スランプ!!
ってヤツですかね?
なんとか出来たけど……うーん。
インターホンの音が家に響いた。
でも、誰が来たのかは確認しない。
このタイミングで来る人は決まっているから。
玄関へと向かう少しの距離が今はとても長い気がする。
早くしなければとは思うけど、うまく体が動かない。
そして、ゆっくりと玄関のドアを開ける。
するとそこには予想通り彼がいて、彼は私を見ると学校の無邪気な笑顔ではない笑みを浮かべる。
まるで何から何まで思惑通りというかのようだ。
せめてもの反抗として私は強がって軽く嫌味を言うが、
彼はそれを聞いて笑みを深めた後に体を翻した。
一瞬、意味がわからなかった。
理解してからは、慌てて待つように声を掛ける。
でも、当然彼は止まろうとはしない。
私は彼を引っ張り半ば無理やり部屋に引き入れた。
わかってる。
電話の時の約束、そして玄関での会話。
私はもう、逃げられないかもしれない……。
◇◇◇
あ、ありのまま起こった事を話すぜ?
メモリーカードを匿名で届けて寛いでいたら、いきなり灰原さんからの呼び出しがかかったんだ。
もしかしたらばれたのか!?
とも思ったけどどうやら違うらしい。
30分ほど話してから灰原さんの家に行く事に…、そして辿り着くと遠回しに帰れと言われ、帰ろうとしたら今度は部屋に連れ込まれたんだ……。
なぁ?意味わかんねぇだろ?
………ふぅ。ごめん落ち着いた。
冷静に状況を整理すると、考えられる事は4つ。
1つ、
灰原さん流のコミニュケーションを取ろうとした。
2つ、
俺は嫌われてるが、それでも確かめたい事があった。
3つ、
灰原さんは俺に気があってツンデレが発動した。
4つ、
灰原さんはこう見えて成人に近い年齢だ。
遂に我慢が限界になり理解をしてなさそうな男の子を利用しようとしている。
まあ、3はないと思う。
小1に恋するやつなんて何処にいるんだよって話だ。
もしいたとしても、
支配欲が異様に強いか、逆に遥かに年下の相手に支配されるという事に喜びをかんじる変態くらいだ。
残っているのは1と2と4。
………4はないよね?
というか、ないことを祈る。
……いや、男としては嬉しいよ?
けどね?
やっぱり灰原さんは常識があるひとだとおもうんだよ。俺のイメージ的に!!
と言うわけで1か2な訳だけど、
まぁ、1かな?
だって俺嫌われる事した覚えないし。
この世界の灰原さんはコミニュケーションが苦手だとも分かってるしこれから少しずつ教えていってあげよう。いや、割とマジで教えないとやばい。
だって、
さっき帰ろうとしたら涙目になってたからね?
よっぽど人と関わる事が少ないっぽいよあれは。
………あれ?なんだろ。
…うまくクラスに溶け込んでるからかな?
なんだか涙が出てきたよ。
ごめんね灰原さん。
俺!明日からもっと頑張るから!!もっと話しかけるから!!皆んなと灰原さんとの距離を縮めてみせるから!!!!
◇◇◇
………なにかしら。明日から物凄く苦労するような気がするのだけど、……疲れてるの…かしら?
「えっと…灰原さん?」
「っ!!!」
そ、そうよ。
今はそんな事考えている暇はないわね。
取り敢えず彼に早くステージをクリアするように言わないと……。
「え、えぇごめんなさい。その、電話で言ってた事なんだけど……」
「ああ!!そうだったね。何をすればいいか結局言ってくれなかったけど、ちゃんと約束は守ってね?」
「っ!!も、もちろんよ。嘘はつかないわ。」
彼と私がした電話での約束。
口約束は、
お互いに破られる可能性が普通は高い。
けど、私と彼との間では違う。
一方的に強制力があるのだ。
勿論、
彼から私に。
私の命は彼に握られている。
どんな些細な事でも、私はきっと守る。
けど彼は違う。
仮に契約違反でも、
私は彼に何も言えないのだ。
まぁそもそも、たとえ身に覚えがなくても彼が約束したと言えば私は彼の言う通りに動かなくてはいけないのだけど。
約束の内容は、
私が彼に面白い物を見せるというものだ。
彼に電話をかけると、
彼は『最近忙しかったから、今日は休みたいかな〜、まぁ面白い事が見れたりするなら外出するのもアリだけど』
要約するとこのような事を言った。
つまり、
彼は最初に今日は1日中暇だという事を伝え、
その上で何か頼みがあるなら面白いものを見せろ、と対価を求めてきたのだ。
そもそもの原因が誰か、なんて事は言わない。
送ってきたのは彼に決まっている。
けれど、証拠がないから。
もし、彼に原因が誰かという話をしたらそこを突かれ更に交渉の立場がわるくなってしまう。
「ふふふ。信じてるよ。……で、俺何すればいいの?」
「…実は、この中にあるゲームを……」
「………ゲームを?」
………あれ?
…もしかして、
私が彼にゲームをして欲しいって頼まなくちゃダメだったりする?
……いやいや落ち着きなさい私。
これを作ったのは彼なのだから、パソコンを渡したらなんとかなる……わよね?
「……じゃ、じゃあ、頼むわよ。」
「え?何するの?」
…
……そんな気がしてたわよ!!!
って、いやいや。
だから落ち着くのよ私!!
彼は、
私の反応を楽しんでるんだから慌てたりしたら喜ばすだけ。今更かもしれないけど、あの笑みを浮かべている彼を喜ばすのは癪だ。
そ、それに、普通に見ればこれはただのゲーム!!
