記憶と知識とそれから才能?   作:不比等藤原

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彼女はこの回が原因で、色々悩まされるかもしれません……。


8、睡眠不足は危ない的な

 

 

……もうすぐ……もうすぐね。

 

 

私はもう疲れきっていた。

 

 

 

あの時、……これで私の運命が決まるかもしれない、と考えながら抜けた1時間目、悔しさを噛み締めながら、意を決して話をしたい、と言うと、彼はその先の言葉を遮りこういったのだ

 

「今は授業中だから、話は放課後にしない?それに、灰原さんも今話すのは辛いでしょ?」

 

 

 

 

 

 

私は、もう何も言えなかった。

 

心の底から形容し難いどす黒い感情が湧いてくる。この子どもは、……いや、こんな奴、子どもじゃない。

この男は、私に自身の事を悟らせ、尚且つそれについて話す機会を朝一番に作った。

そして、私でひとしきり遊び、私が最も知りたいであろう事を匂わせながら『続きは放課後までまて』と言ってきたのだ。

 

 

 

……ほんと…悔しすぎて、もう何も言えない…。

 

辛い?当たり前だ、博士達の安否や、勿論私自身の事を考えると、体が震え、それこそ立っている事も辛い、そしてそれは時間が経てば経つほど強くなる。そんなことも分からないのか?

 

いや、この男は最初から分かっていたのだろう。

私が勝負は今日だと判断する事も。だからこそ、分かりやすく挑発しながら機会を与えてきた。

私はそれに乗ってしまったのだ。

罠だとも知らずに……。

 

 

考えてみれば簡単だ。彼は私で遊ぶ事を楽しんでいるのだから。そうやすやすと答えを出したりはしないだろう。

 

遊べるだけ遊んでから……って事よね…。

 

 

 

憐れにも罠に掛かった私は、

彼の反論を許さない言葉で精神的にいたぶられ、

その反応を楽しまれるという屈辱を味合わされた挙句、

肝心の答えを教えられなかった。

 

それどころか、今日1日、あの男自身の存在という恐怖から、私の答えを知りたいという願望に応える事を餌に退路を塞いだのだ。まず間違いなく、逃げたら答えはお預けになる。

そして、時間をかけると博士達への危険が大きくなる。

 

 

 

……本当に嫌な所を突いてくる。

 

おそらく今回の遊びは、転校してくる前に調べたであろう普段の私と、今の状況の私とで、どのくらい違うかを見比べるというものだろう。その遊びをより長く楽しむために、わざわざ1時間目に体調不良という違和感しかない理由で保健室まで行ったのだ。

 

……悔しい…でも…当然ながら私に選択肢は残されていない……。

 

私は、ゆっくりと首を縦に振るのだった。

 

 

 

 

 

 

私はその日1日今までで一番気を使いながら生活した。いつも通り、いつも通り、と考えながら。あの男を喜ばせるだなんて冗談じゃない。私はこんな事ではいつもと変わらない!っと彼に見せつけたかったのだ。

まあ、年長者の意地というやつだ。

 

 

だけど、彼はそんな私の心を見透かしたようだ、たまに視線を感じそちらをチラッと見ると、予想通り無邪気ではない笑みを浮かべて私を見ている。

 

顔が少し熱くなるのを感じる。どこか普段と違う事をしてしまったようだ。だけど、睡眠不足が災いしてか、どこがおかしかったのかがわからない。

 

少し寝ようかとも考えたが、保健室に行った時と同様に、学校では何もしてこないだろうが、横や近くにあの男がいる状況でなんてとても眠れない。

 

また視線を感じる方をチラッと見ると、今度は笑みをうかべたまま、私を興味深そうに見ている。

顔がさらに熱くなった。彼の予想通りに普段と違う事をしてしまっているらしい自分が恥ずかしくて仕方がなかった。プライドも何もあったものではない。もう周りから見ても赤いと分かるだろう。

