side〜ミラジェーン〜
今の私をどう表現すればいいのだろうか。もし例えるなら、余命を待つ病人、処刑台に登る犯罪者、出荷される家畜、魔力の切れた魔導士。何もできず、ただ死を待つだけの者にしかなれない。体から力が抜け、膝をつき廊下の床に座る。抵抗する気力さえも失ってしまっていた
この少年に、会ってしまったのは偶然?運が悪かっただけなのかな。無力で、何もできなくて、何もしなかったからこその結果がこれなのだろうか
少年は、腰に付けたあった剣の鞘から抜く。エルザと同じような、魔力を帯びた鎧や剣を使うような剣士なのかな?だが、その剣は魔力をほとんど帯びていないただの剣のようだ。それはどこにでもある、普遍的な誰にでも買えるような剣だ
私の目の前に、少年が立つ。とても、大きく見えた。遠くから見た時は、あんなに小さく見えてたのに
少年は、剣を振り上げる。剣が光り、その剣に風が纏わりつきより殺傷力を上げる。私は、恐怖から逃れるように目を瞑った
「姉ちゃん!」
エルフマンの叫び声が聞こえる。次に何が起こるのか、わかってしまう。せっかく、助けられたのに…助けてもらったのに…
私は、斬られるその瞬間を待つ。だが、待てど待てども、その剣が私に当たることはなかった。それは、もう時間が止まってしまったような感覚だった
「はやく…っ!ここから…に、げろ。お前らには…やる事が…ある…だろ」
声が聞こえた。この声は、聞いた事がある。ここにいないはずなのに、ここにいるわけがないのに…なんで…なんで…
「は、はちまぁん」
瞑っていた目を開ける。涙がこぼれ落ちる。今日流した涙の中で一番多く流れている。嬉しくて…うれしくて…八幡が目の前にいるのが、夢かと思ってしまうくらい非現実で、でも夢であって欲しくない
涙は、もう枯れていたと思っていた。だけど、絶え間なく涙は落ちてくる
side〜比企谷〜
結局、足からよじ登って窓を割りロボットの中に入った。さっきまで病院で寝ていたからか、少し辛い運動だったかもしれない。息が少し荒くなっていた
中に入っただけじゃまだ安心できない。ミラさんが掴まっているところまで行かなければいけない。息を整え、走り出す
敵のギルドの内部のはずなのに、敵の姿はほとんどなかった。誰かが、中に入っていて敵を倒していたのかもしれない。誰だがわからないがそのため、ひたすら走る事に集中することができた。そのおかげで思ったより早く、ミラさんが掴まれていた場所まで来ることができた。だが、その手には、何も掴まれてはいなかった
誰かがミラさんを助けてくれたんだろう。なら、よかった。やっぱり、あの場にいなかった奴らは、内部に入っていたんだな。それなら、もう俺はここに用はない。とりあえず来た道を戻るか。帰り道の中間地点付近のところまで来た時、近くでドカッと壁に何が当たる音と、その後に壁が壊れ、崩れる音がした
聞こえた場所は、この扉の向こうだ。激しい音だったためここで何が起きているのか気になる。俺はその扉を開いた
その瞬間、ゾクッと身震いした。崩れた壁の向こうにいる少年を俺の脳が、警戒しろと言っている。少年の肌にひりつくような殺気に、体が反応してしまった
目の前の崩れた壁の下には、エルフマンがいた。そして、その壁の向こうには、ミラさんが今まさに少年に斬られようとしていた
ナイフを取り出し、十数メートルくらいの距離を駆ける。剣がミラさんに振り下ろされる寸前にギリギリ間に合った
ガチガチと剣の刃とナイフの刃が重なり、音を鳴らす
俺のナイフは、魔法具なので普通の剣よりかは、耐久力は高いが自分の勝手な考えで、あまり人を殺したくない為殺傷力は抑えてある特注品だ。殺傷力が抑えられているとしても、それなりの攻撃力はあると思う。だが、今は押されていた。少年のその細い体のどこから力が出ているのかと思えるほどの力がある。さらに、少年の剣は風を纏っていて、そのせいで手に、腕に切り傷が増えていく。このままじゃ、ナイフの刃が折れて斬られる。後ろには、まだミラさんが腰を抜かしているのか、まだ動けないでいた
「ちっ」
