安藤物語   作:てんぞー

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The Garnet Sky - 1

「あ゛―――……」

 

「凄いやる気のない声出してるね」

 

 マイルームのソファでごろごろ転がっていると、そんな声がマトイから向けられてきた。視線を彼女へと向ければ、私服の上からエプロンを装着し、掃除機を片手にリビングを掃除しているマトイの姿が見える。そうやって掃除する姿にも見慣れたなぁ、とここ最近は思うようになった。最初は家事をしてくれる女の子って見ているだけでいいよな、と思ったりもしたが、それが日常的に続くと割と飽きる。

 

 つまり、普通になってしまった。悲しい。とはいえ、家賃が払えない、特に何か技能がある訳でもないマトイからすればこれが家賃や生活費替わりになっている為、しっかりと家事をやっているのが解る。頑張っているもんだし、家事が壊滅的な身としては非常に助かっているのだが、ドンドンオカン属性の強化を感じる。その内、マトイから自分に対する遠慮が完全になくなりそうだ。

 

「それにしてもこの前連れて行ってくれたライブ、お客さんがいっぱいいて、凄かったね。アイドルの人もすごいキラキラしててまるで別の世界の人だったみたい」

 

 マトイのその言葉に小さく笑い声を零しながら、欠伸を漏らす。眠気を誘っているのは決して今が平和でやる事がないだけではなく、つい最近のライブで新しい持ち歌として追加された永遠のencore、それのオルゴールをライブで本人から抽選で貰う事に成功したからだ―――まぁ、おそらくはどっかで抽選に操作が入ったような気もするが。その優しいメロディを聞いていると、少しずつ眠くなってくる。ハドレッドが安らかに眠れたのも納得の行くメロディだ。

 

 まぁ、それとは別にハドレッドが遺した武器もあるし―――あまり役に立たなかった身としてはちょっと、報酬の貰いすぎではないかと思いつつもある。が、損得で動くのは友情ではない。もっとそれは衝動的なものだと思っている。だからそこらへん、あまり深く考えてはいけないのだろうなぁ、と思っている。

 

 ふぁぁーあ、と軽く欠伸を漏らしながらソファに横たわったまま眠ってしまおうかと思った時、マイルーム内にベルの音が響いた。外からの来客を告げるベルの音だ。対応がめんどくさいなぁ、なんて事を考えながら音声モードだけでホロウィンドウを作り出して、そこに素早く返答する。

 

「牛乳は間に合ってます」

 

『おい! 牛乳じゃねぇよ!』

 

「新聞も間に合ってます」

 

『新聞でもねぇよ!』

 

「じゃあ宗教……? でもこの間噴水に沈めて来たばかりだし……」

 

『お前何やってんの……?』

 

 声が普通にゼノの物だったので、扉のロックを解除して中に入れる。まだ扉だけは手つかずで、普通の、そのまま鉄のオートドアなので、それが横へとスライドする様に開き、向こう側にいたゼノ姿が見える。よぉ、と片手を上げて挨拶してくるゼノに対してこちらも起き上がる事無く片手を持ち上げて返答を返す。それを見ていたゼノが呆れたような表情を返す。

 

「いや、お前、もうちょっとなんか態度はないのか……あ、こんにちわマトイちゃん」

 

「はい、こんにちわゼノさん。出来たら隣の部屋には入らないで貰えると助かります―――アキナさんが脱ぎ散らかしたのをまだ片づけ終ってないので」

 

「ほんとお前には勿体ないな、この子!」

 

 俺もそう思う、と、そう答えながら軽く欠伸を漏らしながら起き上がり、ソファに足を組むように座りなおす。部屋の中は大体下着姿で何時もごろごろしているのだが、今日はちゃんと服を着ていてよかったなぁ、なんて事を考えながらもう一度だけ欠伸を漏らし、

 

「んでどうしたんだよゼノさん」

 

「あぁ、そうだそうだ……なんかお前の相手をしようとすると毎回本題からそれて行く様な気がするんだよなぁ……ってそうじゃなかった。お前、ナベリウスの遺跡エリアに行ったことあるか?」

 

「あるー」

 

 じゃあ話は早いな、とゼノが言う。

 

「近い内にちょっとエコーに度胸をつけてやろうと思ってな。ちょっと遺跡の方でゼッシュレイダの相手でもさせようと思うんだけど……ほら、俺一人だと守ってばっかりだし火力足りねぇだろ? お前、普段はファイターとかばっかりだけど、フォースとかも得意だって聞くし……ここは一丁、アイツに手本を見せてくれねぇかなぁ、って」

