安藤物語   作:てんぞー

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Vivid But Grey - 4

「凍土はあんまり好きじゃないんだよな」

 

『そうなんですか?』

 

「歩き方を間違えると靴の中に雪が入り込んでくるからね……少しだけめんどくさい……」

 

『ははは、なんかすいませんね』

 

「いやいや、これもアークスの仕事、アークスの役割。そして安藤としての矜持。頼まれごとは極力断らず全力で成す方針なんですわ」

 

『そういう所、素直に尊敬しますよ』

 

 はぁ、と白い息を吐きながらナベリウス凍土を歩く。先ほど森林エリアを抜けて凍土へと入ったばかりである為、まだまだ入口付近ではある―――とはいえ、ダーカーのレベルは高くはない。日常的にダーカーを皆殺しにしている事もあって、基本クラスはすべてレベル40のカウントストップまで上昇させた。ファイターも無論40レベルまで上昇させた。今は残りのテクターとガンナーをレベル40へと育成中であり、

 

 コフィー曰く異例中の異例ではあるが、全てのクラスを40へと上昇させることが出来たら功績等を無視してレベル制限解除試練Ⅱへの挑戦権を与える、と言われている。どうやらこのリアル環境ではただただレベルを上げればレベル制限解除クエストが出る訳ではなく、実績、功績、信用、それをアークスとして重ねて証明する事によって初めて選考に出されるらしい。少々めんどくさいシステムではあるが、アークスが広い範囲を自由に動き回れる権限を持っている事を考えれば、ある意味納得できる。

 

 レベルだけ高い未熟者を放置して死なせれば、それは損失だ。

 

 しっかりと技量があるのを確認し、アークスとして問題がない事を確認しなくてはならないらしい。ただ自分の場合、レベルの上昇速度が異常とも評価される程早く、逸材として認識されている為に異例として許可が出るらしい。ともあれ、細かい事はあまり理解したくはないのだが、頑張った分評価されているのだ、と考えればいいのだろう。

 

 だからその為にも今回もガンナー装備で凍土へとやってきた。服装も変わらずアイエフブランドで髪型は白のローゼンロングツインテール2、ただ首元にはガンナーらしさを少しだけ意識して、赤いヒーローマフラーを、頭にはプリムヘッドフォン影を装着している。ヘッドフォンの中からは音量をやや小さくし、Conquista Cielaが流れている。なんでこういうコラボ系列のミュージックCDが存在するのかは非常に謎なのだが、個人的には地球産の古い曲が聞けるというだけで非常にうれしいものがあるのでこれはこれで嬉しい。

 

 ヒーローマフラーを揺らしながらリズムに乗り、H&S25のトリガーを引く。放たれたフォトン弾がイェーデを蜂の巣にし、ダーカー因子に汚染された原生生物を浄化、解体する。ガンプレイでツインマシンガンを回転させてバックホルダーにしまいつつ、周りへと正面へと視線を向ける。そこにあるのは二手に分かれる道だった。

 

『ふむ……二手に分かれていますね……ですがどうやら一番奥へと続くのは左のルートみたいです。其方の方へと進みましょうか』

 

拝承(はいしょう)、拝承、と」

 

 左のルートとは前回ロジオの依頼で来た時は通れなかった道だ。その理由は実にシンプルであり、ダーカーの反応が多く、其方の方が危なかったからだ。ソロで活動しているならともかく、ロジオという依頼人が見ており、結果を求めている中で態々危ないルートを選ぶ理由はない。その為、安全な右ルートを通り、行ける所まで進んで地質調査を行ったのだが、今回、マターボードによる時空改変、とでもいうのだろうか。その影響か、ダーカーの姿が今の所は見えていない。その為、左のルートを通る事が出来る―――つまりこの時間、このルートではないと遭遇、助ける事の出来ない何かがあるという事なのだろう。

 

 そういう事もあり、遠慮なく進む。

 

 驚く事に前回ロジオと来た時が嘘かの様にダーカーの姿が少ない。マターボードの影響なのだろうか? それとも時間帯に関係してダーカーが出現していたのだろうか? どちらにせよ、物凄い興味深い話だった。ただその原因を調べるような専門的な知識や技術はない―――自分にあるのはアークスとして戦うだけの知識と技術だ。それ以外は結局のところ、何もできない。

 

「……」

 

