やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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鶴見留美②

川で遊んでいた俺の前に現れたのは、俺達がいじめについて話し合っている中心人物の鶴見留美だった。

森から現れたのには驚いたが、一人でいるのは、間違いなくハブられたからだろう。

でなければ、こんなところにはいないからだ。

 

「どうした?鶴見」

 

「…………」

 

森から出てきた鶴見に話し掛けたが、無言で返してきた。

今小学生は確か、俺達と同じで自由時間のはずだったはずだ。

 

「どうして、分かったの?」

 

鶴見が言っているのは、隠れていたはずの自分に気付いたのか、という事だろう。

 

「生憎と俺はボッチ……いや、元ボッチなもんでな。視線には敏感なんだよ」

 

「……そうなんだ……」

 

鶴見は別にどうでもいいような感じで言った。俺は鶴見を見た瞬間にあることに気が付いた。

それは明らかに昨日、別れた時より気力が落ちていた事だ。

 

「それにしてもどうしたんだ?昨日より元気がないようだが?」

 

「……朝、起きたらみんな、部屋から居なかった……」

 

えげつないと思う。起こすこともせずに放置とは状況は思っている以上に深刻だな。葉山は話し合いで解決できると思っているようだが、その根拠はどこにあるのか、一度聞いた方がいいな。

 

「……そうか。それと鶴見に聞きたいことがあるんだが、いいか?」

 

「……うん。いいけど、何?」

 

「いじめられるのは嫌か?」

 

「……うん。でも、私もいじめたことがあるから……だから、仕方ないと思う。周りと合わせていたけど、それも何だか疲れたし……」

 

俺が思っている以上に鶴見は元気がなかった。小学生は元気の塊だと思っていたのにな。

俺は昨日、話し合った中で出水が出した案を話すことにした。

 

「だったら、鶴見。お前、ボーダーに入る気はないか?」

 

「……え?……ボーダーって、あのボーダー?」

 

鶴見は驚いていた。確かに年上の高校生からのいきなりの提案だからな。

 

「ああ、そのボーダーだ」

 

「……でも、どうして、私に?」

 

「いじめるのも、いじめられるのも、嫌なんだろ?」

 

「うん……でも、何でそうなるの?」

 

「それはな、昨日の夜に俺達の何人かがお前のいじめの話を始めて、何とか解決しようと、話し合いになってんだが、女子二人が口喧嘩を始めてお開きになったんだが、俺にお前の事を何とかしてくれ、って言っている奴がいてな。

俺としては、余り関わりたくはないんだが、俺としてもいじめをそのままにしたくはないからな」

 

「助けてくれるの……?」

 

「助けはしない。俺がするのは提案だけだ。選ぶのはお前自身だから、どんな結果になっても責任を取らない。その辺はよろしく」

 

鶴見は俺の話を聞いて悩んでいる。別にこのまま何もしないで、標的が変わるまで我慢すれば、いいだけの話だ。

これは鶴見の気持ちの問題なのだ。

一歩進むか、それとも立ち止まるのか、結局のところ、その二つだけなのだ。

 

「……八幡はボーダーなの?」

 

「まあな。これでも部隊の隊長をやっている」

 

A級とかは別に言わなくてもいいだろう。

このキャンプが終わって入隊することになれば、すぐに分かることだしな。

 

「ねぇ、ボーダーって、どうすれば入れるの?」

 

「ボーダーの公式ホームページを見れば、一発で分かるぞ。まあ、鶴見は未成年だから親の許可が必要だな。でも、丁度いいんじゃないか。母親、このキャンプに来てるんだし、この際いじめの事も話した方がいいだろ」

 

鶴見は再び悩みだしたが、すぐに答えを見つけたらしく、先ほどとは違って元気を少しだけ取り戻していた。

 

「うん。お母さんに全部、話すことにする。それでボーダーに入っていいか聞いてみる」

 

「そうか。まあ、決めるのはお前だし、それでいいなら、きちんと母親と話しておけよ」

 

「うん、ありがとう。八幡」

 

先ほどから思ったが、鶴見は年上の俺の事を名前でしかも呼び捨てで呼んでいるのが、気になるが別にいいか。

 

「ヒッキー!!」

 

俺が鶴見と話していると、由比ヶ浜が雪ノ下を連れて、此方にやって来た。二人とも水着だった。

俺のサイドエフェクトが言っている。『面倒な事になるぞ』と。

 

由比ヶ浜はビキニで雪ノ下はワンピースのような水着を着ていた。

しかし由比ヶ浜はいつまで俺の事を『ヒッキー』呼びする気だろうか?一方、雪ノ下は俺の事を睨みつけていた。

相手を睨み付けることしかしないとは、精神年齢は小学生並かもしれないな。

 

「ロリ谷君。小学生に手を出すのは良くないわよ。警察に連絡した方がいいわね」

 

「してみろ。雪ノ下建設の娘が、ただ小学生と話していただけで警察を呼んだ。そんなことになれば、さらに自由がなくなるぞ?」

 

俺に毒舌を放ってきた雪ノ下に反撃した所、苦虫を潰したような顔をしていた。何度見ても飽きないな、その顔は。

 

「ちょ、ちょっとゆきのん。そ、それで、ヒッキーは留美ちゃんと何を話していたの?」

 

「……それをお前らに言う必要があるのか?」

 

「やっぱり、小学生に性犯罪をするつもりなのね。警察が必要だわ」

 

雪ノ下はしつこいにも程があるだろ。そもそも彼女ができた俺が小学生に手を出すと本気で思っているのか?

