みかん畑に囲まれて   作:ペスα

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スクールアイドルって、知ってる?

 

 

「だるい」

 

 教師の朝は早い。

 職員会議であったり、授業の準備であったり、することが色々あるからだ。だから、アニメやドラマで見かける、教師と生徒が一緒に登校する、なんて言うのは間違いだ。生徒が早くに登校するというのであれば別だが。

 それはこのど田舎にある、『浦の星女学院』とて例外ではなく、ここで音楽及び情報の教師を勤める俺――天草翔(あまくさかける)もまた、朝早くから学校へと出勤していた。

 

 『浦の星女学院』

 

 全校生徒数が100にも満たないとても小さな高等学校で、岬の突端にあるみかん畑に囲まれているのが特徴的な学校だ。

 前述の通り、この町はど田舎だ。恐らく察しているだろうが、この学院もまたボロい。

 そして、この学校は既に廃校が決定している。今年入学してくる新入生が卒業するのと同時に、この校舎は学校としての役目を終える。

 この学校に勤務し始め今年で二年目という新参者と言えど、いささか寂しさを覚えるものだ。

 とは言いつつも、体の怠さに思わず机に突っ伏してしまう。

 

「一限目は~っと」

 

 寝ぼけ眼を手の甲でゴシゴシと擦り、眠気覚ましの独り言を呟きながら、目の前にある予定表に目をやる。

 そこに書いてあったのは、二年生という文字。

 一クラス大体三十人程度のこの学校で、更に選択科目である芸術ともなれば、実際に担当するのはだいたい十人くらい。

 が、それでも年頃の女の子ばかりの空間に、今年で二十七歳の男が一人となると、毎度のことながら精神がゴリゴリと削られていく。

 そしてもう一つ、いつも朝に弱いというわけではないのだが、今日はどうしても眠くて仕方がない。

 その理由は、昨日が日曜日であることを利用し、前までお世話になっていた東京の学校に行っていたためだ。

 それが何故寝不足に繋がるのか。答えは簡単、移動費をケチって夜行バスを使い、結果眠ることが出来なかったからである。自業自得だった。

 

 ところで、寝不足の時に少女の甲高い声と言うのは頭に響く、最早一種の凶器だと私は思う。

 あゝ、このままここで眠ってしまいたい。そうだ、いっそのことそうしよう。

 高校生という多感な年頃の彼女達の事だ。教師が眠っているのを、「今日は休講だ」と勝手に解釈してくれるはず。

 そうだ、そうしよう。

 これはあくまで、自分の体調を戻す為の行為なんだからね!

 

「あ~まく~させ~んせ~!!」

 

 寝ようと決めた直後、高周波の爆撃が耳を襲った。

 なんとも酷い言い草だ。

 いざ寝ん!と決めた直後、扉を開いてやってきた人物は、これから授業を行う二年生の受講者の一人だった。

 名前は高海千歌。この町で営む旅館の娘で、良く言えば明るい少女、悪いく言うと煩い子という認識だ。

 あゝ恨めしい、化けて出てやるぞこんにゃろう。なんて馬鹿なことを考えながらも、声のした方へと視線を向ける。

 どうやらやってきたのは、高海だけではないらしい。そのとなりには、彼女の幼馴染である渡辺曜の姿があった。

 確か、記憶が正しければ高飛び込みの選手をしていたはずだ。とても快活で、スポーツが得意な少女。おじさんはもう運動なんて出来やしないから、少し羨ましく思う。

 

「どうした、た、たか、高なんとかさん、渡辺さん。おじさんはね、もう疲れたんだよ。眠いんだよ、寝させてくれよ」

「お~いこの不良教師」

 

 先程の攻撃でくらくらする頭が、「休ませろ~、休ませろ~」なんて呪詛を吐くから、思わず話は聞かないと畳み掛けるように話してしまう。

 すると、渡辺さんからそれはもう冷ややかなジト目を頂きました。

 女子高生の、それも美少女のジト目……いいね!

