やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
水族館はリア充の巣窟だ。
小学生の時に俺はクソ親父からそう教わった。
その理由がリア充のデートでは定番の場所で男女のイチャイチャを金を払って見ないといけない?とクソ親父がそんなことを言っていた。
だが、本当の理由を俺は知っている。息子の俺のために貴重な休日を使いたく無かったからだ。
小町が『行きたい』と言えば、それこそ日本一、いや世界一の水族館に連れて行きかねなかった。
だからなのか、そんなクソ親父に洗脳されたか。俺は水族館が嫌いになっていた。まあ、彼女や一緒に行く友人が居ないなら別にいいかなと思っていた。
しかし彼女なんて出来るわけないと思っていたが幼馴染の浅葱と恋仲になるとは人生何があるか分かったものではないな思える。
だが俺は今浅葱とは違う女性と水族館に来ている。恋人がいるのにお前は何をしているんだ!と言われて仕方ないが、こればかりは申し訳ないと思っている。
「見ましたか今の?凄い高さまで飛びましたよ。イルカってあんなにも高く飛ぶんですね」
「……まあ、イルカの泳ぐ速さはだいたいが時速6~15kmって言われているからな。確か小型のイルカで時速55kmで泳ぐ事が出来たはずだ……」
「物知りですね。『八幡先輩』」
「そうでもない。……しっかし今更だけど、その呼び方が正しいんだが、お前が言うと何か違和感があるな……」
「ふふっ……確かに自分でも変な感じがしますが、そもそもは八幡先輩が始めに言ったじゃないですか。ここでは『先輩呼び』にしろと」
確かにそうだ。ボーダーでは夜架の中二病は周知の事実なので、それ程問題ではないんだが、公共の場所だと問題だ。
ボーダー基地や学校でもある程度は許せる。まあ、学校じゃ俺はあんまり人と関わろうとしないからそんな周りに人はいないからな。
でも公共の場所ではさすがに駄目だ。夜架が俺の事を『主様』呼びした時には周りからの視線で俺の心のHPをゴリゴリと削っていく。
「……はぁ~俺は何でここにいるんだろうか……」
俺が夜架と水族館に行く事になったかと言うと母ちゃんが原因だ。
水族館に行く予定だった仕事の同僚が急に行けなくなり、母ちゃんがチケットを貰って俺に渡してきたのだ。
『浅葱ちゃんと水族館デートでもしてきたら?』と言って渡してきたが、その日に限って浅葱は家の用事で都合が合わなかった。
それでシノンと行こうかなと思ったが、国近先輩とゲームをしていると言ってきたので誘うのはよした方がいいと思い誘わなかった。
そこで雪菜を誘おうと思ったが、小町と川崎のソロ戦の相手をするので丁寧に断れてしまった。
だから、残った夜架を誘うことにした。
そして俺と夜架は水族館に来てイルカショーを見ていた。ショーは中々の迫力だった。
「私としてはあ……八幡先輩に誘っていただけただけで嬉しいですよ」
俺の事を『主様』と呼びかけた夜架だったが、何とか言い直した。まあ、夜架は自称俺の従者だからな。俺からの命令は絶対に守り通そうとするから大丈夫だろう。
「……俺としても誘った訳だし、そう言って貰えて安心したよ……」
「だった八幡先輩も楽しまないといけませんよ?……それに私としても八幡先輩を独り占め出来るので、この日を思う存分に楽しもうと考えています」
夜架の言う通りだな。一先ずは楽しむ事を考えないと夜架に失礼だし、チケットをくれた母ちゃんにも悪いからな。
「水族館に来るのは久し振りだな。夜架はどうなんだ?」
「私も久し振りです。小学校の時に来たのが最後だったはずですから」
やはり夜架も久し振りだったようだ。ここ3~4年辺りはボーダーでの防衛任務やランク戦で余り遊んだ覚えがないな。
そもそも俺はボッチだった訳だしな。
「それにしても今日の服は何だかいつものお前からは全然想像出来ないな……」
「そうでしょうか?私だって、こういう服くらい着ますよ」
俺が指摘した夜架の服は黒いフリルの付いたゴスロリ服だ。夏にはあまり似合っているとは思えない。だが、夜架が着ていると何気に似合っていた。
そもそも暑くはないんだろうか?一応に生地は薄くはある様だが、見てるこちらとしては暑く感じてしまう。
しかし不思議だ。いつもの見慣れた夜架とは違う服装や髪型だけで印象がガラッと変わるのもなのだな。
そんな事を考えているとイルカショーは終わった。
