安藤物語   作:てんぞー

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In To Blackness - 4

 踏み込み、ブラッディサラバンドの連撃でザウーダンを一瞬で細切れにして解体する。放たれた斬撃は根元にいたザウーダンだけのみならず、その周囲にいたアギニス、ガロンゴを巻き込んで容赦なく殺害した。低レベルの個体だったおかげか、あっさりとブラッディサラバンド一撃で殲滅が完了し、息を吐きながらツインダガーを戻す。周囲へと視線を向けつつレーダーを確認し、そこに原生生物もダーカーも反応がない事を確認してから装備を背に戻した。ユニットをセットで揃え、PP特化で強化してきたため、まだまだPAは連打出来る余裕があった。ただナベリウスでPAを連打する必要のあるエネミーが出てくれば、相当末期とも言える状態だろう。

 

 ともあれ、

 

 討伐されたザウーダンがいた場所へと視線を向ければ、保有しているマターボードが強く反応しているのが見える。マターボードを実体化させ、それを前へと押し出せば、先ほどまでザウーダンが存在していた空間とマターボードが共鳴する。ザウーダンの死体が歪んで消滅し、その代わりに見慣れたアイテムボックスへと変形し、出現する。普通に敵を殺しても出現しなかったアイテムが今はドロップ、或いはマターボードの干渉によって出現する様になった。

 

 それに近づき、触れる。ドロップアイテムである事を示す赤いキューブは触れた瞬間形を変化させてロッド、トワイライトルーンへと変形し、アイテムとしてインベントリ内部に登録されて姿を消した。またそれと同時にマターボードに新たな記述が刻まれた。マターボードを確認すれば指定された物品を回収した事によって優位事象を獲得し、運命に新たな流れを生み出しつつある、と表記されていた。

 

 回収が終わったところでマターボードが拡張され、新たに回収すべき物品の名前が出現する。それを確認し、まだまだナベリウスから離れる事は出来そうにないな、と小さく呟きながらマターボードをしまう。

 

「……次はロックベアか。となるとナベリウスの最終エリアを目指せばいっか」

 

 ここじゃ経験値が全く入らなくて辛い。そんな事を愚痴りながら奥へ―――マターボードを埋める為に歩き出す。

 

 

 

 

 マターボード。それは不思議なものだった。

 

 アフィンと一緒にナベリウスを歩いていた時、ダーカー達は一切ドロップを落とさなかった。その為、リアル化した環境ではエネミーからアイテムを回収できないのだろうか? なんてことも考えていた。だがそれを可能にしたのがマターボードの存在だった。マターボードは何らかの方法で倒したエネミーへと干渉を行い、その()()()()()()()()とでも言うのか、或いは加工したとでも言うのか、ともあれ、不思議な干渉を行ってアイテムをドロップする様になったのだ。

 

 それにマターボードを近づける事でマターボードは空白だった領域に新たな文章が書き込まれ、拡張される。そうやって拡張されたマターボードは新たなアイテムや出会いを指示していた。そうする事でマターボードは徐々にだが、完成を見せ始めていた。少々めんどくさい作業ではあるが、コフィーのクライアントオーダーを消化するついでに体のチェック、アイテム回収等が同時に行えるのは良かった。その為、特に文句はなかった。

 

 何よりも未知を探検するというのは心の踊る事でもあった。シオンの正体は見えてこない。だが彼女はゲームとリアルを繋げるキーパーソンではあった。そして彼女から受け取ったこのマターボードのおかげでゲームの様にドロップという仕様が発生するようになった。

 

 調べた所、基本的に武器の類は工房で依頼するか、素材を持ち込みで依頼したりしなくてはランクの低い装備しか生産されないらしい。その為、星8を超える装備に関しては数が極端に少なくなり、価格のインフレが始まるのだそうだ。そしてメセタに関してはアークスの活躍次第で支給されるらしく、クロト銀行は存在しない。ただそれでも上位のアークスは普通に数日の出撃で数百万を稼げるらしく、頑張ってダーカーを殲滅さえすればお金に困る事はないらしい。

 

