安藤物語   作:てんぞー

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The Garnet Sky - 3

 逆に自信を無くすわ。

 

 そんな言葉を残してとぼとぼとエコーはマイシップへと去って行った。ゼノと共に転送されて消えるエコーの姿を眺め、えぇ、と言葉を吐いた。

 

「エコーさんめんどくさすぎやしない……?」

 

「まぁ、元からアークス活動に対するモチベーション皆無だからな、アイツ。アークスってのは基本的にいつ死んでもいいって考えが無きゃまともにやってられないからなぁ、アイツにはそう言う潔さとかがないんだよなぁ」

 

「うーん……」

 

 まぁ、言ってしまえばアークスは宇宙の掃除屋。ダーカーという存在に対してはフォトンがあっても、不測の事態は大いに発生する。その為、アークスには常に死ぬ可能性が付きまとうものであり、その覚悟が必須だと言われている。その対価として様々なサービスの恩恵にあずかれるのだ。だがそこまで真剣にアークスという職業に関して考えている人間は多くはない。一部のキチガイアークスやプロアークス、そして安藤が凄まじい勢いでダーカーをぶち殺しているのだから、自分達はなあなあでやればいい……そう思っている層は大きい。エコーもどちらかというと其方の側だ。

 

「まぁ、俺がしつこく言ってやればアイツも変わるだろ。本当はアークスを止めさせる事が最善なんだけど……アイツ、そこだけは譲ろうとしねぇからな」

 

 ゼノにはゼノの事情が、そしてエコーにはエコーの事情があるのだろう。そしてそれが多分ゼノがレンジャーではなくハンターをやっている理由にもなっている。そこらへん、聞き出すだけの勇気が自分にはない為、曖昧に肩を振って手を広げてとぼける事しか出来ない。まぁ、そこら辺はエコーと付き合いの長いゼノが勝手にどうにかしてくれるだろうとは思っている。まぁ、ともあれ、これで自分の本日の講義は終了した。

 

「もうちょい体動かしてから帰ろうかな……」

 

「ん? あぁ、今のじゃやり足りないのか」

 

「流石ゼノパイセン、良く解ってらっしゃる」

 

 エコーのレベルに合わせて暴れたせいか、若干不完全燃焼なのは事実だった。そもそもXH帯に入れば複合テクニック一撃で昇天する大型ダーカーなんて存在しない。痛手にはなるも、流石にあんな風に真っ二つになったりはしない―――つまりはそういうレベルの相手をしていたのだ。解りやすいから別にいいのだが。

 

 ともあれ、レーダーを確認すれば近くにアークスの姿がいるのも確認できる。向かうのが遺跡エリアの奥地らしいし、それに自分も便乗して軽く暴れてくればいいだろうと判断する。なんだかんだでダーカーを大量虐殺しなきゃ納得できない辺り、自分もアークスとして大分頭のおかしい方に流れているなぁ、とは思わなくもない。まぁ、それで生活が守られるのだから別に問題はないのだが。ともあれ、

 

 それをゼノに告げると、

 

「んじゃ、俺もいっちょ付き合うとしますか。今回頼んだのは俺だしな」

 

「人が好すぎて心配になってくるレベル」

 

 本当にこの人って大丈夫なのだろうか、不安になってくるレベルで人が好い。まぁ、それで自分が困る訳ではないのだが……ゼノの実力を考えるとそこまで心配するものでもないし、この結果、エコーが拗ねたとしてそれは結局ゼノが悪いので、自分には過失がないな、と気づいた時点でオーケイを出す事にした。

 

 

 

 

 その結果、こうなるとは予想すらしなかった。

 

 目の前ではゼノを睨むような視線を巨漢が―――ゲッテムハルトが向けているのが見える。ゼノもそれを受け取りながら睨みをゲッテムハルトに返しており、ゲッテムハルトの後方に控えるように立っている髪で目を隠した緑髪の少女、メルフォンシーナがその成り行きを見守っていた。なんてことはない、合流しようとした相手が偶然にもゲッテムハルトだった、という事なだけだ。しかしゲッテムハルトとゼノ、二人の関係はまさに水と油と表現するのに相応しく、

 

「おぉぃ、ゼノぉ、お前がこんなところで何をしてんだよ……あの雑魚を見てなくていいのか? あぁ? 見てない所で勝手におっちぬんじゃねぇか?」

 

 ゲッテムハルトの言葉になるほど、と頷き、ちょっとブリっ子風に声に出して翻訳する。

 

