安藤物語   作:てんぞー

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Vivid But Grey - 8

 ゼノとエコーのコンビは、実力的には悪くはない。ゼノはゼノ自身でハンターというクラスに求められる役割をしっかりと理解しており、攻撃よりもヘイトとガードの方を集中的にやっている。その為、一緒に組んで活動しているとゼノの周りに集中したダーカーや原生生物を狩るだけでいいので、かなり戦闘が楽になる。そしてエコーは本人が主張する通り、支援を得意としている―――というかそれしか能がない。

 

 エコー自身があまり戦闘を得意としておらず、シフタやデバンド等の支援系をばら撒く。メギバースやザンバースも比較的に撒く回数が多いので、割と攻撃支援が安定する。逆に言えばゼノもエコーもそこまで攻撃能力に秀でていない為、メインのアタッカーとなる人間が居なければ戦闘が長期化しやすい、という点がある。エコーがイル・メギドを打つ様になればそれだけで大分改善されると思うのだが、エコー自身、そこまで積極的に攻撃できるような性格をしておらず、メギド系のテクニックも得意なアークスは少ない。メギバースが使えるのはそこそこ凄い事らしい。

 

 やはり得意不得意なしに戦える安藤が凄まじすぎるのだろう。

 

 そんなゼノとエコーだが、自分という前衛が加わる事で戦闘は一気に安定する。ゼノでひきつけ、エコーが切らさない様にバフを撒き、そして集まってきたところをオーバーエンドで軽く薙ぎ払う。フォトンには味方と敵の識別能力が存在する為、フォトンベースの攻撃であれば特にフレンドリーファイアとかを気にしなくていいのが優しい。逆に物理系統の攻撃はしっかりとダメージが入る為、そこはちゃんと気を付けないと恐ろしい事になる。その為、ゼノがヘイトを集めている間は、範囲攻撃はなるべくフォトンに頼った攻撃に編成する。

 

 連携を意識しながら動けば、それほど全体として動くのは難しい話ではない。この一か月、既に何度も野良のアークス達と即興で連携を組んで討伐等を行っている為、調整なんかは済ませてある。そもそもアークスからして即興で連携を組めるように連携マニュアルというべきものが存在する為、人一倍そう言う部分に敏感な所がある。

 

 ともあれ、ゼノとエコーと合流してから、討伐と探索は順調だと言っても良い。

 

「流石だな、先輩風を吹かせたい所だけど戦いに関してまるで教えられる所がねーわ。寧ろ同じハンターなのに俺の方が明らかに劣ってるな」

 

「そりゃあゼノはタンクタイプのハンターで、俺はアタッカータイプというかそれ以外を見てないというか。基本フューリーガン積みで死にそうなのは気合いと根性(アイアンウィル)で耐えて乙女(オートメイト)で殴り殺せばいいって火力重点スタイルだし」

 

「聞けば聞く程体に悪そうだよね。オートメイトって結局なんだろう。個人的に血管に直接流し込んでるイメージがあるけど」

 

「流石に怖いわ」

 

 三人も揃えば一人の時とは違い、道中が一気に華やかになる。やっている事はダーカーの討伐と襲い掛かってくる龍族に対する反撃だけだが、それでも三人もいれば余裕が出て来る。観察し状況を伝える事の出来る人間がオペレーター以外にも一人存在すれば、それだけ自身の行動に集中できるし、何より軽口を叩ける相手がいるのといないのとでは探索の楽しみがまるで違う。

 

 

 

 

「―――それにしても今日は妙に龍族の連中の襲撃が多いな」

 

「そうだな」

 

 掴んだノーディランサの頭を近くの岩盤に何度も叩き付け、それを岩盤に完全に埋めてから動きを停止する。これだけやってればもはや通りすがりのアークスを襲う事もないだろう、そう確信して再び来た道を確認すれば、青白い鱗の龍族たちが地面に突き刺さっていたり、岩に突き刺さっていたり、フォトンのロープで拘束されて浮遊大陸の端からつるされていたり、と、地獄の様な姿を見せている。どれもダーカー因子による汚染を受けていない、クリーンな個体ばかりだが、若い龍族は実力を確かめたり、排他的であるが故に割とアークスへと襲い掛かってくる事が多い。

 

 それが非常にめんどくさい。こうやって心を折っておけば襲われはしないだろう。

 

 逆に気合いが入るならそれはそれで面白いとも思うが。

 

「まぁ、須らく経験値になってもらうから俺的には美味しいんだけどね! 君たちの屍で俺の力が潤う!」

 

「誰が考えたか解らないけど経験値とレベルってまるでゲームの様だよな―――まぁ、強くなっているってのが目に見える分、鍛錬のし甲斐があっていいと思うけどな」

 

