少し離れた場所で泣いている人がいる。
……ああ…………泣かないで…。
その人を見ていると、なぜか罪悪感がこみ上げてくる。
自分が何か取り返しのつかない事をしてしまったかのような、そんな気がしてしまう。
…ごめんなさい………ごめんなさい…。
なんとか笑って欲しくて、必死に色々な話をする。
…ああ……どうして……?
でも、なぜかその人は、話せば話すほど辛そうな顔になって、さらにひどく泣いてしまう。
……ごめんなさい……ごめんなさい……。
申し訳ないという感情が自身の心を埋め尽くしていくのがわかる。
…ああ………本当に……ごめんなさい……。
原因はおそらく自分にあるのだと思う。
だからこそ、申し訳なくて仕方ない。
なぜなら、
…だって…おれには……
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーから』
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「………最悪の朝だな。」
夢から覚めて切実に思った事である。
窓の外に目をやると小雨とはとても言えない雨が降っているようだ。
……はぁ………気分が重い…。
俺は雨が嫌いだ。
これは人によるだろう。雨のあまり降らない地域や、そんな遠くなくても、農家の人には喜ばれるはずだ。
でも、それとこれとは別問題である。
何度でも言おう、俺は雨が嫌いだ。
なぜなら、
雨の日に嫌な思い出があるのだ。
え、それだけ?と、思った人もいるだろう。だが、その思い出はとても重く、大きく、俺の記憶から消えることは一生ないだろう。それほど俺にとっては衝撃的なことだったのだ。
「……絶対この雨のせいだわ…。」
朝から嫌な夢を見せられて、はっきり言って今日は何もしたくわない。
が、流石に転校2日目で雨だから休む、とかどこの不良だよ、という話である。
「あ〜、だるいな〜」
取り敢えず、重い体にムチを打って俺の癒しの提供者であるトースターまで歩くのであった。
学校の子ども達も雨のせいでテンションが低い、ということはない。いや、マジで何でそんなにテンション高いの?
「瑞樹、1時間目は体育館でドッジボールだぞ!
早く行こうぜ!!」
「そうですよ瑞樹君!早く行きましょう!」
「その方がいっぱいできるよ!」
「「「さあ!早く早く!!」」」
上から。げんた、みつひこ、あゆみである。
…元気だな〜〜……
どうやら元気な理由はドッジボールのようだ。
精神年齢20以上の俺としてははっきりいってあまり気分が乗らない訳だが、
「まじ?よっしゃ早く行こうぜ!!」
優等生を目指す俺としては、そんな感情を外に出すことなど、ない!!!
……なんかコナンから、こいつもやっぱガキだな………。見たいな視線を感じてなんか、ない!!
そして灰原さん?何でそんなに真剣な顔でこっちを見てるの?なんか目がまじでちょっと怖いんだけど……。
ということで、話すために灰原さんの方を向くとなぜか目を逸らされる。
ええ、わかってましたよ?
だって朝から灰原さん俺と目を合わせてくれないんだもん。あっ!まさか灰原さん……いや、まさかな?
だが、はっきり言って目を逸らされ続けるのは結構きつい訳で、ここらで罠に嵌めちゃおう!
視線を違う方に向けて、3、2、1
「っ!」
え、何をしたか?いきなりそっちを見ただけだよ?
灰原さんがすごい動揺してるのがわかる。うんうん、なんで?いや、びっくりしたのはわかるけど、これは驚きすぎでしょ。顔青いよ?
……なんだかなぁ……
取り敢えず微笑んでみる。灰原さんはまた、目を逸らしてしまった。その反応に苦笑いしつつ、俺は先生に体調が優れないから保健室に行くと言って、体育館を出るのだった。
あ、言ってなかったけど俺あんまり運動はしちゃダメなんだよね!!(テヘペロ!!)
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…分かっていた事だけど、すごく怖い……。
今日朝一番に話をしようと考えていたが、彼を見てやめてしまった。別に結果を知るのが怖くてやめたんじゃない。そんなもの遅くても早くても変わりはしないんだから。
…でも、今日の彼は、昨日の彼とは少し違う……
一見何も変わらないように見える。昨日と同じように好意的な笑顔でみんなに挨拶していく。やはり、彼はあれが基本なのだろう。ただ、何か昨日とは違う、分かりづらいけど、昨日ほど積極的には行動していない気がする。
そして、朝勝負をかけようとしていた私は見てしまった。
誰かに話しかける前、朝一番に教室に入り他のみんなが来る前に、窓の外を見る彼を。
……とても忌々しいものをみる目で窓の外、おそらくは登校してくる生徒を見る彼の姿を。
……なぜ、そんな目で人を見れるの?
…あなたは、小学生になったばかりの子どもでしょう?
