「あの、七瀬さん」
「ん?」
船着き場に腰掛け、早く泳ぎたくてウズウズしていた空の後ろから、梨子が声をかけてきた。
「海の音を聞くコツを教えてくれませんか?」
「コツ?」
「はい。松浦さんが『そういうのなら空ちゃんが詳しいよ』って仰ってたので」
空が果南の方に視線を向けると、果南は親指を立てていた。
それに若干呆れつつも、梨子の問いに答えた。
「大事なのは水を感じること」
「水を、感じること……?」
「そうだ。肌で、目で、心で。そして感じたものを疑わないこと。そしてそれを感じた自分自身を信じること」
空は立ち上がり、続ける。
「水に抗うのではなく、受け入れる。そして――」
○○○
(互いの存在を認め合うこと……)
梨子は海中の中で、空に教えてもらったコツを思い出していた。
しかし、それを実践しようにも中々上手くいかない。
暗い海中の中では何も……。
息継ぎの為に、梨子は海から顔を出す。
先に海から上がっていた千歌と曜が梨子に声をかける。
「駄目?」
「残念だけど……」
「イメージか……。確かに難しいよね」
「簡単じゃないわ。景色は真っ暗だし」
「真っ暗?」
「そっか、わかった!もう一回いい?」
千歌はそう言って、曜と一緒に海へと飛び込んだ。
梨子もその後に続いて海中へと潜る。
空は果南と一緒に船の上からそれを見ていた。
「一緒に行かなくて良いの?」
果南は空にそう訊いた。
「泳いでて桜内の邪魔になるのは嫌だからな」
「意外。あんまり気にしないで泳ぐかと思った」
「……そんなバカじゃないよ。それに、もうちょっとで晴れる……って曜が言ってたから、久しぶりに泳ぐ海は明るい中で泳ぎたい」
「まぁ確かに、明るいのと暗いのとじゃ景色も違うしね。わかるよ空ちゃんの言ってること」
そんな会話をしていると、太陽を遮っていた雲から光が射し込んできた。
「晴れてきたね」
わかりきっていることを果南は敢えて言った。
暫くすると、千歌達が海中から顔を出し、嬉しそうに3人で抱き合っていた。
「どうやらもう大丈夫みたいだな」
「そうみたいだね。行ってらしゃい」
空はシュノーケルを準備して、海へと飛び込んだ。
「じゃあ戻ろっか」
千歌がそう提案すると、2人は頷いた。
「おっと?」
「どうしたの?」
戻ろうとした時、曜がある事に気付いた。
それが気になり、梨子は訊いた。
曜は下を指差す。
(潜れってこと?)
梨子の予想は正しかったようで、千歌と曜は再び潜った。
気になっていた梨子も再び潜る。
そして、海中で曜が指を指している方向を見ると、そこには泳いでいる空の姿が。
梨子はその時、空の泳ぎに視線を奪われていた。そして見惚れていた。
人の泳ぎなんてあまり見たことが無い梨子が、泳ぎについて詳しい筈も無い。しかし、空の泳ぎを見れば一目で綺麗だとわかる。
空の泳ぎを見て満足したのか、千歌と曜は浮上した。
梨子もそれに続く。
海中から顔を出した梨子はシュノーケルを外し、言った。
「まるでイルカみたいね」
「だよね!」
千歌が梨子の言ったことに賛同する。
「空ちゃんってイルカのように泳ぐんだよ。そして誰よりも、誰よりも気持ち良さそうに泳ぐの。私はそんな空ちゃんの泳ぎが好きなんだ」
曜は笑顔でそう言った。
梨子は曜が言った事が、少しわかった気がした。
次回で2話終わり!
3話の一度絶望に落としてからの引き上げは心臓に悪かったゾ……