安藤物語   作:てんぞー

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Fear The Crimson - 7

 ダーカーの数は確かに異様と言える程に多かったが、それに反してトラブルに見舞われる事はなかった。ダーカーとの遭遇自体が一般人に対してはトラブルかもしれないが、アークスにとっては普通の出来事だ。そしてそれ以上の事が発生していない以上、トラブルは特に発生しなかった、としか表現する事は出来なかった。現状用意できる本気―――つまりはFoTeによるイル・メギドの殲滅によってドームへまではほとんど蹂躙する様にダーカーを突破することが出来た。その為、少々フォトンを消費したこと以外には自分に被害はなく、そしてクーナも体力をほぼ万全の状態まで残してドーム前へと到着することが出来た。

 

 レーダーを確認し、そして目でも確認するが、ドームの周囲にはダーカー以外の姿が見えない―――こんな都市部、この状況、その中心地に当たり前だがア-クス以外の人間がいる訳がない。故に人影を見かけたらある程度警戒はするとしていたが、それでも人の姿や気配はなく、問題なくドームの中へと侵入することが出来た。そこからそのまま安藤であれば誰もが慣れた小部屋からのテレポーターを使い、小部屋からドームの広場へと移動する。

 

 転送されたドームの広場は多少破壊されていてダーカーの姿が見えた―――しかし、イル・メギドを三発ほど放てば直ぐにダーカーの姿なんてなくなる。そうやってドーム内の平和を確保した所で、軽くロッドを回転させながらその柄で床を叩く。

 

「―――うっし、まぁ、こんなもんだろ。後は歌うなりポールダンス始めるなり好きにするがいい。この安藤様がどんなことが起ころうがそれを確実に通しちゃる。どんなクソ野郎が現れようとぶっ飛ばすし、邪魔をする奴はぶっ飛ばすし、ダークファルスが出てきても出来る範囲でぶっ飛ばしてみるというかダークファルスだけはお願いだからまだ来ないで対抗策ないのォ!」

 

 聖剣が必要とか専用対策が必要なクソエネミーは滅べばいいと思う。そう思いながら叫ぶが、反応はクーナからしか来ない。隠れている敵の姿を察知する事も出来ないし、本当に敵がいるのかどうか、怪しくなってきた。

 

「えー……と、その……それではスピーカーを通してこの一帯に歌声が通るようにします。この騒ぎでダーカーの数ですから、傾向的に見てハドレッドがいないはずがありません。ですのでその間ダーカーが出現するようでしたら―――」

 

「うい、任せろ。小型なら大体イル・メギしてるだけで終わるしな」

 

「本当に優秀ですよね、人格さえ無視すれば……」

 

「おい? 今ストレートに頭がおかしいと言わなかったか?」

 

「ストレートには言ってませんよ。それよりも自分に関してよく理解しているじゃないですか」

 

「人生の勝ち負けの基準があるとしたらそれは笑えているか否か、って事で決めているからな! 安藤としてこの宇宙の覇者として君臨する為にはまず笑顔を忘れてはならない。だが同時に真の安藤とは自分だけではなくそこにいるだけで他者も笑顔にしてしまうという事だ―――ちなみにこの活動はその一環だ」

 

 そう告げるとクーナは一瞬だけキョトンとする。だから教える。

 

「全部終わって満足する結果になったら笑え。俺は身近な人物が笑えていないと満足できない病気なんでな」

 

「本当におかしな人ですね―――……」

 

 その続きの言葉は呟きで小さく、聞こえず、そのままクーナはドーム中央へ、ホロウィンドウを広げてスピーカーをハッキング、その制御を奪って自身の音声を拡声する様に切り替えた。それでハドレッドが訪れる事を確信している。そしてそれが現実になるであろう事を自分はしっかりと覚えている。

 

 ここからが勝負だ。

 

 貼り付けていた笑みを消し、リンナハットを少しだけ深く被りながら、集中力を増す。肩の上にいるマグもいつでもフォトンブラストを発動できるように待機させながら、レーダーや視覚だけではなく、第六感を使って侵入者の存在を探る。絶対に存在するはずなのだ、そうでなければあのクーナとハドレッドの死は説明できないのだから。何時の間にこんな、プロフェッショナルの様な技術ができる様に自分はなったんだろうか……そんな事を疑問に思いながらも、ここで生きて行く以上、それは必須の技術で、答えはなくても使うしかない物だった。だから静かに、歌い始めたクーナの声に耳を傾けた。

 

 再びクーナの歌声が響き始め、鋭敏化されたフォトンが敏感に近づいてくるダーカーの気配を察知する。小型に続くように大型のダーカーが急激に此方へと、クーナの歌へと集まり始めていた。一体どういうことだ、と、そう思いながらも、条件反射で即座にマグ―――テルクゥに溜めこまれた力を解放する。

