やはり俺がボーダーA級部隊隊長をやっているのは間違っている。-改訂版ー 作:新太朗
葉山から校舎裏に行き、そこで雪ノ下雪乃と平塚静の事を聞かれたので俺は修学旅行で録音した二人の会話を聞かせた。
葉山は認めようとしなかったが、それをどう録音したのかなどの事を強く追求してこなかった。
それをしてしまうと、録音の内容を周りに知られてしまって、折角、雪ノ下家と学校側が穏便にした事を台無しにしてしまうと気が付いた葉山は俺に追求したくても出来ないのだ。
それからの授業は特に何もなかった。葉山は俺の事を見てこなかったが、由比ヶ浜がウザいくらいにチラ見してきた。
そして放課後となり俺はすぐに教室を出た。今日は夜に葉山隊、雪ノ下隊の合同防衛任務がある。その前に陽乃さんとソロ戦をする事になっている。
廊下をしばらく歩いていると腕を誰かに捕まれた。振り返って見ると、そこには由比ヶ浜がいた。
「……何のようだ?由比ヶ浜」
「平塚先生が辞めて、ゆきのんは……自宅禁止?なって奉仕部はどうなちゃうの?」
「俺の知った事ではないな。それと自宅禁止ではなく自宅謹慎だ。じゃあな」
「ま、待ってよ!ヒッキー!!」
俺は由比ヶ浜の制止の声を振り切ってボーダー本部に向かった。
ボーダー本部に着いた俺は早速、個人ブースに向かった。そこにはすでに陽乃さんが待っていた。
なので、すぐにソロ戦を始めた。
「ハウンド!」
「バイパー」
陽乃さんはハウンドを使ってきてので、俺はバイパーでそれを相殺して、弧月を槍のように投擲して陽乃さんの眉間に見事、刺さった。
『伝達脳破損!ベイルアウト!』
それから俺は陽乃さんと十戦八勝一敗一引き分けという戦績になった。正直、陽乃さんが俺から短期間で一敗に持ち込まれるとは思ってもいなかった。
それに一引き分けはかなり際どかった。もしかしたら二敗になっても可笑しくはなかった。
「ああ!!どうして比企谷君に勝てないの!?比企谷君、君まさか……チートツール使っている?!」
「生憎とテレビゲームではないのでチートツールは使えません。それくらい分かっているでしょ?」
「でも!でも!強過ぎだよ!!」
「俺はもう四年くらいになりますからね。入りたての陽乃さんに、簡単に勝ちは譲りませんよ」
陽乃さんは大学生で頭がそれなりに回るとしても俺はこれまで四年間で積み上げてきたものがある。
いくらなんでもそれは簡単にはひっくり返らない。
「そう言えば、雪ノ下……貴女の妹は自宅謹慎だそうですね。やっぱり母親ですか?」
「うん♪そうだよ。お母さんに例の録音を聞かせたんだ。と、言ってもお母さんのケータイに匿名で送ったから送り主は不明だよ。あ、そうだ。浅葱ちゃんにお礼、言っておいて」
「……浅葱に協力してもらっていたんですね。いつの間に浅葱と仲良くなったんですか?」
陽乃さんに匿名で母親に例の録音を送るのは難しいだろ。なら出来る人間に協力してもらうのが、手だろう。
しかも浅葱は雪ノ下雪乃の事を嫌っているから喜んで協力したのだろう。
「そう言えば、学校で何かあった?」
「……どうしてそう思うんですか?」
「いつも以上に気だるいオーラが漂っているよ」
そんなオーラを出していたとはな。てか、陽乃さんは人のオーラが見えるのか?
「……まあ、ちょっと葉山に絡まれまして……」
「ふ~ん。隼人がね……雪乃ちゃんの事でしょ?」
「それと平塚、静の事もですけど、例の録音を聞かせらかなり動揺していましたよ」
「だろうね~隼人は雪乃ちゃんにゾッコンだから」
え?葉山って、雪ノ下の事が好きなのか?マジか?!
「……あんな性格が最悪な人間をよく好きになりますね」
「そうだね。しかも小さい時からだからもう十年近く片思い中だと思うよ?」
「……十年も同じ相手を思うのは少しロマンチックだと思いますけど、人物が台無しにしていますね。あ、これ良かったらどうぞ」
「ありがとね、比企谷君」
俺は疲れて陽乃さんに「MAXコーヒー」を渡した。ようは布教活動だ。素晴らしいMAXコーヒーの良さを色々な人に知って欲しい。
陽乃さんは一口、飲むと……
「―――ぶぅぅぅぅぅ?!何これ?!甘い!兎に角、甘い!!比企谷君!これ何!?」
吹き出してMAXコーヒーを持っている手を俺に付き出してきた。吹くほどか?
「何って、『MAXコーヒー』ですよ。俺の心のオアシスにして、俺のサイドエフェクトを十全に使うための飲み物です」
「比企谷君は普段から甘い……いや、甘過ぎるコーヒーを飲んでいるの?!」
「まあ、そうですね。多い日で5本ほど飲みますかね」
陽乃さんは俺がMAXコーヒーの飲んだ本数を言うとぼう然となってしまった。
「それは幾らなんでも飲み過ぎだよ……」
「そうですか?」
飲み過ぎなのだろうか?だけど、今まで誰にも止めらた事がないんだよな。小町や浅葱はもちろん、比企谷隊のメンバーにも止められた記憶はない。
それどころか、比企谷隊のメンバーは全員、『MAXコーヒー』を飲んでいる。
「……あ、比企谷君。そろそろ時間だからまた後でね」
「ええ、また後で」
そろそろ雪ノ下隊と葉山隊の合同防衛任務なので俺は陽乃さんと別れて一度、比企谷隊の作戦室に寄ってから防衛地点に向かった。
防衛地点にはすでに葉山隊に雪ノ下隊、緑川がすでに居た。葉山と由比ヶ浜は俺が到着すると睨んできた。もちろん、スルーした。
関わると面倒になるのは目に見えるからな。例え話掛けてきても答えないようにしないとな。
ウウ――――――――!!
