やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
米屋とのソロ戦をやった翌日の放課後、俺は教室を出て、浅葱を待っている時に平塚先生に声を掛けられた。
「何をしている、比企谷」
「人を待っているんですよ」
「友達のいないお前が待ち合わせだと? くだらない嘘を吐くな」
「別に嘘ではないです。それに、何で先生は俺に友達がいないと勝手に判断するんですか? 先生とは思えない発言ですよ?」
そんな俺の言葉に平塚先生が何か言い返そうとしたその時、浅葱がやってきた。
「お待たせ。八幡」
「おう。そんなに待っていないから問題ない。それじゃ行くか」
「うん。夜架もくるんでしょ?」
「あぁ、あいつならくるだろうな」
「…………ちょっと待て、比企谷」
「なんですか? 平塚先生」
「藍羽とは、どんな関係だ……?」
「どんな関係って、幼馴染ですけど。それが何か?」
「幼馴染だと? だから嘘を吐くんじゃないと言っているだろ」
「私は八幡の幼馴染です。それに何で八幡が嘘を言っていると思うんですか? 生徒のことを信じないなんて、教師失格ですね。……行くよ八幡」
驚愕といった表情をその顔に張り付けた平塚先生を置いて、俺は浅葱と共に奉仕部の部室に向かった。
俺達は、昨日案内された特別棟の空き教室の扉をノックし、中の人の入室許可を待つ。
「…………………………どうぞ」
あまりにも間が長いのでいないのかと思い始めていたその矢先、簡素な返答がきた。正直いない方がよかった。
「……失礼しまーす」
扉を開けて入る。
入間、雪ノ下は驚いた顔を見せて口を開いた。
「……まさかまた来るなんて。あなた、もしかして私のストーカー?」
「何でお前に好意を持っている前提なんだよ」
雪ノ下は、まるで信じられないものを見るような顔をしている。
「あら、そんなの私が可愛いからに決まっているでしょう? ……それより、何で藍羽さんがいるのかしら、比企谷君?」
「ナルシストかよ……。それは俺の幼馴染だからだよ」
「……比企谷君、貴方に幼馴染がいるわけないでしょう? 嘘を言わないでくれるかしら、とても不快よ」
そんな雪ノ下の言葉に反応したのは浅葱だった。
「不快と思うのは勝手だけど、八幡は嘘を言ってはないから」
「藍羽さん。貴女はどんな弱味を握られて彼の嘘の幼馴染をやっているのかしら?」
「別に弱味なんて握られて無いから。幼馴染なのはホントだから。それにしてもこの奉仕部って何をするところなの?」
「……平塚先生から聞いてはいないの?」
「いや、俺は聞いていない。説明もなく、ここに連れてこられたからな」
「そう。では、クイズをしましょう」
「そんなくだらんことよりさっさと教えろ」
バッサリと切り捨てただけで、雪ノ下はまるで親の仇でも睨むような鋭い視線を向けてきた。
(この女、自分の思い通りにならないとすぐに機嫌が悪くなるのか? その辺の小学生の方がこいつより大人に見えてくるな……)
などと考えていると、部屋にノックの音が響く。俺から視線を外した雪ノ下が「どうぞ」と短く返答すると、おずおずと一人の女子が入ってきた。
「……失礼しま~す。――って何でヒッキーがここにいるの!?」
何だこの女子は。初対面で変なあだ名を付けてるけど俺は引きこもりではない。しかし、初対面にしては見覚えがある女子だ。
「呼ばれているのよ、返事くらいできないのかしら? あぁ、ごめんなさい。返事ができないくらい脳が腐っているのね」
雪ノ下の罵倒を無視して、俺は鞄からラノベを取り出し読み始める。同じく浅葱もスマホを弄りだした。
「……何とか言ったらどうなの?」
「俺はヒッキーって、変なあだ名で呼び合える友人はいないし、そもそも罵倒で人間の性格が直る訳ないだろう」
「それよりも、いつまでも入り口にいないで入ってきたらどうかしら? 由比ヶ浜結衣さん」
雪ノ下のその台詞に、由比ヶ浜と呼ばれた女子生徒は驚いていた。
「私のこと知ってるの?」
「こいつは、全生徒の名前と顔を覚えているんじゃないか?」
「でも、貴方のことは知らなかったわ。比企谷君」
冗談まじりに言ってやると、雪ノ下はそう返してきた。
これは絶対に嘘だとわかった。成績優秀の雪ノ下が学年主席の俺のことを知らない訳がない。ちなみに次席は浅葱だ。
まあどうでもいいか、と自分の中で納得している間に、雪ノ下は由は比ヶ浜への対応を始めていた。
「それで、由比ヶ浜さん。あなたは一体どのような依頼なのかしら?」
「えっと……その……」
由比ヶ浜が歯切れの悪い言葉で俺のことをちらちらと見てくる。見かねたように雪ノ下が由比ヶ浜へと助け船を出す。
「……比企谷君、少し部屋から出てってくれるかしら」
疑問系なようでキッパリ言い切る雪ノ下の言葉と同時に、俺の携帯が鳴った。
「……ちょっと。電話に出て来るわ」
丁度いいと部屋を出て、相手を確認したら意外な人物――来馬さんだった。
来馬辰也。鈴鳴第一の隊長でガンナーで大学生の人だ。
しかし、何でこの人から電話が? そうは思いつつも、いつまでも待たせるのは悪いかと電話に出る。向こうから聞こえてきたのは、着信表示の通り来馬さんの声だった。
『比企谷君、突然で悪いんだけど今夜のウチの防衛任務に加わってくれないかな?』
滅多にない電話に何事かと思ってみれば、合同防衛任務の誘いだった。
「分かりました。別にいいですよ」
前は部隊のメンバーが急な予定や体調不良などの場合はよく加わっていたので、特に疑問に思うこともなく了承する。それを聞いて来馬さんのほっとした声が電話越しに聞こえてくる。
『よかった。じゃあ、今夜8時からだからよろしくね』
特に不都合もないのでそのまま電話を終わらせ、部室に戻る。すると雪ノ下が立ち上がって一言。
「いくわよ。比企谷君」
「どこにだよ?」
「家庭科室よ」
この時の俺は知らなかった。まさかあんなものを人が作れるのだとは……。