足したけど2で割らなかった   作:嘴広鴻

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だからもう足すなってばよ

 

 

 

「ん? ……カネキの携帯鳴ってる? でもアイツもう店出ちゃったし……“高槻先生”? 大学の先生か?

 ……仕方がない、私が出るか。もしも『やっほー、元気だったかいカネキュン! 愛しのエトさんだよ~♪』…………ア゛ア゛ン?」

『あれ? これカネキュンの携帯だよね? 君はいったい誰さね?』

「アンタこそいったい誰だよ?」

 

 

 

 

 

「入見さん、カフェラテ1つお願「カネキくん、今すぐ更衣室に行きなさい」……は?」

「いいから!」

「え? いや、今は多分トーカちゃんが着替え中じゃ……?」

「早くなさい! 間に合わなくなっても知らないわよ!」

 

 

 

 

 

━━━━━霧島アヤト━━━━━

 

 

 

「……で、四方のオッサン、何でヒナミまで連れて来たんだよ?」

「わからん。トーカがヒナミも連れてけと急に言い出した」

 

 俺も姉貴から電話でヒナミが来ることは聞いていたけど、これから行くところは敵なのかもしれない嘉納っつー医者のところだぞ。

 そんなところにヒナミを連れて行こうとするなんて何考えてんだ、あのバカ姉貴は。

 

「……大丈夫なのかよ?」

「ヒナミは強い。安心しろ」

「そりゃ身に染みてわかってるよ」

「かーっ、駄目だねぇ。トーカちゃんは。

 そんなにカネキュンのことが気になるなら、ちゃんヒナに任せずに自分がついてきたらよかったのにさ」

「トーカは模試だ。研も学業が優先と言っている。

 それにヒナミは耳がいい。こういう場所では研よりも役に立つかもしれん。

 アヤト、いざというときは俺がヒナミを守ることになっているが、お前も気にかけておいてくれ」

「……覚えとく」

 

 そりゃ……まぁ、ヒナミは知らない仲じゃないし、何かあったら助けてやるよ。ヒナミに何かあったら姉貴が煩そうだしよ。

 つか敵がいたらカネキだけ突っ込ませて、俺たちは見物してるって形になるからな。そんな必要もなさそうだけど。

 

 それより随分とエトが姉貴に突っかかってねぇか?

 というか何でエトが姉貴のこと知ってんだよ。俺はエトどころかタタラさんにも姉貴のことは話してねぇぞ。

 

「それでアヤト…………最近、どうなんだ?」

「あ、何がだよ?」

「いや、怪我とかしていないのか?」

「新入りが増えたせいで白鳩と戦う暇なんてそんなになかったよ。白鳩の本局に襲撃かましたぐらいだな」

「そうか、なら……うん? …………いや、待て。本局に襲撃? どういうことだ?」

「(まるで息子と会話出来ない仕事中毒のサラリーマンみたいだねぇ)」

 

 11区のアオギリ拠点を囮にしたコクリア襲撃後、仲間に引き入れた喰種にアオギリのことを教えたりなんだりで忙しい日が続いた頃、カネキから連絡があった。

 カネキからの情報であんていく……っつーかカネキとアオギリの合同で、ずっと探していたカネキに喰種化施術を行った嘉納という医師が隠れ住んでいる安久邸に踏み込むことになった。

 あんていくからはカネキ、四方、ヒナミ。

 アオギリからは俺、エト、ナキ、その子分のガギグゲ2人。それに鯱っつーオッサン。

 そしてカネキが喰種レストランで捕まえたっていう、カネキと同じ喰種化施術を受けたクロナとナシロの白黒姉妹が、この安久邸前にいる全員だ。

 

 白黒姉妹は簀巻きにされてガギグゲに担がれているけどな。

 そんで肝心のカネキと、リゼの親父っていう鯱のオッサンなんだけど、

 

(カイ)ッ! 蛇意(ジャイ)ッ!」

「いい加減しつっこいですねぇっ!」

「それはコッチのセリフだ、小僧!」

 

 何か知らねーけどカネキと戦ってる。

 安久邸前で現地集合して中へ入ろうとしたら、鯱のオッサンが「小僧! 少し手合わせをせいっ!」とか叫んでカネキにいきなり襲い掛かった。

 戦況としては、カネキが一発も鯱のオッサンに当てられていなくて一方的に鯱のオッサンから殴られまくっているが、カネキにはそれが全然効いてないから延々と戦いが続いている。

 もう20分以上続いてるぞ、オイ。

 

 最初はその戦闘を興味深く見てたけど途中で飽きたのか野生動物捕まえて遊んでるヒナミとナキとか、カネキと鯱のオッサンの戦いを見てウンウン頷いている四方のオッサンとか、そもそもいきなり戦い始めんなやとか、お前らちょっとは集団行動ってのを覚えろと言いたくなってくる状況だ。

 というか四方のオッサンがこっちをチラチラ見てきてウゼェ。何か思い付いたかのようにボソボソと話しかけてくるし。

 

「ナキさん、これがヤマカガシだよー。図鑑で見たことある。毒持ってる蛇なんだって」

「俺はチョウチョ捕まえたぜー」

「……それチョウチョじゃなくてガだよ」

「あ? この形はどう見てもチョウチョだろーがよー」

 

 ……ヒナミは楽しそうでいいなぁ。

 まぁ、東京のど真ん中に隠れ住んでいると、こういう自然溢れた場所は珍しいのか。

 それとヒナミとナキは捕まえるの逆だろう、普通。

 

 

「アヤトくんは鯱さんに勝てる?」

「……わかんね」

 

 エトに聞かれたので茶ぁ濁したけど、悔しいがありゃ無理だな。

 聞いた話だと鯱のオッサンは人間に混じって暮らしていた時に武術を学んでいたらしく、それを喰種の身体能力で十全に使ってやがる。

 俺は羽赫で鯱のオッサンは尾赫っていう有利さはあるけど、あれだと鯱のオッサンに赫子無しでも負けちまいそうだ。俺も赫子の使い方やケンカのやり方だけじゃなくて、ちゃんとした武術も勉強してみるか?

 そういえばカネキの部屋に格闘技の本があったような……。

 

「……ヒナミにもそろそろ組み手をさせるか」

「は? ヒナミに? ……まだ早いんじゃねぇの?」

「トーカと同じことを言うな、アヤト。だがお前らが月山と戦ったときの年齢と変わらないぞ」

「いや、まぁ……そうだろうけど、ヒナミには……」

「トーカと研もだが、お前もヒナミには甘いな。

 お前らにも教えた赫子の使い方の訓練をヒナミにしようとしたが、トーカと研が凄い勢いで反対したし……」

「ハァッ!? 赫子の使い方の訓練って、俺らのことをボコったあの訓練のことか!?

