「イィィィィッヤッホォォォォォオオオ―――!!」
崩壊した市街地を一台のバイクが爆走している。そのハンドルを握っているのはバイクを持ち出してきた野良のアークスだった。その後ろ、タンデムしているのが己であり―――座る事はなく、立ったまま、ツインマシンガンを両手にひたすらフォトン弾をマシンガンの名に恥じない速度と数でばら撒き、市街地をうろついているダーカーを発見次第、レベルと強化された武器の攻撃力という暴力でPAを叩き込むことなく見つけた瞬間にミンチにして駆逐する。
「ノってるなぁ姐御よォ!!」
「決まってんだろ!! ダーカーの駆除とかクッソめんどくせぇ上に酒飲んで来てるんだからテンション上げなきゃやってられねぇよ!! オラァ! お前は死ね! お前も死ね! そこのお前も死ね! お前も! お前も! 黙って死ね!!」
ヒャッハー、と二人で叫びながらダーカーの姿が見えた瞬間に弾を叩き込んで殺す。崩れた道路を爆走して行っている為、非常に不安定となっているが、それでも素早く市街地を回りながらダーカーを殲滅できる分、非常に便利な状況だった。ただその奇行が先ほどからダーカーの琴線に触れてしまったのか、後ろ、通ってきた道の方へと視線を向ければ、ゼッシュレイダが甲羅に籠ったロケットモードで追いかけてきているのが見えた。その進路上にある廃棄された車や瓦礫を体当たりで粉砕しながら止まる事なく進んでいる姿を見る限り、普通の攻撃じゃ止められないだろうなぁ、と判断する。
「えー、此方宇宙最強の安藤アキナさん。オペレーターさん、オペレーターさん、今後ろから追いかけてきているあのゼッシュレイダの解析をお願いしまーす」
『あわわわわわわ―――』
「メリッタァ!!!」
「誰か新人の教育しっかりしろよ」
「ほんそれ。まぁいいや。ちょっとゼッシュさんと戯れて来る」
「あいよォ! いってらっしゃィ!」
バイクの後部座席から飛び降りながら武器をツインダガーへと切り替える。大きく跳躍し、道路を粉砕しながら転がってくるゼッシュレイダへと視線を向ける。その姿を確認し、空中でリミットブレイクを発動させる。そしてしっかりと着地点を計算し、ロックオン、狙い穿つ様にシンフォニックドライブを放つ。急降下しながら放つ蹴りを真っ直ぐ体を高速落下させながらゼッシュレイダ―――巨大な亀型ダーカー、その頭を引っ込めた場所へと的確に叩き込み、足の先をその中へと抉りこみ、捻る。その痛みに反応してゼッシュレイダが体を横へと弾け、ビルへと突っ込む。
そこで体は跳ねる。それに合わせて此方もシンフォニックドライブの蹴り返しの反動で体を持ち上げている。武器は既にツインマシンガンへと切り替えてある。そのままデッドアプローチで空中で突進、体当たりでゼッシュレイダをビルとの間に挟むように体を動かし、ゼロ距離でメシアタイムを発動させる。スローモーションに変化する動きの中で弾丸に慣性が溜めこまれる。それがゆっくりとした動きと共にゼッシュレイダの体に突き刺さり、痛みに回転を停止させた。
「あたっくちゃーんす」
蹴り上げ、高度を確保しながらツインダガーでひっくり返るゼッシュレイダの胸のコアに蹴りを叩き込み、フォールノクターンで急降下、高度を合わせたらファセットフォリアで瞬間的に残像を残しながら滅多切りにし、コアの直上で高速斬撃を解除したらそのままそこで逆様になり、ツインマシンガンに切り替えて回転しながら弾丸の雨を―――バレットスコールを叩き込んでコアに穴を空けて、貫通させた。
そこからバレルロールを二回、ゼッシュレイダの横に着地し、回転させながらツインマシンガンを腰の裏へとしまう。それと同時にゼッシュレイダがフォトンによって浄化され、その姿が分解される。ノーダメージでパーフェクトだな、と静かに自分の動きを採点し、出現した赤箱から装備品を回収、視線を市街地へと戻す。