「ショーは終わったし、見て回るか」
「そうですね。時間はたっぷりとありますから」
ショーを見終わった俺と夜架は水族館を色々と見て回ったが、俺はいつもと違う夜架に内心ドキドキしていた。
夜架は『黙っていれば美人』と言うヤツだ。
だが、中二病がそれを台無しにしているが、俺としては個性的で良いと思う。
雪ノ下だったら『それは逃げよ!』とか言いそうだと簡単に想像できてしまう。
でも、夜架にとって『中二病』とは現実逃避であるのだ。
夜架は約4年前の大規模侵攻の時に目の前で両親が殺されたのだ。そんな彼女は現実からは逃げ出した。
それが『中二病』だ。
それか三輪のように復讐に燃えるのもまた一つの手だと俺は少しだけ思う。
「……どうかしましたか?」
考え事をしていると夜架が少し不安そうな顔をしていた。考え事をしていたとは言えないな。適当に誤魔化しておくか。
「……いや、ちょっとな……」
「そうですか?何かあれば言ってください。私はいつでも主様の手足として動く覚悟がありますので」
「……そう言うのはいいから……それと夜架、呼び方が戻っているぞ」
「ふふっ……これは私とした事が……うっかりしていました」
そう言う夜架の顔はどこか楽しそうな、それでいて俺の事をからかっているようだった。さっきまで考えていた事がバカバカしく思えてきた。
「……はぁ~お前な……」
「せっかく水族館に来ているのですから余り余計な事は考えずに楽しみましょう」
それは確かに夜架の言う通りだ。来たのだから楽しまずに帰れない。
「あ、ペンギンがいますよ」
「ペンギンか……」
「どうかしましたか?八幡先輩」
「いや、少しペンギンを見て思い出した事があってな……くだらない事だから気にしないでくれ……」
ペンギンを見てつい思い出してしまった。中学時代に昼休憩に図書室に通い詰めていて、図書室の本を読破してしまった。
我ながらボッチライフを満喫していたな……あの頃は。
「そう言われると余計に気になります。ぜひ聞かせてください」
「……そこまで言うなら、でも本当にくだらないからな。……ラテン語でペンギンの事を肥満と言うんだ……」
「なるほど。確かに少し肥満気味の体形をしていなくはないですね。勉強になります」
夜架は検討違いな事を言っている。普通の女子はそんな事を言わないだろう。
例えば「もう~余計な事を言うから気分が最悪!」とか「ペンギンを見る度にそれを思い出して、もうペンギンが見れないじゃん!」などを言いそうなものだが?
そう言えば、夜架は『中二病』だったな。それでは他の女子とは違うはずだ。
そもそも俺が一般的な女子を知らないもの原因か……。
水族館を一通り楽しんだ俺達は軽く昼食を摂ってから本や服など数点買ったが、意外だったのが、夜架の私服センスが抜群によかった。
「ここまででいいですよ」
「いいのか?もう少し送ったっていいんだぞ?」
「はい。ここまで十分ですし、これ以上ですと主様の家から遠ざかりますか」
買い物を終えて夜架を家まで送っていたのだが、その途中で夜架が言ってきた。俺としては家の前で送ってもよかったんだが、本人がいいと言っているので深くは言わない。
「……そうか。分かった。気を付けてな」
「はい。では、またです。八幡先輩、少しいいですか?」
「うん?何だ……ん!?……」
俺の目に夜架の顔がドアップで映り込んできた。てか、今俺夜架にキスされているのか?何で?
「……ご馳走様でした。主様」
「……お前、今……」
「はい、キスをしました。主様、私は貴方が好きです。例え浅葱先輩と付き合っていても私はこの気持ちを伝えておきたかったのです」
「……そうか。俺なりにそれには応えていくつもりだ」
「その言葉を聞けただけで十分です。主様」
もうすでにいつもの感じに戻ってしまった夜架を見送った俺も家への道を歩いていた。
今日は中々良い日になったと心の底から思えた。
夜架からのキスには驚いたが、彼女からあんな事をするようになったと喜ぶべきか?彼女が居るのに他の女の子と出掛けた事を後悔するべきか。
俺は家に着くまでにその答えを見つけることが出来ないでいた。
ベッドに横になり今日の事を思い出していた。夜架の表情が最初に会った頃より大分柔らかくなってきたと思うと今日は出掛けて良かったと言える。
これからも彼女が今日みたいな顔を出来ると良いなと俺は思っている。だからこそ俺はしっかりしないといけないと思い、気を引き締めた。