side〜比企谷〜
走る、走る、走る。早く、ギルドにたどり着くために無我夢中で街中を走っていた。町民たちは、そんな俺を見て驚いている。奇異な目線で見てくる
多分、俺の事を馬鹿な奴だと思っているんだろうな。こんな状況で、ギルドがある方向に行く奴なんて馬鹿しかいない。俺でもそう思う。だけど、それでも止まらない
気がつけば、目の前にはボロボロのギルドがあった。あの夜に見たギルドは、外も中も瓦礫でめちゃくちゃになっていたが、外壁に穴が空いていることさえ無視すれば、綺麗になっていた
そんなことはどうでもいい、俺はギルドの裏手に回る。裏手では、ギルドメンバーが戦っている。この戦闘の余波のせいか地面のところどころに穴が開き、歩きにくい。
あの、巨大ロボットを近くで見ると威圧感を感じる。遠くで見ときと、走っているときには気づかなかったが、巨大ロボットが魔法陣を書いていた。かなりのスピードで進行している。どんな魔法かはわからないが、踏み潰せばいいものをわざわざ魔法を使うのだから、強力なものに違いない
俺がギルドの裏手に到着した時、ロボットの手が地上の何かを掴んでいった。その掴んだものは、人型のものだった
その、掴んだものを凝視する。ミラさんだった。ミラさんが、体を掴まれ持ち上げられていた。体を圧迫され、苦しそうな表情をしていた。このまま放っておいてしまえば、死んでしまうかもしれない
何が、どうなってるんだ…。何で、ミラさんが最前線にいたんだよ。
あまりの驚きに、すこし戸惑い気が動転してしまっていた
エルフマン…エルフマンは何をしている。あいつなら、ミラさんを絶対に前に立たせなんかしないはずだ
エルフマンを探すがエルフマンの姿は、見当たらなかった。ナツも、グレイもエルザさんも見当たらない。それに、マスターまで。この戦場に妖精の尻尾の主戦力が、ごっそりと抜け落ちていた
「…ちっ」
なんで俺は、人に頼ろうとしてんだよ。あいつらなら、何とかできそうだと思ったが、やっぱり人に頼るなんてことできない。確実性に欠ける。なにより、信じきれない。信じるなんてできない
自分でした方が、誰かにやってもらうのを待つより、何倍も安心できる。というか、今まで一人だったから頼ることができなかった。だから、俺はなんでも自分でなんとかしてきた。今までもそうだったし、多分これからもそうする
俺が行った時に、もう助けられていても結果は同じだとしたらそれは、それでいいのかもしれない。まあ、その時は物陰から見てそっと帰ってから、家で枕を濡らしたりするかもしれない
ガルナ島でも同じようなことがあった。あの時は、体がとっさに動いたんだけど。結局、俺がいなくても別に良かったってわかった時は恥ずかしかった。後悔は、少しした
あの時は、被害にあうのはルーシィだけだったが、今回は、被害の出る人数が多くなるだろう。ほとんどのギルドメンバーは、ミラさんが心の支えみたいなものだろうし、ミラさんがもし、目の前で死んでしまうなんてことがあったら、自暴自棄になってしまう人も出てくるかもしれない
見たところ主戦力メンバーはいないに等しい。優秀な魔導士はいるが、敵ギルドに乗り込むとなると心もとないし、ここで味方の士気を上げている人ばかりだ。それに、兵の相手もしなければならない。よってここにいる人に、はじめから頼ることなんてできない。それが、誰であったとしても
今は奇襲や、隠密行動が得意な俺が行くのが一番効率がよくて早く辿り着くことができる
一番の不安要素は、銃の残弾数がないということだけだろう。まあ、一応ナイフは持っているから武器がないわけではないけど。
ナイフは、あまり得意じゃない。持ち運びしやすいから、護身用に持っているだけだし。数回しか使ったことがないし、その時もまともに戦えなかった。このナイフの殺傷能力が乏しいのもあったが、弱い敵だったから、毎回ギリ勝てていただけだった。今回の敵に、弱い奴なんていない。いるはずがない
それでも、行かなければならない。魔法を使い、周囲の認識を低下させ、戦闘が行われている場所を横断し、巨大ロボットの近くまで何事も無く到着した
いくら魔法を使っていたとはいえ堂々と、横断したのに俺の存在に味方も気づかないし、敵も気づかないってどういう事なの?
俺ってそんな、影薄いのか?いや、魔法が強力すぎたんだよね?そうだよね
こんな事考えている場合じゃないか。いや、まあ、いけると思った よ?まさか、こんな事が障害になるなんて思ってもみなかった
で、これの入り口ってどこ?
