入り江でたっぷりと泳いで遊び通してから、再びアークスシップへと戻ってきた。時間軸は本来の物へと戻っており、3/31に戻っている。たっぷり遊んで時間を消費したおかげか、体に眠気やダルさといったものはない。その代わりに時間は二時間ほど経過してしまっている。割と遊んでしまったな、という感触はあるものの、そのおかげでリフレッシュできたという事実もある。マターボードによる時間遡行もデメリットというか負荷が存在する事もはっきりと確認できたし、そこまで悪いとは思わない―――とりあえずがむしゃらに行動するのはやめて、反省しよう。考える為に頭があるのだ、と自分に言い聞かせる。
ともあれ、その無茶のおかげでこの二時間と三十分でクーナに新たな運命を見つけることが出来たのだ―――市街地へと再び出撃し、クーナとハドレッドの死の事実を今度こそ見つけ出さなくてはならない。とはいえ、やはり連続でマターボードが体に悪い事は自覚してからすぐさまにクエストカウンターに向かわず、ロビー奥のクラスカウンター前のベンチエリアへと移動し、そこでベンチに座り込む。そこで数秒間、何もせず、ベンチに座り込んで動きを止める。何も考えず、息を吐き、そのまま目を閉じる。
―――虚空機関、か。
だが頭の中は休むどころか回っていた。
虚空機関、おそらくそこが黒幕だとは思う。初期の頃のクーナの活動はハドレッドを追いかけて粛清する事だったが、それがまるで成功していない事からハドレッドの逃亡力の高さが窺えるだろう。だが最近になってハドレッドはクーナに補足されるだけではなく、その姿を見せる様になって来た―――まるで終わらせて欲しがっている様に。本当にハドレッドは裏切って脱走したのだろうか? 或いは
そこらへん、情報を入手できるのはそれこそ虚空機関に所属しているクーナだけだ、自分で調べる事は出来ない。悲しい話だ。そう思いながらベンチから起き上がり、息を吐く。だけどその代わり、実働という面においては無敵に近い力を発揮できる。そしてそれしか出来ないのなら、それをしっかりと貫き通したいとも思っている。だからそうする事にする。
「うっし、考えタイム終了。考えるのはマタボに任せるわ。やりたい事と成すべき事を見据えてちゃんとそれをクリアすればええねん、俺は」
そこまで頭が良い訳でもないのだから、考えるだけ無駄だ。やれることをやる、それだけで大体いいのだ。そう判断したと所で、そろそろクラスをもっと殲滅力の高いものへと変えるか、と判断する。直ぐ前にあるクラスカウンターへと移動し、そこでクラスの変更願いを出す―――まだ市街地緊急任務が発生している事もあり、即座に了承が出る。セットしておいたマイセットへと完全に武装を切り替え、クラスとスキルツリーのセットを終わらせる。
ついでに、法撃マグのテルクゥをセットし、完全に完了する。
マグは装着しているアークスが少なく、全く見ないので妙な関心を集めない様に普段は装着していないのだが、万全を期す為にも今回ばかりは装着する。それをテルクゥ自身が喜んでいるのか、空中を跳ねる様にジャンプすると、肩の上で浮かび、待機してくれる。
クラスはFoTe、スキルツリーは属性特化―――武器はそれぞれ属性別にロッドを用意している為、ブレイバーのクラスでカタナが使えない今、最大火力はこれで叩きだすことが出来る。ついでに服装も変更しておく。動きやすさと近接戦闘を意識していたアイエフブランドから、魔法使いっぽさの強いルシェスタイル・レプカを。ただし、アクセサリーも完全に切り替えてリンナハット、そして眼帯を装着し、どこかで見たことのある魔法使いスタイルになる。なお眼帯で視界が制限される事はなく、視界は眼帯を透過してみることが出来る。本当にファッションなだけの眼帯だ。
「さて、準備完了だな―――行くか」
これでクーナを助け、ついでにハドレッドも助ける。そう考えて踏み出そうとしたところで、メディカルセンターから自分を引き留める、呼ぶ声が聞こえた。振り返りながらそちらの方へと視線を向ければ、そこには見慣れた白いミコトクラスタの姿があった―――マトイだった。その手には長方形の包みが握られていた。
「あのね、今忙しくてゆっくりしている暇がないけどお腹がすきそうだし……って思ってお弁当を用意してた来たんだけど余計だったかな?」
