やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
修学旅行二日目の朝のホテルの朝食は昨日の夕食と同じで豪華なものだった。それにしても昨日の葉山は何がしたかったんだ?
奉仕部に依頼したなら俺の所にわざわざ来なくてもいいだろうにな。
しかも葉山が俺にも相談すると雪ノ下に言ったものだからあいつもかなりやる気になっているし、由比ヶ浜も何故かやる気になっている。
それが少し……いや大いに不安だ。雪ノ下達が余計な事をしないか心配になってきた。
まあ、もしそんな事になれば俺の方で軌道修正してやれば大丈夫だと思うが、三日目の夜前までなら問題ないが、戸部が告白する時に何かしないか釘をさせればいいが、そんな都合よくあいつの動きを縛るネタはないか。
「あ!見てよ、八幡。小鹿が居るよ。小さくて可愛いね」
「そうだな。餌でもやってみるか?」
「うん。そうだね。餌売り場はあっちだね」
今は葉山と雪ノ下の事は考えないようにするか。せっかく戸塚があんなに楽しそうなにしているのに俺だけが暗い事なんか考えている時ではないな。
どうせ、三日目の夜には決まるのだか、今気にしていなくてもいいだろう。
修学旅行二日目に来ているのは奈良の大仏で有名な東大寺に来ていた。鹿でも有名なので他の生徒も餌をやったり、撫でたり写真を撮ったりしている。
俺は戸塚に便乗して撫でたりしたり、一緒に写真を撮ったりしている。
戸塚と小鹿のツーショットはいい。中々いい画になっているし、俺としても大満足だな。
川崎も鹿に恐る恐る触っていた。まあ、始めて触るものって抵抗があるからな。
「やべっしょ!?鹿だべ!隼人君。周り鹿しかいないべー!」
「見れば分かるから、少し落ち着け。戸部」
「戸部!うるさいし!!」
近くでは葉山グループがいつものように戸部のバカデカイ声が届いていた。それを三浦が怒鳴り黙らせる。
三浦の声にビビって鹿が葉山達から離れて行ってしまった。
「……ごめん、隼人。あーしの所為で……」
「いいよ。気にしなくて。ほら向こうで餌やりをやろう」
「……うん」
葉山の対応はいつも通りだな。優しき勇者的な?よくやれるよな、あんな事を。
「どうかしたの?八幡」
「……いや何でもない。戸塚と鹿のツーショット写真もう一枚いいか?」
「うん。いいよ」
俺は葉山達の事は気にしないで写真を撮りまくった。小町へのお土産に色々と見せてやりたいからな。
小町と言えば、受験生のあいつに合格祈願のお守りを買っておきたいと思っていたところなんだよな。
最近、成績もだいぶ上がってきたので総武への合格も夢ではなくなってきているから近い内にご褒美を考えておかないとな。
年内か正月にでもどこかに比企谷隊のメンバーを連れてどこかに行きたいな。
東大寺の次に訪れたのが法隆寺だった。五重塔が有名な場所で仏教寺院において最も重要な建物とされていて、高さは約31.5メートルで、日本最古の五重塔として知られている。
「五重塔って、写真で見るよりやっぱり大きいね。八幡」
「そうだな。俺も驚いているよ……ホント、デッカいな」
見上げる五重塔は清水寺に負けないくらいの迫力があった。よく昔の人間はこれを作れたな。
まったく凄まじい建築テクだな、これは。
「川崎さんも凄いと思う?」
「……うん。それは凄く思うよ」
川崎も凄く驚いている様子だった。記念に何枚か写真に撮っておくか。
「……チッ!…………そろそろホテルに向かうからバスに乗っておくように!」
平塚先生が生徒達にバスに乗るように促していた。てか、俺を睨み付けてから舌打ちしたよ、あの先生は。
教師として生徒を睨み付けて舌打ちとか最低だな。まあ、分かりきっていたけれどな。
生徒を乗せたバスは二日目のホテルに向けて出発した。資料で見たけれど、二日目のホテルも中々にいいホテルだった。
ホテルに着いてから夕食を摂ってからは自由行動だった。俺は入浴時間までの間、ホテルの周りでも散歩しようかと思ってホテルを出ると、少し離れた所に平塚先生が居た。
あの先生、何をしているんだ?
物影で見ていると私服姿の雪ノ下がやってきた。どこかに出掛けるのか?
ここは俺のサイドエフェクトで会話を聞いてみるか。もう少し近付かないと会話が聞こえないな。
「……雪ノ下。それで最近、奉仕部の方はどうだ?」
「……あの男が居なくなって平和ですね」
元々、俺の平和を奪ったのはお前らだろうに何を言っている。あの女の性格は俺以上に曲がっているな。
それを自覚していないし、自分自身を見てもいない。なのに自分の事を『完璧超人』と自称出来る辺り厨二病より痛い。
「……そうだな。比企谷が奉仕部に入って来たばかりに私の給料は減らされるし先生としての信頼が無くなったのだ。忌々しい……!!」
「まったくあの男さえ居なければ今までの依頼も迅速に済んだものを……余計な事ばかりして、あの男ほど邪魔な人間はいませんよ」
好き勝手言ってくれるよな、あの二人はよ。そもそも俺を奉仕部に入れたのは平塚先生だったはずだが?しかも強引に。
それに雪ノ下よ。お前が依頼に対してまともな案を出した事があったか?
