じに見えるんだけど……」
「小南……それは言ってやるな。本人が気にしそうだから……」
と言いつつも俺は心の中では小南に賛同していた。葉山には一度、人生のどん底に落ちてほしいとさえ思う。
「はい!ありがとうございました。ではオリエンテーリング……スタート!」
男性教師がそう言うと、生徒達は我先にグループを作り始めていた。このキャンプが始まる前に班をすでに決めていたようだ。
それにしても、みんな明るい顔をしているな。スクールカーストなるものがまだ確立してないからだろう。そう言うのは大体が中学生になってからだからな。
オリエンテーリングというものは指定されたポイントを順に巡っていき、ゴールを目指すものだ。ガチのはコンパスや地図を持って全力疾走で走り回るが、さすがに小学生はそんなことはしない。
小学生は我先にゴールを目指して歩きだした。
すると、葉山グループがうるさく騒ぎ始める。主に戸部と三浦が。
「いや~小学生ってマジで若いわー。俺らってもうおじさんじゃね?」
「ちょっと戸部。そう言うのやめてよねー。あーしがおばさんみたいじゃん!」
はぁ!?お前はおばさんだろ?とは思っても口にはしない。
「それで俺達は何をすれば?」
烏丸の質問に鶴見先生が答える。
「君達にはゴール地点での昼食の準備をしてもらいます。生徒達へのお弁当や飲み物の配膳をお願いするわ。私は平塚先生と先に車で行っているから」
「分かりました。それじゃ俺達は小学生より先に着けばいいんですよね?」
「ええ、そうよ。でも、気分や体調が悪くなったら無理せずに休むのよ?いいわね」
「分かっています。それじゃ俺達も行くか」
俺達が出発しようとした時に出水がある提案をしてきた。
「比企谷、槍バカ!誰が一番に着くか競争しようぜ!」
「お!いいね。負けたヤツはジュース奢りで!」
「えぇ~俺も参加させるのか?……ってことでスタート!!」
ある意味、フライングとも取れる卑怯な手だ。少し遅れて出水と米屋が走りまじめた。
やる気がないように見せかけてダッシュ。
「あ、比企谷!!テメー、汚ねえぞ!!」
「待ちやがれ!!ハッチ!!」
出水と米屋は叫びながら俺の後を追いかけてくる。普段から鍛えている俺に勝つなんて八万年早い!!八幡だけに。
俺は森の間を縫ってかなりの速さで疾走していた。ボーダーの対戦ステージに森林があるのでこれくらいなら余裕でゴールまで行ける。
「少し、疲れたな……」
さすがに生身では疲れてきたので近くの木に背中を預けた。念のために周りを見渡してみる。
「あれは、葉山か……」
オリエンテーリングの本来のコースに葉山と小学生の女子五人がいた。だがその内の一人だけが他の四人と距離を置いていた。見るからに孤立していた。
他の四人の小学生は葉山と一緒になってクイズを解いているようだった。葉山が孤立した
子に近づいて話しかけていた。
何を話しているかは聞こえないが葉山の性格からして大体は予想できる。たぶん、「皆と一緒に行こう」とかだな。皆仲良くしていないと気がすまないヤツだからな、葉山は。
だけどな、葉山。それじゃ悪手なんだよ。孤立している子を無理にグループに、それもお前がやると周りの子達は「あいつ、生意気」とか「高校生に優しくされて調子の乗ってる」とか言うな、絶対。
そんな中途半端な助けは余計にいじめを加速させてしまう。それに本人が助けを求めているかどうかにもよる。求めてもいないのに手を貸すのは大きなお世話と言うものだ。
それに葉山は助けるやり方を間違っている。その子を助けるにはグループから引き離すのが一番いい方法だ。
とはいえ、これは小学生の問題だ。高校生の俺達には関係ないと言ってもいい。
「よし、休憩終わり」
俺はゴールに向けて走り始めた。ゴールまでもう少しだ!!