 そりゃ姉貴も反対するだろうよ!」

「…………」

「あ。……あー、いや……姉貴と……カネキはヒナミに甘いから、よ。

 それにヒナミはもう赫子使えるから、必要ねぇんじゃねーのか?」

「(()いなぁ、アヤトくん)

 子育ては大変だねぇ。ま、ちゃんヒナは可愛いから、カネキュンとトーカちゃんの気持ちもわかるけどさ。

 それよりもさぁカネキューン! 鯱さーん! 屋敷に入りたいからそろそろ終わらせてくんないかなぁ?」

「この小僧に言え! いくら打っても効いておらん!」

「それはコッチのセリフです! 一発でも当てたら勝てるのに……」

()ゥッ!? ……(フン)、なら避けぬから当ててみせい!」

「じゃ、遠慮なく」

「ぬぐおおぉぉっっ!?」

 

 今、鯱のオッサンの腕からボキャって凄い音がした。

 カネキの血を飲んだヒナミが凄かったことからカネキも身体能力は凄いと思っていたけど、喰種としても段違いだな。ガードした鯱のオッサンの両腕がボッキリ折れてやがる。

 あの筋肉の塊みたいな鯱のオッサンの腕がああなるってことは、俺が受けたら腕が吹っ飛びそうだな。

 

「はい、僕の勝ちです。

 両腕が折れたその状態なら、僕の攻撃を躱し続けるのはもう無理でしょう。あとはもう怪我が治りきる前に畳みかけるだけです」

()()ぅぅ……」

「はいはい終了終了。鯱さんもじゅうぶんカネキュンの強さはわかったでしょ」

「……(フン)、よかろう」

「それは何よりです。それとエトさん、喰種として動いてるときはハイセと呼んでください」

「オッケー。それじゃハイセクン。鯱さん復活するまで最後の打ち合わせでもしてよっか。

 確認だけど、嘉納はアオギリでもらっていいんだよね?」

 

 鯱のオッサン……か。白鳩の連中からSSレートで手配されているオッサンでも、アッサリとカネキに負けちまった。

 まぁ、カネキはヤモリのヤローにもアッサリ勝ってたし、ビデオで見たけど11区の戦いで俺が勝てなかった白鳩連中を相手に余裕だったからある程度は強いってわかってたけど、目の前で見るとカネキの強さってワケわかんねーな。

 さっきの鯱のオッサンとの戦いでも、最初は鯱のオッサンが有利に進めていた。というかカネキは殴られるがままで、反撃はしていたけど全て避けられるかいなされるかして一方的にボコられていた。

 戦いの立ち回り自体はそんな優れているわけじゃねぇが、鯱のオッサンにいくらボコられても平然としているカネキのタフさは半端ねぇな。

 でもカネキの動き自体も遅いってわけじゃないし、アレはどちらかというと躱し続けた鯱のオッサンが凄いのか。

 

「はい、構いませんよ。

 嘉納先生に聞きたいことはありますが、僕が嘉納先生の身柄を確保してもその後はどうしたらいいかわかりません。人殺しはするつもりありませんし、解放しようにも僕のことがCCGとかにバレるのは困りますからね。

 ただしこのクロナちゃんやナシロちゃんみたいに自ら望んで喰種化施術を受けるならともかく、僕みたいに勝手に人間を半喰種にするのは禁止です」

「うん、オッケーオッケー」

「というかクロナちゃんとナシロちゃんから聞きましたけど、1200人もの人間に施術を行って成功したのが僕とクロナちゃんとナシロちゃんの3人だけって、嘉納先生って馬鹿なんじゃないですかね?

 普通そこまで失敗したら方法が間違ってるって思いません? どれだけ無駄なことしてんですか、あの先生は?

 1200人もの人間集める手間かけるぐらいなら、新たな方法を模索した方が効率いいと思うんですけど」

「改めて言われるとそうだよね。せめて失敗が10人目かそこらで一旦中止して、別の方法を模索した方が絶対効率はいいよねー。

 勉強や研究は出来るおバカさんなのかね? 一応、成功事例があるからには技術は持ってるんだろうけどさ」

「巻き込まれた僕としてはたまったものじゃないんですが」

「アハハ、ハイセクンも大変だねぇ。まぁ、私らはそんなことしないから信じてほしいなー。

 ……で、リゼさんのことなんだけど?」

()んっ!?」

「鯱さんは唸ったりしてないで早く傷治してよ。いつまで経っても屋敷の中に入れないじゃない。

 リゼさんもアオギリに……というか鯱さんに渡すってことでいいのかな?」

「ええ、まぁ。正直な話、リゼさんには今でも思うところはあることはあるんですが、もうあれから一年近く経っていますからね。いい加減、吹っ切らないと駄目でしょう。

 というかクロナちゃんとナシロちゃんに聞くまでは、リゼさんが生きてたなんて思ってもいませんでしたし。

 ああ、リゼさんを渡すのは、ちゃんと鯱さんがリゼさんを監督するって条件付きですけど」

「わかっておるわ、小僧!」

 

 ……ふーん、カネキのヤツ、本当にリゼってのはどうでもよさそうだな。

 姉貴はカネキがリゼのことをどう思っているかって意味でリゼのことを気にしているみたいだけど、これなら別に姉貴が心配することねーんじゃねぇの?

 

 つーか俺にそんなことで電話してくんなや。俺は別に姉貴とカネキが付き合おうが別れようがどうでもいいんだよ。

 

 ま、聞いた話だと、カネキはリゼとデートしたのがキッカケで半喰種になったってことだけど、普通だったらそりゃそんな女だとどうでもよくなるわな。

 むしろ俺だったら、そんな敵対するようなことしてきたような舐め腐りやがった女なら殺すわ。そういう意味じゃカネキは甘ちゃんだよ、やっぱり。

 

 姉貴の悪口言ったらすっげぇ怒るくせに。

 

「ウンウン、ここまでは事前の取り決め通りだね。

 んで、決め忘れてたけどさぁ、この白黒姉妹はどうすんの?」

「「ひゃいっ!?」」

「……嘉納先生と一緒にアオギリで預かってくれません?」

「ハイセクン、それは押し付けって言わなぁい?