「いや、超助かる、一段落したら食べるわ。ありがとうよ。今、色々と危ないからちゃんとフィリアの言う事を聞いて待ってるんだぞ?」
「うん。貴女の事待ってるね」
本当にマトイはいい子だなぁ、なんて事を思いながら弁当箱を受け取り、一時的にそれを
なにせ、これから時間を遡って襲撃開始直後の時間軸に移動するのだから。
「頼んだぜ―――マターボード、お前が俺の最強の武器なんだからな」
呟き、モノクロ色に世界を染め上げ、時間遡行を開始する。いつも通りゲートを抜けてマイシップに搭乗する。モノクロ色だった世界の中で、マイシップの外を見る。そこで完全崩壊した姿を見せているアークスシップの一つが巻き戻るかのように無事な姿を見せ始め、小規模な爆破と共に色を取り戻す。徐々にアークスシップ―――市街地に近づき、転送範囲まで到着する。マイシップ先頭部、テレポーターの前まで来ると、再び世界がモノクロ色に染まり、マターボードによる干渉が始まる。
そこで、ホロウィンドウが出現する。そこには可能な転移先が表示され、まず最初に表示されたのは秘密の酒場だった。だがその下、マターボードの干渉により、新たなエリアが追加される。市街地中央区と表示される。マターボードによって刻まれた新たな分岐、それを逃すわけもなく、迷う事無く転送先をそちらに設定し、
テレポーターの中へと飛び込んだ。
慣れ親しんだ転送の感覚を抜けた先で、足は硬い鋼鉄の感触を得た。転送されたのはビルの屋上だったらしい。そこからは良く市街地の状況が見える。軽く市街地全体をそこから見渡し―――そして探していた姿を、つまりは始末屋クーナの姿を発見することが出来た。ハドレッドの姿はないが、時間通りに進むのであればハドレッドもいずれ出現するだろう。とりあえずはクーナを一人にしてはいけない。それを認識した所で疾走を開始する。
ビルの中央から全力で走り―――そして跳躍する。背中のマントが揺れ、頭の帽子が脱げそうになる。それを左手で押さえながら右手で赤いロッドを握る。そのまま、フォトンをロッドの中へと、己の一部を扱う様に通してゆき、そしてそれを雷属性へと変換させ、テクニックとして表現する。イル・ゾンデ、テクニックには珍しい突進型のテクニック、それを使って高度を維持したまま空を疾走する。雷を纏って突進するテクニックであるだけに、地上を移動するよりも遥かに早く、そして此方を見て近寄ってくるブリアーダも手軽に轢き殺せる為、物凄く便利に進める。
そのまま、クーナのいる場所まで、地形を軽く無視しながら直進し、頭上に到着した所でロッドを闇属性のに切り替え、今度はイル・メギド―――闇の腕を放ち、周囲のダーカーを追尾しながら握り潰すテクニックを放つ。襲い掛かってくるダーカーに対して両手にある透明な刃で応戦していたクーナが突然の援護射撃に驚き、その頭上、落ちて来る此方の姿に驚く。
「……ほんとまともな登場をしませんね、貴女は」
「これで俺バウンサーだったらガストでもっと面白い登場してたから将来的に覚悟しておけよ!」
「なんですかバウンサーって……」
その内実装されるといいなぁ、と思いながら、クーナは肩を揺らし、先へと進むように歩き始めた。そこに置いて行く様な動作がない分、此方の存在を認め、そして共に来ることを了承しているのだと勝手に判断する。クーナの直ぐ横に追い付き、イル・メギドで適当にサーチしつつダーカーをぶっ殺しながら、前へと進む。
「実はあの後、機関の命令に対して疑問を覚えたので軽く調査をしたんです……その結果、どうやらハドレッドの脱走の前にハドレッドがとある実験に参加していた、という記録を見つける事が出来ました―――おそらくそれがハドレッドの暴走、そして脱走に関する真実なのでしょうが、完全に真実という訳でもなさそうでして」
「じゃあ……?」
「はい、後はハドレッド本人から聞き出そうかと―――今までダーカー反応の濃い地域に優先的に出現し、殲滅しては去って行くのを確認しています。ですからおそらくこの状況、この混乱の中で出現しない理由がありません。……だから後は私が歌えば、おそらくそれに釣られて出てくるはずです」
「なるほどなぁ」
