俺ガイル after story   作:XB450

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初投稿です。よろしくお願いします。出来れば続けていきたいと考えています。


入学式前日

四月。世間一般では入学式だの桜だの出会いの季節だのプラスのイメージを持つことが多い月だが、俺はそうは思わない。

学年が一つ上がるごとに大人へのカウントダウンが進んでいる気がするし、今年のように最高学年にもなると否が応でも受験というのを意識させられる。

よって四月とは、学生にとっては喜ばしいものではなく、むしろその対極に存在するものである。

 

 

それにしても、高校生でいられるのもあと一年である。

この一年をまだ一年もあると感じるかもう一年しかないと感じるかは人それぞれだろう。

一年前の俺なら働きたくないとぼやきつつも、この居心地の悪い学校という場所から早く抜け出したいと考えていただろう。

では、今の俺はどうだろうか。

俺には形にしなくても、言葉にはならなくても、確かな信念があった。誰かとたった一つ共有していて、今はもう無くしてしまった信念が。

しかし、俺は知ってしまった。わかってしまった。

たとえそれが上っ面のものであるとしても。欺瞞だとわかっていても。守りたい場所が、関係があるということを。

だから無駄だとわかっていても願ってしまう。

ずっとこの場所に、関係に浸っていたいと。

 

 

俺が求めていたものは何なのか、どうすれば手に入れることができるのか、それをまだわからずにいる。

それでも、自分にとって雪ノ下雪乃が、由比ヶ浜結衣が、一色いろはが特別な存在であることはわかっている。

平塚先生は言った。傷つけないなんてことはできない。誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだと。

それに加えて俺は、間違いないなんてことはできないと思う。人間誰だって間違いを犯す。頻度の差こそあれど、正解だけを選び続けるのは不可能だ。

この二つに共通して、大事なのは自覚だ。

大事なものだから傷つけてしまったと感じる。間違えてしまったと後悔する。でも、それでいいのではないだろうか。傷つけ合いながら、間違え続けながら、共に歩んで行ければいいのではないか。

俺が欲した本物。それに手が届く日は来るのだろうか。

 

 

 

 

 

「…私の依頼、聞いてもらえるかしら」

 

あの日から数日、結局何も問題が進展しないまま春休みを経て翌日に入学式を控えた今日は前日準備ということで登校していた。

といってもやることがほとんどないのか、さっきからクラスで待機中である。

ちなみに、ドキドキワクワクみんな大好きクラス分けももちろんあった。

あんなに文理選択で悩んでいたのがバカらしくなってくるくらいにクラスの顔触れは変わらなかった。

由比ヶ浜をはじめ、葉山グループの面々、戸塚、川なんとかさん(川口さんだっけ?てゆーか、いい加減名前覚えてやれよ俺…)、果ては相模まで驚くくらいに同じである。ここまでくると作為的なものを感じずにはいられない。大方、平塚先生が裏で手を回しているのだろう。

いや、もしかしたら他の大部分は変わってるのかもしれんな。でも、八幡わからない…。

ぼっちは他の人と接点が無いので、人の名前を覚えることができないのだ。でも、それでいい。人の名前を覚えるくらいなら英単語の一つでも覚えた方がよっぽど有意義だ。リア充は人の名前を覚えるのに脳の容量を使い過ぎなのではないだろうか。

これはもうアレだな。逆説的に考えて他人の名前を覚える必要性のないぼっちはその分違うことに頭を使えるのでリア充よりも優秀ということになる。違うか、違うな。葉山とか超優秀だし。

なんてくだらないことを考えながら何の気無しに教室を見回すと、さっきまで考えていた葉山のグループが目に入る。俺と同様全員が同じクラスになれたことを訝しみつつも、やはり喜んでいるようだった。

それにしても、いるんだよなぁ〜。先生がいなくなった途端に調子に乗ってべーべー騒ぎ出す戸部とか。あいつが喋るとか酸素の無駄遣いすぎて地球に申し訳なくなってくるまである。地球の未来のために70年ほど黙っててくれないかしら…。MOTTAINAI精神、大事。

程なく授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、少し遅れて担任の先生がやってきて帰りのSHRとなる。

先生の話を聞き流しつつ、手早く帰り支度を済ませる。

教室を出る間際、由比ヶ浜の姿を探すと、やはり葉山や三浦達とお喋りをしているようだ。

今日からまた部活が始まる。一瞬先に行ってしまおうかとも思ったが、またいろいろ文句を言われかねないので待つことにする。

しばらくすると、ようやくお喋りを終えた由比ヶ浜が教室を出てくる。向こうも俺が待っていたことに気付いたようだ。俺が部室の方へ歩を進めると、慌ただしいパタパタした足音が並んでくる。