 

……っ!…

 

 

一体何が彼を喜ばせているのか分からず。彼の視線を受け続けるしかないという状況から、俯き固まっていると、

 

「…ん?灰原?どうした?」

 

工藤君が私の異変に気付き声をかけてきた。しかし、あの男がクラスにいる時点で、もう彼には何も言えない。私は「なんでもないわ」と、返したが、他の子達も私の様子に気付きやってくる。普段が冷静な分、周りの目をとても引いてしまったようだ。

 

 

 

……っ…お願いだから…放っておいて……。

 

これでは彼の望み通りになってしまう、いやもうすでになっているだろう。みんなが口々に私に言葉をかけてくるが、今の私からしたらありがたいとは言えない。

 

もうとても彼の方を見る事は出来ないが、きっとあの笑みをうかべているのだろう。

 

 

 

そう思っていると、今一番聞きたくない声が、なぜか目の前から聞こえてきた。

 

 

 

 

「灰原さん、大丈夫?」

 

「っ!」

 

咄嗟に顔を上げて確認すると、彼は私の前に立っていた。さも、私の事が心配だ、という顔をしている。

 

 

 

 

……ギリッ…。

 

歯を噛み締めてしまった。お前が原因だというのになぜそんなお前がそこにいるんだ!

できればそう叫びたい。しかし、そんな事言えるわけもないし、理由だって分かってる。

彼は見に来たんだ、最も自然に、かつ可能な限り近づける方法で。私は彼を睨みつける。この抵抗は彼からしたら寧ろ逆効果だろうが、せずにはいられなかったのだ。

 

彼はそんな私を見て、少し何か考えた後、無邪気な方の笑顔をうかべ、こう口を開いた、

 

「灰原さん、そんなにエクレアが食べたいなら俺が家まで届けてあげるよ?」

 

 

 

 

 

…………は?

 

一瞬何を言っているのか理解ができなかった。だけど、周りの子の納得した、という反応を見て理解する。今日の給食のデザートはエクレアだった。

 

彼の一言で私は調子が悪そうな女の子から、調子が悪いけどエクレアが楽しみで我慢してる女の子へと変わってしまったのだ。

 

私の正体を知っている人からは決してでない発想。そして、周りが信用している無邪気な笑顔を選択して言った。つまり、コレは意図的に声に出したと考えるべきだとすぐに分かった。

 

工藤君が横から『オメェ、思ったよりガキ臭いとこあったんだな……』という視線を向けてくる。一気に耳まで真っ赤になるのがわかった。私は直ぐに反論しようとしたが、あの男と目が合い言葉を飲み込まさせられてしまう。

 

この男は口には出していない。でも、合ってるよね?と、私に同意を求めてくる。もちろん、私に否定という選択肢はない。

私は「……ん。」と、同意の言葉を口にするのだった。

 

 

 

 

 

私はとりあえず保健室へと足を運ぶ。仲がいい吉田さんが付き添ってくれたが、エクレアの話をされて悔しい思いをした。ここで否定しても生温かい目で見られるだけだろう。そう考えていると、吉田さんがいきなり、私達が届ける、と言ったので、慌ててお断りした。もしそうなってしまえば、私の今日の恥は無意味になってしまう。せっかく彼が満足したのか、このぐらいで良いか、と提案してきたのだ。もちろん、私はそれ相応のものを失ったが……。

なのに明日になってしまったら、あの男は必ずまた何かをしてくる。そして、私はまた今日のような体験をするのだ。

 

 

 

 

……冗談じゃないわ…。

 

 

保健室で、博士が迎えに来るというので待っている間、私はさっきまでの事を考えていた。なぜ、彼はあんな事をしたのだろうか。勿論恥を掻かせるというのが原因だとは思うが、あれはどのみち誰かが思いついた事だ、彼が言う必要はない。むしろ放っておけばその誤解を解こうとする私を見る事が出来たはずだ。無論私は被害が少ない方が良いのだが……。やはり考えてしまう。