 

「フォトンブラスト―――ケートス・プロイ」

 

 言葉に従う様に閃光に包まれたテルクゥがその姿を白く輝く魚の様な幻獣へと変化させる。空間を泳ぐように漂うケートス・プロイはフォトンの波動をその体から放ち、急速的に空間に存在するフォトンの吸収率、回復率を超加速させる。その中で、壁から染み出る様に小型のダーカーの姿が見えた。迷う事無くイル・メギドを三発、ノータイムで放つ。一瞬で出現した黒い腕が小型ダーカー群を喰らって握りつぶす。ケートス・プロイによる超回復の影響もあってフォトンは全く減る感覚を見せない。少しだけテンションが上がってきた。左半身を前に、ロッドを突き出し、そして空から落ちてきた強大なダーカー―――ダークラグネを前に、

 

「イ」

 

 ノータイムで隕石の様な炎の塊が落下してダークラグネの右前脚を叩き砕いた。

 

「ル」

 

 二発目の隕石がノータイムで落ちてきた。今度はダークラグネの左後ろ脚を砕き、アンバランスに傷つけられたダークラグネの姿が倒れる。

 

「フォ」

 

 三発目の隕石が放たれた。ダークラグネの尻の部分をつぶし、大穴をそこに生み出した。

 

「イエ!」

 

 四発目の隕石が落ちてきた。ケートス・プロイによって強化されたフォトン量を一気に詰め込んだ隕石は巨大化し、頭上からダークラグネに降り注ぎ、そのまま首裏のコアを破壊しながら貫通、胴体と頭を一撃で分断させて殺した。

 

「これはフォイエではない……イル・フォイエだ―――とか言ってる場合じゃないな。ワラワラ湧いて出やがるわ」

 

 四連イル・フォイエとかいう遊びで割と楽しい気分だったが、ダークラグネの死骸を潰す様に新たにダーカー達が出現する。こんなラッシュ、前回には存在していなかったような気がする―――いや、クーナが単独で処理していたのだろうか? そんな事を考えながら再びイル・メギドを放つ。一気にダーカーをそれで滅ぼしつつ、後ろへとバックステップで距離を取り、空を飛ぶ鳥型ダーカーにサザンを叩きつけ、一瞬でミンチにしながら殺す。

 

 雑魚は所詮雑魚だ。ケートス・プロイというフォトンをブーストする手段があり、それにイル・メギドという対多数の対抗手段が存在し、相手がそこまで耐久力に優れていないダーカーの場合、一方的に殲滅できる。伊達や酔狂で防衛戦でメインウェポンとして暴力を振るってきたテクニックではないのだ。

 

 蹂躙、蹂躙、そして蹂躙。どんなに数が多くてもゴルドラーダ並の体力と厄介さがない場合、ソロであろうともイル・メギドの乱射を止める事が出来ない。何よりも、

 

「―――!」

 

 クーナの歌声に応える様に、空にクローム・ドラゴンの―――おそらくはハドレッドの咆哮が響いた。来たか、と小さく呟いた次の瞬間にはドームの天井部分、開いているその場所から角に黄色い布を巻いたクローム・ドラゴンが飛び込んできた。そうやって登場したハドレッドはまず最初に憎悪のこもった瞳をダーカーへと向けた。

 

「ハドレッド!!」

 

 クーナが歌を止めてその名前を呼ぶ。だがハドレッドはクーナへと振り返らず、その大きな腕を振るって爪で一気にダーカーを薙ぎ払い、蹂躙し始めた。それは明確な憎悪の動きであり、何よりも歪に感じられるものが、ハドレッドの様子を冷静に見ていると解る。ハドレッドがダーカーを相手に暴れ始めたので後ろへと数歩下がり、クーナの近くへと移動しながら、感じ取った事を呟く。

 

「ない」

 

「何が、ですか」

 

「フォトンを全然感じない」

 

 それが安藤としての特権なのか、或いはニューマンというフォトンの扱いにたけた種族だから感じ取れる事なのかは解らない。だがこうやって、戦いの中で暴れるハドレッドの姿を見て、ダーカーを消滅させる姿を見る。そうやって暴れるハドレッドの体には驚くほどにフォトンの反応がない。クローム・ドラゴンがクーナの言うとおりにアークスの龍バージョンの様な存在であれば、フォトンは必須の筈なのだ。フォトン以外でダークフォトン、及びダーカー因子を浄化する事は出来ない。

 

 故にフォトンを持たぬ者がダーカーを倒せばそれが蓄積し、やがて浸食される。

 