 が、装備の獲得が困難であるのは間違いがなく、マターボードによる獲得が可能なのは非常に助かる事だった。倉庫の中身が全て失われて予備の装備がなくなった今、全てのクラスをカンストさせる前にそれぞれのクラス用の装備を集めるところからやり直さなくてはならなかった。しかも装備の潜在覚醒等を考えると最低限、星10はどうにかして獲得しないとこの先、高レベルダーカーやボスとの勝負で火力が足りなくなってくる心配が強い。

 

 ともあれ、マターボードはそんなに悪いものでもなかった。シオンの正体は気になるが、この状況でこういうことが出来るのは間違いなく救いだった―――たとえ彼女がこの状況の元凶だったとしても。

 

 そんな事を考えている内にナベリウス大森林の奥地へと到達する。

 

 コフィーのクライアントオーダーで出撃しているエリアなので、相手のレベルは数値として解析すれば25前後といったところだろう。スキルツリーがリセットされていたのでそれを振りなおし、高レベルのPAをロストせずに持ち込めている自分にとって、このレベルのエネミーはまだまだ雑魚だった。少なくともまだこのレベル帯であれば潜在解放なしの低レア武器でも最大まで強化していれば十分無双出来る領域だ。後はどれだけ弱点を狙って攻撃できるか、という話になる。

 

 そういう練習はまだゲーム環境だった時に何時間もやって慣れている。フルダイブの感覚をリアル環境へとコンバートし、それを適応させればいい。

 

 ナベリウス大森林奥地、ロックベアの領域には巨大な毛むくじゃらの生き物が見える。黒に近いグレーの毛に岩の様な黄色い突起を生やした、二足歩行の巨大な生き物―――その大きさは優に五メートルに届く。大きい、物凄く大きい。現実ではこんな大きな生物と会えない分、そのインパクト、圧迫感は凄まじい。PSO2というゲームはこの手の大型ボスの数が非常に多く、アクション性を含めて、巨大ボス相手に大立ち回りが出来るのを売りにしており、ゲームとしてみるとそこらへんが非常に楽しい。

 

 だがリアルに相手をするとなるとちょっと待て、と言いたくなる。そういう圧迫感がある。

 

 とはいえ、ここら辺は既に乗り越えた部分だ―――攻撃を喰らえば痛いだろうが、それだけだ。

 

「馬鹿野郎、安藤が負けるかよお前。俺は安藤だぞ!」

 

 アークスは宇宙のヒーロー、ダーカーでもない原生生物に負けているわけにはいかないのだ。林道を抜けてロックベアーの領域に踏み込む。それを察知して木々の近くを徘徊していたロックベアが此方に気付き、跳躍し、回転しながら着地、大きく胸をドラミングする様に戦う。名前は岩の熊なのに、その動作はまるでゴリラの様なものであった。そんな奇怪な生物を前に、ツインダガーを抜かずにそのまま歩いて接近、両手をパチパチと叩く。

 

「ヘイヘイヘーイ! カモンカモーン! 熊さん此方手の鳴る方へ―――!」

 

 手を叩き、胸を叩いてこっちへと来いと、そう挑発し、一瞬でキレたロックベアが高く、それこそ一瞬で届くことのできない領域へと飛び上がる。そのまま空中で回転、体を大きく広げてフライングボディプレスを放ってくる。それに合わせて素早くツインダガーを両手に握る、軽く後ろへとバックステップを取りながら二歩目で跳躍、ロックベアが大地に衝突する寸前、両手で体を支え、肘を曲げて飛び上がろうとする。それに合わせてPAを発動させる。シンフォニックドライブ―――つまりは急降下蹴り、体を起き上がらせて飛び上がろうと此方を見ながら狙っていたロックベアの顔面に即座に蹴りが入る。

 

 その痛みが原因か、ロックベアの動きが一瞬鈍った。すかさず蹴りの反動で持ち上がった体を滑り落ちる様に切り裂くフォールノクターンでロックベアの顔面まで戻り、その両目をツインダガーで切り裂いて潰し、ゼロ距離まで密着した所でファセットフォリア、超高速で動き四方八方から連続で斬撃を刻む。

 

 顔面への連撃に耐えきれずロックベアのバランスが一瞬で崩れ、仰向けに倒れる。それに合わせて武器をツインダガーからナックルへと変える。無骨でメカニクルなそれをガツン、と両手を叩き合わせてから拳を二度、気合いを入れる様に空振りし、

