やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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川崎沙希④

小町が仮入隊でどの位の実力を付けたかを知りたいのとアドバイスなどを言うためにC級ブースに来たのだが、そこで川崎と出会ってソロ戦をする事になるとは思いもしなかった。

でも、小町と組むから将来的にアドバイスなどを言うかもしれないのでここである程度は知っておいてもいいだろうと思う。

川崎のメイントリガーは俺と同じで『弧月』だ。万能型のブレードだから使う隊員は多いのでそれほど珍しくはない。

 

とりあえずは小町と同じで10本勝負をする事にした。

転送されて俺と川崎は弧月を抜刀して構えていた。俺は右手だけで持ち、川崎は両手で持っている。何処となくだが、剣道の構えをしているように見える。

恐らく剣道の本とかを参考にしているのだろう。

 

「それじゃ川崎、お前の実力見せてもらうぜ」

 

「行くよ比企谷」

 

川崎からの連続攻撃を捌ききって確信した。予想通り、川崎は剣道の動きを参考にして戦っている。

俺からすれば『綺麗な戦い』だ。これは職場見学の時の雪ノ下に近いと言っていい。

雪ノ下のは護身術の一環で槍術を習ったと言っていたからこそ、雪ノ下の戦いは『見せる戦い』だった。

実際に刃の付いたもので戦うわけにはいかないからそう見えるだけかも知れないが、俺としては、もう少しだけ型に嵌らない戦いをした方がいいと思う。

 

「川崎。もう少し踏み込んで切りかかった方がいいぞ」

 

「……分かった。やってみる」

 

川崎は俺のアドバイスを聞いてさっきよりも踏み込んで切りかかってきた。素直にアドバイスを聞いてくれるのは有り難い。

これが雪ノ下や由比ヶ浜だったら、俺に罵倒を浴びせたり、こっちの指示を無視するのが容易に想像出来る。

 

「川崎は俺と同じように片手で弧月を使ってみたらどうだ?」

 

「……片手で?どうして?」

 

「俺が見た感じ川崎は片手で弧月を使って、空いている手でガンナーかシューターのどちらかを入れて戦った方が合ってると思うからぞ。まあ、俺としてはだけどな。決めるのは川崎自身だ」

 

俺は川崎の戦い方に少し違和感を感じたのでそれを言ってみた。トリガーの内容を決めるのは川崎の自由だし、俺が強制するものじゃない。

自分に合ったトリガーと戦い方で戦った方が十分に実力を発揮できると言うものだ。

 

「……ガンナーか、シューターか……」

 

さっそく川崎は考えているようだが、自分が今何をしているのか忘れているな。考えるのは今はやめて戦いに集中してもらわないとな。

そもそも俺がアドバイスが原因だけど……。

 

「川崎。とりあえずは考えるのは後にして、俺との戦いに集中してくれ」

 

「……え?……あ、ごめん」

 

とりあえず川崎を現実に連れ戻せてよかった。すると川崎はさっきの俺のアドバイスを聞いてか、片手で弧月を構え直していた。

聞いてすぐにやるとか早すぎだろ……。川崎自身がいいと思うならそれでいいんだけど。

 

「川崎。俺のアドバイスを聞いてくれるのは嬉しいが、だからと言って常に片手持ちでなくてもいいんだぞ。状況に応じて両手、片手持ちに切り替えるようにする。その事を気に掛けてくれ」

 

「……分かった。やってみる」

 

川崎は両手、片手で弧月を持ち替えて攻撃したり、防御した。大分、自分の戦い方が見つかってきたのではないのかと思う。

川崎の状況把握能力は高い。

その証拠に川崎は攻撃の時は片手持ちにしている。片手だと両手より少しだけ距離を伸ばせる。

そして防御の時には両手持ちにしている。両手ならしっかりと持ち応える事ができる。

 

俺は何で小町が川崎を隊長にしたか、分かった気がする。小町は分かっていたのかもしれない。

川崎なら隊長を務める事ができると。

 

「だんだん動きはよくなっているが、まだ固い所があるからその辺りを意識して攻撃や防御してみろ」

 

「分かった。やってみるけど……」

 

「すぐにやれとは言わない。けど、B級に上がってソロ戦し始めるとそこを突かれて負け続けるかもしれないからな。慣れていけばで良いんだよ。今はコツコツとやっていくしかないからな」

 

「……アドバイス、ありがとう比企谷。あたしなりにやってみる」

 

川崎は自分の戦い方がある程度……と言ってもまだ形にすらなっていないが、その原型はイメージが出来ているようだった。

 

 

 

 

 

「……はぁ~さっきの戦いや職場見学の戦いを見ていたけど。比企谷って強すぎ……」

 

川崎は初のソロ戦を終えてソファーに座って先ほどの俺との戦いを思い出して、愚痴っていた。

戦績は10本中9勝1引き分けに終わった。

最後の1本を引き分けに持ち込まれたのは正直驚いた。それまでアドバイスをしてきたが、川崎はそれを聞くたびに的確に直していき、最後を引き分けにした。

 

