やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー   作:新太朗

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比企谷八幡&藍羽浅葱④

カーテンで光を遮られた体育館に集まった生徒の声が響き渡っている。時間を確認してみると開始5分を切っていた。

しばらくしているとステージの方からカウントダウンを数える声が聞こえてきたのでそろそろ開始だな。

 

『5…4…3…2…1…』

 

カウントダウンが終わったと同時にステージが一斉に光り出した。

 

『お前らー!文化しているかー?!』

 

「「「うおおおお!!」」」

 

生徒会長のマイクの声に生徒達が声を上げた。体育館で叫ぶので耳に来る。

 

『千葉の名物、踊らにゃー?!』

 

「「「シンガッソー!!!」」」

 

叫び声の後にステージの上ではパフォーマンスが始まった。てか、文化しているってどういう意味だよ?

これはあれか?リア充にしか分からない言語なのか。だとしたら俺には理解出来ないな。

学校生活は今年の春からある教師の所為で最悪と言ってもいい位だからな。

 

『それでは相模実行委員長よりご挨拶です』

 

俺が少し後ろ向きな事を考えてるとパフォーマンスがいつの間にか終わって、生徒会長が上手袖に相模を呼び込んだ。

ステージの上に立つ相模の表情はガチガチに固まっていた。まあ、無理もない。

誰だって全校生徒と来賓の人達を前に緊張しない奴はいないだろう。いや、嵐山さんなら出来るかもしれない。

 

「はーーーーー!!」

 

ガチガチの相模がマイクを持ち、一言放った瞬間に『キーーーン!』とハウリングが起ってしまった。相模にとって最悪なタイミングだ。

先程の相模の行動に体育館の中は笑いが起った。俺が思う限り悪意は無い事と分かるが、相模がこれをどう捉えているかは容易に想像出来る。

 

相模の視線が下に下がっているので、相当恥ずかしがっているな。真面目に実行委員長をしていれば少しは助けたやったものを……ホント、救ってやる価値はないな。

 

『で、では気を取り直しまして、相模委員長、どうぞ』

 

流石の生徒会長も不安でしょうがないのかフォローに回る事にしたらしい。

生徒会長の声で再起動して、相模はポケットからカンペを取り出したが、あっさり落してしまった。

 

またしても群集から笑いが起った。てか、初めからカンペを出す奴がいるか?普通は頭の中に覚えて、最終手段として使うのが当たり前なのにな。

カンペがあればスムーズに言えるかと思っていたが、相模はそれでも途中で噛むし、つっかえながらも進めた。

たかが挨拶でここまで手こずるとは思いもしなかった。

 

こんな事なら色々と仕込んで相模を精神的に追い詰めてから綾辻辺りを委員長にすれば良かったぜ。仕事は他人任せ、自分はろくに何もしない相模を実行委員長にするべきではなかった。

そもそも教師陣がしっかりと監督していれば良かったのに教師は何をやっているんだか。

 

「ぷっ……あんな惨めな姿晒して、情け無いな」

 

「自業自得だろ。他人任せで自分の役割もろくにこなせない奴だからな」

 

「エンディングセレモニーもこれじゃ見るまでもないな……」

 

近くから実行委員を手伝ってくれた人達の相模に対しての陰口が聞こえてきた。彼らの気持ちは俺にも十分理解出来る。

 

「がんばっがんばっ!!」

 

「しっかりーー!」

 

陰口も聞こえてきたが、相模を応援する声も聞こえてきたのは先程の笑い?がお客さんにウケたおかげだろう。

ぼんやりと考えていると相模の挨拶が終わり、次々とプログラムが進行していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オープニングセレモニーが終わり、俺は自分のクラスの前で浅葱が来るのを待っていた。

浅葱から一緒に文化祭を回ろうと言ってきた、待ち合わせに俺のクラスを指名してきた。なのでさっきから来るのを待っている。

 

「八幡。お待たせ」

 

「おう、浅葱。それでどこから行く?」

 

「初めは八幡のクラスよ」

 

そう言って浅葱は俺のクラスを指差した。……え?マジか?!

 

「え、あ、その……浅葱。別のクラスにしないか?ほら夜架のクラスがなんだか面白そうだしさ!そうしよう」

 

「……やっぱり、何か隠しているよね八幡。私に言えない事?」

 

「そ、そう言う訳ではないけど……頼む!ここだけは辞めてくれ」

 

ここは絶対に浅葱を説得して離れたいと不味い事になる。浅葱が腐女子にでもなったら彼氏として今後、どう接して行けばいいんだ!