 嘉納もリゼさんも白黒姉妹もアオギリがもらうって言ったら聞こえがいいけど、ハイセクンにとってはいらないけど放置も出来ないのをウチに押し付けてるだけじゃん」

「いや、でもエトさんたちって嘉納先生欲しがってたじゃないですか。クロナちゃんとナシロちゃんはその成功例ですよ?」

「ハイセクンハイセクン、さっきまで嘉納を馬鹿にしくさってた自分の発言を忘れたのかね? 流石に私らも施術成功率が1%未満だとは思っていなかったよ。

 白黒姉妹から得た情報をコッチに回してくれた上に、抜け駆けせずにこの場所に誘ってくれたのはありがたいけどさ。ハイセクンはウチに押し付けたらそれで終わりだけど、ウチはこれから嘉納や白黒姉妹の面倒みなきゃいけないんだけどね?

 もちろんハイセクンとの約束だから、勝手に逃がしたり処分したりはしないけど、その分だけ面倒が増えるんだよ。

 だから貸し一つ、ってことでどうかな?」

「……あんまり大きいのは駄目ですからね」

「オッケーオッケー。大丈夫だよ、ハイセクンの事情は配慮するからさ」

「ハァ、月山財閥といいVといいアオギリといい、何であんていくみたいな素直な組織が他にないんですかね?」

「……ちょい待ち。今なんつった?」

「あ、エトさん。鯱さんの身体治ったみたいですよ」

「ウム、甘く見るでないわ」

「待って。話まだ終わってない」

「いや、月山財閥にしてもVにしても、どちらにしろ大学卒業まで待ってもらうことになってます。ですのでまだ組織に入ってないから、詳しいことは何も聞いていないですよ。

 とりあえずVとは喰種レストランのときみたいに何処かと敵対する行動をとるときは事前に知らせる代わりに、VがCCGに潜り込ませているスパイを使って僕の情報がCCGに広がらないように手配してもらう取引をしてますけどね。

 それでも正式なことは大学卒業後です。

 ああ、何か喰種レストランのときはVのスパイが勝手に入り込んでいたらしく、実は僕がその人のこともやってしまったっぽいですけど、事前に襲撃を申告していたので遺恨無しで解決しました」

「「…………お兄ちゃん」」

「いや、まぁ……クロナちゃんとナシロちゃんから聞いたCCGの正体が本当だったら、どうしようかなと迷ってはいますけどね。

 ですからアオギリの人たちとここに来ることは伝えてませんし」

「そういう問題だけじゃないんだけどね。

 ねぇ、この件終わったらゆっくりといろんな話でもしなぁい? 私としては、鯱さんをアッサリ倒せるようなハイセクンとは仲良くしたいと思っているしさ。

 というかRc値どのくらいになったん? 前聞いた話だと君はRc細胞の分泌と貯蔵が出来るって話だけど、あの事故から1年近く経っているわけだし、もうかなり増えたんじゃない? そろそろ1万ぐらいは超えた?」

「あ、いや。実は今まで月山財閥で検査してもらってたんですけど、6桁超えたせいで改良した検査装置でもカウンターストップするようになっちゃって正確な値はわからないんですよ。

 だから100万以上は確実かな?」

「……にゃんだって?」

「おら、いつまで話してんだよ。鯱のオッサンが治ったんならさっさと行くぞ」

「うん、そうだね、アヤトくん」

「いや待って。今の聞き捨てならないことだから。桁が2つ違うってどういうことさカネキュン!?

 ウチにも! アオギリにもCCGの協力者いるから! だからVと月山財閥だけじゃなくてウチも就職先の候補に入れてよ!」

「だからハイセって……」

 

 うるせぇなぁ、エトのヤツ。この件終わったら話し合うってんだから、そのとき話せよ。

 それよりも屋敷の中入ろうぜ。さっさと入らなきゃ、さっきウサギ捕まえてきたヒナミが今度はイノシシとか捕ってきそうなんだよ。ヒナミってあんなにお転婆だったか?

 というかナキのヤロー、軒先に作られた鳥の巣捕りに屋敷の壁よじ登ってやがる。

 

 お前ら少しは団体行動をしやがれや。

 それとヒナミはその耳掴んで持ってるウサギを逃がしてやれ。可哀想だから。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 安久邸に入り、白黒姉妹の案内で屋敷の地下に入った。

 そこはまるで映画とかに出てきそうな研究所みたいな場所で、どうやら嘉納という医師はここで喰種化施術の研究をしているというのは本当みたいだった。

 

「上の邸宅も広かったですけど、地下の部分も随分と広いですね。

 クロナちゃんにナシロちゃん、2人がここに住んでいたときから地下にこんな空間はあったの?」

「……さ、さあ?」「知らない」

「色々と裏事情があるんだよハイセクン。まぁ、詳しい話はこの件が終わってから2人でゆっくりと「待って」ん? どしたのちゃんヒナ?」

「水の中に何かいる……」

 

 そう言って、ヒナミは目を閉じて耳を澄ませるように、俺たちの横に流れている水路を顔を向けた。

 あいにく通路の電灯が少ないので辺りが暗く、水も透明じゃないので喰種の視力をもってしても水中は見通せない。だがカネキや四方のオッサンの話によるとヒナミの知覚能力は喰種の中でもズバ抜けて高いそうなので、ヒナミの気のせいだと無視するわけにはいかない。

 現にカネキが1人で水路に近寄りながら、俺たちには後ろに下がるようなジェスチャーをして鱗赫を出し「何だー? 魚とかいんのか?」ってナキィィィーーーーッ!? ちょっ!? テメッ!? 何してやがんだテメェはぁっ!?

 今ヒナミが水の中に何かいるって言ったばかりだろうがっ! それで何で水路に近寄って覗き込もうとするんだテメェは!?

 

「……アヤトくん」

 

 カネキが溜息つきながら俺にそう言ってきたけど、俺っ!? ナキの面倒見るの俺なの!?

 いや、確かにカネキたちが見るのは筋が違うし、エトが注意してもナキは聞きそうにないから俺しかいないかもしれないけどよ!

 ってガギグゲ! お前らも水路に近寄ろうとすんな! せめて白黒降ろしてから行けや!

 

 どうしようかと迷っていたら、カネキがまた溜息をつきながら鱗赫を伸ばし、水路に近づこうとしていたガギグゲに鱗赫を巻き付けて引っ張ってヒナミの側に避難させた。いや、ワリィ。

 そして次にナキの身体に鱗赫を巻き付けて引っ張ろうとした瞬間、

 

「ナキさん! 下がって!」

「ああん?」

「はぷ」

「おわっ!?」

「ナキさん!」

 

 ヒナミの叫びにナキが反応して振り向いた瞬間、水の中から全身に毛がなくて妙に身体がブクブクに膨らんだ人間?が飛び出してきた。いや、赫子っぽいものが背中に見えるから喰種か、コイツは?