そして、扉の近くに立つ私を見つけると、彼はさっきまでの事が見間違いだったのではないかと疑うほど、無邪気な笑顔で私に話しかけきたのだった。
……普通ではない。少なくとも何かはある。そして、それはおそらく……。
生徒が多く登校し、もうすぐ授業が始まる頃、いつもの3人が私と工藤君に早く行こうと声をかけてくる。当然断る理由はなく、私は承諾した。…いや、正確には断る理由はあったが私は気づかなかったのだ。
「あっ!折角だから転校生も誘おうぜ!」
「良いですね。瑞樹君もきっと慣れない環境で戸惑ってると思いますし。」
「なら少年探偵団として、助けてあげなきゃっ!!」
「えっ!?ちょ、ちょっとあなたたち…」
「よしいくぞ〜!」
好奇心が旺盛な彼らが転校生に興味を持たない訳がないという事に。
結果から言うと彼はいつも通り明るく同意した。それどころかむしろ早く早く、とせかしている。
……なぜか私達の事を観察しながら…。
彼が私を見ようとしたら私は目を逸らす。そして違う方を見たらまた見る。これを何度かした頃。彼は明らかに狙ってタイミングを合わせてきた。
「っ!」
視線が交差する。
なぜかその瞬間、急に静寂につつまれる。
あたりからの音が消え、
周りの景色から色が消え、
私と彼以外の余計なものが、全て無くなってしまったのではないか、とすら思えてくる。
どの位そうしていただろう、いや、おそらく数秒の事だろう。にも関わらず私は疲れきっていた。
彼が私に微笑みかける、私は目を逸らす事しか出来ない。もう一度彼を見ると違う笑みをうかべた後、私を一瞥し、先生の方に向かい、「保健室に行く」と言って出て行ってしまった。
……これはきっと、そういう事なのだろう……。
私は重い足を無理やり動かし、先生に保健室に行くと告げに行くのだった。
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保健室に行こうと歩いていると後ろから呼び止められた。
今は授業中のはずなのに呼び止められたという事に疑問を感じ、尚且つ先生なら面倒だとおもいながら後ろを振り返るとなぜか灰原さんがいた。
…ここにいるって事は体調が悪いって事かな?
っぽいな、息も乱れてとてもつらそうだ。
俺は瞬時にそう判断し、笑顔で快活に声をかける。
なぜなら、あらかじめ知識として知っているこちらと違い、向こうからしたら転校して2日目の元気で素直だけど、自分とあまり関わりのない男の子、と思われているはずだからだ。
「灰原さん!どうしたの?
あっ!ここにいるって事は体調が悪いって事かな?
昨日も早退しちゃったし、朝も顔が青かったし、あ、ちゃんと眠れてる?」
口に出してから、あ、やばい、と思った。
なんだよ「ちゃんと眠れてる?」って!いや、違うんだよ、なんか夜まで研究とかしてるイメージがあるから咄嗟に出ちゃったんだよ。でも、普通の人からしたらいきなり自分の生活の話をしてくるとか、気持ち悪いよね?
いや、でも中身は大人に近いから子どもだからと流してくれる可能性もある…かな……?
「っ!」
灰原さんが息を飲んで、少し涙目で睨んできた。
はい!これはアウトですかね?アウトですよね?
わかりますわかります。
ちょっ!まって!そんなつもりはなかったんだ!ただ心配なだけだったんだよ〜〜!!
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私は体育館を出てすぐに彼がどこにいるかを確認する。
いた、少し離れてるので駆け足で追い、意を決して彼を呼び止めた。彼は立ち止まり、少し間を置いてからゆっくりとこちらに振り向く。私を見て、どことなく安心した顔をした後、笑顔で話しかけてきた。
「灰原さん!どうしたの?
あっ!ここにいるって事は体調が悪いって事かな?
昨日も早退しちゃったし、朝も顔が青かったし、あ、ちゃんと眠れてる?」
しらじらしい対応に腹が立った。もし本当に私がここにいる理由がわからないというのなら、さっきのは一体なんなんだ!
そして悔しかった。昨日や今日の様子を、さも心配だな〜、という風に話してくるのだ。
その原因が!!!
さらに、私の様子から昨日はちゃんと寝れたのかな?
と、バカにまでしてくる。最近小学生になったばかりの子どもが、だ!!
もう間違いない、絶対に普通の子どもではない。そんな事は絶対に有り得ない。なんなんだこいつは!ジン達とは違う、どちらかというと、ベルモットに似ている。私という存在で遊ぶ事をどう考えても楽しんでいる。
今もそうだ。いつもの雰囲気のまま、言いたいだけ盛大に毒を吐いたくせに、話を続けようとしない。こちらがどんな返答をするのか楽しんでいるのだ。
小学生にバカにされたことが悔しくて、だけど言い返す言葉が出てこないことがもっと悔しくて、涙が溢れてきそうになる。だけど、そんな事をしたら相手を喜ばすだけだとわかっているから必死に耐えてせめてもの抵抗として相手を睨みつける。
でも、彼はそんな私の抵抗を物ともせず目をそらそうとしない、ジッと見つめてくる。どうやら私のささやかな抵抗は、彼の好みにあってしまったようだ。それがまた、たまらなく悔しくて、でもこのままなら彼を喜ばせ続てしまうという事を考えて、この場に崩れたくなる心を奮い立たせ、私は口をひらいたのだった。
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灰原さんから話をしたいと言われ、俺はどんな文句を言われるかを考えた後、こう思った。
ただでさえ、気分が上がらないのに、その上女の子から罵詈雑言を言われたら、今日1日は何もできなくなる……。
そう思った俺は、灰原さんが言葉を続ける前に今は授業中だから、話は放課後にしよう、と提案した。
その時の彼女の反応は、まるで親の仇を見るような、視線だけで俺を射殺さんばかりのものだったが、その割にはなぜか了承してくれたようだ。
いや、悪い事をしたとは思うけどそんなに嫌だったのかな??
が、頑張った…