やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
では、どうぞ。
修学旅行三日目の夜になった。USJでは浅葱が雪ノ下と喧嘩しそうだったので割り込んで止めた。あそこで止めていなかったら大事になっていた。そうなれば平塚先生によって都合のいいようになっていたかもしれない。
例えば俺が雪ノ下に罵倒して暴力を振ったと、そうなれば停学もしくは退学になっていただろう。
だからこそ、あの場で逃げてやり過ごすしかなかった。だが、それが良かったと思う。
そしてついに運命の時が来た!っと言っても俺には運命でもなんでもないのだがな。だが、戸部や海老名にとっては人生の分岐点と言っても過言ではない。
俺は少し離れた所にいる葉山達を見ていた。向こうからは俺には気付かないが、俺にとっては話だけを聞くなら問題ない距離だ。
俺の側には浅葱がいる。戸部の告白阻止に協力してもらうためにここにいる。
浅葱には葉山達の声が聞こえないので俺が教える事にしている。
「やべーちょー緊張したきたべー!」
「少し落ち着け戸部。……戸部、話が……」
「ん?なんだべさ?隼人君?」
「……いや、やっぱり何でもない」
葉山は言いかけて口を閉ざした。言いたい事があるなら言えばいいのにな。
表面だけ気にしている葉山にとっては戸部との関係は本音を言える仲ではないようだ。
「結衣~俺、大丈夫だべ?!」
「だ、大丈夫だよ!…………多分。この三日でたくさんアピールしてきたんだし、姫菜もきっと戸部っちの思いに答えてくれるよ!…………多分」
「そうだべか?……そうだべな!よっしゃー!やってやるだべ!」
由比ヶ浜の根拠のない言葉に踊らされている戸部がある意味、可愛そうに見えてきた。もし俺が止めなかったら無様に振られて由比ヶ浜に当たりそうだな。
それを葉山が止めて、ややこしくなりそうだな。
「……ねぇ八幡。彼ら何を話しているの?」
「ああ、実は……」
俺は先程の由比ヶ浜と戸部のやり取りを浅葱に言った。その途端、浅葱の由比ヶ浜を見る目が変わった。恐らく哀れんでいるんだろう。
それにしてもやっぱり三浦の姿が見えないな。戸部の告白の事を知らないのか?
だけどそれはありえないと思う。葉山グループの女王的位置にいる三浦が戸部の告白の事を知らないのはやっぱり可笑しい。
葉山が意図的に隠しているか。もしくは本当に気付いていないかのどちらかだろう。
まあ、今更気にする必要も無いな。
「八幡。作戦の確認なんだけど」
「ああ、作戦は戸部の告白前に浅葱が海老名のスマホに電話をして彼女が『今は恋愛より趣味を優先したいから恋愛はまだ先でいいかな』と海老名が少し大きめの声で言うから掛けたらすぐに切ってくれ」
「了解。それにしてもグループの問題を八幡に頼るなんてどうかしているわよ……!!」
浅葱はやっぱり怒っているな。葉山って、ある意味人を怒らせる天才だな。
そうしている内に海老名がやって来た。本人の顔はどこか暗くこれから何があるのかを察しているようだった。
「あのさ……」
「うん……」
戸部は今まさに告白をしようと勇気を振り絞ろうとした。
「浅葱、今だ」
「分かったわ」
俺は浅葱に指示を出して海老名に電話を入れさした。ピピピと着信音が聞こえて海老名は電話に出た。
「ごめんね戸部っち。もしもし?」
海老名は戸部に断って電話に出た。これで作戦終了だ。後は海老名の一人芝居をしてもらえば、上手くいく。
「え?!ホントに買っといてくれたの?!ありがとね!私今、修学旅行で大阪に居るからイベントとか参加出来なかったから朝子に頼んで良かったよ!」
空想のキャラの名前を出すとは演技が上手いな。将来役者でいけるんじゃないか?それにしても朝子って……浅葱を少しもじったのか?
感心していると海老名は話し出す。
「え?それじゃ彼氏がいつまで経っても出来ないよって、それは朝子もでしょ?私は今はいいの!今はBL一筋なんだから!とりあえずBLに冷めるまでは誰かと付き合う気はないかな。朝子も似たようなもんでしょ?」
海老名が話しているのを聞いて戸部は肩を落としている。葉山達はポカンとしている。全員、無様にマヌケ顔だな。
これが俺が立てた作戦だ。趣味を利用して誰とも付き合わない宣言をさせる作戦だ。戸部、お前の覚悟を踏みにじってすまない。まあ振られるのを防いだんだ感謝してもらいたいね。
「それはともかく。私もモノを手に入れたから帰ったら一緒に見よ!私、まだ全然見てないから!うん、うん分かった!またね!」
そう言って海老名は電話を切り、戸部に向き直した。何事も無かったような顔をしていた。
「ごめんね戸部っち。話の腰を折っちゃって」
「あ、いやー別にいいべ!」
「そう?それで話って何?」
海老名がそう話すと戸部は焦りながらもどうにか返すか迷っていた。
「あ、いや~その……結衣や隼人君達が遅いから知らないかって聞こうと思ったんだべー!」
戸部は適当な言い訳をする。まあ当然か。今告白しても振られるのは目に見えているしな。いずれアタックするにしても当分先だろう。
これで海老名との約束は果した。二度と俺の名字を間違える事はないだろう。
少し考えていると海老名は先にホテルの方に歩いて行った。戸部はしばらく空を見上げていた。葉山達が戸部に近付いて来た。
葉山お得意の慰めるのだろう。どんなセリフを言うか大体分かるな。
「……戸部」
「大丈夫だべさ!隼人君!……今回は告白出来なかったけれど、次はちゃんとしてみせるべー!」
「そ、そうか。頑張れ、応援している」
「そ、そうだね。今回は出来なかったけれど、次はきっと上手くいくよ。戸部っち」
葉山はやっぱり予想通りだな。それにしても由比ヶ浜の根拠のない言葉はもう少しどうにかした方がいいな。……無理か!
