やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
文化祭のエンディングセレモニーがもうすぐなので校舎には殆んど人はいなかった。
それにしても相模は屋上に向かっていた気がしたが、閉会式に出ないつもりか?
まあ、それで怒られるのは相模だから俺の知った事ではないが、文化祭を台無しにするつもりなら俺が用意した『保険』を使うだけだ。
その『保険』を使えば、恐らくエンディングセレモニーは問題なく行えるはずだ。
使ったら相模は学校ではデカイ態度は取れないだろう。三浦といい、何で俺のクラスには女王気質な奴が二人もいるんだろうか?一人で十分だ。
「あ、川崎」
「……比企谷」
体育館に向かっていると川崎と出会った。まだ、校舎に人が居たよ。
しかし、何でここに居るんだ?
「川崎は体育館に向かわないのか?」
「……あたし、人ごみが苦手だからギリギリに着こうかなと思って、そう言う比企谷は?」
「俺も似た理由だな。遅く行っても間に合えば問題ないかな」
とりあえず、俺は川崎と体育館に向かって歩き出した。ふと川崎にボーダーの事を聞いて見る事にした。
「川崎はまだC級なのか?」
「……うん。でももう少しでB級に上がれるからトリガーの内容について相談したいんだけど、いい?」
「ああ、別に構わないぞ」
川崎はもう少しでB級か。ちなみに小町と鶴見はすでにB級になっている。
これで川崎隊は隊長の川崎を残すだけか。B級ランク戦ではどんな戦いをするのか楽しみだ。
これは小町から聞いた事だが、葉山、由比ヶ浜、戸部はまだまだB級に上がるのは無理らしい。
雪ノ下さんはすでにB級になったとか。中々、やるな。あの人。
体育館に着いてみるとエンディングセレモニーの前の有志団体のステージだった。しかも大トリには葉山グループのバンドだった。
メンバーは葉山、三浦、海老名、由比ヶ浜、戸部と名前が分からない女子一名の六人だった。てか葉山ってギター出来たんだな。
三浦と名前が分からない女子の二人がどことなく睨み合っていた。睨む暇があるならしっかりやれよ。
そんな二人を由比ヶ浜と海老名がサポートしていた。
「比企谷君」
「ん?氷見か」
葉山達のバンドを見ていると氷見が近付いて来た。その顔はまだ少し赤かった。
「例の写真の事は誰にも言わないでよ」
「もちろん、分かっている」
氷見と烏丸のツーショットが知れ渡ればどんな争いが始まるか想像したくはない。
氷見は実行委員が集まっている場所に向かって行った。
「八幡!」
「どうしたんだよ浅葱。何か問題でも起こったのか?」
「相模さん見なかった?」
浅葱が急いでこっちに来て相模の事を聞いてきた。どうも実行委員は所在を知らないらしい。見かけた事を教えておくか。
「相模ならさっき見かけたぞ」
「どこで?!」
「昇降口の近くで……20分前位だな。もしかしてまだ来ていないのか?」
「そうなのよ。どこに居るのよ」
ああ、やっぱり逃げたか。予想通りだな。『保険』を準備していて正解だったな。
一応、綾辻にメールでもしておくか。
「探すの手伝おうか?浅葱」
「……生徒会と実行委員が数人探しているからいいわ。ありがとうね八幡」
探すのを手伝おうとしたが、浅葱はいらないと言ってきた。そしてすぐに浅葱は体育館を出て校舎の方に走って行った。
そろそろ閉会式が始まる時刻のはずなのに相模が来ている様子がない。
しばらくして舞台袖から綾辻がマイクを持って出てきた。
『実行委員の方で少し問題が発生してしまい、閉会式はもうしばらくお持ちくだい』
綾辻が出てきたと思ったら頭を下げてきて、閉会式が遅れる事を言った。
つまり相模はまだ来ていないのか。つくづく無能委員長だな。
『つきましては繋ぎとして有志団体の演奏をお楽しみください』
綾辻が舞台袖に下がったと同時に葉山達が出てきて演奏を始めた。これは相模を探し出して連れてくるまでの時間稼ぎなのだろう。
それにしても葉山って、ギター上手いな。イケメンで運動できるって、どこのラノベ主人公だよ。
「……大丈夫なのか?」
「何がよ?比企谷」
「いや、何でもない」
独り言を川崎に聞かれて、恥ずかしい!!俺が心配しているのは浅葱が探しに行って大分時間が経過しているという事だ。
「モグワイ。浅葱のスマホの現在位置は?」
『お嬢は今、校舎を移動中だぜ。ケケッ』
「そうか……」
浅葱の事が心配でモグワイにスマホのGPSの位置情報から現在位置を聞いたらまだ校舎の方にいるようだ。
「相模の位置は流石に分からないよな?」
