この世界では存外超能力がありふれています   作:水代

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『オタちゃん』

 拳を振るうたびに男の拳は血で染まっていく。

 女の顔面を、なんてこの世界においてそんな生易しい道理は通用しない。

 出会えば殺す、ただ殴り、蹴り、投げ、締め、相手の息の根を止める。

 弱肉強食、勝てば官軍で、負ければ賊軍。

 強き者が富み、弱き者は奪われる。

 

 無法の世界ディートリート。

 

 ボクたちは、この世界で生きている。

 

 

 ――――というのがこのゲームのストーリーというか、世界観みたいなものらしいが、まあ格ゲーにそんな詳細な設定必要ない。

 

「よっし! 必殺技いけええええ!!!」

「甘いし」

「って避けた?!」

「カウンター一閃、これで私の勝ちだし」

「甘いのはお前だあ!」

「なっ、カウンタークロス! カウンターにカウンターを合わせた?!」

 

 がちゃがちゃと今となっては珍しいアーケードコントローラーを鳴らしながら二人並んで白熱する。

 

「でもまだやられてないし」

「追撃! 追撃!」

「だが当たらない、きりっ」

「あ、くっそ、ちょん避けされた、シューティングじゃないんだぞ」

「リーチの把握とか当然だし」

「僕はお前ほど遊んでないんだよ! 一日中引きこもりやがってこのニート!」

「それ言ったら戦争! それ言ったら戦争だし!」

 

 放つ牽制の一撃、だがそれを上手くかわした女が僕の操作する男を掴み。

 

「やばっ」

 

 呟いた瞬間。

 

 S T O P

 

「あ、やば」

 コマンド入力に焦って思わず超能力が発動してしてしまう。

 超能力は物理現象と違って明確な法則、というかルールが存在しない。

 だから発動は任意で、意識一つ…………今の僕のように時には意識の有無すらなく発動することもある。

 だからまあ、いつも意識的に発動する時はストップウォッチを使ってオンオフを作るように心がけているのだが、焦ったり、余裕がなかったりすると無意識で発動することが未だにある。

 

「まあそれはそれとして利用はするけどね」

 

 呟きながらコマンドを入力。この状況で入力したコマンドは文字通り、能力解除をした一瞬の内に読み込まれ。

 

  R E S T A R T

 

「ってあああああああああああああ?! 一瞬で超難度コンボ決められたしいいいいいい?!」

 二、三秒で十六個のコマンドを順番通りに入力することで発動する凶悪コンボが見事に女へと決まり、女の体力ゲージが一瞬で真っ赤に染まる。

「まだ! まだ行けるし!」

 空中で錐揉みする女キャラが地面へと叩きつけられる、HPは完全に0でこれで決着、そう思った瞬間。

 

 ぱちん、と音が鳴った。

 

 直後、完全に真っ赤に染まっていた女のHPゲージがぎゅいんぎゅいんと緑に塗りつぶされていき。

「って! チートじゃねえか!!!」

()()()()()コマンド入力した人に言われたく無いし!」

 ぎゃーぎゃーわーわーと、騒ぎながらそうして二人して超能力解禁。

 結局、タイムアップになるまで決着はつかず。

 

「…………はあー、疲れた」

「だから、超能力は無しって言ったのに」

「わざとじゃないし」

「でも使ったし」

 

 二人してぐったりとしたままソファに沈み込む。

 僕の膝に頭をのっけて伸びをする少女に、こら、と声を上げる。

 

「寝るなら自分の部屋で寝ろって」

「やだしー、私まだここで遊ぶ」

「自分の部屋でも一日中遊んでるくせに、そんなんだからオタちゃんなんだよ」

 

 オタちゃん。勿論本名じゃない、僕が勝手にそう呼んでるだけ。

 色白、というか色素が完全に抜け落ちた白い肌と赤い瞳。先天性色素欠乏症。アルビノという言い方が一番通りが良いだろうか。

 僕がどちらかというと父親似なのに対して母親に似たのか、()()()とは思えないくらい造形の良い顔をしている。

 まあだからこそ、人目を惹くのだろう、良い意味でも、悪い意味でも。

 とにかく美少女だ。兄の贔屓目を差し引いても、否定しようのない美少女だ。妹だからそれほど萌えないけど。他人が一度目にすれば忘れられなくなるくらいの美少女である。

 そんな美少女がアルビノという特徴を加えて、この日本の学校に通っていれば…………まあわかるだろう。

 