 

 

 

……いや、違うわね。

 

途中までそう考えて、彼の考え方と前提条件の間違いに気がついた。まず彼の考え方だが、自分が楽しむことを最優先にしている気がする。なら今回の事は、彼を充分に楽しませたか。答えは否だ。確かにその時は楽しいだろうが、それが終わると私はいなくなるのだ。まだ2時間しか経ってないのにそれはあまりに早すぎるだろう。つまり理由は他にある。なら答えは何か、おそらく…

 

 

 

 

 

…罰……のつもりなのだろう。私は彼に対してあまりに敵意をむき出しにしすぎたのだ。だから釘を刺したのだ。

おそらく別に殺さずとも苦しめる方法も辱める方法もあるんだぞ?という意味で、だ。

 

 

そして、次に前提条件の間違いだ。確かに、彼が言わなくても誰かが思いつくだろう。しかし、普段の私を知っているみんなはあまり賛同しないはずだ。そして、私も冷静にそれを否定する自信がある。

 

だが、彼に言われたらどうだろう。彼は転校2日目にも関わらず、既に信頼を得ている。

 

そんな彼が言い、そして私は否定する事ができないとなればどうなるか、簡単だ。真実は隠れ、誤解がさも真実のようになる。

 

 

 

 

あの男は、今の私を壊そうとしているのだ、外側からも内側からも……。

 

私に反抗する気をなくさせ、周りからはイメージを壊していく。

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは逆に考えると私はしばらくの間は安全という事ではないか?

確かに、私のイメージは壊れていくかもしれないが、別にそこまでこだわってきたわけでわない。

それに、表立っては何も出来なくなるが、私の敵意がなくなるとは思えない。

 

 

そう考えると、彼の行動に喜んで受け入れてしまいそうな自分がいるという事に気付き、私は自己嫌悪する。

 

どうやら、相当まいっているようだ。

彼はしばらく授業で動けないと思ったからか、博士が迎えに来ると思ったからか、彼の行動を少し理解し、受け入れてしまったからか、よく眠れそうだ……。

 

私は起こされるまで、熟睡するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、寝る直前の思考を思い出し、悶えてしまう。

 

……ありえない。……最悪だわ、何よ受け入れたって!

そんな事できるわけないわ!!

 

そして、冷静な思考で考えて、本当に自分は何を考えていたんだと車の中で頭を抱える私を見て、博士は病院に行くか?など、色々聞いてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

放課後

 

 

 

 

ピーンポーン、おそらくそろそろ来ると思っていたら予想通りきたようだ。ドアの外を確認すると、あの男1人らしい。博士には買い物を頼んでいる。今日はこれじゃないといや!!と駄々をこねて探してきてもらっている。ちなみに隣町まで行かないと無いので、しばらくは帰ってこない。

 

あの男を家に招き入れて、念のために鍵をかける。大丈夫だとは思うが、念には念をかけておく。

 

彼は勧められるままソファーに座ると、無邪気な方の笑顔で、話しかけてきた。

 

「はい!これエクレア!これが好物なの?」

 

 

昂ぶってしまいそうになる感情を無理やり抑えて、冷静に考える。

 

なぜ彼はそんな話をするのか疑問しかなかったが、おそらく昼間の私の事を考えて内心であの笑みを浮かべているのだろう、と見当をつける。つまり、彼は私の事をバカにしているのだ、だけど、

 

 

 

 

……残念だけど、その手には乗らないわよ。

 

「ええ、実は好物なの。チョコとクリームの絶妙なハーモニーがたまらないのよね!」

 

彼は少し驚いた表情をする。

ざまぁみろ。と、私は内心ほくそ笑みながら彼からエクレアを受け取る。

 

 

男はしばらく何かを考えてから頷き、口を開いた。

 

「せっかくだから外に出ない?