 周りへと視線を向け、レーダーを確認する。反応を殺して潜んでいるタイプのエネミーはレーダーに引っかからない為、レーダーだけを信頼していると割と足を取られかねない。その為、しっかり目でも敵の姿がないかどうかを確認するが、妙な事にあまり、敵の存在が見えない―――具体的に言うと侵食された原生生物やダーカーの姿が見えないのだ。楽であると言えば楽でいいのだが、事前にここには大量のダーカーが存在していた、という別時間軸の事実を思い出すと少しだけ不気味に感じる。

 

 と、考えていると、ロジオから通信が入ってくる。

 

『アレ? おかしいですね……』

 

「ありゃ、どうかしました?」

 

 ロジオから返答が返ってくる。

 

『うーんと……これはどう言うべきなのかな……微弱な反応? があるんだよね。生体の様なシグナルの様な……ちょっと判断が難しい所だけど、何か妙なものが埋まっているという事だけは確かだよ。ちょっと気になるし回収に向かってもらってもいいかな?』

 

「拝承ー」

 

 承諾し、更新されたナビゲーションに従って再び移動を始める。敵の出現を警戒しながら歩き進んでいるとロジオがそういえば、と声をかけて来る。

 

『普通、了解、とかって答えると思うけどなんで拝承なんだい?』

 

「え、そっちの方がかっこいいし個性的だからに決まってるじゃないですかーもうー」

 

『あぁ、特に意味はなかったんですね……』

 

 そりゃあ勿論そうだ。だけど中の人がなんというべきか、非常に中身が伴ってない感が強いのだ。残念なことながらそこら辺は自覚しているので、少なくともそういう中身を察されない様に、カモフラージュ目的で割と適当にめちゃくちゃやっているのだ。その方が自分という存在を見られ難いし。ともあれ、ロジオとそうやって道中の会話を続けていれば、アークス任せの身体能力でガンガンと距離は稼げ、

 

 そして一時間もしない間に目的地へと到着する。

 

 

 

 

『おそらくはここら辺です。調査のほどをお願いします』

 

「あいあいさー」

 

 到着したのは良くある行き止まりだった。空は雲に覆われて灰色になっており、静かに雪が降り注いでいる。周辺一帯は凍った岩の壁に囲まれており、深く積もった雪が辺りに見える。ロジオが言うにはこの辺からシグナルが出ているらしく、それを探せとの事だったが、正直、ここから見つけ出すというのは少し大変な労働となる。こういう時はテクターかフォースだったらテクニックで一瞬で溶かして探せるんだろうなぁ、と思ってしまう。

 

 超フォメルギオン放ちたい。

 

「さて、真面目にやるか」

 

 と言ってやはり雪を少しずつ、雪崩が起きない様に吹き飛ばしてゆくのが一番賢いのだろう、とは思う。若干面倒だなぁ、と思いながら足元を軽く蹴ったところで―――硬い感触が底に来た。嘘だろ、と思いながら数歩下がり、先ほどまで立っていた足元の周辺を探せば、そこから金属をのパーツらしきものを見つけた。

 

 雪の様に白く、おそらくは持ち手の様に見える、細長い棒だった。掻き分けた雪の中に埋まっているそれに右手を伸ばし―――掴んだ。妙に手に馴染む金属だった。それを持ち上げ、空へと掲げてみると小さくだが輝いたような、そんな気がした。どこか、どこかで見たような、そんな既知感を脳裏に感じた。だがその答えは出ないとも、どこかで感じるものもあった。その直観を信じてそれ以上考えるのを止める。

 

「ロジオさーん、これどうしますん? んー?」

 

 反応がない。ホロウィンドウを左手のスワイプで生み出し、ロジオへの通信を行おうとするが、それに反応が来ない。おかしいな、と思いながら通信を試みた所で、通信に混じるノイズが一瞬で膨れ上がる。そのノイズの出現の仕方はダーカーによるジャミングと全く一緒の物だった。このタイミングで出現しなくてもいいだろうに、と軽く呆れた所で、

 

 急激なダークフォトンの高まりをフォトンが感知した。ダーカーの出現するレベルを軽く超えるダークフォトンの高まり、それは記憶に新しい現象だった。振り返りながら入口の方へと視線を向ければ、黒い靄が徐々に固まりながら雪原に足跡を生んで近づいてくるのが見えた。やがてそれは一つの形を生み、見覚えのある黒い姿へと変貌する。そうやって登場した黒い姿は一切躊躇せず。

 

「―――それを此方へと寄越せ」

 