『旦那、流石にそれは分からないぜ。あの嬢ちゃんがスマホの電源を落しているからな。ケケッ』
「そうだよな……」
流石のモグワイもスマホの電源が落ちていたら探すものも探せない。それにしても生徒会も実行委員もたった一人のためによくやるよな。
逃げ出した無能を探す暇があったら代役でも立てて閉会式をすればいいのに。
生徒の中には閉会式を始めない実行委員に苛立ちを感じている人間は少なからずいるはずだ。
いくら葉山が繋ぎをしたところで10分持てばいいほうか。居場所も分からない人間を探して説得するのに10分ではとてもじゃないが時間が少ない。
葉山達の演奏が終わってしまったが、それでも相模が出て来る気配はない。
その代わりに雪ノ下が葉山と入れ代わりで出てきた。雪ノ下の他に由比ヶ浜、生徒会長の城廻先輩と雪ノ下さんに平塚先生まで居た。
今度は彼女達が演奏を始めた。
しばらくして俺のスマホが振るえたので見てみると綾辻からのメールだった。
内容は
『メールを返すのを遅くなって、ゴメンね。比企谷君から集計結果を送って貰ったんだけど、雪ノ下さんの判断でぎりぎりまで相模さんを待つ事になって、今探してる最中なの』
と結構長めのメールが返って着た。綾辻も大変だな。
雪ノ下はあくで相模が来ると思っているらしいな。ホントに来ると思っているのか?雪ノ下は。
そして雪ノ下達の演奏は終わってしまった。体育館には拍手喝采で雪ノ下達の演奏を称えていた。
由比ヶ浜がヴォーカルだったが、途中で雪ノ下までもが歌っていたからな。歌詞くらいしっかり覚えろよ、由比ヶ浜。
雪ノ下達が舞台袖に帰っていき、その数分後に雪ノ下が再び出てきた。今度は一人だけで、マイクを持っていた。
どうやら閉会式を始めるようだ。本来の閉会式から約30分も経っていた。
『大変長らくお待ちしました。これより閉会式を始めたいと思います。本来なら挨拶は相模実行委員長なのですが、彼女は体調不良のため、代理として私が務めさせてもらいます』
雪ノ下はまず遅れた事を謝罪してから閉会式を始めると言った。相模は体調不良ということにしたようだ。
雪ノ下は表情に出してはいないだろうが、相当悔しいだろうな。
相模は奉仕部に依頼したと思う。恐らく『文化祭実行委員での自分のサポート』でも依頼したのだろう。
でなければ、雪ノ下がいきなり副委員長になるわけない。
『……ではまず地域賞から発票していきます』
そう言って雪ノ下は次々と各部門の上位を発票していった。体育館の居る全員が雪ノ下の発表していく姿に見惚れてる気がした。
まあ、高二であそこまで凛々しい姿で壇上に立っているからな。相模とは大違いだ。
しかも雪ノ下の奴、一度もカンペらしきものを出さなかった。
賞などの内容を全て暗記したのか?まあ、俺もそれくらい『サイドエフェクト』があるから楽勝だけどな。
『……以上を持ちまして第〇×回総武祭を終了いたします。皆様、お疲れさまでした』
これで漸く文化祭も終わりか。終わってみると呆気ないものだな。
来賓は帰り、生徒は教室に一度集まってから方付けをしてから帰れる。
「それにしても何で、終わりの挨拶は雪ノ下さんだったのかな?」
「それが実行委員長の相模さんが閉会式直前で逃げたらしいよ」
「え?それって、マジ?!」
「マジで!ホント情け無いよね。最初は頼りないだけかと思ったけど、最後は逃げ出すんだもんね」
「あれでよく実行委員長しようなんて思ったよね」
体育館から教室も戻る途中で耳を周りに傾けて見ると相模の悪口が聞こえてきた。それだけではない。
相模が逃げ出した事がどこからか漏れてそれが拡散している。
正直、俺が何かするまでもなかったな。相模のこれからの学校生活は一変する事間違いない。
それも悪い方に。
「……まさに後の祭りだな」
「……相模さんの事を言っているの?比企谷」
「まあ、な。これであいつの学校生活は地獄になるだろうな」
「でもそれって、相模さんの責任でしょ?」
「ああ、あいつの責任だ」
今回の事は相模が実行委員での『サボリ』発言が原因だ。それがなかったら少なくともこんな事にはならなかっただろう。
それに副委員長の雪ノ下がしっかりと注意していない事や教師側(平塚先生)からも何も言わなかった事が大きいだろう。
相模は誰かに勧められてではなく自分から実行委員長になったのだ。なら責任位自分で取ってもらわないと駄目だろう。
教師側にもなにかしらのペナルティーがあるだろう。
多少の問題はあったが、なんとか閉会式を終える事が出来た。まあ、相模があれから姿を見せることはなかった。
来週学校に来た時、どんな事になるかなど言わなくても分かる。