安藤物語   作:てんぞー

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In To Blackness - 5

「―――優位事象の集束により新たな可能性を示す道が生み出された。私が貴方の信頼を得るのは難しいと解っている。しかしどうか、ナベリウスに行ってほしい」

 

 その言葉と新たなマターボードと共に、シオンの姿は消えた。言いたいことは色々とあった。しかしマターボードは実際便利だし、そのおかげでいくつか武装を手に入れられているのも事実だ。断る理由はない、とは解っている。だから頭を軽く掻き、ふむ、と小さく呟く。まぁ、悩むのは自分らしくない話だ。馬鹿になって、やらかした後で考えればいい。それが今の安藤スタイルだ。マターボードを確認する。

 

「ナベリウスで探索しなきゃロック解除されない、か―――ま、ナベに行ってみますか。アムド嫌いだし」

 

 惑星アムドゥスキア、基本的にゲームだった時代には火山と浮遊大陸と龍祭壇に分かれているが、低レベル帯でお世話になるのは火山だ。個人的にあそこは非常に地形がめんどくさくて嫌いなのだ。見ていて楽しくもないし。それにリアルアークスとなってしまった今、あの溶岩ばかりの地形はクソ熱いのだろうなぁ、としか思えなかった。無駄にシャワーを浴びる回数が増えそうだし、嫌なものは嫌だ。いや、別にシャワーが嫌だという訳ではないが。慣れてしまったらアレじゃね? というアレ的なアレな思考である。

 

 忘れよう。

 

「んじゃ、ナベるか」

 

 マターボードを表示させているウィンドウを消去しつつ、トランスポーターに乗ってアークスロビーに戻る。クエストカウンターを担当しているレベッカにナベリウスへの出撃を求めると、あっさりと許可が返ってくる。まぁ、止める理由なんて存在しないのだから当たり前と言ってしまえば当たり前なのだろう。そういう事で止められる事もなく、マイシップへとゲートを抜けて騎乗する。

 

 現状、他のアークスがマターボードの存在を感知できない以上、誰かを誘うという選択肢はない。

 

 一人でマイシップに乗り込み、窓の外の光景を見る。宇宙を進むアークス船団がゆっくりと宙域を進んでおり、マイシップの正面にワープゲートが出現する。マイシップは其方へと向かって加速し―――一瞬でワープゲートに突入、その向こう側へと抜ける。そうやってマイシップは一瞬でナベリウスの上空へと到着する。ゆっくりと、その大気圏に突入していく中で、

 

「―――」

 

 世界にノイズがはしり、モノクロに染まった。

 

 その中で、ゆっくりとマイシップは下降を続けながらも、自分の正面に見えて来るのは二つの色を持った表示だった。緑色に表示されるのは二つの数値、

 

 一つ目はA.P.238/2/20の2:00、

 

 二つ目はA.P.238/2/20の1:00だった。

 

 まるで選ばれるのを待つかのように浮かび上がるその数字には見覚えがある―――少なくとも二時表記の奴は自分がナベリウスに漂着した時刻だ。証拠を探そうと自分の戦闘ログを調べていた為、それは良く覚えている。だがその下に表示されているのはその漂着の一時間前の出来事、完全に見覚えのない時間帯だった。その二つを見比べて、脳裏にとある言葉を思い出す。

 

『―――俺もさっき、間に合わずにダーカーに飲まれた白髪の女の子を見たしな。……ちっとやるせねぇわ』

 

 誰の言葉だったか―――そうだ、ゼノだ、ゼノの言葉だ。たしかゼノがそう言っていたのだ。あの日、ダーカーの急激な出現によって何人かアークス候補生たちが犠牲になり、そして助けられなかった一般人がいた、と。となるともしかして、そうなのだろうか。本当に()()なのだろうか。震える指でそっと、一時の方に触れる。

 

 その瞬間、ノイズもモノクロも弾けた。世界は元の色を取り戻し、緩やかにマイシップはナベリウスの上空へと到着した。そこで足を完全に停止させ、視線をマイシップ奥、外へと通じるテレポーターへと向けた。もし、マターボードの効果が、機能が、シオンがやらせようとしている事が本物ならば―――これは、今、とんでもない事をしているのかもしれない。

 

 息を飲みながら、覚悟を決めて―――真実を探る為にテレポーターの中へと飛び込んだ。

 

 