サイレンが鳴った。今日はどこだ?
『旦那!ゲートが発生したぞ。座標誘導誤差7.66だ。これは面倒な位置だな……』
モグワイが座標を押してくれたが面倒?どういう事だ?
「どこが面倒なんだ?モグワイ」
『現れたのがここと三輪隊の丁度中間なんだ』
「それは面倒だな。緑川、俺が対応してくれるからここを少し頼む」
「了解~ハチ先輩。久々にソロ戦やろうよ」
「ああ、これが終わったらな」
俺は緑川に防衛地点や葉山隊や雪ノ下隊の事を頼んで『ゲート』に向かった。
俺が『ゲート』の発生地点に着いてみるとすでにトリオン兵は倒されていた。少し離れた所に人影が見えた。
ライトニングで確認して見ると中学生が数人見えた。
「モグワイ。三輪隊に連絡を。中学生数名が警戒区域にいるから対応を頼むと」
『了解だ。……連絡したぜ』
俺は倒されたトリオン兵を見て違和感を覚えた。この場には俺しかいないのにこのトリオン兵は誰が倒したんだ?
「……比企谷か」
「お、ハッチー」
「三輪と米屋か」
トリオン兵を見ていると三輪と米屋がやってきた。あれ?俺より後?
「スゲーなハッチー。このトリオン兵、粉々じゃん」
「……いや、俺は倒していない。てっきり俺はお前らのどっちかだと思ったんだが?」
「俺達は比企谷より後にここに着いたんだ。お前より早く倒せるわけないだろ」
それもそうか。ならこいつを倒したのは誰だ?
「レイジさんじゃないのか?これくらい出来るだろ?」
「米屋。今日は、玉狛第一は非番だ。だからレイジさんが倒すのは無理だ」
「だったらよ。こいつは誰が倒したんだ?」
米屋は自分が思った疑問を口にしたが、ここに答えられる人間などいない。
「とりあえず、連絡しておくか。モグワイ。回収班に連絡と材木座にこのトリオン兵の解析をしろと俺が言っていたと」
『了解だぜ。…………連絡したぜ、旦那』
これでいいな。俺はトリオン兵の全体を見渡した。それにしてもこいつは妙な倒され方をしているな。
まるで上から殴られたような。そんな感じだ。
ボーダーでこんな倒し方をする隊員はいない。仮にレイジさんでもないだろう。
「……まさかネイバーか……!」
三輪が怖い顔していた。姉を第一侵攻で亡くしているからな。ネイバーへの敵対心が誰よりも大きいだろ。
回収班が来たので俺は防衛地点に戻った。それからは特に何事もなく任務は終わった。
防衛任務が終わった俺は緑川とのソロ戦をした後、開発部の材木座に会いに行っている。あの倒されてトリオン兵の事を聞くためだ。
それと何故か陽乃さんが付いて来ている。どうして?
「……陽乃さん。俺に付いて来ても面白いものは見られませんよ」
「いいからいいから。私も気になっているからさ」
「まあ、いいか」
開発部の部屋に入ると材木座がもの凄い面倒なポーズをとっていた。こいつの格好でこれほどウザいポーズは無いだろう。
「うむ。良くぞ来られた我が戦友と雪ノ下女史よ!」
「……さっさとあの誰が倒したのかが不明なトリオン兵について話せ。でないと弧月でその贅肉を切り取るぞ」
「ひぃ?!……ま、まあ待つのだ!八幡よ。そう慌てるものでは無いぞ」
早く説明していれば、いいものを。陽乃さんが材木座を見ていた。一応、紹介しておくか。
「陽乃さん。こいつは俺と一応、同期の材木座。戦いが出来ずに戦闘から技術・開発部に変えた奴です。覚えなくていいですから」
「ひ、酷いではないか!八幡!!我と絆を蔑ろにするものではないぞ!」
「……さっさと説明するか俺のソロ戦の相手として地獄を見るか、嫌いな方を選ばしてやるぞ。どっちがいい?」
「わ、分かったからそう怒るものではないぞ。おほっん!!八幡よ結論から言うとだな、あのトリオン兵はボーダーのトリガーで倒されたものではない」
やっぱりか。トリオン体を破壊するには同じトリオン体でないと出来ない。ボーダーのトリガーで無いなら考えられるのは他のトリガー。
つまりこことは違うネイバーフットからやってきたネイバーの仕業と言う事だ。
「……サンキューな。材木座」
「礼など不要だ!八幡。我と仲ではないか!」
「……そうだな。ならしっかり仕事しろ」
俺は開発部の部屋から出て比企谷隊の作戦室に向かう事にした。仮眠して学校に行こう。
「ねえ比企谷君。ボーダー以外のトリガーって、さ。ネイバーが倒してって事だよね」
「……ええ。それとこれはあまり喋らないようにお願いしますよ」
「うん。分かったよ。それじゃね、比企谷君」
陽乃さんと別れた俺はあのトリオン兵の気にしていたが、比企谷隊の作戦室に着いた時には何も心配ないと思っていた。
しかしこの時、すでに大規模侵攻の準備が始まっていた事に俺を含めて大勢の人が知る由も無い。