そう。
だから、面白いゲームだからやってみて、と言えばいいのよ。
彼の任務は私の監視だけど、表面上は友人。
断る事はないはず。
〈カチカチ!〉
「こ、このゲームをして欲しいの。面白いから是非してみて!!」
「……へぇ、見た事ないゲームだね…。
……んん?もしかして自作だったりする??」
「………へ?……あ、あぁそうね。」
……これは、どういう事かしら?
このゲームを作ったのは恐らく…というか、間違いなく彼だ。
そして、
助けを彼に求めるように言ったのは彼の作ったプログラムだし、
更にそれを自分で思いついた事にしろと言ったのも彼の作ったプログラムだ。
と言う事は、
彼はまた何かねらいがあってしているという事かしら……。
…匿名で届けられたメモリーカード、
中には私そっくりのデータ、
1人では全てはクリア出来ないステージ制のゲーム、
強制的に参加させる為のルール、
彼を頼るように言ったプログラム、
自分で考えた事にしろといったのもプログラム、
彼は初めて見たという、
私が作ったという事にして、
私は面白いからといって彼に勧める……??
………え?…まって??
私今、私が作ったと言って、さらに面白いからやってみて!!っといって彼にこのゲームを勧めた?
……クリアしたら、私そっくりの姿で…あの恥ずかしい映像が流れる、このゲームを??
いや、いやいやいや!!!
落ち着くのよ私、作ったのはそもそも彼の筈だし、今更恥ずかしがる事もない!……わよね?
……うん。やっぱりそうよね。
元々、
彼が作ったんだから。
………違う、しまった!!!
なんで声に出したのよ私のバカ!!
ホントに油断した、
送られて来た物は私の意識を誘導する囮だ。
焦った私は余裕がなくなり彼に借りを作る。
これが目的の一つ目、
そして、私との会話をしている中でゲームを自分が作ったと言わせる。
これが二つ目だ。
一見意味が無いように感じるけど、これは恐ろしいほど細かく計算された計画だ。
彼が、ゲームを作ったのだからクリアは簡単だろう。
そして、
………もう一度作る事も。
彼は、同じ物なのだから何度でも作れるだろう。
そして、
彼は何も知らないふりをして言質を取ったのだ。
このゲームは私が、灰原哀が作ったという言葉を。
さらに、私はさっき「嘘なんてつかないわ」と言ってしまった。
彼は、さぞ喜んだ事だろう。
嘘なんてつかないよね?
という事を暗示する前に美味しい美味しい果実が自ら落ちてきたのだから……。
もしもこの後、彼が同じ物を作ったとしても、それは私が作った物を複製した物だと彼は言うだろう。
そして、私はそれを否定できない。
もしかしたら、
彼はあれを学校に持ってくる気かもしれない。私が作ったゲームだと言って。
ないとは思うが本当に人の手に渡る事もあり得る。
工藤くんや円谷くんは興味を持つだろうし、
円谷君に関しては我慢できずに盗んでしまう可能性もある。
私は大人だ。
好意を持たれてる事くらい自覚してる。
そして、視線を外すことが出来ない私を彼はあの笑みで見続けるのだろう。
彼の好きないつもとは違う行動だと分かっていてもやらざる得ない私で楽しみながら。
そして最後に、私にだけ一方的に強制力が働く約束。
状況は最悪、なんで…直ぐに気付かなかったのよ。
彼は私の反応を楽しむんだから、
見せるものが面白い必要は無い。
それをした結果、
私にいつもとは違う所があれば彼は楽しい。
面白いと思えるのだ。
……そして、彼は恐らく何を見せればいいかの指示は出さないだろう。
何をすればいいかは、既に示してある。
あくまで、
私が自分で考えた彼に面白いものと思ってもらえるものとして、自分の意思でそれを見せた。
真実は違うが、他人が見たら全員そういう認識をするだろう。
季節的に合っているものが1つだけあったのは、それをしろという暗示だろうか。
……彼には、私は今どう映っているのかしら。
危険な賭けになるが、忘れたという事も出来た。
彼が此処に来るまでは、
だから彼は最初に言ったのだ。
「約束は守ってね」と。
そして私は答えた。
「嘘はつかないわ」と。
「………灰原さん?」
「っ!な、何かしら?」
「いや、この点滅してるのは何かと思って」
………?
何だろう。私の時にはこんな物は無かった筈だけど…。
……という事は彼が出したって事かしら?
「押していい?」
「え、えぇ。構わないわよ。」
《カチッ》
少し間が空いてから、
新しい画面が立ち上がった。
そこにはデータ削除まで5分とかかれてあり、5分間お楽しみください。と続いていた。
その瞬間、
私は彼を床に押し倒した。
5つも消したから、
わかる。
4つのゾーンの内、1つのビデオで5分も使うのはプレイゾーンだけだ。
彼の上に覆い被さり、視界を塞ぐ。頭を抱え込み耳を塞いで少しでも聞こえてはいけないと普段からでは考えられないほどの速度で喋り続けた。
自分でも何をしているのかは分からない。
作ったのは彼なんだから見られても構わないのに、私の横でそれを見られる事に私は耐えられなかった。
意味の無いことだ。
私はこの後彼に面白いとものを見せるのだから、先送りになっただけ。でも、心の準備をする暇もなくいきなり横であんな姿を見られるのだけは耐えられなかった。
5分が経ち、
冷静になった私は必死に謝った。
その後、
彼を博士達と行こうと言っていたスキーに誘った後、彼は帰っていった。
彼も最後の行動は予想外だったのか、
珍しく驚いている反応を見られて少しテンションが上がったのは秘密だ。
◇◇◇
夕日によって染められた空を見ながら少年は呟いた…。
「…4…だったか〜………」
〈自分そっくりなビデオ〉
or
〈欲求不満と思われる〉
さあさあ!
あなたならどっち??