 それがアムドゥスキアで発生していた”龍の病”の正体だった。

 

 だからハドレッドの体内にフォトンを感じないのはおかしなことだった。そして、フォトン以上に歪だったのは、ハドレッドの体内から感じる徹底的な気持ち悪さだった。

 

「なんだこいつ。体内にどんだけダーカー因子を貯め込んでるんだ。明らかにフォトンで浄化できてねぇぞ。普通これだけダーカー因子を貯め込む前に体のフォトンがそれを拒否って動けなくなるはずなのに―――」

 

「……」

 

 クーナの方へと視線を向ければ、どこか、理解したかのような、そんな表情を浮かべていた。どうやら彼女は真実へと至るピースを集めきったらしい。ただそれを自分が理解する必要は―――ないのだろう、聞き出すのもちょっと空気を読めない、というものだろう。故に一歩後ろへと下がって、ハドレッドを見つめるクーナの姿を守る事にする。主人公は彼女だ、自分ではない。だから少し後ろに下がって、

 

 ダーカーを殲滅し終わったクーナとハドレッドの姿を眺める事にする。向き合ったハドレッドとクーナは無言で対峙する。おそらくはもう、二人きりにしても大丈夫だろうとは思う―――この時点でハドレッドが暴走でもしない限り、クーナと戦うような理由が見つからないからだ。だからクーナとハドレッドから視線を外し、意識を外側へと向ける。

 

「―――」

 

 クーナが何かをハドレッドへと聞いている。だがそれには耳を傾けず、外へ、この場を邪魔するかもしれない存在を求めて、探る。レーダーなんてものは時空を歪めれば簡単にだますことが出来るし、ダーカーの突然の出現も直前まではレーダーに映らない。だから何よりも自分の勘と経験を根拠に、周辺へと警戒を向ける。おそらく、襲撃するならこのタイミングだろうとは考えて。

 

 だがそのまま、数分間、何も起きない。

 

 ただクーナがハドレッドへと言葉を投げ、そして答えを得る。それだけだった。

 

 やがてハドレッドはあの入江の時の様に暴れる事はなく、静かにクーナの前から去って行った。ハドレッドの姿が完全に消える時までしっかりと警戒を続けるが、クーナを殺した犯人らしき存在の存在どころか気配すら出現する事はなかった。予想以上に平和に終わったことに少々困惑を感じつつも、無事に終わったことに安堵を感じる。

 

 クーナが生きている。それだけでも十分な成果だ。もはやダーカー出現の気配もないし―――どうやら、市街地の襲撃も終了したらしい。結局、この襲撃全体は一体なんだったのだろうか、全体的に謎を残しながら終了してしまった。

 

 クーナが此方へと振り返る。

 

「ありがとうございます。今回、ハドレッドと話せたことで色々と解った事があります……ただ、少しだけ、整理する時間を貰ってもいいですか? 強引にですけど手伝ってもらってアキナさんには知る権利がありますけど……」

 

「俺の心とか常に余裕で満ち溢れてるからクーナちゃんが落ち着いたら連絡を入れればいいよ。ほら、これ」

 

 ホロウィンドウからアークスカードをクーナへと転送する。そこにはマイルームのナンバーと、個人用のメールのアドレスが書き込まれている。それを受け取ったクーナはありがとうござます、と頭を下げる。

 

「後一回……たぶん、後一回だけ、手伝って貰う事になると思います」

 

「いいよ、気にするな。存分に頼れ。一緒に肩を並べて戦ったんだし俺達もう友達だろ? 入江でも一方的にだけど遊んだし!」

 

 サムズアップをクーナへと向けて返答する。彼女がどう思っているかは知らないが、個人的には立場を抜きにした友人であると思っている。肩を並べて戦友、一緒に遊んで友達。世の中、そんなもんじゃないだろうかと思う。その言葉にクーナは驚いたような眼を見開く。

 

「そう……です、ね。……そうですね。友達ですか。裏で働いてきた以上そんなものは生まれないと思っていましたが……ふふ、本当に不思議な人ですね。だから……きっと、近い内に此方から連絡を入れて頼ります。その時はどうか、お願いします」

 

「任せろ。いつでも君の顔に笑顔を。安藤です」

 

 ―――これで市街地での戦いは終わった。

 

 だがまだ、クーナとハドレッドを巡る物語の一幕は終わっていない。次にクーナに呼びだされる時がおそらく最後になるだろうという予感が、自分の中に存在していた。




 まだあとちょっとだけ続くんだよ(クーナちゃん編

 と言っても後は浮遊大陸で終わりなんじゃが。それはそれとして、やっぱり早めに終わらせた方が全体的にスッキリするなぁ、という感想。

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