しばらくしてから葉山達もホテルに戻った。
「……俺らはどうする?このまますぐに戻ると葉山達と鉢合わせになるな」
「だったら少しここを歩いて帰らない?」
「そうだな。そうするか」
俺は浅葱の提案に乗りしばらく遠回りをしてホテルに戻った。林道のシュチュエーションはバッチリで雰囲気があった。
「冬休みには小町ちゃんと隊のメンバーでどこか泊まりがけで出掛けたいわね」
「そうだな。小町に受験前の息抜きをさせてやりたいしな」
小町は総武に受かるためにここ最近、勉強を頑張っている。この調子なら十分総武は合格圏内に入る。
だけど、詰めすぎは良くないから息抜きはさせてやりたい。
「温泉なんて、どうかな?」
「温泉か……いいかもな。帰ったらどこにするか計画を練っておくか」
「そうね」
俺と浅葱は並んで林道を歩いていた。それしてもなんだか熟年夫婦のようだな。いや夫婦って、早すぎだろう。
確かに浅葱は「最高!」って言ってもいいくらいの彼女だ。
俺の事を理解してくる上に罵倒なんてしてこない。素晴らしい女性だ。どこぞの奉仕部部長やアホの子とは比べるまでもない。
とりあえず、これで海老名との約束は果した。もし向こうが俺の名字をワザと間違えるようならこれまでの経緯を三浦に話すだけだ。
そうなれば葉山グループは空中分解は免れない。まあ、俺としては分解して欲しいが。
俺は浅葱と共にホテルに戻った。葉山達と鉢合わせにならないように注意して自分の部屋に戻り寝た。
修学旅行最終日と言っても今日はただ帰るだけだ。そして今は新幹線を待つ僅かな時間だ。
俺の荷物は少ない。昨日の内にホテルで家に配達するように手配した。生徒達の殆んどがホームで新幹線を待ってる。
「はろはろ〜お待たせしちゃったかな?」
俺がぼんやりしていると海老名がやって来た。少しだけテンションが修学旅行前に戻った気がした。
ここ、2、3日はテンションが低かった気がしたからだ。
「お礼をさ……言っておこうと思ってね」
「別にいい。俺は約束を果した。次、俺の名字を間違えるようなら全部三浦に話すからな。次からは自分で戸部をなんとかしろよ。他人の恋愛事情にはもう二度と関わるつもりはないからな」
「うん。もちろん!今回はありがとう。助かっちゃったよ」
安堵したように笑っている。よく笑っていられるな?
「戸部はダメな奴?だがいい奴だと……思わないな。俺の名字を間違っているのを気付いていないからな。いつか戸部と付き合ったりしないのか?」
そんな事を思わず口にしてしまった。まあ、実際にダメでゴミだからな、戸部は。
「無理だよ。私は腐ってるから誰かと付き合っても上手くいきっこないもん」
「……なるほどな、それは仕方ない」
「……そう、しょうがない。誰にも理解できないし、理解されたくもない。だから上手く付き合っていけないの。あ、でも比企谷君となら上手く付き合えるかもね。どう、私と付き合わない?」
そんな事を言ってくるが冗談だろ?笑えないな。
「それこそないな。俺はもう浅葱と付き合っている。海老名とは付き合うつもりはない」
俺がそう口にすると海老名は目を見開く。
「比企谷君はやっぱり藍羽さんと付き合ってるの?いつから?」
「ああ、そうだ。付き合い出したのは千葉村からだな……何だ?文句があるのか?」
そう聞くとどこか暗い目を俺に向けてくる。向けた所で大した事はない。
「ううん、あんな依頼を受けてくれた比企谷君に私が文句を言う資格なんてあるわけないよ。でもそっかぁ……藍羽さんかぁ…………結衣じゃないんだぁ」
うん?どうして由比ヶ浜の名前が出てくるんだ?まあ、別にいいか。
「もう話は終わりか?なら俺はもう行く」
「あ、うん」
海老名は何かを言いたそうだったが呼び止めなかったのでその場から離れた。
ぶらぶらと歩いていると浅葱の姿を見つけた。
「あ、八幡!」
やっぱり俺の恋人は浅葱だな。俺の事を理解してくれいる。
海老名は誰からも理解されたくないとか言っていたが、それはそれで寂しいだろ。人は誰かに理解させたい部分が必ずあるはずだ。
「よう、どうした?」
「そこで『ねこまたん』の限定物があったわよ」
「マジか?!雪菜のために買っておくか」
俺はすぐさま「ねこまたん」がある場所に浅葱と共に向かった。途中で浅葱が腕を組んできたのでそのまま2人で歩き出した。
修学旅行では色々あったが俺にとっては最高の修学旅行だ。隣には大切な恋人もいるし。この思い出は一生忘れないだろう。
次の更新は9月11日に更新する予定です。すいません。
次回はネイバーフット遠征訓練の話をしようと思います。
では、次回に。