Another Future"RWBY"   作:ばんぷる

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ep6

 

「ええっと……それで、何から話したら良いのかしらね。ひとまず、久し振り、三人とも」

 

 ここはヴェイル王国、ビーコン・アカデミー。

その職員専用に割り当てられる所謂社員寮だ。

 

 教育実習生を務めるジョーン・アークの部屋、その客間のソファに腰掛けながら、秋の山を思わせる腰まである深い紅の髪に理知的な緑の瞳を持ったピュラ・ニコスは眉尻を下げ、苦笑混じりに沈黙を破った。

 

 事の発端は二時間ほど前だ。

 

 

 

「我々の任務は、ルビー・ローズ。彼女の行動の調査と逮捕です」

 

「……ねえ。私、趣味の悪い冗談というやつは嫌いなのだけれど」

 

 レンが言い放った言葉へと色めき立ったヤンを片手で制したのはワイスだった。言葉を紡ぐ声色自体は常と変わらないにも関わらず、その場の全員がひやり、と周りの空気が一段冷たくなったのを感じた。

 

 それに気圧されたようにレンがじり、と半歩後退る。彼を庇うようにして前に出たのはジョーンだ。五年前にはおどけてキザな口説き文句を投げ掛けていた相手に、毅然として向き合い、口を開く。

 

「いや、グリンダ教授が俺達にそれを依頼してきた」

 

「……私達にもそれを手伝えというのね」

 

 ブレイクが先ほどのビーコン入りの言葉への真意を問うように言葉を差し挟むとジョーンはそれを気にすることなく頷いて肯定した。

 

「ねぇ、それってさ。自分たちの言ってる言葉の意味、わかってるの?」

 

 五年前に比べ、激昂することは減ったヤンだがじりじりと自身の周りに陽炎が立ち始めているのを彼女以外の誰もが気づいていた。その瞳は、既に菫色から真っ赤に変じる途中だ。

 

「俺だって、あいつが、ルビーが本当に何の罪もない人間を殺して回るようなことするわけないって信じてる」

 

 ヤンとワイスから吹き荒れる怒気を感じつつもジョーンは一歩も引かず、言葉を続けた。ジョーンにとって、ルビーはビーコン・アカデミーで最初に出来た友人だ。

 

「あいつは俺の初めての友達で、リーダーの心得を教えてくれて、……俺の大事な人の命を救ってくれたんだぜ」

 

 今にも怒りを爆発させかねなかったワイスとヤンはその言葉に全身から迸らせる怒気を鎮めさせた。いつもは快活なノーラも今の間ばかりは沈痛な面持ちだ。

 

「だから、俺は本当のことを明らかにしたい。グリンダ教授がどう考えてるのかは分からない。けど、ルビーの疑いを晴らすためには、あいつを見つけないと」

 

 碧眼に確たる意志を湛えたジョーンはしっかりとワイスたちを見据えながら伝えた。その後押しをするかのように今まで押し黙っていたペニーが一歩前に出てくと口を開く。

 

「私からもお願いします。ルビーは、私の大切な友達です。中身はネジでも、心が、魂があると言ってくれた……ルビーがあんな酷いことをするなんて思ってません。だから……」

 

「わかりました」

 

 ワイスが静かに言葉を返す。そこにはもう先程のような絶対零度の怒りはなく、静かにJNPRを見つめながらの返答だった。

 

「ワイス……!」

 

「あなたの言いたいことは分かりますわ、ヤン。私は、ルビーの一番のパートナーを自負していますのよ」

 

 詰め寄ったヤンをも一言で制し、改めてワイスは腕組みをしながらしっかりとその真意を確かめるように続けた。

 

「我が社の力を持ってしても五年間、あの子の足取りは掴めなかった。正直当面は虱潰しを余儀なくされると思っていましたもの」

 

「! じゃあ」

 

 ぱっとノーラの顔が明るくなってうつむきがちだった顔を上げた。しかし、ワイスの表情は怒りこそ消えたものの決して和らぎはしていなかった。

 

「あなた達に完全に協力するわけではなくてよ。ビーコンの管理下に置かれるつもりは毛頭ありません。私を誰だと思っていて? あくまでもこれは、一時的な情報共有のための共闘。あなた達が本気でルビーを逮捕しようとしたら、その時はどうするかわかりませんわよ」

 

「……ですが、五年です。何が彼女に起こっていてもおかしくありません。本当に、彼女が冷酷な殺人者になってしまっている可能性はゼロではない。……もしそうなった時は」

 

 レンの言葉を否定しきれるものは誰もいない。この五年間、ルビー・ローズは彼等の前に一度として姿を見せたことはなかったのだから。可能性の話だとしても、最悪な事態を想定すべきとレンは言外に伝えていた。

 

「その時は、私がルビーを止めてみせますわ。……例え、彼女を殺すことになったとしても」

 

 

 その言葉に誰一人口を開くことの出来ないまま、JNPRを回収に降りてきたヘリがやがて風を巻き上げながら着地した。

 