「わぁい、ゼノっちだ! ねぇ、エコーたんはどこぉ? あのクソザコフォースモドキエセアークスナメクジは見てないと今にも死にそうでちょーっとゲッテムんは不安なのぉー! 一緒にいなくて大丈夫ぅ?」

 

 ゼノとメルフォンシーナが直後、吹き出し、そしてゲッテムハルトがナックルを装着して迷う事無くハートレスインパクトを叩き込んできた。選択するフォトンアーツのガチっぷりに若干戦慄しながらミラージュエスケープで綺麗に回避し、ゲッテムハルトの攻撃から逃げる。

 

「殴り殺すぞテメェ……!」

 

「殴った後で言うもんじゃねぇだろそれ!! やめろ……ガチPAで接近しつつ殴ってくるの止めろォ!! エスケあるけど回避地味に辛いんだよォ! 止めろよぉ!!」

 

「すげぇなテメェ、初めてダーカーやゼノよりもぶっ殺してェ相手が出来たからなァ……!」

 

 ゲッテムハルトの目が割と真面目に殺しに来ているので、必死に逃げ回りながら謝り始める。それでもしばらくは殺しに来ていたので、ゼノとメルフォンシーナが仲裁に入って、漸くゲッテムハルトが血走った眼を引っ込めながら冷静さを取り戻してくれる。もうちょっと心の余裕があるタイプかと思ったが、そうでもなかったらしい。

 

 ―――いや、今日は機嫌が悪いだけだろうか。

 

 しかしそうやってゲッテムハルトの落ち着きを取り戻せば、軽く睨まれても、向こうは向こうで何か思う事があったらしく、先へと進もうとしていた足を止め、此方へと、自分とゼノへと改めて視線を向けてきていた。

 

「―――そうだな、それがいいかもしれねェな。オイ、さっきのは水に流してやるからちょっとついて来い。ゼノのクソはともかく、テメェはかなりヤるからな、いても問題ないだろう」

 

「あぁ?」

 

「パイセンもゲッテム君の事にだけ関しては妙に沸点低いな」

 

 未だにゼノがゲッテムハルトへとキレ気味に視線を向けている為、二人の過去がやや気になってくるが―――まぁ、自分には関係のない事だなぁ、と諦め、先へと歩き出したゲッテムハルトをどうするか考え……追いかける事にする。ゼノもその事には異論がなかったらしく、少しムスっとしながらも先に歩き出したゲッテムハルトを追いかける。しばらく無言でゲッテムハルトの後を歩くが、直ぐにゼノがそれに耐えきれず、口を開いた。

 

「で、どこに行くんだよ」

 

「黙って歩く事すら出来ねェのか? ……チ、ここの奥に特別大きな獲物がいやがる。今回の目的はそいつだ。俺一人で相手しようかと思ったけど……観客がいた方が盛り上がりそうだからな」

 

「俺達は観客扱いかよ」

 

 具体的な相手の名前が出ていない。とはいえ、遺跡エリアでゲッテムハルトが満足する様な大物は存在したっけ? と首を捻るしかない。何度かコラボでナイトギアが出現したりしたのは覚えているが、それ以外に何か特別なエネミーが出現した記憶は……特にない。それともアレだろうか、ナベリウスの壊世区域のエネミーでも出現したのだろうか。アルティメット級のエネミーはかなり凶悪だし。特にアークスの攻撃を学習して耐性を増やすアンガ・ファンダージ、アレがこの環境で出現し始めたら相当ヤバイものだと思っている。

 

 アンガ・ファンダージであればレアが狙えるし、いいかもなぁ、とちょっと思い始める。

 

「……へっへっへ」

 

「?」

 

 ゼノが首を傾げるが、そう言えばまだアルティメット―――壊世区域がこの世界のナベリウスには出現していなかったなぁ、と思い出す。アルティメット、それは高難易度エリアの事を示し、本来とはまるで違う環境に変貌した惑星の姿と、そしてそれに適応した生物の姿が見れるのだが、こいつらが酷く強い。しかも弱点属性は変わってる。アルティメット実装直後は本当に酷い地獄絵図が繰り広げられていた。

 

 それに加担していたのがアンガ・ファンダージの存在だ。飛行し、広い範囲に攻撃し、それでいて耐性を学習する上に第二形態まで存在する。実装直後は絶叫と悲鳴をプレイヤーの間に呼び起こすダーカーだった。ちなみに自分はあのダーカーが割と好きだ。戦闘中に何度も変形して攻撃するし、アルティメットで戦える個体は強いから緊張感があるし、

 

