Another Future"RWBY"   作:ばんぷる

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ep4

 鳴り続ける警報は、避難するべく足早に通りを進む市民の不安の声と足音と共に冬の曇り空へ響いている。老いも若きもがシェルターへ殺到する人混みの中を避けるべく、背の低い家屋の屋根へと出たワイスたちは、跳躍を繰り返しまたたく間に街道と街を隔てるゲートの目前にたどり着いた。既に迎撃態勢に入り、閉じられたそれの上に飛び乗った三人はぞろぞろと近づく黒い塊を見た。

 

正確には、塊ではなく無数のグリムの群れだ。真っ直ぐに、街の方へと向かってきている。門にぶち当たるまでは後数分というところだろう。

 

「……百は居ないくらいかしら」

 

「おっと、それくらいじゃルビーは来てくれないかもね」

 

 外套を脱ぎ、スレンダーな肢体をピッタリと包む艶のない隠密性に優れたナイトスーツを晒したブレイクはファウナスに備わった優れた視力で敵のおおよその数をすぐさま把握した。ヤンがすかさず軽口を飛ばし、ワイスが咳払いでそれを遮った。

 

 それを合図にするかの如く、三人は街の外側へと門を蹴って飛び降りた。

 

「それはそれとして、グリムを街に入れるわけには行かないでしょう」

 

「ええ、そうね……」

 

 ゆらりと立ち上がったブレイクの腰に巻かれたベルトに備えられたレールが五枚の薄い長方形の板を腰の後ろから左右にスカートのように展開させる。更にそこへ亀裂が規則的に入り、迅速に稲妻のようなジグザグの刃を持つ蛇腹剣の刀身に変じると彼女の足元に射出されて地面に突き刺さった。

 

 射出と同時にグリップが迫り出し、その柄頭からはワイヤーが腰のハードポイントに接続され、さながら簡素な板で作ったドレスのようにも異形の獣の尻尾か脚のようにも見える。

 

 投擲剣『ビューティーアンドビースト』を速やかに展開させたブレイクは眼前に迫るグリムの群れを迎え撃つべく腰を低く落とした。

 

「まあ、ルビーを見つける前に一発気合入れるには、丁度良いんじゃないの?」

 

 右手のグローブを取り払って、肘から先の黒地に金色のラインが血管めいて走る義腕を露わにしたヤンは、左手首に装備された腕輪を起動させた。

 

 手首を起点として拳と肘を覆うように伸展し、装甲が展開されたショットガントレット『エンバーセリカ』を装備した腕を身体の前に構え、腰元に引き寄せる動きでコッキングし、ショットシェルを装填したヤンはテンガロンハットの鍔を右手で押し上げると不敵な笑みを浮かべた。

 

 『お嬢様、『ミルテンアスター・ダイアモンドダスト』投下致しました。以降のコントロールを譲渡致します』

 

「結構」

 

 二メートルはあろうかという先端に向けて薄く伸びた刀身を持つ五角錐が上空から七つ、ワイスの周りを囲むようにして飛来した。中空で静止したそれは細かな装飾を施され、錐体の先端を下に向け、底の部分から羽飾りのように突起が五つ伸びている。ワイス専用のダスト搭載型多機能兵装『ミルテンアスター・ダイアモンドダスト』である。

 

 半ばほどに回転式拳銃のようなシリンダーを持つ大柄のそれは以前の彼女の愛剣、『ミルテンアスター』の刀身を巨大化し、柄を排除したような様相だ。それぞれに赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色のダストを搭載したその刀身に当たる部分には一から七までの数字が振られていた。

 

「ツヴァイ、ドライはヤンとブレイクに随伴、残りはカノーネフォームでチャージを始めなさい。ヤン、ブレイク!時間を稼いでくださる?」

 

 橙と黄の二基がそれぞれ突撃を始めたヤンとブレイクの元へと追従し、残りはワイスの正面に展開した魔法陣の周りに刀身を外に向け、太陽か花のような様相で回転を始めた。

 

「さっさとしないと終わっちゃうと思うけどね!!」

 

 左腕に装着した『エンバーセリカ』を腰だめに構え、ヤンは真正面からグリムの群れへとかちこんだ。両者が激突する瞬間、己の正面に飛び出してきたワイスの『ミルテンアスターDD』の底を激しく殴りつけた。

 

 インパクトの瞬間展開した魔法陣に彼女の拳が接すると、加速と炎上を付与され巨大な弾丸と化した『ミルテンアスターDD』はグリムの群れの一帯を燃え上がらせながら抉り取った。

 

 仕留めそこねたグリムたちにも炎は拡がり動きを鈍らせる。想像以上の効果にヤン本人も思わず目を丸くさせ、口笛を漏らす。

 

「うーわ。なにこれ、凄い」

 