「最後のは良かったと思うぞ。俺は」

 

「……でも、1本も勝てなかった。1勝位はしたかったから……次は絶対に1本獲ってみせるから」

 

川崎はよほど悔しかったようですでに次の戦いの事を言っている。負けず嫌いなんだな川崎は。

 

「だったら沙希さん。お兄ちゃんの弟子になったら、どうですか?」

 

「「はぁ?」」

 

俺と川崎の言葉が被った。てか、小町は何を言ってやがる。川崎まで弟子にしたら、周りからの視線が恐ろしい事になる。特に男子から。

それに比企谷隊は周りから『八幡ハーレム』なんて言われているんだぞ。

那須と双葉はボーダーではそれなりに人気があるので、これ以上何かを言われたくない。

 

「いや、小町。俺はこれ以上弟子は取らないと決めていてだな……」

 

「……お兄ちゃん。今すぐ沙希さんを弟子にしないと明日からトマトだらけのご飯になるよ?」

 

「喜んで弟子を取らしていただきます!」

 

「うんうん。素直なお兄ちゃんは小町大好きだよ」

 

小町からの川崎を弟子にしろとおど……では、なく……お願いされては仕方ないな。

それにトマトだらけのご飯は食べたくはない。俺は大のトマト嫌いなんだからな。

 

「ちょっと、小町!」

 

「沙希さんだって、早く強くなりたいですよね?」

 

「そ、それは確かにそうだけど……でも、良いの?なんか勝手に決めてるけど……」

 

「ですよね。それにお兄ちゃんにはもう2人弟子がいますし、1人位なら問題無いですよ」

 

小町よ……お兄ちゃんの意思を無視しないでくれ。……でも、今更1人位なら別にいいか。

 

「……まあ、俺の弟子になるか、ならないかは川崎次第だから……お前が決めろよ」

 

「……それじゃ、よろしくお願いします」

 

川崎は俺の弟子になることを決めたようで、頭を下げてきた。どこぞの毒舌社長令嬢もこれ位に礼儀正しければ、いいんだがな。

まあ、無理か。あいつの性格は死んでも直らないだろう。

 

「とりあえずはもうワンセット、やっておくか?」

 

「よろしくお願いします」

 

「……川崎。頼むから敬語はよしてくれ。同級生に敬語使われると無性にムズムズする」

 

「分かった。それじゃお願い」

 

「おう。了解」

 

川崎に敬語で頼まれた時、無性に嫌な感じがした。歳下ならいいんだが、同級生に敬語を使われると落ち着かない。

でも、雪ノ下には是非とも敬語で頭を下げさせたいと思っている。

きっとその時の顔は屈辱に歪んでいるに違いない。考えただけで笑えてくる。

おっと、今は川崎に色々とアドバイスを言ってやらないとな。

 

「そう言えば、川崎はB級に上がったらポジションはどうするんだ?」

 

「ポジションか……オールラウンダー、かな……」

 

川崎は小町と同じくオールラウンダーと決めたようだった。まあ、弧月を使うからアタッカーかオールラウンダーのどちらかだろうと思っていた。

オールラウンダーでメインが同じ弧月なら小町よりかは教え易いから丁度いいか。

こうして俺は川崎沙希を3人目の弟子として迎えることになった。

今度、那須や双葉と顔合わせ位しても良いかもな。

 

「……とりあえず今日はこんなもんだろ。何か他に聞いておきたい事とかあるか?」

 

川崎とのソロ戦を終えて、戦績は俺の10勝で俺が完勝した。そして俺はアドバイスを言った後に川崎は雪菜ともソロ戦をした。

戦績は惨敗で終わってしまった。まあ、俺から1引き分けしたのは俺が少し油断していたのが原因だからな。

その点、雪菜はどんな相手だろうと油断せずに全力で挑む。それが雪菜のいいところだ。

 

「……B級に上がったら、他にもいくつかトリガーを選べるって聞いたから、比企谷のお薦めのトリガーってある?」

 

「……川崎に合ったトリガー、か。ハウンドなんかお薦めだな」

 

「その、ハウンドってどんなトリガーなの?」

 

「追尾弾って言ってな。真っ直ぐに飛ばずに相手をある程度追いかけるんだよ。中々使いやすいと俺は思うから入れた方がいいな」

 

「……ハウンド、ね。ありがとう比企谷」

 

川崎にはハウンドを薦めたが俺は使ってないんだよな。どちらかと言えばバイパーの方が使いやすい。

川崎がB級に上がった時に聞いてくれば、アドバイスしてやればいいか。

それにしても小町の様子を見に来たら、3人目の弟子ができるとはな。これ以上は増やしたくはない。増やすとしても後1人位だ。

 


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