雨が止んでいい感じなんだ!」

 

私はこの言葉の真意を考える、狙撃?いや、彼の今までの行動から考えてないわね。他に特に思い浮かばなかったので。同意して外にでる。

 

彼は空を見上げて嬉しそうにしているが、急に私の方を向いてきた。かといって彼が何かを話そうとしているようには見えない。

 

 

 

 

 

……これは………私に質問しろと言っているのかしら?

 

はっきり言って、彼に何かしらの要求をされると思っていた私からしたら拍子抜けだ。が、相手がそれを良しとするなら是非乗らしてもらおう。

 

「あなたは、いったいなんなの?」

 

「………申し訳ないとは思ってるよ。でも、多分これからもすると思う。ただ、悪意は無いんだ。それだけ分かってくれると嬉しい。」

 

申し訳ない?悪意は無い?でもこれからもする??

矛盾している言葉を言う彼に苛立ちを覚えるが、感情に任せても無意味と思い、無理やり沈める。

 

申し訳ないとは彼の行動の事か?なら、悪意が無く、これからもするというのはなんだ?いや、もしかしたら全て行動の事という事もある。

 

とりあえず情報が足り無い。もっと聞き出さなきゃ……。

 

「なぜ転校してきたの?」

 

「え、あーそれ、言わなきゃダメ?」

 

「……そう。わかったわ、大丈夫よ。」

 

どうやら転校してきた理由は私で間違い無いようだ。

 

「なら、私の事は報告するの?」

 

「ええ?……うーーん。まあ、ある程度はすると思うけど、あんまり細かくはしないし所々変えるつもりかな?」

 

「………なるほど。」

 

どうやら、間違い無いようだ。彼は黒の組織の関係者だ。ただし、まだ幼いため非情にはなりきれてはいない。

 

「あなたがした事はあなたの本心からしたこと?」

 

「あー、はい」

 

………………どうやら、感性は腐ってしまっているようだ。いや、ならそこを直したら普通にも……。いや、一度組織に関わった以上それは難しいだろう。

 

「これからもすると言っていたけど、本当に?」

 

「……はい。」

どうやら、これからも今日のような事は続くらしい、なんだか急に不安になってきた。

さっきまでなら彼を敵視する事で耐えてきたが、今となってはそれは無理だ。相手は冷徹になりきれず、此方の事は匿ってくれると言っている子どもだ。勇気があるこどもだ。自分の意見を持ち、それに従い、組織を騙そうというのだから。

 

まあ何が言いたいかというと、

 

 

 

 

私はこれから彼に反抗できないという事だ。さっきまでとは違う。なぜなら、さっきまでは様々な感情の矛先を彼に向ける事で誤魔化していたのに、次からは向ける相手がいないのだ。

そして、さっきの妙な考えがまだ無くなっていないのに反抗できない、しかも大きく意味が違う、私は次からただただそれを受け入れるしか無いのだ。

 

 

 

 

 

 

……なんだか、本当に不安になってきたわ…。

 

 

「……これが最後よ、好きなお酒は?」

 

彼は驚いた後、意味に気付いたのか暫く考えた後、教えても問題ないと判断したようだ。

 

 

 

「………リキュール」

 

っ!?

………なるほど、組織は彼の腕に期待も信頼もしてるけど、性格的な面を考えて、信用はしていないって事かしら?

 

「………もういいかな?」

 

「ええ、ありがとう。満足できたわ。それに、時間みたいだしね。」

 

「哀くーーん帰ったぞ〜!!」

 

博士の声に、彼は何かを迷っているようだが、どうやら仕方ないと諦めたようだ。

 

「あー、じゃあ、俺このまま帰るから」

 

「そう?ならまた明日ね。」

 

 

 

 

彼の背中を見ながら今日の事を振り返る。

私、盛大に独り相撲してたのかしら?そう思うとなんと無く笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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