「結構派手にぶっ壊れてんなぁー……」
周りを見れば完全に破壊された市街地の姿が目に付く。辺りには焦げ付いた匂いが溢れている。数時間前にここを歩いていた事を思い出す。その時は人の姿は多くとも、それでも静かでややSFチックながらもいい雰囲気の場所だった。それがこうも破壊され切った姿を見せられると、少々辛いものがある。だがダーカーの襲撃に関してはどうにもならない。それは技術者とアークスシップ自体の問題なのだから。アークスが出来るのは目に見えるダーカーを潰すことぐらいだ。
「ふぅー……リミブレのクール切れたし移動すっか」
息を吐き、移動を再開する。破壊された市街地にはあまりいい記憶が……ない―――なにせ、あの【仮面】とエンカウントし、ボコボコに敗北したのがアークスシップの市街地なのだから。今度こそは勝つ、と自信をもって言いたい所だが、現状、勝つどころかダメージを発生させる事すら怪しいというのが事実だ。どれだけレベルを上げて、武器を強化しても、専用の対策がないとどうにもならないという事だった。
と、そこでダーカーが出現してくる。ツインマシンガンを抜き、撃ち殺そうとした瞬間、レーダーに素早く接近してくる姿を感知する。攻撃へと移行する前に素早く後ろへと跳躍すれば、それと入れ替わる様に大跳躍から着地する姿があった。その白く、そして禍々しくも細長い姿はその巨大な爪で抉る様にダーカーを切り裂き、尻尾の一撃で蹂躙し、そして咆哮を轟かせた。
「クロドラ……!」
白い竜―――クローム・ドラゴンの姿が登場した。しかしアークスと戦っていたのか、その姿は妙に弱弱しい、いや、部位が破壊され切っている様に見える。静かにツインマシンガンを構え直した所で、クローム・ドラゴンは此方から視線を外し、跳躍する。ビルの側面を蹴り上げて更に高く飛び上がり、そして市街地のさらに奥へ―――まるでダーカーを求めているかのように飛び回っていた。その姿を眺め、軽く頭を掻いて呟く。
「一体なんだってんだ……」
クローム・ドラゴンはアークスの敵、龍の姿をしたダーカーの様な存在であると記憶している。だからアークスを見かけたら普通はそのまま襲い掛かってくるものだが、それよりもダーカーの方が憎い、という感じがした。どうしたものか、そう思いもするが、現状、あの特異な動きをしたクローム・ドラゴンを追いかけない理由もない。放っておくわけにもいかないし、アレを次のターゲットにするか。そう決断し、さっそく追いかけようとしたところで、足を止める。クローム・ドラゴンを追いかけようとした方向から聞こえて来るものがあった。まだ風に乗る様に、かすかではあるが、それは、
「―――歌、か? なんかごちゃごちゃし始めてきたな……だけどこの声は……」
あの始末屋の女の子の物だよな、と思う。こんな場所で歌う神経を疑いはするが、同時にクローム・ドラゴンは歌声の方へと向かっていた―――と、普通に考えれば、歌声に釣られたという事なのだろうとは思う。そんな事がありえるのだろうか? 答えはともあれ、アークスとして、ダーカーを討つ任務は常にそこに存在している。ダーカーを全て殺すか撤退に追い込まない限りはこのアークスシップは使えなくなってしまう。それは避けないといけない。潤沢にリソースがあると言っても、リソースとは消費し続けるものなのだから。
明確に目標を持った今、ゆっくりやっている必要はない。走り、前へと向かっていっきに進み始める。武器もダブルセイバーへと変えて殲滅力を高め、出現してくるダーカーを片っ端から殲滅しながら進むことにする。出現してくるダーカーの大半はナベリウスを思い出させる虫型のダーカーが多くなっている、と言うよりナベリウス産のダーカーがほとんどとなっている。ナベリウスからアークスシップはかなりの距離があるのに、一体どうやってダーカー達は潜り込んできているのだろうか?