「待っててくれたんだ…。先に行ったと思ってたけど…」

「まあ、なんだ…。その…一応、な」

「その…、ありがと…」

「お、おう…」

時間がたった今でも少しぎくしゃくしてしまう。それはやはり陽乃さんの影響が大きいのだろう。バレンタインイベントの時に突き付けられた現実。でも、俺たちの関係は決して本物などではないということに俺は内心納得している。心のどこかで感じていたのだ。浮ついたうすら寒さを。あの心地悪さを。

でも今はそれでいいと思っている。

いきなり本物が手に入るとも思えないし、そんな簡単に手に入れられるものはいらない。最初は間違えていい、偽物でいいんだ。少しずつ時間を積み重ね、ジグソーパズルのように一つ一つピースを埋めていけばいいのだ。今はまだぼんやりとした虚像でしかなくても、いつかははっきりとした実像になると信じて。

だからこちらからも踏み出してみようと思う。

「同じクラスになれて…、よかったな」

そんなことを俺が言うのが余程意外なのか、しばらく口を開けてぽかーんとしている。しかし、次の瞬間にはとびきりの笑顔で

「うんっ!」

と返事をしてくれた。

俺がしたことは、端から見たらちっぽけなことなのかもしれない。それでも、今まで由比ヶ浜は必死に近づこうとしてくれていたのだ。今はこれが精一杯だが、いずれは俺の方からももっと歩み寄れればいいと思う。

 

 

奉仕部の部室は特別棟にあり、俺ら三年生の教室は、教室棟にある。したがって移動にはそれなりの時間がかかるはずなのだが、今日はあっさりと着いた気がした。やはり、由比ヶ浜と一緒に居ることを心地いいと思い始めているからだろうか。

部室の扉が見えると、隣に居た由比ヶ浜はたっと駆け出しそのまま元気よく扉をガラッと開けた。

「やっはろー!」

「うす」

由比ヶ浜に続き俺も挨拶をする。部室に居るのは部長である雪ノ下と、わが校の生徒会長であり、もはやこの部室に居るのが当たり前になった一色だ。

「こんにちは、由比ヶ浜さん、比企谷くん」

「せんぱい、おっそーい」

雪ノ下はいつも通り本を読んでいたが、俺たちの分の紅茶を淹れるべく用意を始める。

「いつもありがとね、ゆきのん」

「いえ、大したことではないわ。私が好きでやっていることだもの」

雪ノ下はいつもと変わらないように見える。

そして一色はと言えば、先程から原稿用紙を前にうーんうーんと唸っている。

俺はなんとなく一色に話を聞いてみる。

「なにやってんだ、お前は」

「せんぱーい、聞いてくださいよー。私って生徒会長だから入学式で挨拶しなきゃいけないじゃないですかー。でも、その挨拶を考えるのを忘れてたんですよー…」

入学式前日に何をやっとるんだこいつは…。と思いつつも、ついつい世話を焼いてしまう。年下相手にオートで発動してしまう自分のお兄ちゃんスキルの高さが恨めしい!

「去年のやつをパクればいいだろ」

と、アドバイスしてみたのだが、どうやら反応が芳しくない。

「私もそうしたいんですけどー、平塚先生がダメだって…」

これはアレだな。体育祭の時と同じ理由なのだろう。まあ、来賓の方々はほとんど同じ面子だし、毎年似たような挨拶をしていたら手抜きに見えてしまうかもしれないな。イメージとかそういう面で気を使うのだろう。これも大人の配慮ってやつかしら…。はぁ〜。やっぱり働きたくないなぁ〜…。

などと、現実逃避をしていると、紅茶を淹れ終わったらしい雪ノ下が、パンさんの湯呑みを片手にこちらに歩いてくる。

「自業自得よ。自分でなんとかしなさい」

「でもー、このままだと入学式の挨拶は酷いことになっちゃいますよー。それってやばくないですかー?」

軽く会釈をして、受け取った紅茶を飲みながら今の一色の言葉を吟味する。一色を会長に推したのは紛れもなく俺だ。だからある程度の責任を取るつもりではいたが…、こればっかりはなぁ…。雪ノ下の言う通り自業自得だし…。

と悩んでいると、雪ノ下相手では埒があかないと判断した一色が俺に助けを求めてくる。

「せんぱーい、助けてくださいよー。いいんですか?私が明日失敗しても」

「どういうことだ?」

一色の言葉の真意を測りかねた俺は率直に聞いてみる。

「明日はせんぱいの妹さんも来るんですよね?」

「ああ、そうだ。明日は小町のための入学式と言ってもいい」

力強く言い切ると雪ノ下と由比ヶ浜が呆れ果てたような目で見てくる。

「出た…、シスコン…」

「あなたが言うと冗談なのか本気なのか区別がつかないわ…」

「勿論本気だ」

そういえば小町の合格祝いしてねえなぁ。後でこいつら誘ってみるか。

でも、それと一色の挨拶になんの関連性があるんだ?と視線だけで問う。すると一色は自信満々に薄い胸を反らしながら言った。

「入学式で会長の私が挨拶を失敗すると、きっと妹さんがっかりしちゃいますよー?せっかく受験勉強頑張ったのにーって」

「ううむ…」

確かに一理ある。学校って入学式の日に大体の雰囲気は掴めるものである。そして小町が受験勉強を頑張ったことを誰よりもよく知っているのは他ならぬ俺だ。考え過ぎかもしれないが、小町が傷つく可能性は出来るだけ排除すべきだ。