由比ヶ浜のクッキー作りに戸塚のテニス強化、川崎のバイトや千葉村での鶴見のいじめなどの依頼の時にお前は依頼をこなそうとせずにただ自己満足を満たしたかっただけじゃないか。
自分の優秀さをアピールしたかっただけだ。そんな奴が世界を変えるとか笑えるな。
「そうだな。比企谷さえいなければ、私の教師人生は順風満帆だったはずなのに……!!雪ノ下、これから少し時間あるか?」
「……ありますけど、何かあるんですか?」
「この近くに美味いラーメン屋があるからそこに食べに行かないか?そこで比企谷を総武からどう追い出すかを話し合わないか?」
「ええ、構いません。とても有意義な時間になりそうですね」
俺は平塚先生と雪ノ下がラーメン屋に向かうためにタクシーを捕まえるまでじっと動かずに静かに二人が遠ざかるのを待った。
「…………」
しかし本人が話しを聞いているとは夢にも思わないだろうな、あの二人は。
それにしても俺にとってはいい事を聞けた。雪ノ下や平塚先生が俺を総武から追い出す前に対策が立てられる。
平塚先生に関しては教師人生を終わらせるか。そうすれば、奉仕部の顧問はいなくなり今度こそ廃部になるだろう。
しかし一つ問題がある。どんな話をするか店の中に入らないと聞こえない。
近付けば、間違いなく気付かれる恐れがある。
「……あれ?八幡」
「お、浅葱。どうしたんだ?こんな所に」
平塚先生と雪ノ下の二人の話をどう聞くか悩んでいると浅葱が現れた。こいつは丁度いい。
ここは一つ浅葱に相談してみるか。
「私のクラスは今日は入浴時間が一番早かったから少し散歩してたら八幡を見かけてから声をかけたのよ」
「そうだったのか」
「それで八幡はここで何していたのよ」
「ああ、実は……」
俺は浅葱にここで何をしていたのかを全て話した。雪ノ下と平塚先生が俺の事を好き勝手に言っていた事や俺を総武から追い出す計画を二人で練っている事を話した。
「―――って、事があったんだが……」
「……そう。あの二人がそんな事をね。それで八幡はこれからどうするの?」
話を聞いた浅葱は最早、般若のように顔が怖かった……!!でも今回はちゃんと報告したし相談だってしたぞ。
「そうだな。話を聞かないと対策は取れないからな……」
「せめて平塚先生か雪ノ下さんのスマホの番号さえ分かれば、そこからウィルスを送り込めるのに……」
「……今、お前とんでもない事言ったぞ」
それにしても浅葱がさっき言った事に何かが引っ掛かっていた。あ、思い出した。
「平塚先生の番号なら俺、分かるぞ」
「え?ホント?!」
「ああ、千葉村に行く前に俺に掛けてきたんだ。まだその番号は残してある」
「だったら行けるわね!モグワイ」
浅葱は自作したAIの『モグワイ』を呼び出した。なるほど、モグワイに侵入させるのか。
『なんだい?お嬢。旦那との夜のラブラブデートはもういいのかい?』
「いちいち一言余計なのよ!それよりも平塚先生のスマホに侵入して追跡アプリを仕掛けておいて」
モグワイは現れてそうそうに浅葱をからかった。自立型AIとはいえ人間みたいだな。
それにしても女子高生とは思えない言葉だな。長い付き合いだから今更気にする必要もないか。
『了解だ。そっちは俺様に任せて、お嬢は旦那とのデートを楽しみなよ?ケケッ』
「だから余計なお世話よ!」
浅葱が文句を言う前にモグワイは画面から消えた。俺のスマホに現れてまたすぐに消えた。
平塚先生の番号を確認したんだろう。それにしても浅葱はさっきからそわそわしているな?
時間も時間だしそろそろ部屋に戻った方がいいな。
「浅葱。そろそろ部屋に戻った方がいいぞ。時間が迫っているからな」
「……そうね。後はモグワイがやってくれるからいいわね」
今頃、モグワイが平塚先生のスマホから会話を聞いているだろう。明日にでも確認して対策を考えておくか。
それにしても雪ノ下と平塚先生はバカだな。俺に下手に関わらなければ良かったものの。自分から関わってくるとはな。
ここは一つ完膚なきまでに潰しておきますか。二度と俺に関わる事のないように。
平塚先生には『トドメ』を刺しておくか。
千葉村で経験したから懲りたのもかと思っていたが、俺の考えが甘かった。潰すなら徹底的に完膚なきまでにしなければ相手は何度でも立ち上がる。
そして翌日の朝、朝食を食べる前にモグワイから雪ノ下と平塚先生の計画を聞いて、絶句してしまった。内容は雪ノ下が俺に話があると特別棟の奉仕部の部室に呼び出し平塚先生が俺を殴り気絶させて、警察に「雪ノ下が比企谷に襲われそうになったので仕方なく殴って助けた」と説明するらしい。
それで俺を強姦未遂に仕立て上げようとしているらしい。そうなれば俺の学校での立場やボーダーでの居場所すら無くなってしまう。
冗談では無い!人の人生を台無しにしようとしているんだ。修学旅行が終わったら覚悟しておけよ、クソ女共!!