 ダークファルスの存在が実装されていなかったゲーム時代、ダークファルスに一番近いボス的存在は? となるとアンガ・ファンダージだったからだ。それにアンガ・ファンダージ戦はBGMも非常にいい。ドロップからは星13の武器の素材も狙えたことだし、此方でも会うことが出来るのなら積極的に殺しに行きたい相手だった。

 

 そんな事を考えながら道中、即興の四人パーティーで進んで行く。

 

 ハンターであるゼノがターゲットを取り、多少硬い個体はゲッテムハルトが殴り殺し、そして自分とメルフォンシーナが雑魚をテクニックで纏めて処理する。即興ながら割と組み合わせは悪くなかった。エコーなんかとは違い、メルフォンシーナはまともなテクニック職―――テクターだった。使用するテクニックはザン系を中心にしているが、しっかりとテクニックを使う上でのポイントは理解しており、こっちがロッドからタリスに切り替え、ゾンディールによる寄せ集めに動きを切り替えても効率を落とす様な真似はしなかった。

 

 シフタとデバンドもむやみやたらにかけず、戦闘の終了時に延長する様に意識してやっている為、戦闘が非常に捗る―――理想的なテクターだった。

 

 ゲッテムハルトもゲッテムハルトであまり観察した事はなかったので解らなかったが、言動とは裏腹に、戦い方は堅実で、そして普通に強かった。

 

 此方みたいにリミットブレイクには手を出さず、ワイズスタンスとブレイブスタンスに特化したファイターらしく、ステップで位置を調整しつつスタンスを素早くスイッチ、ハートレスインパクトでスタンスを合わせながら的確にコアを殴りぬいて破壊するスタイルのスイッチファイターだった。メルフォンシーナと組んでいるのを意識している為か、バックハンドスマッシュの様な吹き飛ばしの大きいフォトンアーツは使わず、素早く殴り、そして体を動かす事の出来る巨漢に似合わないスピードファイターっぷりを見せてくれた。

 

 逆に言い換えるとそれは()()()()()()()()()()でもあるのだが。敵を一体でも多く、そして確実に殺す為に必要なのは捨身になる事ではなく、冷静に、そして的確に対処する事だ。ゲッテムハルトの言動で勘違いしそうになるが、事、ダーカーと相対して戦う時、普段のキレっぷりからは想像できないレベルの落ち着きを見せ、的確にコアのみを狙って抉りぬいている。もはやその作業染みた破壊作業には執念すら感じさせるものがあった。

 

 間違いなく、性格抜きの実力を見るなら上位のアークスとしては相応しい実力者だった。

 

 それだけに普段の狂犬っぷりが残念、とも言える。

 

 

 

 

「―――ヤるなぁ、テメェ」

 

 奥へと向かって進みながら、足を止める事無くゲッテムハルトがそう言った。

 

「お前が誰かを褒めるとか珍しいもんもあったな」

 

 ゼノにうるさい、と答えながら足は進み、徐々にだがゲッテムハルトの目指す目的地が見えてきた。今行く道の先、そこに見えるのは広場、そしてその先にある巨大なモニュメントの姿だった。ひときわ大きいそれは遺跡エリアであればどこからでも見れる程に巨大であり、そして注目を集める存在である。ゲーム時代は一説ではアレがナベリウスのダーカーを製造しているのではないか、なんて噂もあったが。

 

「俺は嬉しいぜェ、テメェの様なイカレた奴が増えるのは。宇宙の塵屑共処理する奴が増えるだけじゃねぇ。倒しごたえのある奴が増えるってのはいいもんだ。俺が強くなるためのいい経験値になる訳だからな―――だけど今日だけは勘弁してやる。その理由が解るか?」

 

「星13をゲットした?」

 

「テメェの事は話してねぇ」

 

「空気読もうぜ」

 

「流石に今のは……」

 

 少しだけ空気を軽くしようとしたら集中砲撃を喰らった。どうやらそう言うのが通らない状況らしい。モニュメントの前、広場に到着し、振り返ってくるゲッテムハルトの姿に対してさあ、と軽く肩を揺すって返答すれば、そうだろう、と低く笑うゲッテムハルトの声が聞こえた。

 

「教えてやるよここには―――」

 

 ゲッテムハルトは背後のモニュメントを振り返りながら指差し、

 

「―――ダークファルスが眠ってるんだよ」

 

 その一言でここ数日で一番嫌な予感が走る感覚を得た。ほぼ直感的に脳裏に浮かんだ言葉は、

 

 ()()()の一言だった。




 ゲッテムくん、ツンデレだからしょうがないね。それはそれとしてEP1の終わりも見えてきたというか。安藤は安藤だからね、宇宙の平和を守らないと……!

 さて、何人死ぬかな。

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