 

 

A.P.238/2/20

 

ずっと明日を待っていた

CALLS FROM THE PAST

 

 

 

 

「さて、と……アヒンの反応がレーダーに出てるな」

 

 先ほどまではロビーでうろうろしていたアフィンの反応がナベリウスの上空にある。物凄い事だが本当に時間を超えたのだろうか? 良く解らない現象を前に、首を傾げる事しか自分には出来なかった。とりあえず、シオンはナベリウスへと向かってくれと言った。だから来た後は―――思う様に行動すればいいのだろう。個人的にはゼノの言った助けられなかった白髪の女の子、と言うのが酷く心の奥で引っかかっている。そこだけが妙にもやもやする……きっとこのもやもやも、彼女を助ければ晴れるに違いない。

 

 そう思い、前へと踏み出す。そこでシップでドリンクを飲むのを忘れていたなぁ、と思い出し、足が止まる。だが今更だ、ナベリウスで突発的にガルグリフォンとエンカウントする様な事がなければドリンクもいらないだろうと判断し、そのまま前へと進む。道は天然のものが出来上がっており、それに沿って進んで行く。

 

 そこにさっそくウーダン、ガルフ、アギニスのおなじみの原生生物が出現してくる―――だがアークス候補生向けのエリアである事を含め、大した力を持っておらず、ダブルセイバーに持ち替えてトルネードダンスで突っ込めばそれだけで簡単に蹴散らすことが出来た。一瞬で撃破された原生生物達がバタバタと倒れて、フォトンによって分解されて消えて行く。侵食核もない雑魚であればこんなものだろう、という感想を抱きながらダブルセイバーをしまい、先へと進む。

 

 その先に特にトラブルの発生とかはなかった。

 

 空は青く、森は緑で溢れ、そして原生生物はクソザコだった。あえて言うならガロンゴだけが面倒だと評価できるが、それ以外は普通のナベリウスだった。少しだけもうちょっと劇的な状況を期待していただけに、拍子抜けだったのは確かだった。だがそれでも文句を口に出さず先へと進めばやがて、見たことのある場所へと到達することが出来た。

 

 そこはゼノと合流し、ダーカーに囲まれたあの十字路だった。今の自分の立ち位置をレーダーで確認し、あぁ、と小さく呟く。出口側から来たのか、と。再びレーダーを確認しながらゼノの話を思い出そうとしたところ、一瞬だけ視界がモノクロに染まり、そしてマターボードが反応を示したような気がする。直観的に東の方向に何かがあるのを感じ取り、其方へと視線を向ける。

 

「―――こっちか?」

 

 その先にはレーザーフェンスによる立ち入り禁止に指定された区域だった。歩いてレーザーフェンスの前まで移動すると、まるで待っていたと言わんばかりにレーザーフェンスが消滅し、先へと進める様に道が開いた。という事はきっと、こっちの方で道は正しいのだろう。そのままレーザーフェンスの向こう側へと向けて歩き始める。その道を阻む者は―――いた。

 

 レーザーフェンスの向こう側へと抜けた所で緊急のアラームが鳴り始める。それはダーカーの出現を告げる緊急通信であり、付近のアークスに対して警戒を伝える物だった。それを聞き入れながらもう既にそんな時間だったのか、と、少しだけ焦りを感じる。一時間だけ早いから、と少し余裕を見せてしまったのがいけないのかもしれない。何せ、ゼノの話の少女はダーカーに呑まれて消えたらしいのだから。

 

 少しだけ進むペースを上げる。やがて正面の獣道にダーカーの姿が見える。アークスシップとのデータリンクを開始し、即座にダーカーの能力の調査を行いはじめつつ、ダブルセイバーに切り替え、トルネードダンスで巻き込みながらその中心でケイオスライザー―――竜巻を発生させてダーカーを吸い上げる。そこで素早くツインダガーへと武器を切り替えてクイックマーチで二回転サマーソルトからの斬撃で追撃する。

 

「硬っ―――」

 

『わわ、レベルが高いですよこのダーカー達!? 具体的に言うと50レベル程!』

 

 ―――市街地のダーカーか……!