「所で人の話を聞いているようで真顔でイル・メギドを乱射するの止めません?」
「条件反射でつい……」
応えながらイル・メギドをもう一度放つ。ロッドの先端から離れた黒い腕が大地を這うダーカーを薙ぎ払い、そして空中に浮かぶダーカーを掴んで叩き落とし、一撃で雑魚を掃討する。消費するPPが非常に多い事が難点なテクニックであるが、そこがこのオラクル環境へと変化してからは大幅に改善されている為十連続で放ったところで疲労を感じる事はなく、その為他のテクニックを放つよりも、ひたすらイル・メギドを放った方が雑魚の掃討は楽なのだ。それこそ純粋に雑魚に対する殲滅力であれば他のクラスを二歩も三歩も置いて先に出るレベルで。
仮にイル・メギド一発で殲滅できる範囲の強さであれば、他のクラスは必要なくなる。そういうレベルの殲滅力をイル・メギドは持っている。その為、一時的に他のクラスを駆逐し、セイメイキカミと呼ばれる闇属性強化タリスを投げてイル・メギドを放つだけのゲーム化した時代もあった―――たぶん、此方ではそんな時代は来ないのだろうが。
「ですけど貴女は本当に唐突に出現しますね」
「まぁ、安藤だからな」
「だから安藤って何ですか」
そうだなぁ、とイル・メギドでやはりダーカーを殲滅しながら答える。安藤とは安藤優、つまりはエンドクレジットに登場するAnd Youから来ているのだ。つまり、安藤とは即ちプレイヤーの事を示す言葉ではあるが、それと同時に、個人的なものだが安藤とは別の意味を持っていると思う。
「ヒーローだ」
その言葉にクーナは首を傾げる。
「ヒーロー、ですか」
「然り! 安藤とは即ちヒーロー! ご都合主義を気合いと根性で呼び寄せ、ガチと効率と廃課金でしっかりと準備をし、そしてそこにクソみたいなシナリオやプロットを見つけたら問答無用で数で囲んでフルボッコのリンチにする、絶対無敵、最強のヒーローだよ。嫌いなものは涙と! 傷つく人達と! 鬱シナリオ!」
拳を前に突き出し、ポーズをとる。
「そこにクソみたいな
ロッドを上へと蹴り上げ、左手に闇を、右手に炎を束ね、それを目の前で握りしめる様に融合させ、そのままそれを前へと突き出す。炎と闇が融合された複合テクニックがビームの様に正面へと向けられて一気に放たれ、直線状に並んでいたダーカーを蒸発させ、それをそのまま横へ薙ぎ払う様に振るい、そのアクションに従って展開されていたダーカーを殲滅する。落ちてきたロッドをキャッチしながら背に戻し、額の汗をぬぐう。
「ふぅー……ダーカーをぶっ殺すと腹が減るなぁ」
「大体解ってきました。あまり考えずに発言してますね?」
「うん」
「うん、そんな気はしてました。大体貴女という人を理解するぐらいには一緒にいるんですよね……一応始末屋なんですけど……」
気にするな、とサムズアップを向ける。そして視線を奥、アークスシップの中央付近に存在するドームへと向ける。今のフォメルギオンで軽くダーカーを消し飛ばしたおかげで、正面にダーカーの姿もダーカー反応も完全になくなった。怖いのはまたダークラグネやゼッシュレイダが襲い掛かってくることだが―――現在、クーナと一緒に行動しているのだ、ここで分断されるなんてこともないだろう。その気になればビルを登って進めばいいのだし。
ともあれ、
―――そろそろ、存在するかもしれない見えない第三者を警戒し始める。
フォメルギオンは”魅せ札”だ。複合テクニックはそのほかにもザンディオン、そしてバーランツィオンが存在する。特にダーカーに対して属性的に有効なバーランツィオンに関してはダークファルス、【仮面】を相手にする時まで取っておきたい所だが―――果たして、アイツが知らないとは思えない。
まぁ、難しい事は後だ。どうせ自分は反射神経の男だ。
突撃して、そして鬱シナリオを蹂躙してやればいいのだ。
安藤がいる限り―――そんなくだらない事で宇宙に流れる涙を増やさせてたまるか。
マトイちゃんが空気かと思った? 差入れだよ!! EP時点だと日常の象徴っぽいからほいほい危険な部分で出現されても困るという話。ふと、心が荒れてたら現われてほしいという感じ。駄目だ、便利すぎる。殺して心を荒ませなきゃ。
それはそれとして複合テクはどれもかっけぇから好きだわ。