 思わず開いてはいけない扉を少しだけ開いてしまった俺は、軽く眉間をほぐしながら、二人へと話かける。業が深いね。

 高なんとかさんが、「高海だよ!」と叫んでいるが、それは無視の方向で。

 

「それで、渡辺さん。こんな朝早くにどうしました?」

 

 先程はほぼ頭が働いていない中での言葉だったが、今はある程度働いているため、なるべくビシっとして問いかける。

 それと、他の先生や生徒達に、態度が悪いと言われるのが怖かったからだ。

 

「私も居るよ!?」

「ちょっと相談がありまして」

 

 相も変わらず高海さんが騒いでいるが、これ以上高海さんに構うと話が進まなくなると判断したのか、渡辺さんは手っ取り早く本題に入った。ちなみに俺は、高海をいじっているだけである。やばい、不良教師ってレッテルを張られてしまう。もう遅いかな。

 さて、話を戻すと、渡辺さん達の相談というのは、部活動に関してのことだった。

 作りたい部活があるのだが、俺は顧問をしているかどうか、ということで相談に来たらしい。

 何処の顧問もしていないのであれば、して欲しいということだろう。

 正直に"していない"と答えようとしたのだが、その前に高海さんが声をかけてきた。

 

「先生はスクールアイドルって、知ってる?」

 

 高海さんから出てきた『スクールアイドル』、という単語に、一瞬心臓が締め付けられるような錯覚を覚えた。

 

「スクールアイドル、か」

 

 それにしても、まさかスクールアイドルと来たか。わざわざこんな、ど田舎で。

 スクールアイドル、それは活動可能期間が三年だけの、アマチュアアイドルである。

 あの時もそうだが、特にアンテナを張っているわけではないので、どんなスクールアイドルが活動しているのかまでは、詳しくはない。

 けれども、二グループだけ、ずっと鮮明に覚えている。

 

 初めて教師として勤務し始めたあの年、俺は彼女たちの活動の顧問兼作曲家をすることになった。

 当時まだ新米教師であった俺と同様、彼女たちもまた高校生になったばかり。

 お互いぎこちないながらも共に歩み初めた俺達は、徐々に互いを信用し、背中を預け、預かる関係となった。

 彼女たちが三年生の時に行われた、スクールアイドルの甲子園――ラブライブに優勝する程のスクールアイドルにも成長した。

 優勝した時なんかは、嬉しさのあまり泣いてしまった程……それを見た彼女たちに笑われたのも、今となってはいい思い出だ。

 そしてこのラブライブは冬にも開催されたのだが、彼女たちは本線に出場する事は叶わなかった。

 血の滲むような努力、休みを潰して、普通の女子高生としての生活を潰して、全力で駆け抜けた青春も、呆気なく消えてしまったのは、きっと一生頭から消えないし、消していいものではないのだろう。

 負けたのは、あくまで自分達よりも、ライバルであったμ'sの方が上だったから。

 μ'sの子たちに恨みなんて、当然ながら持ち得ない。考えもしない。

 けれどもやっぱり、あの子たちを勝たせてやりたかった。

 三年間の集大成を、華々しく飾ってやりたかった。

 あの時、もっと自分に力があれば、今でもずっと後悔している。

 

「勿論、知っていますよ……」

 

 彼女たちの青春に関わった者として、ずっと支えてきたと言う自負がある。

 何より、俺は彼女たちのファン第一号だ。

 

「だから、もしアイドル部を創りたくて、顧問になって欲しいというのであれば」

 

 故に、彼女たち以外のスクールアイドルに協力するつもりはない。

 俺――天草翔はあくまで、

 

「お断りします」

 

 A-RISEの顧問なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よろしくお願いします、天草先生』

 

『この曲、なかなかいいわね』

 

『どうかな、この衣装。似合ってる?』

 

『μ's、か。きっとライバルになるんだろうね』

 

『悔しい、なぁ。本当に、悔しいよ』

 

『三年間、本当にありがとうございました』

 

 ―――翔先生

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、まだ俺は過去にすがっている。

 ツバサ、英玲奈、あんじゅの三人の、見えるはずのない影を求めて。

 "今"見るべき"現在"から目を背けて、これから一生懸命輝こうとする子たちの応援さえ出来無い。

 

 

 本当、こんな自分がだるくて仕方がないや。

 

 

 

 




あゝ曜ちゃん曜ちゃん可愛いよ~
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