side〜ミラジェーン〜
その徐々に増していく圧迫感に、私の体は耐え切れなかった。血の巡りが悪くなり、体がだるくなる。少しずつ意識が遠のいていく
目を瞑れば、そこで私の全てが終わってしまう
ゴバッ!と私を掴んでいた腕の近くにある壁に大きな穴が空いた。その大きな音に、遠のいていた意識が戻ってくる
壊れたところには、エルフマンが倒れていた。傷だらけで、血だらけで
「エ…エルフマン…」
弱々しい声しか出ない。エルフマンには多分聞こえてない。エルフマンの後ろには、エルフマンを傷つけたであろう人物が近づいていた
「に…げて…」
エルフマンは、逃げなかった。否、逃げる事ができなかった。いきなり現れた目の前の現実に、頭が、感情が追いついていない
敵は、エルフマンの頭を踏みつける
「やめて!私は、どうなってもいいから!エルフマンだけは…!」
全てを振り絞り、大声を上げる
敵に、そんな甘ったれた事は通用しない。それを聞いてもなお、敵はエルフマンの頭を踏み続けていた。
そんなことわかってる。でも、微かな希望にですら縋りたい
エルフマンも多分そんな事を思ったのだろう。頭にのっていた敵の足を跳ね除ける。エルフマンの全身に膨大な魔力が巡る。何をしようとしているのかすぐにわかった
「あなた…片腕しか使えないじゃない!」
「俺が、弱かったばかりに…リサーナは死んだ…」
それは、違う。私だって弱かった。止める事ができなかった。妹を殺してしまったのは、エルフマンだけじゃない。あたしもだ…
エルフマンは、全身を変形させる。毛が生え、角が生え、体が大きくなる。エルフマンは吼え、大気が震え、敵を威圧する。その後は、一瞬だった。敵を、殴り倒す。短時間で何度も何度も殴り敵の意識を奪った
そして、大きくジャンプして私の近くに跳んできた
「エルフマン…ねぇ…私の声…聞こえてる?」
もう、自分の体が握られていて圧迫されているのを忘れていた。エルフマンは、返事をしてくれなかった
「あなた…また理性をなくして…」
最悪な想像をしてしまう。手が伸ばされる、弟の手だというのに、体が恐れを抱く
殺されるのでは、ないかと…
その後後悔する、エルフマンの姿を想像するだけで怖くなる
だがエルフマンは、私を優しく抱きかかえ、私を掴んでいた手を押しのける
「ごめんな、姉ちゃん…」
「あなた…理性が…」
エルフマンは、あの時から、全身接収を使わなかった。だけど、今使っている。エルフマンは、前に進んだんだと実感する。嬉しいようで、まだ前に進みきれていないあたしが情けなくて
エルフマンは泣き出した。二人は、お互いに生きていることを確認しあった。あの時、約束した。リサーナの分まで生きるという約束を危うく破ってしまうところだった。自暴自棄に、なりかけていた
ここは、足場が安定していない。風も強く、ここにいればいずれは下に落ちてしまう
私たちはロボットの腕から、先ほど空いた穴に入るために移動する。慎重に、ゆっくりと移動していた
「!」
私は、ある事に気付いた
「魔法陣を書く速度が…遅くなってるわ」
書く速度の違いが前と今では格段に違っていた。なぜかしら…煉獄破砕は、四元素魔法の禁忌と言われている。四元素は、火、水、風、土の四つ。ということは…
「エルフマン!残っているエレメント4は、何人なの!?」
いきなり、聞いたためかエルフマンは少し驚いた
「え、えーと…あと二人…かな?」
あの、エルフマンが敵を倒してから、目に見えるレベルで巨人の動きが遅くなっている。つまり、動力源は…エレメント4!全員倒せばこの魔法は、阻止できる!
「急いで、早く巨人の中に入って!エレメント4を倒すのよ!」
「え!う…うん」
私が、わかったことをまだ話していないから、エルフマンはいまいち理解できていない。移動しながら、話していこう
私たちは、巨人の中に入る。他のエレメント4がいるとしたら、グレイやナツのところだと思う。エルフマンにわかったことを説明しながら、どこにいるのかわからない二人の事を探していた
ある廊下に差し掛かった時だった。その廊下の先には、一人の人がいた。その人から、肌がひりつくような殺気が出ている
この人からは、逃げられない。それは、本能的にすぐわかった。背中を見せた時点で、負けが確定してしまう
ただ立っているだけの人にそこまでの強さを感じる
「うおぉぉー!!」
エルフマンは、突撃していった。全身接収できる魔力は、もう残っていない。だが、片腕なら変形させる事ができる
腕が、黒く染まっていく。ビーストアーム“黒牛”だ。“黒牛”は、力に特化している。エルフマンは、一発で殴り倒すつもりだろう
最悪一発いれて、ぶっ飛ばして逃げる時間を稼ぐつもりだった
エルフマンは、走って向かっていく。それに答えたかのように、廊下に立っていた人も向かってきた
遠くにいてわからなかった容姿が、近づいてきた事によって明らかになっていく
どうやら、少年のようだった。私より身長は小さめで、顔は中性的で可愛らしい雰囲気だった。だが、その顔とは不釣り合いのボロボロの衣服を着ている。そのため見た感じは、強そうではないのだがその体から出てくる殺気は、並みのものじゃなかった
エルフマンは、躊躇せず殴った。躊躇すれば、殺されるそれが近づくことによってわかったのだろう
その瞬間、風が強く吹き、私は目を瞑り、髪が揺れるのを感じる。その後、後ろの方で壁が崩れる音がした
恐る恐る、後ろを向く。後ろから何者かがやってきたのかもしれない…もしそうだったとしたら、絶望的だ。逃げる事ができない
後ろを見る。まだ、そこに誰かがいた方が良かったのかもしれない
そこには、エルフマンが倒れていた
急いで、振り返りさっきまでエルフマンがいた場所を見る
そこには、少年しかいなかった。今見た光景が、疑いようのない現実だと知った
エルフマンは、エレメント4との戦いで傷ついて、魔力も少なかったとしても、体がほぼ出来上がっている男で特にエルフマンほどの巨体を吹き飛ばすなんて…魔法以外にありえるはずがない
圧倒的な力を前に恐怖する。心臓をにぎられているような感覚に、震えだす。なす術もないまま、少年が近づいてくるのを、待つことしかできなかった