軽く舌打ちして、少年を蹴り飛ばし距離を離す。これ以上、刃を合わせていたらこっちが切られてしまう。蹴られた衝撃で少年は、数メートルくらい後ずさりする。下に向けていた顔があがる。少年は、笑っていた。それは、とても歪な笑顔だった
背が震える。その顔に、気持ちが悪いという感情しか湧いてこなかった
side〜ミラジェーン〜
先ほどから、二人は一定の距離を保ちながら戦っている。攻撃、下がる、攻撃、下がるを繰り返す。
少年は、突如現れた八幡を警戒していて次に何をするかを見極めている感じで、八幡もそれに近しい感じなのだが、ほぼ防御一択しかできないでいた。さらに、少年の殺気に当てられているからか体力の消耗が目に見えて現れ始めた。それ以上に昨日受けた傷がまだ癒えてないのかもしれない。汗はだらだらと流れて、体には切り傷が増えていく
だが、少年の攻撃は続く。八幡だけが、消耗していく
「姉ちゃん!」
エルフマンが、私の元に駆け寄ってきた。私の肩を掴み、立てない私を立ち上がらせる。あの衝撃のわりに、エルフマンの体はあまり傷ついていなかった。エルフマンの耐久力が高いのか、ただあの少年が手加減をしていただけなのか、当たりどころの問題なのかも
このまま、できるなら戦いを見ていたい。だけども、私たちを助けるため、私たちがすべき事をさせるために八幡は、今少年の足止めをしている。命がけでだ
なら、私たちは早くエレメント4を倒す。そして、八幡を助ける
side〜比企谷〜
カンッ!カンッ!と刃物同士がぶつかり合う事が耳に響く。実力は、相手の方が格段に上で押されている。なめられているのとはいえ、このままじゃジリ貧だ。何回か、刃を合わせただけで、そんなに疲れていないはずなのに汗の量が尋常じゃないくらい出ている。受けきれなかった攻撃や風の切り傷が、増えていく
このままじゃ、エリゴールの時と同じだ。やはり、このレベルの相手となってくると出し惜しみはできない。さらに、それ以上にその少年には、特別な何かを感じていた。俺と同じような、でも何か違うようなものを。それが何かは、今はわからない
パタパタと、人が走っていく音が聞こえる。後ろを向いている暇なんてないが、ミラさんたちが逃げたんだと思う。やっと逃げてくれたか
「限界解除」
俺は、お決まりの言葉を口にする。体内の魔力の流れが早くなり、体が熱くなってきているのを感じる。そして、今までよりも速く、力強く少年に斬りつけていく
少年は俺が突然速くなった事に驚き対応できなくなっていく。剣を弾き隙を作り、胸にナイフを突き刺すように攻撃する
少年は、剣でのガードが間に合わず、体に直接当たる。殺傷力がないとはいえ、直撃した。気絶くらいしてくれていればいい
俺は、少年の顔を見る。何事もないかのように笑っていた。さっきよりも歪に、さっきよりも醜悪に…
パキッ音がする。それに続き、カンッと床に落ちる音が聞こえた。手に持っていた、ナイフの刃が根元から折れて、地面に落ちていた
驚いていた俺を、すかさず少年は、蹴り飛ばす。威力があまりにもおかしすぎる。飛んでいく俺は、壁を突き破り部屋の中に入り、もう一方の壁すらも破り、止まった
俺は、腹を押さえうずくまる。コツコツと、近づく音が聞こえる。俺は、顔を上げ腹を押さえていた手を地面につけ、膝を立てる。今すぐ、横たわって気絶してしまいたい。そんな事は、許されない。許してくれるはずがない。気絶してしまえば、確実に殺される
ガクガクに震えている足を叩き、無理矢理立ちあがる
だが、上から圧力がかかってきた。この少年の魔法なんだろう
俺の足が床にめり込んでいく。さらにその圧力は、だんだん強くなっていく。少しでもと、抵抗の意味を込めて少年のボロボロの服の袖を掴む
その瞬間、部屋が揺れた。少年も少しよろめいた事から少年の魔法ではない。だが、さっきまで加わっていた少年の魔法の圧力と、今の振動でついに床が、耐えきれなくなった
俺を中心とした床が崩れ落ちていく。抵抗の為に掴んでいた袖は、俺が落ちていくのと同時に千切れた。その破れた袖の下にあったのは、ファントムの紋章ではなかった。この紋章は、魔導士ギルドのものじゃない
少年は上から見下していた。その光景を見ながら俺は、床と一緒に落ちていった