 そうして、今に至る。

 

 

「しっかしまぁ、あれだけワイスにお熱だったジョーンがねぇ……?」

 

 ソファに腰掛けながら、ヤンは意地の悪い笑顔を浮かべ隣り合って座るジョーンとピュラを眺めた。その言葉にピュラはくすくすと隣の金髪を盗み見て含み笑いを零し、ジョーンはバツが悪そうに頬を掻いた。

 

「はは、勘弁してくれよ……」

 

 ビーコン襲撃の際、首謀者と目される女性、シンダー・フォールに単身戦いを挑んだピュラはその戦いで瀕死の重傷を負った。奇跡的に一命を取り留めたものの、彼女は自身のオーラとセンブランスを消失してしまったのだ。

 

 しかしピュラは血の滲むようなリハビリで主治医を驚嘆させる程の回復を見せ、現在は全盛期ほどではないものの持ち前の身体能力や戦闘技術を買われビーコン・アカデミーでの主にトレーニングや戦闘技能訓練を教えている。

 

 そして、今ではジョーンとの同棲中だ。

 

「誰が俺を一番大切に思ってくれてたか、やっと気付いたんだ、ピュラ……」

 

「わ、馬鹿ノーラ! やめろ!」

 

 ジョーンの声真似なのか、やや低く声を出しながらノーラが芝居がかった素振りでピュラへと小言葉を掛ける。どうやら告白の言葉を何かの折に聞き出されてしまったようだ。からかうノーラに顔を真っ赤にしたジョーンが慌て、皆から朗らかな笑い声が漏れる。

 この和やかな場にルビーはいない。そこにちく、とワイスの胸の奥が痛む感覚を覚えた。ティーカップとソーサーをテーブルに戻し、言葉を紡ぐ。

 

「……それで、ビーコンはルビーの居場所にあたりをつけていますの?」

 

「ああ。本題に入らなきゃな、こいつを見てくれ」

 

 ジョーンのスクロールから壁に投影されたのは、レムナントの地図だ。四王国が表示される大陸地図がズームアップされ、ヴァイタル大陸に焦点が絞られる。更にそこへ幾つかの光点が表示された。

 

「こいつは今ヴァイタル大陸で確認されてるグリムの群体だ。単発で出てくる分には問題ないけどな、こういう群れのタイプはハンターが対処しないと厳しい。こうして完全とまでは行かないけど、その行動を未然に把握しておくようにしてるんだ」

 

「それと、ルビーに何の関係が? それでルビーを探すってわけじゃないでしょう」

 

 ブレイクは壁に背を預け、襤褸のようにも見える外套の下で腕を組みながら口を挟む。グリムレーダーと称されているらしいそのマップは到底ルビーの所在地とは結びつかない。

 

「そのまさかさ」

 

「ちょっと、どういうこと? よく分かんないんだけど……」

 

「これはあくまでビーコンで出された推測なのだけど」

 

 首を傾げ顔をしかめたヤンの表情に無理もないとピュラが言葉を引き継いだ。

 

「五年前、CCTの上で私やルビーが戦ったグリムのドラゴン、覚えてる?」

 

 三人は一様に頷く。まるでこの世の終わりを体現したかのような禍々しい巨体が夜空を泳ぐ姿は脳裏に焼き付いて離れない。

 

「グリムを生み出すグリム。あれを私達は『ドゥームズデイ』って呼んでいるんだけど」

 

「ええ、ルビーが倒したはずですわね」

 

「我々の見解では、あれはまだ死んでいないのではと考えてます」

 

 レンが告げる言葉でワイス達は一様に驚愕に目を見開く。確かに、本来グリムはその活動を停止した時、塵のような黒い煙となって消滅する。『ドゥームズデイ』は、確かにその姿を消したものの、倒した所を目にしたものはここには居ないのだ。

 

「……続けるわね。私は見てないんだけど、ルビーが使った銀の光の力。『銀の瞳の力』、私が引き継ごうとした『四季の乙女』の力とはまた全く違うものなの」

 

 『四季の乙女』の力。お伽噺の中のものとされてきたそれはしかし、五年前の事件の発端ともなった力であり、ビーコン・アカデミー在籍者はその事情を聞かされている。ピュラが命を落としかけたのも、シンダー・フォールがその力を狙っており、全学長であるオズピンがピュラを当代の『秋の乙女』に選定したことに始まる。

 

 そして、『銀の瞳の力』。伝承にある銀の瞳の戦士は一睨みでグリムを倒すという。その伝説の戦士の力を、ルビーが覚醒させたというのだ。にわかに信じがたい内容はしかし、あの日ビーコンで誰しもが目にしたあの銀色の光を見れば納得する他ない。

 

「ルビーは『銀の瞳』で『ドゥームズデイ』を倒した。そう考えてたんだ、これまでは。でも違う、多分……ルビーは自分の中に『ドゥームズデイ』を封印した」

 グリムの封印。そんな実例は聞いたことがない。あれは害獣であり、それを狩るためのワイス達ハンターが居たはずだ。誰もが言葉を噤む中、ピュラが言葉を続ける。

 