 

『と、逃亡推奨です―――そ……に―――援―――』

 

 通信にノイズが混じる。おそらくはダーカーによるジャミングなのだろう。小さく舌打ちしながら考える。

 

 ダーカーの湧きだしと強さ、それに時間軸的にここがあの市街地の直後である事は理解できた。即座にステップでダーカーの背後へと回りながら、二回連続でブラッディサラバンドを放ち、まとまったダーカーを殲滅する。ダーカーの濃度が時間と共に低下しているのは切った手ごたえで解るが、それでもゆっくりしている時間はなかった。更にダガン、ブリアーダの姿が市街地から召喚されてくるのが見えながらも、今のレベルではあまり相手をしたくはない―――無視し、そのまま奥へと向かってダッシュする。

 

 正面、ブリアーダとカルターゴが道をふさぐように出現する。シンフォニックドライブでカルターゴの顔面を踏み、その背後へと向かってフォールノクターンを放って、素早くステップを踏みながら硬直を解除、ダーカー達を背後へと置き去りながら一気に獣道を抜ける。

 

 勘違いされがちだが、ダーカーの足は一部を除けばそこまで早くはない。厄介な短距離転送能力にも限界はあり、そこまでしつこく追いかけて来るものではない。故にアークスが全力がダッシュし続ければ、割とあっさりと置き去る事は出来る。

 

 そういう訳で、ダーカー達を置き去りながらガンガンナベリウスの奥地へと進んで行く。

 

 こうなってくると大分道が途切れて来る―――というかない。まだ開拓途中だったからレーザーフェンスがあったのだろうか。ともあれ、道はなくなってしまった。それでも心にある何かが、こっちだと訴えかけるものがあった。もはやこの状況だ、これ以上悩むことも疑う事もない。すべては心の赴くままに―――直感に全てを委ねて走り続ける。

 

 そうやって走り続けた先、見えてきたものがあった。

 

 それは美しい森の中の広場だった。大樹が存在する、神聖な雰囲気を感じさせる場所だった。そこだけ妙にぽっかりと場所が開いていて、静かに時間を過ごすならこれ以上のない、しかしどこか穢し難い、そういう雰囲気の場所だった。その奥、大樹の前で、目を瞑って倒れている少女の姿が見える。服装は―――見たことがある。ミコトクラスタだ。それに長い、白いツインテールの少女。おそらく彼女がゼノの言っていた、救えなかった少女なのだろうと思う。

 

 その姿にゆっくりと、静かに近づき、膝を折る。生きているかどうかを確認しようとして、口の前の草が息によって小さく揺れているのが見えている―――つまりは眠っている状態だった。少しだけ、安心感を覚え、胸に強い痛みを覚える。

 

「……これが、恋か―――! ……ツッコミもいねぇから一人で遊んでても意味ねぇな」

 

 軽く起こしてみようと揺らすが、起きる気配がない。どうやらかなり深く眠っているらしい。仕方ないのでその体を持ち上げ、背中に背負う。通信の状態は―――まだ悪い。とはいえさっきの通信でメリッタが援軍を送るとかなんとか叫んでいた気がする。

 

「うぉっ、やべぇ、ちょっと真面目に逃げるか」

 

 レーダーを見れば急速に増殖する様にダーカーの反応が加速していた。これは逃げないと駄目だな、と判断した所で眠り姫を背負ったまま、逃亡する為に全力で跳躍、この場を囲んでいる石壁を飛び越えて、道やエリアの概念を無視して全力での逃亡を、ダーカーから逃げる為に開始する。

 

 言葉にする事は出来ない妙な感覚だった。だが背中にいる彼女は、彼女だけは絶対に守らなくてはならない。懐かしさと悔しさと郷愁の入り混じった様な、そんな強い感覚が胸を締め付ける。本当に自分はどうしてしまったのだろうか。どうにかなってしまったのだろうか。その答えはない。だからとりあえずはこの眠り姫を助けて、そして聞き出す為にも、

 

 全力で安全な場所への逃亡を行った―――。




 マトイちゃんと出会ったら一番やりたいことはミコトクラスタの胸部分をピラ、っとやって本当にめくれるのかどうかを確かめる事です。きっとマトイちゃんならどうしたの、とか言って首を傾げてくれる筈……。

 という訳で一回死んだメインヒロインその1(空気)が登場。

 EP2での放置っぷりには驚きましたねぇ……えぇ……。

 ちなみにですが細かくやる事に意味を見いだせないので細かい時間関連は解りやすくしてます。そのままソックリやるならぷそにー遊べって話になるので。

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