「やあ、キミたちも食べに来たのかい」
カッターシャツを押し上げ存在を主張するでぷっとしたお腹を張りながら、にこやかに笑う老年の男の人を見て、隣の眼鏡さんが目を丸くして呟く。
「社長」
「社長さん、お久しぶりです」
眼鏡さんの隣でぺこり、と頭を下げて挨拶。
呼び名の通り、眼鏡さんの勤務する会社の社長さんだ。
「やあ、キミも久しぶりだね…………こっちに来て一緒に食べようじゃないか」
気さくに話しかけ、自身の隣の空席二つを指さす社長さんの誘いに頷き、眼鏡さん共々座る。
「どうだい、最近は」
ある程度歳を取った人間の鉄板みたいな台詞を投げかけてくる社長さんに、笑っていつも通り、と返す。
「学生の日常なんて学校行って家に帰るくらいで、そんなに変わりなんて無いですよ」
「いやいや、学生時代の日常と言う物は、大人になってみると一日一日がとても大事で掛け替えの無い物だと思えるものだよ」
はっはっは、と笑いながらサイドメニューで頼んでいたらしい餃子を一つ箸で摘まんで口の中に放る。
「うむ、美味い…………キミもどうだね?」
「あ、ゴチです」
眼鏡さんにもラーメン奢ってもらえるし、今日は良い日かもしれない、なんて小市民根性出しながら。
席を付き、メニューを眼鏡さんと眺めながら、これにしようかな、と決める。
「注文お願いします」
二人であれにしようこれにしよう、これは高い、良いじゃないか、と言いあいながらメニューを決め、眼鏡さんが店員を呼んで注文をする。
「それで、お前さん」
注文が終わり、店員が去って行ったタイミングで社長さんが眼鏡さんの肩に手を回す。
「最近中々業績上げているらしいじゃないか」
「あ、はい…………社長の薫陶のお蔭で」
「はっはっは、中々殊勝なことを言うな。だが分かるだろ、組織の至上とは結局、利益だ。そして利益など電卓一つあれば上げられる」
“電卓一つあれば利益など簡単に上げられる”
社長さんの座右の銘であり、実際四十代の時に突然電卓と万札一枚から企業を志し、今や地域で最大規模の中規模会社だ。そして未だに会社は成長を続けており、十年後には日本有数の会社にしてみせる、とは社長さんの言。
そして社長さんがそこまで言える理由は…………まあ今までの流れからして分かるとは思うが。
目の前の社長さんもまた、超能力者の一人。
演算能力。それが社長さんの超能力の正体だ。
計算が出来ることを超能力、などと言うのはおかしいようにも思えるが、社長さんのそれは常人の想像をいともたやすく超えた何かだ。
スーパーコンピューター三台分以上の演算能力、と自身で謳っているほどであり。
実際その力でぐんぐんと会社を成長させているのだから、その力は確かなものである。
自身の知る超能力者の中で、数少ない超能力を社会で使っている人でもある。
社長さんを除けば彼女か…………それとも、ツナギの人くらいだろうか。
「はふっはふっ」
今現在目の前でチャーシューを頬張りながら、まだ熱の残る麺を懸命になって食べている男は、そう言う凄い人なのだが。
「まあボクには関係ないか」
「ん? 何か言ったかね?」
「ああ、いやいや、飴食べます?」
「おお、後でいただくとしよう」
ボクにとっては何も関係ない。ただの知り合いの超能力者の一人と言うだけである。
超能力者とは社会の異端だ。
と言っても、別に排斥されるようなことも無いが。
それでも眼鏡さんが超能力は超能力者にしか気づけない、と言っていた意味も何となく分かる。
超能力者の常識と言うのは、一般の人間のそれとは異なる。
けれど生まれついての超能力者ならともかく、ある日突然超能力者となった人間にとって、それ以前の一般人だった時の常識と言う物があり、そして超能力者としての常識もある。
そして両方を持ち得るからこそ、自身が異端であることを無意識的にか、意識的にか、理解してしまうのだ。
だからこそ、超能力者は超能力者を求める。
人は独りでは生きていけないと言うが。
超能力者だって、仲間が欲しい、自分が自分でいられる場所が欲しい。
自分を認めてくれる人が欲しい、自分を隠さなくていい場所が欲しい。
だからこそ、超能力者同士と言うのは自然と仲が良くなる。
あれだけ他人を排斥するアタシさんがボクと彼女とは未だに話しているように。
今や地域で最も大きな組織となった会社の社長さんがボクや下っ端のはずの眼鏡さんとこうして仲良くしているように。
結局のところ、超能力者も人と変わりは無い。
それでも超能力者は一般人とは確かに違う存在だ。
そんな矛盾がボクたちの中にはいつだってあるのだから。
「それはそれとしてラーメンうめー」
「うむ、ここのはいいね…………偶に無性に食べたくなってこうして来てしまう」
「はあ…………五臓六腑に染みわたる」
「おいおい、若いもんがそんなオッサン臭いこと言ってどうする。若者はもっと心まで若くないといかんぞ?」
まあそんな難しいこと、本気で考えてる人ここにはいないだろうけど、ボクを含めて。
結局のところ、超能力者がつるむ理由なんて、気が合うから、に過ぎない。
超能力と言う共通点のお蔭なのだろうか。
ボクが高校生、眼鏡さんがまだ二十代の社会人、社長さんはすでに五十、六十の初老の男性だが、それでもボクたちは気が合うのだ。
美味しいものは美味しいし、苦労なんてものは社会だけでなく学校でもある。
褒め合ったり、愚痴りあったり。
そんな人として極当たりまえの人付き合いをボクたちはしているに過ぎない。
「並べて世はことも無し、ってね」
なんてどこかで聞いたような台詞を呟きつつも。
内心の台詞は、あーラーメンうめー、であった。
キャラ紹介
『社長さん』
超演算能力。ただの演算能力なら誰でもあるので、明確な違いとして超を付け足すと凄そうに見える。スパコン三台分の演算能力と言っているが、実際それがどれくらい凄いのか誰も分からない。だってスパコンとか見た事もないし。
ちょっと珍しいが能力に代償が必要。正確には頭脳をフル回転させる能力であって、頭脳自体を強化してるわけでもないので、能力を使うと相応に疲労し、糖分が欲しくなる。
そんなこんなでせっせと糖分摂取しながら会社のために能力使いまくってたら見事に太ったでっぷりとしたお腹が特徴…………あれ、ビール腹じゃないんだぜ。尚頭が馬鹿になると言う理由で酒は飲まないし、煙草もしない人。
趣味はナンバープレース。昔は能力の練習のためにやっていたが、今は能力を使わず頭の体操程度のつもりでやっている。
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