と、そこまで思考が至ったところで手伝わない理由はなくなった。

「よし一色、その原稿用紙見せてみろ」

「納得しちゃった!?」

「はぁ………」

と由比ヶ浜は驚きの声を上げ、雪ノ下は目頭を押さえている。

各々がリアクションをとる中で一色はと言えば…

「いきなりどうしたんですか………、はっ!もしかして積極的に相談に乗ることでアピールしようとしてますか感謝はしてますがもうちょっと違うところでアピールしてくださいごめんなさい」

ともはや小町のポイント発言と同様、お約束の反応をしている。

「んなわけねえだろ。俺が頑張るのは小町と戸塚のためだけだ」

遂に誰からもリアクションが無くなった。でもまあいい。

頭の中に二人の天使の姿を思い浮かべる。もうこの際二人で『ツインエンジェルズ』とかいうユニット組んでくれないかな。いや、やっぱりそれは俺の心の中だけに留めておこう。人気出過ぎて変な虫が付いたら困る。

とそこで一旦思考を終了させ、一色が途中まで書いた原稿用紙を見て驚愕する。

なんだこれは?文法も起承転結を滅茶苦茶だ。これが一色語というやつか…!

とりあえずその翻訳作業から入る。

雪ノ下は読書に戻り、由比ヶ浜は携帯をぽちぽちいじる。いつもの奉仕部の光景だ。一色はやることがないのか、俺の作業を向かい側の席からじっと見ている。いや…、そんなに見られたらやりづらいんだけど…。

それでも程なく翻訳、訂正、文章の追加を終え、一色に原稿用紙を返す。

「ほらよ」

「ありがとうございますっ!せんぱい♪」

原稿用紙を受け取るなり、踵を返して扉の方へ向かう一色を呼び止める。

「おい、一色。どこに行くつもりだ?」

「へっ?何言ってるんですかもしかしてずっと俺の隣に居てくれってことですか誘ってくれるのは嬉しいですけど今日はもう疲れたし時間も遅いのでまたの機会にお願いしますごめんなさい」

「俺はお前に何度振られればいいんだよ…。そーじゃなくて、これから挨拶の練習するぞ」

「えっ!?これからですか!?」

「当たり前だろう。明日失敗出来ないと言ったのは他ならぬお前だ」

それを言われると弱いのか、一色は難しい顔をして唸っている。

「でもー、もうすぐ完全下校時間ですよ?だから今日はちょっと難しいかなーって」

確かに窓の外に目をやると、日はほとんど沈んでいる。

「仕方ない。今日帰った後しっかり練習をしておけよ」

「りょーかいです♪」

びしっと小さく敬礼をする一色。やはりあざとい…。

すると俺たちの会話が聞こえていたのか、雪ノ下は紅茶や読んでいた本を片付け始める。

「今日はこれくらいにしておきましょうか」

その言葉をきっかけに各々帰り支度を始める。

そして全員が廊下に出たとき、みんなに大事な話があったことを思い出し、話を切り出してみる。

「あのさ、小町の入学祝いをまだしてなくて祝ってやりたいんだけど…、明日あたり予定どうだ?」

すると、さすが小町とでも言うべきか、みんなが快く了承してくれた。

「パーティ?やろやろ!」

「普段から小町さんにはお世話になっているもの。喜んでやらせてもらうわ」

「それって私も来ていいんですかー?」

あまりにすんなり受け入れてもらったことに思わず笑みがこぼれる。

「じゃあ場所はこの部室でいいか?」

「いいんじゃないかしら」

反対意見が出なかったので、これでお祝いの場所と時間は決まった。

そのまま学校前で別れ、それぞれの帰宅手段で家に向かう。

「じゃあ、また明日な」

「ええ、また明日」

「ばいばーい」

「お疲れ様ですー」

自転車を漕いでいる最中、鼻歌を歌っていることに気付き、自分が思っている以上に明日を楽しみにしているこがわかり、なんとなく恥ずかしくなる。

家につくと、そこには超ご機嫌の妹の姿が。

「おかえりー。お兄ちゃんっ♪」

「おう、ただいま」

明日のことを教えようとも思ったが、サプライズということで内緒にしておく。

 

今日から学校が始まった。

いつもと変わらないように見える日常。

でも変わらないものなんてない。

このどうしようもない一幕も後一年足らずで失ってしまうのだ。

その間にどれほどの時間を、想いを積み重ねることが出来るだろうか。

俺が欲した本物。それは存在するかも定かではないのに、手に入れようと躍起になっている形のない代物。

そんな俺たちの物語の結末。それを俺は求め続ける。

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