安藤物語   作:てんぞー

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Fear The Crimson - 4

A.P.238/3()/()1()2()

 

 

 

 

「―――また会いましたね」

 

 ナベリウスの大森林を歩き進んでると、青髪にゼルシウスの始末屋の姿を発見した。片手を上げて会釈を返すと、向こうも此方へと歩み寄ってくる。表情の変化に乏しい彼女ではあるが、その雰囲気は少しだけ、此方の存在を楽しんでいる様にも、そう感じられた。だからこちらはちゃんと、彼女に対して笑顔を返した。

 

「始末屋ちゃんちーっす」

 

「相変わらず挨拶が軽いですし……妙に会いますね。いえ、貴女の背景がクリーンで、別に追いかけて来ているわけでもないのはちゃんと調べているんですけど、こうやって話せば話すほどもっと不思議になるというか……不思議の塊の様な人物ですよね、貴女は」

 

「そんなトンデモ生物の様な言い方はちょっとだけ心が傷つくぜ……」

 

「傷つく程柔な神経を持っているようには到底見えませんよ?」

 

 そう言って始末屋の彼女は、小さく、本当に見逃してしまいそうな程小さくではあるが、笑い声を零した。その笑う姿を目撃し、自分がやっている事、やろうとしている事に間違いはない、という事を確信した。だからこちらも彼女の笑い声に合わせて少しだけコミカルに肩を振って、酷いよ、と言わんばかりの表情を作る。それを見ていた彼女はやれやれ、と息を吐いた。

 

「ですが貴女は本当に不思議な生物だと自覚してくださいよ? 私は本来時空を歪めて存在そのものを希薄にして透過しているんです。それ故に人々の記憶からすら段々と薄れて行くのが私の運命―――な、筈なんですけどね。なぜか貴女にはそれが通じませんし、私を忘れないどころか積極的にかまってしまいますし、マイを受け取った時はあらゆる人々の記憶から消え去って、最後は自分の体さえも消え去る……そんな最期を覚悟していたんですけどね」

 

 どうやら、と彼女は言う。

 

「貴女が生きている限りは忘れられる事はなさそうです」

 

 そこで浮かべた彼女の笑みは儚かった。さっきみたいに小さい笑みではなく、自分へと向けられた笑みだった。ただ、それはあまりにも儚く、そして希望を見出す事の出来ない笑みだった。あえてその笑みを説明するのであれば、彼女は()()()()()()()()()()()、と表現すべきなのだろうか。或いは希望を見ても()()()()()()()()()()と表現すべきなのだろうか。或いはそれこそが闇に所属する彼女の宿命なのかもしれない。アークスをひそかに始末するが故に、自分が真っ当な道を、そして終わりを迎える事は出来ない、そう信じているのかもしれない。だから、彼女の頭を衝動的に撫でた。

 

「―――安心しろ。俺は絶対に忘れないし、どんなに隠れていても絶対に見つけ出して嫌になるぐらい構ってやる。何せここにいるお兄ちゃんは安藤なんだぜ? 俺に不可能はない! まぁ、見てな―――この宇宙(運命)()風穴を開けて(ぶっ壊して)やるから」

 

「ちょ、ちょっと恥ずかしいので頭を撫でるのは止めてください。それに何ですかお兄ちゃんや安藤って。相変わらず話す事が支離滅裂というべきか……」

 

 呆れたような表情を始末屋が浮かべ、しかしそれは()()()()()()()()()()()()()()()事でもあった。だからそうやってわずかにでも表情を変化できる姿を見せて、少しだけ安心し、そしてまた一つ、彼女という存在を理解する事が出来たように感じる。だけど、まだだ、まだ足りない。まだまだこの宇宙(運命)から抜け出すためのピースが足りない。

 

「それでは私はそろそろ任務の方に戻ります……ハドレッドを早く見つけなくては―――」

 

 こちらの手を頭から剥がした始末屋は跳躍し、ナベリウスの森の中へと姿を消した。その姿を見送ってから振り返り、テレポーターを出現させ、なるべく早く、マイシップ、そしてアークスッシップへと帰還を急ぐ。