「おいおい、市街地で散々暴れたのにごめんなさいの一言も言えないの? なに? お前のお母さんの顔が見てみたいよ。その前にお前の顔が見てみたいけどな!!」

 

 回収したばかりのパーツをマイシップの倉庫へと転送した―――此方は問題なく稼働した。おかげで手元からパーツらしき金属が消え去り、両手がフリーになる。それに合わせて腰の裏のツインマシンガンを抜いて、その銃口を揃って【仮面】へと向けた。その動作に合わせて相手もソード―――コートエッジDを抜いた。

 

「ならもう用はない。貴様はここで死ね」

 

「お前、それしか言えないの? 学校に通った事あんの? 先生から正しいコミュニケーション方法に関して学んだことは―――っ!」

 

 言葉を割る様に【仮面】が飛び込んできた、凄まじい速度で振るうソードはダークフォトンを乗せており、一瞬でオーバーエンドを発動させ、回避した大地を真っ二つに切り裂いていた。しかもそれは衝撃を発生させ、背後にモーゼの如く雪の割いていた。それを見て、一瞬でこの存在相手に勝利するという選択肢を捨てる事にした。即座に思考を切り替えてサイドロール、バックロールと純粋な銃撃を組み合わせた、滞空しながらのスローモーズ、しかし【仮面】から逃れる様に動く。それに的確に反応して接近する【仮面】は素早く範囲の広いPAで薙ぎ払ってくるが、それが此方に触れる事はない。

 

 ―――今回ばかりはガンナーで助かったな……!

 

 なんてことはない、ガンナーというクラスは異常な滞空能力、異常なPP回収能力、そして凄まじい無敵判定の多さを持っている。モーションの9割がスローモーションであるPAメシアタイムはそのスローモーション中は無敵、なんて特徴もある程には優秀だ。

 

 それを利用して、【仮面】の攻撃に対して後手を選び続ける。やる事は簡単だ。見て、ロールして、射撃を続けながら逃げる様に回避する。それだけだ。攻撃はしているが、フォトン弾は【仮面】の纏うダークフォトンのオーラに触れるだけでかき消される、これがダークファルスという存在の領域なのだろう。

 

 とはいえ、

 

 着地した瞬間、足元を狙って此方の態勢を崩そうと動くのは流石対応が早いと言わざるを得ない。サイドロールで滞空時間をごまかし、即座に蹴りで空中へと浮かび上がって逃亡を図り、頭上から射撃を繰り出そうとする。だがもはや弾丸の威力では己を傷つけることが出来ないと悟ったのか、ガードや回避を捨てて【仮面】が踏み込んで来る―――早い。

 

 が、あの時、市街地で見た時程ではない。

 

 だがそれでも―――自分よりも遥かに強い。

 

 回避の動作が間に合わない。蹴りを叩き込むことでコートエッジDを受け流そうとするが、足首に痛みが走る程度で、あまり成果を成さない。歯を食いしばりながら殴り飛ばされ、そのまま岩肌に叩き付けられ、体が落ちて行く。それでも意思は途切れない。即座に武器をツインマシンガンからアサルトライフルへと切り替える。

 

 ―――そして見た。

 

 射撃する。放たれた弾丸を【仮面】は回避せず、直撃した―――結果、【仮面】の体にターゲットマークが浮かび上がる。ウィークバレット、ガチアークスなら御用達の当然の装備。それが命中した所で、【仮面】は何とも思わないのだろう。故に、迷う事無く射撃した。発砲音が雪原に響き渡り、それを無視して【仮面】が走り寄る。

 

 コートエッジDが振り上げられ、

 

「―――捉えました」

 

 言葉が放たれた瞬間に【仮面】が反応しようとする。しかしそれには既に遅すぎた。その背後、アサルトライフルの発砲音に完全に隠れる様に音を殺したゼルシウス姿はその両手に握られている、おそらくは透明な刃を振り下ろしており、そのコースは【仮面】のその首を撥ね飛ばす動きであり、

 

 時間を止めでもしない限り、逃れられはしない。

 

 故に当然の結果として―――【仮面】の首を刃が通した。




 相変わらずめちゃ強い【仮面】安藤。EP1そのままだとエコゼノの出番だったけどあのコンビよりも此方の方が縁多そうなのでゼノさんには残念ながらリストラされてもらいました。エコーはほら、EP2序盤に活躍? 活躍……? するから……。

 神器ガルミラなきゃこんなもん。

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