「ちょっと! 乱暴に扱わないでくださる!?」

 

 そのまま戻ってきた『ミルテンアスター』の一基からワイスのヒステリックな声が響いた。自律稼働中でもその様子は把握しているようだ。

 

「カタイこと言わないでよ。この子があたしの前に飛び出してきたんだからさ」

 

 意に介した様子もなく、ヤンは隊列が崩れ、散発的に襲いかかってくるグリム、『ベオウルフ』の顔面を殴り潰しながら調子良く笑った。

 

 地面に叩きつけるように打ち込んだ拳が『エンバーセリカ』に仕込まれた弾丸を発射した衝撃を使って後ろに飛び退ったヤンは、徐ろに構えを問いて右腕を曲げ、手の甲をグリムたちに向けるようにして構える。

 

「今度は、あたしの見せ場」

 

 手の甲に備わった小型の内燃機関がヤンの感情の昂ぶりを感知して輝くと共に、右腕全体が変形を始めた。手の甲を中心に二つに割れた右腕は内蔵されたフレームをせり上がらせ、その左右に割れた腕が細かく分割され、左右3基ずつ小型のスラスターの噴射口のような機関を露わにした。

 

 五年前の戦闘によって失ったヤンの右腕に与えられた義肢は、単純に機能回復のために着けたものではない。『シュニー・ダスト・カンパニー』全面協力のもと開発された新型の戦闘用サイバネティックデバイス。

 

 その本当の姿は、ヤンのオーラやセンブランスに反応し、内部の内燃機関からダストの炎を生成する専用武装、『ジョニー・ブレイズ』だ。

 

「行くわ……よっ!!」

 

 腰を落とし、揺らめく炎を噴射口からあふれさせながら、その爆炎の一噴きでヤンは今度はその身を黒き魔獣の群れに飛び込ませた。

 

「おらァァァ!!」

 

面食らったように立ちすくむ熊型グリム『アーサー』は、小型のグリムたちをその炎を纏った突進で弾き飛ばしながら突っ込んでくるヤンの瞳が真っ赤に変じたのを見た。

 

 次の瞬間、金色に輝く炎の柱がグリムの群れの中で竜巻のように巻き上がり、群がる黒い獣をたちまち灰燼に帰した。

 

「派手ね」

 

 ヤンが暴れる隙間を縫うようにグリム達の間に影が駆けた。その疾駆に追走するように『ビューティーアンドビースト』がブレイクの駆けた軌跡を辿り、グリムたちを斬り裂いてゆく。ヤンが作った爆心地に踊り出たブレイクは四方をグリムに囲まれた。

 

 慌てることもなく、ダストの弾丸を上空から援護射撃する『ミルテンアスター』の支援を受けながら、ブレイクは『ビューティーアンドビースト』を己の周囲へと一直線に射出した。

 

「ロック解除」

 

 手元に残るものを除き四本の投擲剣がグリムに突き刺さるのを確認してから呟いたブレイクの声に反応し、腰のハードポイントから伸びるワイヤーが剣の柄頭から切り離されてブレイクのもとに戻る。

 

 主を失った四本の剣にはしかし、影より現れたブレイクの分身がそれぞれその柄を握っており、一様にグリムを斬り裂いた。オーラのセンブランスとしてブレイクが保有する特殊能力、ダストによる分身の生成だ。

 

 本人を含む計五人となったブレイク達は、それぞれが分離した剣を振るい、踊るようにグリム達の間を跳ね始めた。その姿が翻る度、グリム達の腕や首が吹き飛び空中で塵と化して消えた。

 

 とは言えヤンのような単純火力に劣るブレイクは、分身たちを取り囲まれては引き裂かれ、その度に再生成を繰り返す。当然消耗をきたすその戦い方は一瞬の隙を生み、丸まって回転突進してきた『アーサー』の攻撃を背中にまともに受けてしまう結果となった。

 

「……か、はッ」

 

 センブランスの常時発動に費やす集中力を乱され、分身達が消える。ブレイク自身も大きく吹き飛ばされ、地面に幾度か叩きつけられながら数メートルを転がった。

 

 オーラによってその身体を守り、致命的な攻撃はそう簡単に受けないハンターたちではあるが、その身に受けるダメージやセンブランスによってオーラは減損してゆき、それが切れてしまえば生身の人間も同然だ。今の攻撃でオーラを著しく消耗したブレイクは、剣を地面に突き立て支えにしてのそのそと起き上がった。

 

 ダメージこそオーラの加護で軽減されるものの、衝撃で脳震盪を起こし、視界がぐらついている。手負いの獲物へとトドメの一撃を見舞わんと『アーサー』が唸る。『ミルテンアスター』はダストの弾丸を降らせているが勢いをつけた『アーサー』を止めるには出力が足りない。

 

「……まずいわね」

 