 

 ―――倒れたロックベアの顔面前まで落ちてきた。

 

「一撃!」

 

 空中に振動を残し勢いで踏み込み、そのままPA、バックハンドスマッシュ―――名の通り、超強力な裏拳を叩き込む一撃をロックベアの顔面に叩き込んだ―――その顔面が大きく陥没し、突起が砕ける。だがそこで動きを止めず、

 

「二撃! 三撃―――」

 

 顔面に二発、三発と叩き込み、その顔面を完全に砕き、崩壊させ、ハートレスインパクトで反動で後ろに下がった体を前へと押し出し、再びゼロ距離まで接近した所で最後の一撃、再びバックハンドスマッシュをその顔面に叩き込む。

 

「―――フィニッシュ!」

 

 轟音と共にロックベアの頭が砕け散り、死体となったその姿が後ろへと軽く吹き飛ばされて行く。着地し、ナックルに付着した血を払い飛ばしながら消し去り、音を立てて倒れながらもう二度と動くことのないロックベアへと視線を向けた。その死体は残ったまま、まだ消えはしない。だが直ぐに体内に浸食したフォトンによって分解されて消えるだろう。その前にマターボードを取り出し、干渉する。

 

 フォトンによってロックベアの肉体は分解され―――あとに残ったのは巨大な赤いクリスタルだった。見慣れたそれを蹴って破壊すれば、同じように見慣れたメセタやアイテムのドロップアイコンが出現する。その中にはマターボードの指定回収品、そして運のいいことにロックナックルもあった。少々見た目が残念な武器だが、それでもレアリティは星9、つまり性能を考えると悪くはない武器なのだ。見た目が致命的にダサイのだが、

 

 見た目が。

 

「―――ま、こんなもんか。やっぱ前よりもPAが連打できるし、PP概念はどうなってんだろうな……」

 

 ゲームだった頃と比べてフォトンで溢れている、とでも表現するのだろうか? ともかくPAが多く連打出来るというのが今の状況だった。それがどういう法則に基づいたものなのかは自分には良く解らない。だがPSO2というゲームにおいて火力とはPA、及びテクニックによって発揮する物だった。その為、PAが多く発動できるという状況は渡りに船、とも言える事だった。ただやはり、解らないことが多いと不安になるのは間違いのない事だ。

 

 まぁ、何度も自分に言っている事だが、考えてもしょうがない事だ。こういうのは頭をからっぽに、馬鹿になって考えずに身を任せるのが一番だ。答えが出ないものは大抵後で理解できるようになるのだから、その時にしっかりしていればいい。

 

 と、そこで通信が入る。右手を耳に当てて正面へと視線を向ければ、ホロウィンドウにコフィーの姿が見える。

 

『おめでとうございます、アキナさん。先ほどの活躍をモニターして実力が十分である事が証明されました。レベルキャップ、難易度、マグライセンス、全て共に許可が出ました。更なる活躍を期待しています』

 

「うっす」

 

 コフィーからの通信が切れる。息を吐き、これで漸くマグの育成とサブクラスを含めたクラスの育成が行える。どんな状況でも万全に戦えるように、早めにガンナーとテクターも開放し、カンストさせたい所だ。

 

「さて、クマさん倒して……ちょいマタボ増えたか。残った領域も少ないし、後数箇所を生めれば……何かあるのか? まぁ、やってみりゃあ解るか……」

 

 誰にも聞こえない呟きを響かせ、マターボードから視線を外し、マイシップへと帰還する道を行く。

 

 なんだかんだで、アークス生活を満喫しているのは事実だった。




 初めてロックベアーと開始初期時代に戦った時はその大きさと動きにものすっごいビビりました。え、なにあれ、超でかい、倒せるの? マジで? あんなに動いているのに? デカイのに早いいいいいいいという感じに半発狂しながら遊んでましたなぁー。

 なんだかんだでPSO2は超大型ボスや大型ボス相手に自由に動き回って戦うことが出来るんで、それが非常に楽しいなぁ、という感想。仇花、敗者、大和とかすっげぇ興奮するタイプで。

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