 異端は排斥される。

 

 一般人に超能力が理解されないように、オタちゃんは小学校という和の中で異端だった。

 排斥され、けれど小学生の少女に過ぎなかった妹はそうして逃げ出した。

 父も、母も、僕も、けれどそれで良いと思った。

 辛いなら、苦しいなら、痛いなら、無理に通う必要もない。

 異端であろうとなんであろうと、両親からすれば可愛い娘で、僕からすればたった一人の大切な妹だ。

 だからそれから数年、部屋に籠ったままでも何も言わなかったし、学年が中学になって部屋から出てきた時には迎え入れた。

 学校に行く勇気は…………まだ無いようだが、それでも家の中だけならば普通に出歩くようになったのは、一つの成長だろうと思う。

 

「あにぃ」

「何?」

「おやすみ」

「って、こら、寝るな!」

 

 十四にもなって未だに距離感が小学生並みなのは、人付き合いに慣れてないせいだろうか。

 いい加減、思春期なんだし、僕との距離を取るのかと思えば、全く変わらない距離感にどこかほっとしてしまっている僕も相当なシスコンなのかもしれないが。

 

「ったく…………昨日またネットに潜ってたの?」

「うん、チャットでおしゃべりしたり、生放送見学行ったりしてた、あとね、アニメ再放送ようつべでやってたから見たり、ゲームしたりとか」

「随分とやってるなあ」

 

 ああ、それとあと一つ。

 

()()()()()ってどんな気分?」

「んー? なんていうか…………お風呂に使ってるような、水槽の中を潜るような、変な気分」

 

 妹も超能力者である。

 電子操作系能力、と自称しているが、要するに人型ハッキングプログラムである。

 とは言っても犯罪になるようなことはしてない、というかする勇気も無い、らしいが。

 まあそこは僕も似たようなものだ、時間を止める力があっても、それを悪用するほどの勇気も無い。

 似たもの兄妹と言われればそうかもしれない。

 使用用途ももっぱらベッドで寝ながら『意識だけをネットに潜らせる』とか『ゲームをハッキングしてキャラクターのHPを回復させたり』とかそんなのばっかりだ。

 因みに、だからこそオタちゃんとゲームをする時は互いに超能力禁止にしている。

 こう言ってはなんだが、なんでもあり、となると本当に決着がつかなくなるからだ。

 

「そういえばさ…………オタちゃんって、いつから超能力使えるようになってたの?」

 

 ふとした疑問が頭に過る。僕は高校生になってから、だった。

 だからオタちゃんの()()に気づいたのも、割と最近だ。

 少なくとも、僕が超能力者になった時にはすでにオタちゃんは超能力者だったのだろう。

 じゃあ、一体いつから?

 少なくとも小学生の時にはそんな様子は見受けられなかった。

 数年引きこもっている期間があるので、そこだろうか、と予想しながら妹へと問いかけて。

 

「……………………すう…………すう」

 

 ふと聞こえた寝息に視線を落とすと、妹が僕の膝の上で寝ていた。

 

「…………………………はあ」

 

 だから人の膝の上で寝るなと。

 嘆息一つ、それから。

 

「…………おやすみ、妹ちゃん」

 

 呟いて、その頭をそっと撫でた。

 

 




キャラ紹介

『オタちゃん』

14歳自宅警備員。一日中家どころか部屋に篭って出てこない少女。僕の妹らしい。電子操作系能力者。
電子空間にアクセスし、操作できる。簡単に言うと、人間ハッキングプログラム。兄と同じで平穏大好き人間…………というか軽くビビリなのであまり危険なことはしない…………オンラインゲームの確率操作くらいはしてるが。徹夜明けはテンションが高くなる。この辺よく似た兄妹である。
滅多に見かけないが、一度見たら忘れられないくらい印象的らしいアルビノ系美少女。
因みに、ゲーム中毒と言う共通点があるので兄妹中はこの年頃としては信じられないくらい良い。ただしゲーム中に超能力使ったら互いにキレる。
あと手先が器用で特に機械弄りが得意。さらに自身の超能力を使うことで、他人の超能力を受けない電子機器へと改造もできる。僕の持つタイマーは彼女の作ったもの。


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