 幸いカネキの鱗赫がナキの盾となってナキは無事に後退出来た。

 その代わりにカネキの鱗赫がその変な喰種?に掴まれたがカネキの鱗赫は引っ張られてもビクともせず、ただカネキの鱗赫を掴んでう゛ーう゛ー唸っているだけだった。

 あ、鱗赫に齧りついたけど、逆に歯が折れた。

 

「クロナちゃんにナシロちゃん?」

「ひゃいっ!?」「な……何、お兄ちゃん?」

「これは何? 嘉納先生の仕業?」

「う、うん……」「施術の失敗作……」

「……僕も、もしかしたらこんなのに……?」

 

 うげ、これが例の喰種化施術で失敗した人間の成れの果て?

 う゛ーう゛ー唸りながらカネキの鱗赫に齧りついたり引っ張ったり叩いたりしている知性の感じられないナマモノが元人間? 嘉納って医師は何考えてやがんだ?

 

「こんなのを1200人も……」

 

 ……カネキが落ち込んでいる。

 まぁ、自分も一歩間違えればこうなってたかもしれないってわかったら、そりゃ落ち込むか。

 俺たち喰種は人間を喰う存在だから、人間から見たら俺たちも嘉納も変わらないのかもしれない。だけどいくら何でも、こんなナマモノを作るようなヤツとは同一視されたくねーな。

 

「……エトさん。嘉納先生を引き渡すって約束、もしかしたら反故にするかもしれません。先に謝っておきます」

「それはズルいんじゃないかね……って言いたいところだけど、まぁ、この場所に誘ってくれたのはハイセ君の善意だからね。アオギリに面倒を押し付けようって意味が大きくても。

 でも君は嘉納を、人間を殺せるのかい?」

「それは……」

「あんまりお姉さんを舐めないようにね。やっぱり君はまだまだ人間だよ。

 ハイセクン、君は泰然としているというか達観している振りをしているだけだ。君自身はそんな自覚はないだろうけど、ちょっと観察してれば僕は強いんだぞ凄いんだぞ、って余裕ぶって周りを威嚇してるだけに過ぎないって簡単にわかるよ。

 きっとあんていくで長く働いている間に喰種が人を殺すことをスルーしようとしすぎてたんじゃないかな。それが今の光景を見て、スルーしていたことに対する罪悪感がドッと噴き出してきたって感じ」

「……かもしれませんね。喰種レストランで喰種を自分の意志で殺したときよりも衝撃を受けました。

 喰種として生きることに吹っ切れたつもりでも、どこか目を逸らしていた部分があったのかもしれません」

「……は? おい、カ……ハイセ?」

「何? ウサギくん?」

「いや、俺はアヤトでいいよ。別に隠してねーし。

 それよりハイセ。お前、確か今年で20歳だよな?」

「そうだけど?」

「“お姉さん”って……エトってハイセより年上だったのか?」

「ん? そだよー、ハイセクンより少しばかりババァさね」

 

 ……背ぇ低いからずっと年下だと思ってた。

 でもそういえば俺がアオギリに入ったときからエトはいたけど、思い返せばエトは背伸びたりしてねぇな。

 

「ババァ……もうクリスマスの人が年下の男のことを“キュン”付け?」

「ちょ!? やめろ。冗談抜かしてそういうこと言うのやめろ。

 ハイセクンったら私のこと敬愛してるんじゃなかったの!?」

「いや、出会いが出会いだったものですから、エトさんと敬愛している先生は別物です」

「このコートと包帯を脱げばいいのかにゃ? でも残念。包帯の下は裸なんでここじゃ脱げないんだよ。見たいんだったら2人きりのときにね」

「うわ、ますます業が深い。というかヒナミちゃんの教育に悪いことは言わないでください」

「オイ、ババァのエトちゃん。そんなんいいから、この変なのどーすんだ?」

「殺すぞナキさん。

 ……元人間みたいだけど、これは元には戻せないだろうね。治せるんだったらわざわざ嘉納も1200人もの人間を集める必要ないし。

 ナキさん、やっちゃっていいよ」

「おうよ!」

 

 ナキが赫子で失敗作を貫く。

 すると失敗作の背中から赫子が生え、それが失敗作の身体に絡みついてゴリゴリと肉と骨を喰い漁るかのような音が聞こえ始めた。

 赫子が独りでに動く……気持ち悪ぃな。いくら失敗作とはいえこんなもの作るなんて、嘉納って医師は本当に何を考えてやがんだ。

 

「……キッツイなぁ、これ。確かにエトさんが言う通り、目を逸らしていたことを直視させられた気分だ」

「お兄ちゃん……」

「研……」

「クロナちゃんとナシロちゃんはずっと嘉納先生と一緒にいて平気だったの? ずっとこういうの見ていたんでしょう?」

「わ、私たちは……」「だってパパが……」

「そんなこと考えもしなかった、って感じかな? 嘉納先生は口が上手そうな人だったし、ご両親のこともあって嘉納先生のいいように誘導されていたのか。

 ……嘉納先生と会ったとき、どんな顔すればいいんだろう」

「とりあえず問答無用で殺すのはやめてね。

 ハイセクンもちゃんヒナの前ではそういうの見せたくないでしょ」

「まぁ……そうですけどね。

 まずは嘉納先生に会ってからにしますか。クロナちゃんとナシロちゃん、次はどっち?」

「あ……しばらくはこのまま真っ直ぐ……」「多分、パパはここより下の階に……」

 

 まだ地下があんのかよ。どんだけ広いんだ、この場所は。

 嘉納はいったいどうやってこんな場所を……いや、違うか。ここは元々白黒姉妹が住んでた安久邸だ。嘉納が建てた家じゃない。

 となると嘉納がここに潜む前からこんな人間の喰種化実験を行っていた施設だったってことか。安久ってのはいったいどういうヤツなんだ? 安久個人がこんな施設を作ったのか?

 

 くそっ! カネキが白黒姉妹から聞きだしたことはエトもタタラさんも知っているはずなのに、俺には何も言ってこねぇ。俺は何も知らなくていいってことかよ。

 鯱のオッサンはリゼを助け出せればいいって感じだから気にしてないだろうし、ナキは馬鹿だから気にしてないんだろうけど、俺もそれらと同列に並べられるってのはムカつくぞ。特にナキと並べられんのは。

 

 ……カネキの部屋にあった参考書で、少しは勉強してみるか?