そんな事を考えながら段々と、歌声に近づいてくる。
と、歌声が唐突に途切れる。その代わりにクローム・ドラゴンのものらしき咆哮が空中に轟く。空間をビリビリと振るわせるその咆哮を耳にしつつ、もう少し急いだ方が良いのかもしれない、そう判断して更に移動のペースを上げようとしたところで―――アラームが鳴り響く。アラームと共に前方。道を塞ぐようにシャッターが出現する。出現するシャッターに対してそれを飛び越えようと決意し、跳躍する為にシャッターを蹴ろうとする。だがその直前で赤い、バリアの様な障壁が出現し、シャッターを足場にするために蹴る前に、その一歩手前で動きを止められる。
「チ……あんまし良い予感がしないってのに―――」
ツインマシンガンへと武器を切り替え、素早く振り返る。隊列を組んだかのように横一列に並ぶカルターゴの姿が見える。出現したカルターゴは一斉に正面へと向かって頭上からレーザーを放ってくる。バレルロールで前転する様にそれを回避しながら、デッドアプローチで一気に加速、カルターゴの集団の背後へと抜けた所で素早くエルダーリベリオンに連続バースト射撃を放ち、カルターゴの頭の裏のコアに弾を叩き込んで破壊する。カルターゴが消えて着地し、これでシャッターが解除される、そう思ったのも、束の間、大地を揺らす様な衝撃を受けて、ゆっくりと背後へと視線を向ければ、其方には新たなダーカーの姿が、
巨大なアリの様な、クモの様なダーカー―――ダークラグネの姿があった。明確に敵意と殺意を此方に対して向けているダークラグネは明らかに逃がさない、という意志を此方へと向けていた。あっさりとレギアスが解体していたダーカーではあるが、本来はボス格として設定されている存在だ。インフレが進んでいるトップ環境では雑魚の扱いを受けるが、一撃で足を切り飛ばすとか普通は無理だ。
普通は。つまりあのレギアスが異常すぎる―――いや、強すぎるのだ。
とはいえ、あの姿に憧れるものがあるのも事実だ。
「―――まぁ、さっさとぶっ殺して始末屋ちゃんを探すか」
ダークラグネが咆哮を上げながら前足、鎌の様なそれを大きく広げる。それを素早く跳躍して飛び越え、迷う事無く右の前大足へと向かってシンフォニックドライブを叩き込む。その反動で体を上へと飛び上がらせながら、今の蹴りで足に罅を入れられなかったことに舌打ちする。かなり硬いようで、上位の個体に思える。軽く舌打ちしながら再びフォールノクターンからのファセットフォリア、そしてメシアタイムと、慣れた連携をダークラグネの攻撃を回避しながら叩き込んでその右足をまずは一つ、砕いた。
それに合わせてダークラグネの体が倒れて来る。一気に背中へと跳躍して回り込み、バレットスコールを容赦なく首裏のコアへと叩き込む。破壊した足は一本、ダークラグネの復帰は早い。だが一度でもこの位置を確保してしまえば、ダークラグネの討伐はもはや作業になる。
首裏の巨大なコアから離れない様にバレットスコールを何重にも叩き込み、そうやって位置を維持しながらズレる場合はシンフォニックドライブを叩き込み、素早く離れそうなダークラグネを追尾する。ファセットフォリアで微調整し、そして再びバレットスコールをコアに叩きこむ。
二分も経過すれば狩り馴れた相手だ、レギアスの様に瞬殺と呼べる領域は無理だが、ダークラグネの処理を完了させる。巨体が倒れて赤箱を残す姿を確認し、周りへと視線を向ける。新たにダーカーが出現しないのを確認しつつ、赤箱から素早く装備品を回収、そのままシャッターへと向かう―――ダーカーのハッキングが終わっても制御はロックされたままだった。舌打ちしながら跳躍、壁を蹴ってもう一度跳躍し、シャッターを飛び越える。
その向こう側に、巨大なドームの姿を見た。
「っと、時間を食っちまったな」
反対側に着地、服装をアイエフブランドへと切り変えながら急いで走り始める。あの歌声が聞こえてこない上にクローム・ドラゴンの咆哮も聞こえてこない。つまり戦闘は終了している可能性が高い訳だが―――それでも走る。何かが出来るかもしれないし、ここまで来たら確認しないのもどこか気持ち悪いだろう。
走り、出現してくる小型ダーカーを軽く蹴散らしながらそのままドームの入口を抜けて中に入る。そのまま通路を抜けて、小部屋に設置されているテレポーターを発見、それを利用して体をそれが繋げている場所へ―――即ちドーム中央内部へと転送する。
そして、そこで見た。血だまりに倒れるゼルシウス姿の青髪の少女の姿を。
彼女に手を伸ばす様に倒れる、悲哀の表情のクローム・ドラゴンの姿を。
その光景を見て初めて、自分が今まで何のために戦ってきていたのかを自覚し、そして同時に、マターボードが何のために存在しているのかを自覚した。あと数分―――それだけの領域の話だった。それはギリギリ手に届く範囲だった。だけど、零れ落ちてしまった。故に、強く、そして強く理解したのだ。
彼女はたぶん、
それを理解―――した。
安藤が安藤になる決意をしたようです。つまりガチ勢降臨という事で一つ。ダーカー襲撃と最初の訣別を複合化した今回のお話であったとさ。
クーナちゃん死亡って事で。