だとしたら、こいつは筋金入りのバカだな。

 

「……はぁ~何で俺が鶴見に手を出した、前提なんだよ?ホント、バカだな。俺は鶴見にボーダーに入らないか、と提案していただけだ」

 

「……彼女をボーダーに?……それはどういう意味かしら?」

 

ホントに分かっていない様子の雪ノ下は首を傾げてきた。隣の由比ヶ浜も分かってはいなかった。てか、由比ヶ浜にマトモな案が出せるとは思えないが。

 

「別に自分が通っている学校以外で友達を作ってはいけないルールなんてないんだから、ボーダーで作ったっていいだろ?って話だよ。

鶴見がボーダー隊員だと知られれば、いじめをしようなんてする奴はいなくなるから、鶴見も気が楽になるだろうしな。

それにボーダーってのは、町を守る正義のヒーローだ。クラスで人気者になるかもしれないだろ」

 

俺が長々と説明すると雪ノ下が食い下がってきた。

 

「けれど、鶴見さんがそれを本当に望んでいるのかしら?」

 

「それに関しては問題ないぞ。俺の話を聞いて、入るって言ったのは鶴見本人だしな」

 

「うん、そうだよ。私が八幡から話を聞いて、自分で入りたいって言ったの。これなら問題ないでしょ?」

 

鶴見の発言は更に俺の発言を強くするものだった。これなら、雪ノ下といえど文句はないはずだろ。

しかし、雪ノ下はなおも食いかかってきた。マジでしつこい!!

 

「それは……ただの逃げよ。問題を解決した訳でも、解消した事にもならないわ。それでこの子が省かれない保障なんて、どこにもないわ!」

 

「ちょ、ちょっと、ゆきのん。もう、いいじゃん……」

 

「由比ヶ浜さんは少し黙っていて!!」

 

由比ヶ浜は雪ノ下を止めようとしたが、気迫に負けて押し黙ってしまった。

 

「逃げ?それが何だと言うんだ?逃げて悪い訳でもない。それにだ、例え学校で省かれてもボーダーで友達くらい幾らでも作れる。俺がそうなようにな」

 

俺がそう言うと、雪ノ下は苦虫を潰したような顔をしていた。笑えるわーその顔。

精神年齢はホントガキ以下だな。自分が論破されると、すぐに睨みつける事しかしない。

これでよく完璧な人間と自称できたな。

他人を認めず、自分こそが最も正しいと思っている。それこそが、こいつの間違いだ。

この世界のどこにも、完璧にして完全な、寸分すら、間違った事なんてないのにな。

 

「雪ノ下。この際だから、お前に言ってやる。お前は間違いだらけだ」

 

俺は雪ノ下雪乃の全てを否定する事にした。いい加減に、ハッキリさせて方がいい。

 

「私の……私のどこが間違っているのかしら?」

 

「全てだよ。他人の価値観を認めようとせず、強引に自分の意見を押し通そうとする事、そして逃げることすら許容しない、その傲慢さの事とかな。

だから、お前は成長できない……いや、成長しないガキなんだよ」

 

「………………」

 

雪ノ下は今度こそ、完全に沈黙してくれた。こいつが喋ると碌な事がないからな。

 

「ゆ、ゆきのん。もう行こうよ?ヒッキーごめんね。隼人君達には私から解決したって言っておくから」

 

「ああ、そうしてくれ。伝えていないと余計な事をしそうだしな」

 

伝えていないとマジで何をしでかすか、分かったものではない。あのイケメン王子様はな。

 

「それとな、由比ヶ浜。お前が謝る必要はないんだよ。謝るべきは雪ノ下だけだ」

 

「そうかしら?それにこんな人間なんかに謝罪する必要なんて無いわ。むしろ、私と同じ空気を吸っている事に謝罪してほしいわね」

 

雪ノ下が由比ヶ浜と二人で去ろうとした、その時に俺に向かって罵倒してきた。同じ地球に暮らしているのに、どうやって別の空気を吸えと言う気だ?こいつは。

 

「……だったら、吸わなきゃいいはずでしょ?」

 

鶴見がサラッとえげつない事を言った。最近の小学生はえげつなさ過ぎだ。しかも、鶴見が言った事が聞こえたらしく、雪ノ下は鶴見をもの凄い目で睨みつけていた。

今度は鶴見対雪ノ下の戦いが始まりかけていたが、雪ノ下を由比ヶ浜が強引に鶴見から離して行った。

 

「まったく、口が悪いのにも程があるだろ。年上にはできるだけ敬語を使えよ?でないとボーダーですら、友達を作る事なんて出来ないかもしれないぞ?」

 

「うん、分かっている。でも、さっきはあの人が全部悪い。……そうだ、メアド教えて」

 

「え?何で?」

 

「ボーダーについてもっと知りたいから」

 

鶴見が俺のメアド知りたいなんてな。小学生とメアド交換なんて、雪ノ下が聞いたらまた警察を呼ぶとか喚きそうだ。

 

「ああ、構わないぞ。後で教えてやるよ」

 

「うん、分かった。でも、試験に落ちたらどうすればいい?」

 

「その時はオペレーターだな。そっちはトリオン量関係していないしな」

 

「分かった、ありがと」

 

「まあ、気にすんな」

 

「じゃあね、八幡。今度連絡するから」

 

鶴見はそう言ってから、来た道を戻って行った。見た感じ、足取りは軽いように見えた。

俺は鶴見を見送ってから、再び川遊びをボーダー組と一緒になってやった。

その後で、ボーダー組に鶴見の事を話した。シノンと陽太郎は納得してくれた。


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