 立ち上がろうとしたブレイクはまだ残るふらつきに膝の力を奪われてよろめいた。目前にアーサーは迫っている。やむなく防御姿勢を取るも恐らくオーラを貫通してダメージが来るだろう。迫る衝撃に備え身を硬くしたブレイクは、庇うように翳した腕の隙間から金色の風を見た。

 

「こン、の……!!」

 

 そこにはヤンの後ろ姿がある。『アーサー』の突進を真正面から受け止め、その余波でざりざりと地面を削りながら後退するもブレイクの手前で勢いを殺しきった。

 

「よくもやってくれたわね……!!」

 

 ブレイクはその瞬間ヤンの後ろ姿に全身から噴き上がる怒りの炎を幻視した。ヤンはそのまま密着姿勢で『エンバーセリカ』で乱打しながら散弾をありったけ打ち込んで、極めつけに『ジョニー・ブレイズ』の渾身の加速鉄拳を叩き込み『アーサー』を炎上爆散させた。

 

「ブレイク! 大丈夫!?」

 

 すぐさま後ろを振り返ったヤンはブレイクへと駆け寄りふらつく肩を抱き起こした。吹き飛んでいった『アーサー』の爆発の余波でまたしても十数体が塵と消えたが二人の周りにはまだグリム達がひしめいている。

 

『二人共、その場で伏せてなさい』

 

「げっ!?」

 

 二人の周囲を警戒するように回転するワイスの『ミルテンアスターDD』から声が響き、ヤンとブレイクはグリムの群れの向こう側から凄まじい光の奔流を見た。

 

 ワイスの目の前で展開していた魔法陣が輝き、周囲を回転する『ミルテンアスターDD』の速度が上がると共に、臨界に達したそれを放つ道筋を作るようにグリムの群れへと幾枚もの魔法陣が伸びていく。

 

「カノーネフォーム! フォイヤ!」

 

 指揮者のように腕を優雅に振り上げて、返す動きで魔法陣に指先を触れる。号令に反応して『ミルテンアスターDD』達が剣先を敵陣に向けると、膨張し、破壊力を産み出したダストの光が魔法陣の道を砲身として伸びてゆく。

 

 破壊を撒き散らす真っ白な光の本流はグリムたちを掠めただけで霧散させ、

 

「く……、あああ!」

 

 それだけには留まらず突き出した右腕に支えるよう左手を添え、体ごと砲身を捻り、そのまま一帯を薙ぎ払うようにして横薙に払った。

 

 『ミルテンアスター・ダイアモンドダスト』の多面的運用法の一つ、ワイス自身の魔法陣生成の力に複数基のダストを同調、暴発させてワイスの魔法陣に乗せて破壊力を打ち出す『カノーネフォーム』、その圧倒的な火力を以って、街に迫らんと蠢いていたグリム達は跡形もなく姿を消した。

 

「……あんたもさ、趣味変わったよね。ワイス」

 

 ブレイクとその愛剣を抱えて岩陰に飛び込んで難を逃れたヤンは、土埃で汚れた服を払いながらくたくたと立ち上がった。肩を貸すブレイクも息は上がっているが力なく笑みを浮かべている。

 

「大きなお世話ですわ。別にどこかの誰かさんの妹みたいな派手な立ち回りなんてなんとも思ってませんもの」

 

 汗一つかかず涼しい顔のワイスはつんと顔をそむけ、澄ました表情で言葉を返す。それに苦笑混じりに肩をすくめたヤン達はゆっくりとグリム達の残滓を踏み越えながらワイスのもとに戻ってゆく。その背後で。

 

 倒し、消え去ったはずのグリムの残滓が急速に寄り集まり、塊を成し、膨れていくのをワイスは見た。

 

「ヤン!! 危ない!」

 

「え」

 

 駆け寄りながら『ミルテンアスターDD』全基を黒い固まりへと飛ばす。ヤンが振り返り、目を丸くしてから慌てて離脱を図る。

 

 ワイスの七基の従者は、黒の固まりを穿ち貫く筈がその一瞬前に、速やかに巨大な蜘蛛の姿に変貌したそのグリムは巨大に似合わぬ俊敏さで飛び退ってそれを交わした。

 

 大きい。グリムの中でも大型とされる鳥形の『ネヴァーモア』よりも一回りほど大きく、八本の脚には棘が生え揃い、大きな赤い複眼が白い仮面を模した頭殻に浮かんでワイスたちを睥睨する。

 

 ブレイクを立たせ、拳を構えたヤンはひんやりとした汗がこめかみに伝うのを感じながら大きく溜め息を吐いた。

 

「これは……また、随分な隠し玉を持ってるわね、こいつら」

 

 鼓膜をつんざくような金切り声を上げて、巨大グリムは三人のハントレスたちに向けて突進を始めた。

 

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