 

 態々それを頼むために直接顔を見せに来たのだろうか。いや、ゼノの人の好さだ、きっと本当にこの頼みごとをするためにここへ直接来たのだろう。いまどき―――というか現状、現在のオラクル船団の環境だと通信機能が非常に発達している為、こうやって直接会いに来なくたってホログラムやホロウィンドウでの映像付の通信を行う事だってできる筈だ。となると、律儀にも頼むために礼儀としてこうやって直接を顔を見せに来たのだろう。

 

 本当に人が好い。

 

「いっすよ」

 

「マジか! 凄い助かるぜ。レンジャーは出来てもフォースの適性がないからなぁ、俺は……どうしても戦い方とかを教えられないんだわ。明日……じゃ早すぎるか。じゃあ明後日頼むわ。大丈夫だよな?」

 

 無言でサムズアップをゼノへと送り、了承する。本当に助かった、今度何かを奢るから、と言質を取ってからゼノは帰って行った。その姿が出て行ったのを確認してから再びぐったり、とソファの中に沈み込む。これで睡眠再開できるなぁ、なんて事を考えていると正面、今度はゼノの代わりにマトイの姿が見えた。

 

「ソファ動かして掃除するからちょっと退いてくれないかな」

 

「えー……」

 

「えいっしょ」

 

「ぐわぁー」

 

 文句を言おうとした瞬間にはソファから引っ張り落とされていた。少し前の発言を訂正しなくてはならない。もう既にこの子の中からは遠慮という概念が消え去っていたらしい。床に転がっている此方の姿をマトイが掃除機で退け、と突っついてくる。もう少し愛情のあるやり方はないのだろうかこの子、と思いながらも現状、こうやって手放しで遠慮なく振る舞えるのは自分だけの特権―――そう思ったらなんだか許せてしまう不思議がある。仕方がない、と立ち上がり、呟く。

 

「おでかけ?」

 

「ベッドで寝る!!」

 

「うーん、普段は有能なのになんでこういう時だけまるでダメ人間になるんだろ……」

 

 休日は思いっきり体を甘やかすと決めているのだ。その為にも既にナウラのケーキ屋でアイスクリームケーキを購入し、それを冷蔵庫に叩き込んである。後は適当におやつの時間になったらお茶と共にそれを食べるだけである。自分で言うのもアレだが、割とそこらへんの金は腐るほどあるので、生活はかなり良い所のお嬢様みたいな領域に突っ込みつつある。まぁ、毎日宇宙を守る為に命を賭けているのだから危険手当が出てこれぐらいはある意味当然なのかもしれないが。

 

 それはそれとして、ここしばらくはクーナ関係でずっと走りっぱなしだった事、そしてハドレッドの結末を迎えた事によって今まで緊張した空気が抜けた、完全に駄目な状態へと突入している。ゼノと遺跡へと向かう時にまでは復活しておく予定になったが、それまではぐだぐだうだうだと、ダメ人間力を今のうちに発散させておきたい。

 

「ふぅ―――……」

 

 息を吐きながら真っ直ぐ、顔面からベッドに倒れ込む。枕の柔らかさを顔面で感じつつ、ベッドの柔らかさを体で堪能する。そうやってベッドに沈み込んでいると直ぐに眠気が襲いかかってくるが―――そう簡単には眠りに落ちる事はない。目は閉じていても、常に意識の一部はまるで警戒を続けるように覚醒を続けたままだった。眠っていても直ぐに反応し、そして飛び起きる事の出来る状態だ。

 

 そんな、慣れてしまった自分が少しだけ嫌だ。なんだか思いっきり本来の自分から外れてしまったような、そんな気がする。今更地球に戻れたとしても、多分元の生活に馴染めないような、そんな不安さえもある。それにこういう事に慣れきってしまうと普通の日常に馴染めなくなってしまう、そんな予感があった。

 

 戦えば戦うほどどこからか経験と技術を引き出す。ハドレッドとの戦いはそうだった。少なくとも見様見真似で攻撃を足場に跳躍して接近、なんて事が出来る訳がない。アレは明らかに何十、何百と想定と練習を繰り返してきて初めてできる芸当だ。それをまるで何の準備もなしに成功させるのは()()()()()のだ。だけどそれを成功させてしまった。だから少し、怖くもある。このまま戦い続ければきっと同じような事が起き、そしてドンドン戦いに対して最適化していくのかもしれない。