「レベルが同じでもアークスによっては天地程の戦力差が出る感じあるけどね」

 

 エコーの言葉にあぁ、と納得する。実際アークスのレベルは現状、75で頭打ちだ。75までレベルが上がると、それ以上はアークスはクラスを成長させられない。それを収めるだけの肉体的な器が、そしてフォトンの技術が足りないらしい。だからアークスの実力とはレベルをカウントストップさせてからが本番だとよく言われる。誰でも苦労して、諦めなければカウントストップには到達できる。問題はそこから、装備や動きに対する技術、それをどこまで数値とは関係のない部分と、直接的な数値が関わる分を上へと持っていけるかだ。

 

「俺の師匠も言ってたな―――強いアークスってのはレベルだけじゃない、って。本当に強いアークスは武器とユニットを常に揃え、そして戦う技術をちゃんと身に着けている、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だったっけ? でも確かにそうだよな、一度も振り返らずに背中を任せられる奴って様々な観点から見て信頼出来るって事だろ? まぁ、そこらへんアキナはいいとして、エコーは落第だよな」

 

「正直いつの間にか床ペロしてないか不安で割と俺振り返るわ」

 

「なんで二人揃って私に対してそんなに辛辣なの!?」

 

 あえて言うなら弱すぎる事が問題かなぁ、と、口に出すのを止める。正面へと視線を向ければ浮遊大陸の間に大きなスペースが存在する。流石に跳躍して飛び越えるには広すぎる距離だ。そしてその向こう側に見えるのは見慣れたエリア3―――ゲーム的な言い方をすればボスエリア、探索における終点だ。リアル環境になっても大型エネミーが駐留するエリアは広い孤島状になっている為、この先へと進めばおそらくはボス戦になるのは間違いがないだろう。

 

 何よりマターボードが先へと進むことを促している。

 

「此方アークス・安藤、カタパルトの転送を要請する」

 

『報告は正確に、な。しかし了解した、今其方へとカタパルトを転送する』

 

 こちらの要請を拾ったのはヒルダだった。軽く怒られてしまった、と振り返るゼノが肩を揺すり、エコーが呆れたような表情を浮かべていた。なんだよそのリアクション、と言葉を告げる前に静かにフォトンの光と共にカタパルトが展開された。見た目はただの丸い床だが、軽くその上へと跳躍して踏み乗れば、足元にフォトンによる力場が形成された。それが一気に反動を飲み込み、貯め込み、そして吐き出した。

 

 人体に軽い衝撃と共に凄まじい勢いで反対側の大陸へと向かって射出された。大きく弧線を描きながら空を駆け抜けて行き、軽いトリックを決める様に空中で縦と横に回転、ポーズを決めてからヒーロー着地で反対側の大陸へと無事に到着する。そのまま一歩前へと向かって前転し、ゼノとエコーが着地するスペースを作る。ほどなく、ゼノとエコーも追いついてくる。

 

 残念ながらゲームの様に回復ポッドが設置されている事なんてことはなく、テレポーターも存在しない。その代わり、そのままボスフィールドに似たエリアへと到着する。広く、まるで遺跡があったかのような広い石の足場―――それが浮遊大陸におけるボスの出現するフィールドである。そして同時にマターボードが導く場所でもあった。

 

「ここが一番奥、かな?」

 

「つっても何もないけどな……今回はこれで終わりか?」

 

「え、戻れるの? やったー!」

 

「その調子でほんと良くアークスになれたよな、お前(エコー)

 

 まぁ、エコーは見ていればゼノにくっついてアークスをやっているのが解りやすい。そんなに不安だったらアークス止めて告白して縛っておけばいいのに、とは思うがこれ完全に男の発想だよなぁ、とも思い、どこか安心感を抱く。体に関しては大分慣れたが、頭の中身はまだまだ男のままだったらしい。

 

 ともあれ、マターボードが指示した以上、この程度で終わる筈がない。そんな確信と共に視線をフィールドの方へと向ければ、

 

 ―――虚空から声が聞こえてきた。

 

『アークス達よ、良くぞここまで来てくれました―――私はロのカミツ。故あって姿を見せられず、声のみによる応対となる無礼を詫びる』

 

「わわわ!? え、えーと……ロのカミツだからえーと……」

 

「龍族だな。確かロってのは聞いた事がないけど、声に気品を感じる……結構偉い所の人なんじゃないか?」

 

 ゼノのその言葉に頷く。アキの調査に何度か振り回されているので、その経験を通して龍族の社会に対して軽い知識があるからロのカミツ、或いはロ・カミツという名前は聞き覚えがある気がする。確か龍族の中でもかなり偉い存在だったような、そんな気がする。声しか聞こえ無い為、適当に空を見上げながらロ・カミツに返答する。