ここは土下座でもして阻止しないといけない。

 

「それじゃ行くわよ!」

 

これから土下座をしようとした所、浅葱に腕を掴まれて教室に入らされてしまった。これはもう、見るしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇が終わり11時半になろうとしていた。役になりきっていた戸塚には癒されるな。流石は俺の癒しの天使だけの事はあるな。

今度から戸塚の事はトツカエルと呼んでみたい。

 

「それにしても八幡があれ程、止めるから内容が相当ドロドロしていると思ったけど、そうでもなかったわね」

 

「ああ、それは俺も驚いた。途中から実行委員の方ばかり出ていたから内容がまともになっていた事に気がつかなかったな」

 

恐らく葉山辺りが修正したのだろう。たまには良い仕事をするな、葉山。たまには。

 

「これからどうする?少し早いけど、昼飯にするか?」

 

「そうね。でもちょっと待って。私トイレに行って来るから」

 

「分かった。何か適当に買っておくわ」

 

「うん。それじゃ行って来るわね」

 

浅葱はトイレに行き俺はとりあえず昼飯を買いに行く事にした。

 

「ヒッキー!」

 

昼飯を買いに行こうとしたら、由比ヶ浜に呼び止められた。面倒だな、こいつ。

 

「俺に何か用か?由比ヶ浜」

 

「えっと……ヒッキーってさ、明日暇?」

 

由比ヶ浜が俺を呼び止めた理由がなんとなく分かった。二日目の一般公開の明日、一緒に回ろうとかその辺りだろう。誰がお前と回るか!

 

「明日は浅葱と回る予定だから無理だ」

 

「どうして、あいあいと回るの?」

 

「ちょっと前に約束していたからな」

 

もちろん、そんな約束をした覚えはないが、自然と浅葱と回るように行動してしまった。これは由比ヶ浜に対しての言い訳だ。

絶対にこいつとは文化祭を回るつもりはない。

 

「そ、そうなんだ……じゃあ、一緒に回っていい?」

 

「いや、なんで三人で回らないといけないんだよ?お前と一緒に回って何になるんだよ?」

 

「えっと、その……みんなで回った方が楽しい、みたいな?」

 

由比ヶ浜と回って楽しい訳ない。あまり長引かせると面倒だな。ここは実行委員を言い訳に使うか。

 

「俺は実行委員の浅葱と少しやる事があるんだ。だから無理だ」

 

「そ、そうなの?」

 

「そんなに誰かと回りたいんだったら雪ノ下でも誘ってみろよ。お前ならきっと喜ぶぞ。それじゃな」

 

「ま、待って、ヒッキー!」

 

俺は由比ヶ浜の呼び止めたが、その前に走ってその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイレから戻ってきた浅葱と合流してから昼食に荒船先輩のクラスがやっている模擬店に寄ってサンドイッチやから揚げなどを買って中庭で食べた。

 

「ご馳走様。じゃあ私は遥と明日の打ち合わせがあるから」

 

「おう。頑張れ」

 

そう言って浅葱は綾辻と明日の確認をするらしく昼食を食べてすぐに会議室に向かった。

 

「……ここに居たのね、比企谷君」

 

「……雪ノ下か。副委員長のお前がこんな所で油を売っていていいのか?明日の準備があるんじゃないのか?」

 

浅葱がいなくなって入れ代わるかのように雪ノ下がやって来た。こいつから俺の所に来るとはな。これまでの傾向からどうせ毒舌を繰り出すに違いない。聞き流そうと心の中で決めた。

 

「城廻先輩から聞いたわ。貴方がルーム長を召集する案を綾辻さんに言ったそうね?」

 

「その前に一ついいか?」

 

「何?」

 

「城廻先輩って、誰?」

 

「……貴方、本気で言っているの?」

 

「そうだが?何か不味い事でも聞いたのか?」

 

雪ノ下は信じられないと言わんばかりの顔をしていた。不味い事でも聞いたか、俺。

 

「……生徒会長よ。城廻めぐり生徒会長。貴方、それでもここの生徒?」

 

「生憎とボーダーの関係者でもないし、卒業したら会う事もない先輩の名前を覚える気にはなれないな」

 

「……はぁ~」

 

俺がそう言うと雪ノ下は頭を抑えて溜め息を出した。溜め息を出す程か?

 

「……話が逸れたわね。それで何を企んでいるのかしら?」

 

「唐突だな。でも聞きたい事はなんとなく分かる」

 

雪ノ下は俺の行動が気に入らないらしい。自分がどうする事も出来ない状況を二度もどうにかしてしまった俺が。

 

「まあ、お前のやり方で文化祭が潰れたらここに来る小町ががっかりするかもしれないからな。あ、でも文化祭が潰れてお前の悔しがる顔を見るのも良かったかもしれないな」

 

「……っ!!」

 

余程、俺の皮肉が効いたらしく雪ノ下は俺を強く睨み付けてきた。まったく恐くないな。

そもそも睨み付けて来る時点で自分が間違っていると俺に言っているようなものだ。

そろそろ時間だな、教室に戻るか。

 

「それじゃ最後に忠告だ。自分が出来もしない依頼は受けない方がいいぞ」

 

「……どうして貴方が知っているのかしら?」

 

「……やっぱり奉仕部を新しく作ったようだな」

 

「…………」

 

俺の思った通り廃部してから新しく作ったようだ。まったくふざけた性格しているなあの独身暴力教師は!

雪ノ下はまだ黙って俺を睨みつけ続けている。そろそろマジで行くか。

 

「まあ、頑張れよ。文化祭が終わってもお前には仕事があるんだからな。相模の依頼を受けたんだ。相模がヘマしないようにしっかりと支えてやれよ副委員長?」

 

俺は雪ノ下に言いたい事を言えて少しスッキリした気分で居た。なんにしても文化祭初日は終わった。

明日は今日以上に騒がしくなるだろう。

 


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