 しかし姉貴みたいに学校行ってなかったツケが今更響いてくるとか……。

 

 

 

 その後、白黒姉妹の案内で10分ほど歩いたら一際大きな部屋についた。……10分も歩くって、どんだけ広いんだよ、ここ。

 部屋の壁にはどうやら失敗作が入っているようなカプセルがズラリと並び、部屋の中央には天井まで届く柱があって、その柱の少し広がっている根元は空洞になっているみたいで中に女がいるのが見える。

 

「……リゼ」

 

 鯱のオッサンの呟きが聞こえた。あれがリゼ?

 本当に生きて……んのか? 全然動かねぇけど。

 

「久しぶりだね、カネキくん。退院してから一度も病院に検診に来てくれなかったけど、こうして会えて嬉しいよ。

 出来ればゆっくり話をしたかった」

「嘉納……先生」

 

 柱の根元の段になっているところに男が1人。アレが嘉納か。

 何か胡散臭い顔をしたオッサンだな。

 

「ここまで辿りついたということは、今更いろいろ隠しだてする必要もないのだろうね。しかもアオギリと一緒に行動しているとは思いもよらなかったよ。これなら一緒にアオギリに行こうと誘いやすい。

 君が退院してからのことはよくわからないが、そうやってアオギリと一緒に行動してクロとシロも捕まっているということは、今では強力な喰種にも引けを取らないということだろう。

 君は私の最高の成功品だよ、カネキくん」

「最高も何も、成功率0.25%の施術に拘っている人に言われても嬉しくないですね。

 それにそういう風に話すってことは、あなたは本当に僕のことがわかっていない。知らぬは本人ばかりなりとは言いますが、事を起こした黒幕にしては知らなさすぎる。

 というか年頃の女性を全裸で監禁するとかムッツリ中年か、アンタは?」

「……手厳しいね。

(ピエロの彼がいなくなってしまってから、すっかり外の情報に疎くなってしまったのは事実だが)

 しかし私は「とりあえず鯱さん。壊さない程度に関節技とかキメちゃってください」……私の話は聞かなくてもいいのかね?」

「いや、まずはここに来た目的を果たしてからと思いまして。喰種化施術をした患者のカルテとかありますよね? それ出してください。僕の分だけ除きますので。

 嘉納先生のことはCCGも探しているみたいなので、喰種化施術と僕は無関係ということにしておきたいんですよ。

 それとすいませんけど、ヒナミちゃんとエトさんでリゼさんの救助お願いしていいですか? 同じ女性ですし」

「うん、わかった!」「ま、いいよ~」

「ちょっ! カネキくん、私は「(フン)!」あっ、痛っ!? ア、アオギリの諸君! 私はだねっ!」

愚娘(ぐじょう)が世話になったようだな、藪医者!」

「はいはい、後でゆっくり話を聞きますので。

 これだけ広いなら監視カメラを管理するモニタールームとかありそうですね。何処です?」

「うーん、ごめんね。嘉納先生。

 あなたより興味深いモノを見つけちゃったんだよねー」

 

 鯱のオッサンに関節技を決められている嘉納。

 ウン、今ちょっとスカッとしてる。

 

 何なんだ、嘉納のさっきのあのエラそうな態度。

 アオギリに入りたいみたいなこと言ってたけど、成功率0.25%の施術しか出来ないヤブ医者の癖にエラそうにしてんじゃねーよ。馬鹿が。

 

 

 

 

 

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「法寺さん! 他人の名義で購入させた嘉納の不動産を見つけました!」

「何ですって!? よくやってくれました、滝澤くん」

「へへへ、俺だって真戸の背中を追っているだけじゃないですよ」

「ええ、その意気です。これからも頑張ってください。

 篠原特等たちに連絡を。皆の都合がつき次第、その不動産に行きましょう」

「はい!」

 

 

 

 

 

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「しっかしまぁ…………嘉納先生って暇人なんですか?」

「な、何でそうなるのかね?」

「成功率0.25%の実験にいつまでも拘っているからですよ。

 しかもそのうちの一例はテストケースの僕だから、成功させようと思って成功出来たのはクロナちゃんとナシロちゃんの2人だけじゃないですか。

 よくここまで無駄な時間を過ごせましたね?」

「ねぇねぇ、鯱さん。

 私、筋○バスターって見てみたい」

(フヌ)? どういう技だ、娘?」

「お、ちゃんヒナはマンガも読むのかい? ○肉バスターなら私も知ってるよ。

 まずは相手を逆さに持ち上げて「ま、待ってくれ。せめてカネキくんと話をさせてくれ」……私も一度くらいは実際に見てみたかったのにぃ」

 

 ……そういえば姉貴が、カネキがヒナミにゲームでもマンガでも何でも買い与えちゃって困るって言ってたな。

 まぁ、ヒナミもあんていくでの手伝いはしてるみたいだけど、人間の中学生が学校に行くような時間は手伝わせることが出来ないから平日の昼間は暇で仕方がないらしいけどよ。

 

「嘉納先生、これで僕のカルテは全部ですか?」

「あ、ああ。そうだよ。ここでは私1人で研究をしていたのだから、わざわざ別の場所に資料を用意するような手間はかけたりしない。

 病院でのカルテは私が一般的な値に書き換えていたから、これを処分すればCCGがあの事故の件で君を怪しめるような証拠はなくなる」

「後は四方さんがクロナちゃんとナシロちゃんと一緒に向かったモニタールームの監視カメラのデータを全部消せば終わりか。

 それじゃエトさん。筋肉○スターの説明の続きをどうぞ」

「ま、待ってくれ! 流石にもう無理だ……」

「大丈夫大丈夫。無理というのはですね、途中で止めてしまうから無理になるんです。途中で止めなければ無理じゃ無くなります」

「((ブラック)お兄ちゃん……)」

 

 カネキのヤツ、静かに怒ってんなぁ。

 っていうか鯱のオッサンがまた本当に絶妙な感じで嘉納を痛めつけてやがる。

 

 ま、怒るのは無理もねぇよな。

 そもそも鉄骨落下事故からの1年ぐらいで1200人に喰種化施術を行ったってことは、だいたい1日に3~4人のペースで施術を行ったってことになるぞ。

 きっとその施術も10分や20分で終わるもんじゃねぇだろう。施術1回につき1時間ちょっとと仮定すると、1日に4時間の施術を毎日のペースで休みなしに続けたってことになるのか、この嘉納ってオッサンは。別の意味で凄ぇな。

 でもそんな数撃ちゃ当たる方式で実験を繰り返していたのに、成功例が最初のカネキを含めてたったの3例。そんな無駄な時間過ごすぐらいだったら、カネキが言ってたようにさっさと別の方法を探せって話になるよな。

 勉強の出来る馬鹿ってのはこういうオッサンのことを言うのか? というか人間の癖によくそんな施術行う体力あったな。案外このオッサンは自分自身にも喰種化施術行ってんじゃねぇの?