 

「えーと……それでその、ロのカミツさんはこの一介の安藤さんに何のご用でしょうか」

 

『感謝を』

 

 ストレートな言葉だった。

 

『旧態を貫く我ら龍族に、一つの楔が貴女によって撃ち込まれた。それ故に貴女に感謝する、アキナ―――』

 

 ロ・カミツのその言葉で思い出すのはアムドゥスキアの火山地帯でひたすらアキに連れまわされた事だった。”名前が近いしいいだろ?”とかいうむちゃくちゃな理論で武装されたアキはまるで人のいう事を聞かず、その助手であるライトをも巻き込み、調査という瞑目で何度もアムドゥスキアの火山地帯へ、龍族の病―――つまりはダーカー因子による汚染除去の為に戦闘を手伝わされたのだ。

 

 龍族はアークスと比べるほどではないが、強い。それこそダーカーを相手にして勝負し、勝利できるレベルで強い。その為、ダーカーの排除にアークスの力を借りず、フォトンを持たないが故にその体内にダーカー因子を貯め込んでしまうのだ。ダーカーの安全な処理を行えるのはアークスのみである。それをアムドゥスキアの龍族達は知らず、病としてダーカー汚染を処理していた。そして排他的な社会構造が影響し、アークスを遠ざけようとするからダーカーの浸食をモロに受けて、悪循環に陥っていた。

 

 それをアキはどうにかしようと体当たりで挑んでいた。

 

「俺よりアキの方に感謝しといてくれ。あっちは凄いその事で心配しているから」

 

『それも理解している。しかし貴女もまたその一人故に、感謝を示したかった』

 

 その感謝は素直に受け取る事にする、しかし、ロ・カミツの言葉にはまだ含まれていないものがあった。ただの感謝の為に態々向こう側から声をかけて来る事なんてまずありえないだろう、という事実だった。そしてそれはどうやらゼノも感じ取った事である様で、

 

「とはいえただ感謝を言う為にここに呼んだわけじゃないんだろ? なぁ、ロのカミツさんよ」

 

「え、違うの?」

 

「お前もうちょっと交渉とかの勉強しような」

 

 エコーの軽いアホの子っぷりに少しだけ癒されつつも、ロ・カミツの言葉は直ぐに返ってきた。

 

『無論、それだけではない。アキナ、貴女には渡したいものがある―――』

 

 ロ・カミツがそう言葉を放った瞬間、空を高速で流星が突き進んで行くのが見えた。素早く視界で捉えたそれがなんであるのかを察知し、背中からルインシャルムをデータリンクしつつ、回転させて目の前の足場へと突き立てる様に出した。ゼノの反応も素早く、戦闘態勢に入るようにスタンスを発動させ、直ぐに庇えるように位置取りを始めていた。エコーもそれに僅かに遅れるが、それでも此方の動きに反応し、シフタとデバンドを発動させ始める。

 

『―――だが、その前に確かめさせてほしい。貴女がそれにたる力を持つのかを』

 

 その言葉と共に流星が大地に落ちてきた。目の前の台地を粉砕しながら大地に突き刺さった姿はそのまま大地を砕く様にその頭を抜き放ち、水晶のように美しく輝くその体を此方へと晒した。データリンクによってアークスシップから解析結果が送られてくる。そうやって表示されるのはクォーツ・ドラゴンの最上位個体だった。

 

『我が名は、コのレラ! ロのカミツ様に、命じられ、いざ、勝負だ、アークス達よ!』

 

「お、可愛らしい声をしてるな。見た目が厳ついから雄かと思ったけど可愛らしいお嬢ちゃんだったか。こりゃあ泣かせない様に倒さなきゃな」

 

「この宇宙最強の安藤たる俺に挑むとはいい度胸だ! その挑戦、受けてやろうじゃないの!」

 

「なんでそこまでやる気満々な上に上から目線なの!?」

 

 無言でエコーにサムズアップを向ければ、エコーが発狂したそうな表情を浮かべていた。リアクションが面白いのでついついからかってしまうのを許してほしい。こう、アフィン並に芸人としての才能を感じている。このまま鍛えればかなり良い所に行けるだろう。

 

 まぁ、その前に、

 

「―――乙ドラ狩りを始めますか」




 もはや乙ドラともTAでもなければエンカウントしなくなったなぁ、と感じ始める今日この頃。結晶シャワーがクソウザいというか強いというか、アレ喰らったらほぼ即死だよなぁ、という懐かしい思い出。コ・レラちゃん声が可愛くて結構好きです。

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