 

 

 

 

―――時空が―――歪む―――。

 

 

 

 

 アークスロビーに帰還した所で真っ直ぐメディカルセンターへと向かい、そしてエナジードリンクを注文する。それをケースの中から取り出したフィリアが近寄り、エナジードリンクを手渡ししてくる。

 

「あの、大丈夫? 少し鬼気迫る、って感じの表情をしているから」

 

「ん? 大丈夫大丈夫。ちょっと市街地のダーカー共がヤンチャのし過ぎでブチ切れてるってだけだから」

 

 手刀でエナジードリンクの蓋部分を切り飛ばし、それを顔にぶっかける様に飲み干しながらホロウィンドウを表示させ、今の時間軸を確認する。今はA.P.238/3()/()3()1()、元の時間軸だ。そして時間帯は市街地緊急任務発生中、あのドームで始末屋の死体を確認してからまだ二十分しか経過していない。元の時間軸にいるのを確認し、そしてマターボードを確認する。

 

 彼女の死体を確認して戻ってきて、それでマターボードが生成された。

 

 だからきっと、これは今、やるべき事なのだ。

 

 この胸の情熱が体を突き動かす様に。

 

「ドリンクありがと。マトイちゃんに今日は遅れたらごめんって言っておいて」

 

「あぁ、うん。それはいいんだけど……大丈夫かしら?」

 

 フィリアの言葉にサムズアップで返答しながらそのまま、階段を飛び越えてクエストカウンターへと移動する。そこでカウンターで働いているクエストガイドに即座に新たな任務の発注を行う。

 

「はい、アキナ様出撃ですね―――ってアレ? この十分間での出撃回数が時間を重ねる様に十回重なっていますね……おかしいですねぇ、バグでしょうか? とりあえず出撃記録を修正して、っと……ハイ、申請を受理しました。出撃どうぞ!」

 

 サンキュ、とクエストカウンターに言葉を投げながら走り、そのままアークスシップへと、再び彼女と会い、埋められていないピースを埋める為に活動する。再び時空が歪む感覚とモノクロに世界が染まって行く事でマターボードが優位事象獲得の為に事象の改変を行っているのが理解できた。おそらく、事象に介入するのに、干渉するのに、獲得するのに時間軸は関係ない。平等にどの時間軸にも入り込んで干渉を可能とするのがマターボードなのだろう。

 

 だが、あの子の死んだ姿が脳裏に焼き付いている、離れない。アレを見てしまった以上、自分に休むという概念は存在しなかった。少し前まではちゃんと話し合えていたのに―――それが死んでいるなんて事、許せるものか。救う、絶対に救うのだ。殺してでも救う。そしてこのふざけた宇宙に風穴をぶち抜いてやるのだ。

 

 それでこそ、漸くヒーローだと名乗れるのだから。

 

 

 

 

 

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「―――もしかして最近私の事を尾行していませんか? 違います? ……ですよね、どう見ても貴女にはそういう器用な真似は出来そうに見えませんし……それよりも大丈夫ですか、少し疲れている様にも思えますが」

 

 浮遊大陸で再び始末屋を発見した―――ここ数回、マターボードで探索している時、浮遊大陸で彼女と会う回数が増えている。市街地でクローム・ドラゴンと相打ちになるように死んでいた姿を見るに、やはりクローム・ドラゴンを探していたのだろうと思う。ただそれに関して深く考えるのよりも先に、始末屋に対して大丈夫大丈夫、と手を振りながら遠くに見える龍族にツインマシンガンでヘッドショットを決めた。

 

「ね?」

 

「いや、ね? じゃありませんよ。なんか本当にもう見ていないと色々とやらかしそうな人ですね、貴女は―――」

 

 そこで始末屋が言い淀む。どうしたのか、と首を捻り、補給用の携帯食料に齧りつきながら聞いてみる。呆れた視線を返しながらも、そうですね、と言葉を置いてくる。

 