「『ドゥームズデイ』はグリムを生み出すだけじゃなく、グリムを率いる力があると考えてるわ。他のグリム達は、自然と集まってくるの。そしてこの地図……グリムレーダーに映る群体達は、ゆっくりだけれど一点を目差して移動しているわ」

 

 ブレイクが、唖然とした表情のままながらその言葉に要領を得たとばかりに言葉を紡ぐ。それにピュラがゆっくりと頷いた。

 

「ルビーの、ルビーの中にいる『ドゥームズデイ』に惹かれて……」

 

 まだ信じられないという様子でヤンがすかさず口を挟む。ジョーンは普段の快活な黄金の炎を思わせる彼女の狼狽える姿に悲しげに眉を顰めつつも言葉を続ける。

 

「じゃあ、あの子が人を殺してるんじゃないかっていうのは、まさかグリムに操られて?」

 

「そこがわからないんだ。ここ最近の事件とは別で、ルビーは大量のグリムを倒して回ってるっていう目撃報告があるし」

 

 それはワイスが『シュニー・ダスト・カンパニー』で得た情報と合致している。ルビーの身体に起こっている異常と、その不可解な行動は未だ繋がらないままだ。

 

「ウーブレック先生の計算によれば、グリムの群生の一部が来週にも一点に集合するって言われてる……ここだ」

 

 グリム達の移動予測がレーダー上に表示され、一点で交わるように線を描いた。

 

「フォーエバー・フォール……」

 

「じゃあ、ここにルビーが?」

 

 口々に紡ぐ内容にレンが頷き、ピュラがゆっくりと立ち上がって口を開いた。

 

「その可能性が高いわ。JNPRと私は少なくともこの日、フォーエバー・フォールに向かうつもり」

 

「分かりましたわ。私達も行きましょう……直接会って、全部口から聞き出してやります」

 

 皆が頷く。ルビーの手がかりを手にしたのなら、後はやることは分かりきっている。ワイスはじりじりと動く光点の交わる先、そこをじっと見据えたまま固い意志を湛えながら、脳裏に浮かぶ飾り気のないルビーの笑みを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救いを求めるように、手を伸ばしてくる。正確には手ではなく、獣のような体毛と鋭い爪だが。攻撃の意志はなく、その瞳は己ではなくその内側に抱え込んだものに向けられている。

 

 ルビー・ローズはその縋るように見える瞳を振り払うように自身の相棒、大口径狙撃鎌『クレセントローズ』を振るって『ベオウルフ』の首を五体纏めて撥ねた。

 

「っはぁ、……は、ぁ……」

 

 首筋に汗が伝う。冬の空気は吐き出す呼気を白く染めて一年通して紅葉の枯れない紅の世界に溶かしていった。

 

 背後から飛び込んできた『アーサー』をまるで大鎌を新体操のバトンのように軽やかに翻して空中で斬り伏せ、地面を蹴ると共に引き金を引いて発射された弾丸の反動を加速に使い一直線にグリムへ飛びかかったと思うと薔薇の花弁と共にグリム達がバラバラになった。

 

『そうだ、そういう風に殺せ。憎め、怒れ』

 

「うるさい……んだけど!!」

 

 生き残っていた『ベオウルフ』が背後からにじり寄る。その爪が少女の内側にあるものを引き摺り出そうと振り下ろす。その鋭い爪は衣服を先、肌を破り、臓腑まで行き届くはずだった。

 

 その爪は、薔薇の花弁の中で空を切り、代わりにその首にはいつの間にか処刑直前の罪人のように鎌の刃が当てられていた。

 

 誰に言うでもなく、怒鳴ったルビーが乱暴に引き金を引く。発砲の加速を利用してその首を刈り取ったルビーは力尽きたように紅葉の絨毯の上に仰向けに倒れ伏した。腰までの長い赤みのかかった黒髪が散らばって広がる。

 

 身体の内側にどす黒く這い回る泥のような不快感を収めようと深呼吸を繰り返す。耳元に声が響き渡る。女の声だ、聞いたことがある。ピュラを殺そうとした女だ。にくい、憎い。

 

『そうだ、もっと憎め、その身体を憎悪で焦がせ』

 

「あ、ぐ……ぁ!」

 

 己の心を、身体を、内側から熱した真っ黒の泥が溶かして崩そうとのたうち回る。苦悶の声が上がり、ルビーは『クレセントローズ』をなげうち、顔を両手で覆って悶える。

 

『私に、すべて寄越せ、銀の瞳の女』

 

「がああぁあぁあ!!!!」

 

 

 獣のような声が、深夜の常秋の山に響き渡った。その遙か遠くから、山の麓へと、黒い泥が具現化したようにグリム達が迷いなく近づいてきていた。終わりの日を、迎えようとするかのように。

 

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