 

 それと思い出した。

 嘉納のあの胡散臭い顔をどっかで見た覚えがあると思ったら、親父がいなくなったときに俺と姉貴を白鳩に通報した佐藤のババァに似てるんだ。

 あの「私は清く正しい善人ですよ」って心の底から思ってる顔。嘉納は自分は世間から悪だと言われる存在だと認識しているとか言っていたけど、ぜってぇ自分ではそんなこと思ってないぞ。

 ああ、思い出したら腹立ってきた。クソババァが。

 

 しかしこんなオッサンをアオギリに入れて何かメリットあんのかよ?

 少なくとも俺は、0.25%の成功確率にかけて実験体の人間を生きたまま攫ってくるなんてメンドクサイことはしたくねーぞ。

 それに例え成功しても、それがカネキみたいなヤツになったらアオギリがソイツに壊滅させられるんじゃねーの?

 

 

「ところで何です? この大きな……冷蔵庫?」

「……ぁ、ぁぅ……」

「黙ってないで答えてください。篠原の刑に処しますよ?」

「た、頼むから少し休ませて……」

 

 何その不穏な刑の名前?

 篠原って、11区で戦った特等捜査官の名前だよな?

 

「そ、その冷蔵庫には、昨日リゼちゃんから摘出した赫胞が保管してある」

「ふーん…………うわ、こうして見るとグロテスク」

 

 カネキが冷蔵庫を開けてみると、そこには赫胞が4つ並べられていた。

 おーおー、よくこんなにリゼも取られたもんだ。というか背中に繋がっていたケーブルで栄養補給をされていたみたいだけど、よく1200もの数をリゼは再生出来たな。

 リゼの赫子が再生力の高い鱗赫ってのを差し引いても、リゼの赫子が特別性ってのは本当みたいだな。タタラさんがリゼの赫子持ちに拘ってたのもある意味当然か。

 

「おお、まだ動いてる。

 ……嘉納先生?」

「何だね、カネキくん?」

「どうして人間に喰種の赫子を移植して半喰種を作るんですか?」

「いや、さっきも言っただろう。歪んだ鳥籠を壊すためにだよ」

「あ、いえ。目的としてではなく、何故その手段を選んだのか、という意味です」

「それはだね。人間と喰種を混ぜることで雑種強勢を強制的に引き起こし、より強力な喰種を作るためだよ」

「つまり嘉納先生の目的は強力な喰種の作成であって、人間の喰種化はあくまで手段でしかなかったわけですか。

 そのために1200人もの命を無駄に……喰種を強い喰種に改造するとかじゃ駄目だったんですか? それこそ赫胞をこんなに量産出来るなら、人間ではなく喰種に移植するとか」

「それは無理だよ、カネキくん。赫子には相性というものがあるのは知っているかね?」

「軽い羽赫は防御の固い甲赫に弱くて、動きの遅い甲赫は一撃が強い鱗赫に弱い、とかですよね」

「うむ。だがそれは戦闘のスタイルに限ったことではなく、赫子から分泌されるRc細胞が弱点となる赫子に対して特別有効な毒になるからでもある。むしろソチラの方が大きいかな。

 リゼちゃんの赫子は鱗赫。カネキくんが戦ったことがあるかどうかは知らないが、甲赫で負わされた傷よりも尾赫で負わされた傷の方が治りが遅かったことはないかな?」

「数秒程度の違いですけど、前はありました」

「数秒? ……まぁ、要するに喰種は互いに毒を持っているようなものなので、どうやら赫胞の移植をすると拒否反応が起きるようなんだよ。それが例え羽赫と鱗赫みたいな相性が普通の赫子同士でも、それこそ鱗赫同士でもね。

 たまに赫子を2種持っている喰種がいるが、それはかなり珍しい生来のものだ。両親の相性がよっぽどよかったのだろうね」

「だってさ、ヒナミちゃん」

「うん! お父さんとお母さん仲良いもん!」

 

 え? ヒナミって2種持ち?

 ……前のとき、甲赫だけで吹っ飛ばされて終わった俺の立場って……。

 

「ん? もしかしてこの子が?」

「実は僕も羽赫増えましたけど」

「ほぅ、そうなのかね…………ウン……ウン? カネキくん、共食いをしたのかい?

 確かにたくさん共食いをすれば赫胞が増えることもある。それこそ赫者になるぐらいね。おそらく消化器官を通してRc細胞を吸収すれば、毒性は気にしてなくてもよいのだろう」

「共食い……と言うのかな、アレは?

 まぁ、それは置いておいて、なら量産したリゼさんの赫胞を人間に移植させたりしないで、他の喰種に食べさせ続けたらいいんじゃないですか? それこそリゼさんの鱗赫だけでなく、羽赫も甲赫も尾赫も揃えて4種の赫子を食べさせ続けるとか。

 というかRc細胞壁を増殖させたことといい、リゼさんの赫胞を量産したことといい、これ利用すれば喰種が人間を襲って喰わなくてもよくなるんじゃ?」

「もちろんそういう研究もしているよ。強力な喰種を作っても、栄養が足りずにその力を発揮出来なかったら宝の持ち腐れだからね」

「目的はどうあれ少しだけ嘉納先生を見直しました。むしろそういう研究だけしましょうよ」

「ただそうなったとしても、CCGが喰種を駆逐しようとするのは止めないと思うがね?」

「……それもそうですね。

 あ、それじゃあ鱗赫を持っている人が、自分の鱗赫を増やすのとかはどうでしょうか。例えばこんな風に……」

 

 グチュグチュグチュグチュグチュグチュ!

 

「「「「「……は?」」」」」

 

 …………カ、カネキがリゼの赫胞を自分の腰に当てたら、赫胞がまるで意思を持ってるかのようにカネキの身体の中へ潜り込みやがった。

 カネキも冗談のつもりだったんだろう。目ぇ見開いて驚いている。

 え、何アレ? 気持ち悪い。

 

「り……鱗赫の喰種に鱗赫を増やしたとしてもあまり意味はない、と思うのだが…………カネキくん、君の身体はいったいどうなっているのかね?」

「いや、むしろ嘉納先生こそリゼさんの赫胞に何したんですか? 今のはいったい何が起こったんですか?