「いえ、昔を思い出していたんです。私が裏の仕事をこなしているのは知っていますよね? その機関の名前を虚空機関(ヴォイド)と呼びます。私は元々その研究部の方で始末屋として作られ、育て上げられた被験体なのですが―――その、少し恥ずかしい話ですけど私にも幼い時がありまして、貴女を見ていたらそのころを少しだけ思い出してしまって」

 

「それ、暗に俺がガキみたいだって喧嘩売ってない?」

 

「違いますよ。ただ……昔、騒がしくやっていた時期もありまして……あの頃にはもう戻れないんだなぁ、と。ハドレッドはなんで―――」

 

 小さくハドレッド、と呟いた所で意図しない発言だったらしく、ハっとした表情で此方へと視線を向けて来る。

 

「と、すいません。少々湿っぽくなってしまいました。それでは私は裏切り者を粛正しないといけないのでこれで。くれぐれも私の事は誰にも言わない様に―――」

 

 そう言って始末屋は再び走り去って行った。焦っている、と言うよりは恥ずかしくなって逃げた、という言葉の方が適切なのかもしれない。だが彼女と会話を繰り返してきた事で段々とだが、見えていなかった事実が見え始めてきた。時空の歪みがタイムスリップから通常の時間軸へと体をはじき出しそうな、そんな感覚の中、自分の感覚をしっかりと捉え、強制的に排除されない様にこらえながらも今得た情報を脳内で整理する。

 

 新しいキーワードは虚空機関(ヴォイド)とハドレッドだ。

 

 まず間違いなく彼女に命令を出しているのは虚空機関(ヴォイド)だろうと判断する。パティエンティアが偶に噂しているアークスの黒い組織、始末屋を抱える組織とはおそらくこれの事だろうとは思う。そしてそこに所属する始末屋である彼女は裏切り者を粛正する為にこうやってあのクローム・ドラゴンを探し回っているのだろう。そして彼女の”なんで”、という発言を聞く限り、おそらくはあのクローム・ドラゴンがハドレッドという存在なのだろう。

 

 ―――始末屋の最期を思い出す。

 

 彼女は一体どうやって死んでいただろうか?

 

 彼女の表情にあったのは怒りと驚きだった気がする。それに比べてクローム・ドラゴン、暫定的にハドレッドと呼ぶ事にするあの個体が抱いていた表情は深い後悔と悲しみ、悲哀の表情が死んでもなお、強い感情として残留し、フォトンをざわめつかせていた気がする。その事実から死んだ時の状況を考える。

 

 始末屋はハドレッドに対して怒りと驚きを抱いて殺しに向かった、だがハドレッドは彼女と戦う事、殺す事を悲しんだ―――?

 

「……駄目だ、ピースが足りない。まだまだ判断が付かない。次だ―――次のマターへと進んでもっと情報を集めなきゃ駄目だ」

 

 明らかに情報が足りていなかった。何故ハドレッドと始末屋があんな決着を迎えてしまったのか、そして()()()()()()()()()()()()()()()を自分で調べて、そして確かめなくてはならない。次のマターは先ほどと同様、この浮遊大陸にあると、マターボードが反応している。時間軸を泳ぐように移動し、マターボードが反応を示す時間軸に到着する。ハッピーエンド以外は絶対に認めない、そう思いながら一歩目を踏み出そうとしたところで、

 

 急に、眠気が襲い掛かってくる。

 

 ―――それはまるで圧縮された時間分の疲労と眠気が襲い掛かってくるようなもので、

 

「ぐっ……連続行使は……非推奨かぁ。シオンさん、マニュアルぐらい書いてほしかった……ぁー……」

 

 その奇襲に耐えられず、一歩目を踏み出した所で過労で倒れた。

 

 一瞬で世界が黒く染まり、意識がそこで途切れた。




 走るよー時空をこえてー安藤はーマタボー苦行だよー。安藤の歌。

 という訳でクーナ&ハドレッドイベント、エルダー復活前に完全に動かしました。お前公式でヒロインな上にCDでは恋する乙女扱いなんだからしっかりとヒロインしろよな!

 なおヒロインは死ぬ事が条件です。

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