 

 そうしたら行きつく先は戦いが日常な、救いようのない始末なのではないだろうか。

 

 今でさえ割と戦うのが楽しいのだから、これはちょっと危険な兆候だと思ってる。まぁ、答えが得られないし、自分に選択肢が存在しない以上はウダウダ言っててもしょうがなく、戦い続けること以外に選択肢が存在しないのだが。アークスである以上、生活の為に戦う事は必須であり、また同時にオラクル船団の守護と宇宙の平和の為に戦い続ける事は義務でもあるのだ。アークスである以上、それは避けられない始末。

 

 そもそもからして自分に他の道はないのだ―――今更アークスを止めるという選択肢が取れる訳でもない。

 

 止められたとしても、多くの縁を繋いでしまった今、自分からアークスを止めるのは少し……無理だ。もう自分は十分すぎる程に此方側にズブズブ浸かってしまったのだから。

 

「―――ふぅー……」

 

 考えを止める。駄目だ、どうしても考えてしまう。無駄に何かに熱中し、何かに集中しないと、どうしても考えてしまうのだ。この世界の事とか、自分の事とか、多く残されている謎の事とか。そしてそれらは答えの出ない事であり、考えれば考えるほど、ドツボにはまって行く様な、そんな気さえする。だけどそれでも余裕が出来るとそういうことを考えてしまうのだ―――だからなるべく忙しくあろうとはしているのだ。

 

 でもこういう休日、休みの時、嫌でも考えてしまうのだ。ここは本当に現実なのだろうか? 自分はもしかしてプレイヤーに操作されている哀れな演者ではないのだろうか? 果たして真実とは―――等。深く考えてしまえばそれこそ発狂してしまいそうな、そんな気さえするのだ。だから出来る事ならなるべく考えたくはない……のだが、どうしても考えてしまう。

 

 これはもはや病気だ、としか言えない。

 

「あー……あー……」

 

「もう、そんなに唸ってどうしたの」

 

 顔を枕に埋めながら低い声で唸っていると、直ぐ近くからマトイの声が聞こえて来る。そう言えば掃除機の音がしないなぁ、と思ったが此方へと来たのか。どうしようかなぁ、どう答えるべきかなぁ、と思っていると、背中にマトイの重みを感じ、いい感じの圧を背中に感じ始める。

 

「あ、凄い。背中がばっきばきに硬い」

 

「そりゃぁ、もう、毎日この体で宇宙の塵共と格闘戦を繰り広げているからね……」

 

 そう答えながらマッサージしてくれるのか、背中から手が肩の方へと動いて行き、そこで肩を押す様に揉み始めてくれる。やや力が足りなく感じるが、それでも純粋にマトイの好意は嬉しいし、十分に気持ちよく感じる。あぁ、と声を零しながら枕に顔を生めて、マトイのマッサージを堪能していると、背中からマトイの声がする。

 

「ねぇ、大丈夫? 無理してない?」

 

「どぉーしたぁー……」

 

「ううん、ただちょっと心配になっただけ。最近無理してない? 大丈夫?」

 

「そんな事ないよー……―――まぁ、無理はしてないし辛くもないけど少しだけ疲れてる感じかな。まぁ、数時間も休めばいつも通りに戻るさ」

 

「ん……そう? じゃあ大丈夫だね。貴女はそういう事、嘘をつかないし」

 

 良く解っているなぁ、とは思うが一緒に生活しているんだから解ってくるか、とも思う。本当にいい拾いものだったなぁ、と、そう思うが、

 

 同時に、マトイに関してはこれで終わりではない、と思う。

 

 態々時間を飛び越えてまで助けたのだから、記憶喪失の彼女の過去には自分の想像もつかない物が待ち受けているのだろう、と。まぁ、その時はその時である。今は、

 

「あぁ、もうちょい右右……あぁー……そこそこ……極楽極楽……」

 

「ふふ」

 

 あと少し、再起動するまで。このぬるま湯に浸かっていたい。




 空は赤く燃ゆる(これから

 という訳でEP終盤、みなさんおなじみ経験値の塊であるあの方の復活と討伐のお話始まりますよー。サクっと日常と内心を吐露したらさあ、出撃だぞアークス、貴様らに日常なんてものはないのだ。
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