 え? 僕の身体どうなってます?」

「普通に切除して取り出しただけ……なんだが。

 あー……と、何だね? 例えばだが、戦いの際に切断された赫子でも、Rc細胞が崩壊する前に切断面をくっつけるとそのままRc細胞同士が結びつき直すことがある。

 それと同じ作用で、リゼちゃんの赫胞がカネキくんに移植した赫胞を自らと同じものと認識して自然にくっついた……とか、なのかな? 今起こった現象は?」

 

 ああ、なるほど。カネキの赫子は元々はリゼの赫子だもんな。

 切れた腕がまたくっつくみたいに、離れた赫胞が同じように元の身体と勘違いしたカネキの身体の中に戻ろうとしたってことか?

 

 だったらさっきの話じゃないけど、自分の赫子なら増やせんのか。

 種類が違う赫子を増やせた方が戦いのときの選択肢は増えるけど、別に今までと同じ赫子でも増えればそれに越したことはない。カネキの鱗赫みたいに本数が多かったら、それだけ手数を増やすことが出来るしな。

 それにもし羽赫を別の位置に、それこそ鱗赫が出る腰の部分とかに増やせたら攻撃手段がもっと増えることになる。

 流石にケツに羽赫を生やすのは嫌だけど、腰の裏や肩甲骨の裏に羽赫を増…………ケツに増やせばクソカマ野郎対策に……いや、でも腰でじゅうぶんか……。

 

「うわ、本当に増えてる」

「Rc細胞値が100万超えとか身体に当てただけで赫胞が増えるとか、ハイセクンはいったいどこまで突き進むのかね、本当に?」

「待ちたまえ。100万って何だね?」

 

 カネキが鱗赫を出すと、4本だった鱗赫が5本になっていた。本当に増えてやがる。そのうちの1本がさっき潜り込んだ奴なのか、それだけがやけに細い鱗赫だ。

 ……すっげぇなぁ。ある意味で。

 

 これを利用すれば俺も…………ああ、でも最初に自分の赫胞を取られるのは嫌だな。

 しかもその後に、リゼの入ってたカプセルみたいなのに入って赫胞の回復を待って、回復したら今度は先に切り取った赫胞を移植し直す必要があるから、あの嘉納ってオッサンに無防備な姿で改造手術受けるようなモンか。

 うーん、それには抵抗があるけど、でもちょっとこの研究に興味出てきた。

 

 まぁ、そういうこと出来んなら、嘉納のオッサンをアオギリに置いてやってもいいか。

 

 

「……せっかくだから、残りの3本も貰っておくか」

 

 

 オイ、やめろバカカネキ。

 ますますとんでもないことになるじゃねーか、お前。

 

 

 

 

 

━━━━━芳村エト━━━━━

 

 

 

「たっだいまー、タタラさん、ノロさん」

「お帰り、エト。

 ……随分とご機嫌だな? その様子だと成果があったのか。アヤトたちは?」

「ウン、すっごく大きなものが。

 アヤトくんは嘉納先生と白黒姉妹を当座の住居に案内中。ナキさんたちはここについてすぐどっか行っちゃった」

「ホゥ。嘉納たちは使えるのか?」

「いや、戦力という意味では使えないかな。施術成功率も0.25%ってとんでもなく低い数値だから、これから新しいのをポンポン増やせるわけじゃないみたいだし。

 だから嘉納先生にはちょっと別の研究をしてもらおうと思ってね。そっちが実現したら戦力は増えるかもしれないし、成功率も高いと思う。

 でも私が見つけたのは嘉納先生じゃない方なんだよねー、ウフフ」

「……カネキ、ケンのことか? あの甘ちゃんが使えるとは思えないが?

 お前は気に入っているようだが、自分の身体のこともろくに考えていなかった馬鹿だぞ。アレでは芳村の盆栽がいいところだろう」

「うーん、それが盆栽というか、とんでもなさすぎるせいで放置するしかなくて放置してるというか…………ウン、アレだ。庭に植えちゃって手遅れになったミントだね、彼。

 それにタタラさん。まだ前の事を根に持ってんの?」

 

 カネキュンの腹に貫手かましたら逆にタタラさんの指折れちゃったときのこと。しかもその後にカツアゲされちゃったのも余計にキてるのかね?

 

「……そんなわけない」

「ならいいけど。でもカネキュン、本当に強くなってたよ。

 鯱さんに勝ったし」

「鯱に? そういえば鯱は何処に?」

「ああ、鯱さんなら6区に里帰り中。コクリア出てから帰ってないからね。舎弟に顔見せて指示出したら戻ってくるって。リゼさんが追われているせいでアオギリに来るしか選択肢がないから、別に一度帰ってもいいよって言っといた。

 というか鯱さんなんかよりもカネキュンだよ、カネキュン。私じゃカネキュンに勝てないかな。むしろ鯱さんの方が勝率あるかも」

 

 鯱さんに良いように殴られまくってたから、戦闘技術というか立ち回りはまだまだ甘い。

 まぁ、訓練はしているようだから、今のところ技術は上の下ってとこかね。雑魚には余裕で勝てるけど、鯱さんみたいな上の上には負けちゃう感じ。

 だけどあの一撃で鯱さんの両腕を折る攻撃力と、鯱さんに20分以上殴られても平然としているタフネスは驚異の一言。リゼさんの赫子を持っていることや、今までに聞いた話を総合すると回復力も半端ないみたいだし。

 私の場合だと本気出すときは赫者になって大きくならなきゃいけないから、鯱さんみたく躱し続けるというのは難しい。だから私だと下手したら力勝負であっという間にヤラレちゃうかもしれないから、攻撃を躱しやすい鯱さんの方が戦えそう。

 

 というかRc細胞値が100万以上って何なのさ?

 

「タタラさんは、自分のRc細胞値がいくつなのか知ってる?」

「いや、測定したことはないが……」

「カネキュンは100万以上なんだってさ。もう“ばっ!!!!”って言いながら手を上げたら地面が吹っ飛びそうな感じだねぇ」

「…………は?」

「おお、タタラさんのそんなポケッとした顔、初めて見たよ」

「何ソレ? 本当なのか?」

「嘘つくにしても、ここまで荒唐無稽な嘘はつかないと思うよ。

 現に衰弱してたリゼさんにカネキュンの血を少し飲ませただけであっという間に回復したし」

 

 流石にずっと監禁されていたせいで、顔色が元に戻っても動けなかった……というか回復して疲れたのか、助け出してからずっと寝てたけど。

 でもアレ本当っぽいなぁ。それならカネキュンのあの戦闘能力にも説明がつくしね。

 前例のない、とてつもないRc細胞値を持った隻眼の喰種。

 

 これは……。

 

「ついに次の王、見つけちゃったかな?」

「あの甘ちゃんをか……」

「気に入らない?」

「それは向こうに言え。あの甘さでは、向こうこそがアオギリを良く思っていないだろう」

「そうなんだよねー。それが問題なんだよ。ヤモリさんとアヤトくんがあんていくで暴れちゃったから、アオギリに対する好感度が低いんだよねー。

 タタラさんなんか名指しで『次何かしてきたら2つに割れてる顎を4つにする』って言われてたよ」

「フン、Rc細胞値がいくら高かろうとそう負けたり…………顎って何だ?」

「ま、アオギリの中で例外はトーカちゃんの弟のアヤトくんと、敬愛されている私ぐらいかな?」

「…………(顎?)」

「黙ってないで何か言ってよ。

 でも本当にどうしようかな? 力尽くでっていうのは無理っぽいし、トーカちゃんやあんていくに手出したら怒りそう」

 

 だから私たちではなく、CCGに手を出させる?

 いや、カネキュンの話だとVとある程度の話がついているはず。多少のことじゃ揉み消される。

 しかも今のカネキュンのメンタルだと、CCGと敵対するぐらいならあんていくの連中を守りながら身を隠す方を選ぶ気がするし、現にそれだけの力はある。月山財閥でも同様。

 それに結局私が仕組んだことがバレたら、カネキュンと敵対することは避けられない。

 

「となると、王様から砂糖みたいに甘ぁーいカネキュンを説得してもらう、というのはどうかな?」

「……ああ、なるほどな。あの甘ちゃんなら王の境遇を知れば何らかの思いを抱くだろう。

 それにちょうどいい。ついでにカネキケンの実力を確かめるいい機会にもなる」

「お、いいねぇ。王様に頼んでちょっと戦ってもらおうか。

 もしカネキュンが王様に勝てたら、それこそ彼こそが“隻眼の王”に相応しいことの証明ともなるしさ」

 

 そんじゃ電話でデェトの予定でも取り付けますかね。

 いいねぇいいねぇ。何だか久しぶりに楽しくなってきたよ、カネキュン♪

 

 ピのパのポ、と……あ、もしかしたらまた今度もトーカちゃんが電話に出てくるかにゃ? トーカちゃんはアヤトくんのお姉さんだし、カネキュンとも仲が良いから私も仲良くしたいんだけどなー、ウフフ。

 

 

 

「フンフフーーン♪ さぁーて『も』あ、ヤッホー! カネキューン、今日はお疲れさまー。愛しのエトさんでっすよー」

『…………』

「ん? どうしたのかにゃ? カネキュ『エ、エト……?』ってホアアァァッッ!? おっ、おおおっ、おおおっとーーさんっ!?!?」

「プッ」

 

 しまった! この展開は予想していなかった!

 

 というか笑うなタタラさん!

 いや、でも確かにそういえばトーカちゃんが電話に出る可能性があるなら、おとうさんが出る可能性も普通にあるよね!?

 

『エト……』

「アー……アハハハハ、カ……カネキュンの携帯に電話、したんだけどさー?」

『確かにこれはカネキくんの携帯だが……エト、すまない。カネキくんから聞いてはいたが、もう25歳にもなるのに“カネキュン”なんて……』

「ちょ、やめろ」

『すまない。私がお前を捨てたばかりにそんな……25歳なのに年下の男の子に“キュン”付けしたり語尾を“にゃ”にしたり全裸包帯をファッションにしたりするようになるなんて…………すまない。本当にすまなかった』

「プフッ!」

『アオギリのことはともかくお前がそんな女性に育ったなんて、憂那に何て詫びれば…………ノロイは、ノロイはいったいどんな育て方を……?』

「すまない、功善。無理だった」

「っっ!?!? ノロが喋っただとっ!?」

「いい加減にしろっ、オッサンども!!」

 

 

 やめろぉっ! タタラさんも頬をひくつかせてんなっ! しかもノロさんの久々の発言がそれかよっ!?

 おとうさんも私に対して謝るのも罪悪感を抱くのも勝手にすればいいけど、そういう理由でガチ凹みすんのはマジでやめろぉぉっっ!!

 

 いや、演技だから! 本当の私はもっとお淑やかだから!

 今のはカネキュン用の明るくてファンキーで美人小説家な高槻泉先生としての顔だから!

 

 だからガチ泣きすんな! こっちが泣くぞ!

 女に年齢のこと思い出させんなぁっ! 最近アヤトくんとかカネキュンとかちゃんヒナ見てたら、そろそろキツイかなと思い始めてきてたんだから!

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「おお、アヤト。

 お前が帰ってきたってことは、ナキのアニキも帰ってきてるのか?」

「承正か。ナキなら一緒に戻ったぞ。けど今どこにいるか知らねぇ。

 それとこのオッサン、嘉納っていうんだが、人間だけどアオギリに入ることになったから殺して喰ったりすんなよ。白スーツの連中全員によく言っておけ」

「人間が? 変わったことも…………うん?」

「よ、よろしく頼むよ。後ろの2人はクロナとナシロという」

「…………」

「…………な、何かな?」

「……いや、変わった髪型をしてるなと思っただけだ」

「それはカネキくんに言ってくれ」

「カネキ? ヤモリのアニキに勝ったという男のことか?」

「(私たちは篠原の刑に処されなくてよかったね、シロ)」

「(そうだね、クロ)」

 

 

 

 

 

 







 エトさんにじゅうごさい……のはずですよね。re:で27歳ですから。
 うん、こんなん書いたけどまだ若い若い。それにヒナミちゃん相手には自分でババァを自称してネタにしてますから平気平気、うん。

 そしてカネキュンはニコさん画のたたらっちが印象に残っているようです。


エト「特技は喰種化施術とありますが?」
嘉納「はい。喰種化施術です」
エト「喰種化施術の成功率は何%ですか?」
嘉納「0.25%です」
エト「え、0.25%?」

 煽りとか抜きで考えて、何で嘉納先生はアオギリに入れたんでしょうか?
 こういうツッコミは無粋だとわかってはいるのですが、どうしても考えてしまいます。


 53万ネタは散々感想で使われてしまっていたので、カネキュンを更に強化することにしました。『作者は悪くない。』
 パワーが有り余り過ぎて自分でもコントロール出来ないのが共通点Deathヨ。


 それとタッキーは残念でした。
 意識不明の重体まで追い込んだとはいえ白黒姉妹を喰種レストランで確保していたので、カネキュンたちの方が一歩早かったようです。
 けど白滝にはならなくてよくなったんで勘弁しておくれ。


 しかし原作が佳境に入ったせいで自分の考えた設定と違う原作設定が出てくるんじゃないかと、最新号を見るたびにガクブルしてます。
 二次創作で捏造設定タブを入れているとはいえ、やはりなるべく原作に沿うようにしたいですからね。

 ただしウチのカネキュンは除く。

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